AIエージェント・オーケストレーションとは

共同執筆者

Matthew Finio

Staff Writer

IBM Think

Amanda Downie

Staff Editor

IBM Think

人工知能(AI)エージェント・オーケストレーションとは、複数の専門AIエージェントを統合システム内で調整し、共通の目標を効率的に達成するプロセスのことです。

AIエージェント・オーケストレーションでは、単一の汎用AIソリューションに依存するのではなく、それぞれが特定のタスク用に設計されたAIエージェントのネットワークを採用し、これらが連携して複雑なワークフローやプロセスを自動化します。

AIエージェントのオーケストレーションを完全に理解するには、まずAIエージェント自体を理解することが不可欠です。これには、次の2つの主要なAIの種類の 違いを理解 することが必要です。 ユーザーのプロンプトに基づいてオリジナル・コンテンツを作成する生成AIと、 最小限の監視で複雑な目標を追求するために自律的に決定し行動するエージェント型AIの2つです。

AIアシスタントは、ルールベースのチャットボットから始まり、より高度なバーチャル・アシスタントへと発展し、単一のステップのタスクを処理できる生成AIおよび 大規模言語モデル(LLM)を搭載したアシスタントへと進化し、連続的に発展しています。この進歩の最上位にあるのが、自律的に動作するAIエージェントです。これらのエージェントは、意思決定を行い、ワークフローを設計し、関数呼び出しを使用して外部ツール (アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)、データソース、Web検索、さらには他のAIエージェント)に接続して知識のギャップを埋めます。これがエージェント型AIです。

AIエージェントは専門化されており、それぞれが特定の機能に最適化されています。エージェントの中には、請求書発行、トラブルシューティング、予約の取得、意思決定などのビジネスおよび顧客対応のタスクに重点を置くエージェントもあれば、自然言語処理(NLP)、データ取得、プロセス自動化などの、より技術的な機能を担当するエージェントもあります。多くの場合、OpenAIのChatGPT-4oやGoogleのGeminiなどの高度なLLMがこのようなエージェントを動かしており、生成AI機能により、人間のような応答を作成したり、複雑なタスクを自律的に処理したりできるようになります。

複数のAIエージェントが協力することで、複雑なタスクをより効率的に解決するためのシステムが、マルチエージェント・システム(MAS)です。これは、エージェント同士が構造化された形で、または分散型で連携することで実現されます。

実際には、AIエージェント・オーケストレーションは、デジタル・オーケストラのように機能します。各エージェントには独自の役割があり、システムはオーケストレーターによって管理されます。オーケストレーターは中央のAIエージェントまたはフレームワークで、エージェント同士の相互作用を管理・調整します。オーケストレーターは、これらの特殊なエージェントを同期させ、各タスクに対して適切なエージェントが適切なタイミングで起動されるようにします。この調整は、さまざまなタスクを含む複雑なワークフローを処理するには非常に重要で、プロセスがシームレスかつ効率的に実行されるようにします。

例えば、 カスタマー・サービスのオートメーションの一環として、オーケストレーター・エージェント(AIエージェントの管理を担当するシステム) は、請求書発行エージェントと技術サポート・エージェントのどちらを関与させるかを判定し、顧客が滞りなく適切なサポートを受けられるようにします。MASでは、エージェントは単一のオーケストレーターなしで調整し、動的にコミュニケーションをとって協調的に問題を解決できます(以下の「AIオーケストレーションの種類」を参照)。

通信、銀行、医療など、複雑で動的なニーズを持つ業界において、AIエージェント・オーケストレーションから得られるメリットは非常に大きなものになります。対象となるデータセットやワークフローに基づいて学習された専門のエージェントを導入することで、企業は運用効率を向上させ、意思決定を改善し、従業員と顧客の両方に対してより正確で効率的、かつ状況に応じた結果を提供できます。

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AIエージェント・オーケストレーションが重要な理由

AIシステムが進化するにつれて、単一のAIモデルやエージェントでは複雑なタスクを処理するには不十分なことが多くなっています。自律システムは、複数のクラウドやアプリケーションにわたって構築されているため、連携に苦労することが多く、結果として孤立したオペレーションや非効率を生んでいます。AIエージェント・オーケストレーションはこれらのギャップを埋め、複数のAIエージェントが効率的に連携し、高度なタスクがシームレスに実行されるようにします。

医療、金融、カスタマー・サービスなどで大規模に展開する場合には、タスクのさまざまな側面を処理するために複数のエージェントが協力する必要があることがよくあります。例えば、医療分野では、AIエージェントが診断ツール、患者管理システム、管理ワークフローを調整して、業務を効率化し、治療の精度を高められます。オーケストレーションがなければ、これらのエージェントは単独で動作する可能性があり、非効率性、冗長性、または実行におけるギャップを引き起こす可能性があります。

オーケストレーションは、マルチエージェント・システム間の相互作用を管理することで、各エージェントが共通の目標に向けて効果的に貢献できるようにするものです。ワークフローを最適化し、エラーを最小限に抑え、相互運用性を高めることで、AIシステムはリソースを動的に割り当て、タスクを優先し、変化する状況にリアルタイムで対応できるようになります。この機能は、サプライチェーン管理やパーソナライズされたバーチャル・アシスタントなど、継続的な最適化が求められる分野で役立ちます。

AIシステムが進化し続ける中で、AIエージェント・オーケストレーションはその真のポテンシャルを解き放つためにますます重要になっています。

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AIエージェント・オーケストレーションの種類

AIエージェント・オーケストレーションにはいくつかの種類があります。実際のシステムでは、より効果的な成果を得るために複数のオーケストレーション・スタイルを組み合わせることがよくあります。

集中型オーケストレーション:単一のAIオーケストレーター・エージェントがシステムの「頭脳」として機能し、他のすべてのエージェントに指示を与え、タスクを割り当て、最終的な意思決定を行います。この構造化されたアプローチは、一貫性、制御、および予測可能なワークフローの確保に役立ちます。

分散型オーケストレーション:このモデルは、単一の制御エンティティーから離れ、MASが直接的な通信とコラボレーションを通じて機能することを可能にします。エージェントは独立して意思決定を行うか、グループとして合意に達します。これにより、1回の障害でシステム全体が停止することがないため、システムのスケーラビリティと回復性が向上します。

階層的オーケストレーション:ここでは、AIエージェントは層ごとに配置され、階層化されたコマンド構造のようになっています。上位レベルのオーケストレーター・エージェントは、下位レベルのエージェントを監督・管理して、戦略的制御とタスク固有の実行のバランスを取ります。これにより、専門エージェントがある程度の自律性をもって業務ができるようになり、ワークフローもより組織化することが可能です。階層が厳格すぎると、適応性が損なわれる可能性があります。

連合的オーケストレーション:この方法では、独立したAIエージェントや個別の組織間の連携に重点を置いており、データを完全に共有したり、個々のシステムの制御を放棄したりせずに、協力して作業できます。これは、プライバシー、セキュリティー、または規制の制約により、無制限のデータ共有が不可能な状況(医療、銀行、企業間の提携など)で特に役立ちます。

AIエージェント・オーケストレーションと関連するプラクティスの比較

AIオーケストレーションは、機械学習モデル、データ・パイプライン、APIなど、さまざまなAIコンポーネントを管理・自動化し、システム内で効率的に連携できるようにします。パフォーマンスの最適化、反復作業の自動化、拡張性とシステム全体のパフォーマンス向上に重点を置いています。

AIエージェント・オーケストレーションは、 AIオーケストレーションのサブセットであり、特に自律的なAIエージェント(独立した意思決定と行動をとることができるソフトウェア・エンティティ)の調整に重点を置いています。エージェントの効果的な連携、タスクの割り当て、ワークフローの構築を支援します。

マルチエージェント・オーケストレーションはさらに一歩進んで、複雑な問題に連携して取り組む複数のAIエージェントを管理します。コミュニケーション、役割の割り当て、競合解決を扱い、エージェント間のシームレスなコラボレーションを実現します。

AIエージェント・オーケストレーションのステップ

AIエージェントのオーケストレーションは、AIエージェント間のシームレスな連携を担保するために、プロセスを構造化したものです。このプロセスでは、専門エージェントを効率的に管理して、自律的にタスクを完了し、データフローを共有し、ワークフローを最適化することを狙いとしています。

初期のステップには設計、構成、実装が含まれており、AIエンジニア、開発者、ビジネス・ストラテジストなどの人間によって行われます。オーケストレーター・エージェントが設定されると、AIアプリケーションを自律的に管理し、タスクの割り当て、ワークフローの調整、リアルタイムでのコラボレーションを促進します。

このプロセスは、通常、次の主要な手順に従います。

  • アセスメントと計画
  • 専門AIエージェントの選定
  • オーケストレーション・フレームワークの実装
  • エージェントの選択と割り当て
  • ワークフローの調整と実行
  • データ共有とコンテキスト管理
  • 継続的な最適化と学習

アセスメントと計画(人間主導)

オーケストレーションを開始する前に、組織は既存のAIエコシステムを評価し、マルチエージェント・オーケストレーションによるメリットを活かせる可能性のあるプロセスを特定します。オーケストレーション・チームは、明確な目標を定義して統合の範囲を決定し、適切なAIテクノロジーを選定します。

専門AIエージェントの選定(人間主導)

AIエンジニアと開発者は、データ分析、自動化、意思決定など、特定のタスクに特化したAIエージェントを選定します。これらのエージェントは、生成AIや機械学習モデルを使用して、その機能を強化します。

オーケストレーション・フレームワークの実装(人間主導)

システム・アーキテクトは、選択したAIエージェントを統一されたオーケストレーション・フレームワークに組み込み、エージェント間の円滑なコミュニケーションを促進するワークフローを確立します。これには以下が含まれます。

  • タスク実行シーケンスの定義
  • データ・アクセスを目的としたAPI連携の設定
  • IBM watsonx Orchestrate、Microsoft Power Automate、LangChainなどのオープンソース・オーケストレーション・ツールの導入

これが完了すると、オーケストレーター・エージェントがリアルタイムでの実行を引き継ぎます。

エージェントの選択と割り当て(オーケストレーター主導)

オーケストレーターは、リアルタイム・データ、ワークロード・バランシング、事前定義されたルールに基づいて、各タスクに最適なAIエージェントを動的に識別します。

ワークフローの調整と実行(オーケストレーター主導)

オーケストレーター・プラットフォームは、タスクの順序付けと実行を管理し、エージェント間のスムーズなコラボレーションを支援します。これには以下が含まれます。

  • タスクをサブタスクに分割
  • 各ステップの処理に適切なAIエージェントの割り当て
  • エージェント間の依存関係の管理
  • API呼び出しによる外部システムとの連携で、必要なデータやサービスにアクセス

データ共有とコンテキスト管理(オーケストレーター主導)

正確性を確保し、余分な作業を防ぐために、AIエージェントが継続的に情報を交換し、共有の知識ベースを維持します。オーケストレーターは、リアルタイムのコンテキストでエージェントを更新します。

継続的な最適化と学習(オーケストレーター+人間のインプット)

オーケストレーターは、エージェントの性能を監視し、非効率性を検知して、ワークフローを自律的に調整できます。戦略の改良、AIモデルの再トレーニング、長期的な改善に向けたルール変更には、多くの場合人間による監督が必要です。

AIエージェント・オーケストレーションのメリット

AIエージェント・オーケストレーションは、さまざまな業界に重要なメリットをもたらすので、業務や顧客とのやりとりの向上を目指す企業には有益な方法です。

効率の向上:複数の専門エージェントを調整することで、企業はワークフローを効率化して冗長性を減らし、全体的な業務パフォーマンスを向上させることができます。

俊敏性と柔軟性:AIエージェント・オーケストレーションにより、組織は市場の状況の変化に応じてオペレーションを迅速に適応させることができます。

エクスペリエンスの向上:オーケストレーションされたAIエージェントは業務効率を向上させ、より正確でパーソナライズされたサポートを提供することで、顧客と従業員にとって満足度の高い体験を生み出します。。

信頼性と耐障害性の向上:1つのエージェントの障害は他のエージェントによって緩和されるため、システムの信頼性が向上し、継続的なサービス提供が可能になります。

自己改善型ワークフロー:従来の統合パターンとは異なり、エージェント・オーケストレーションは、新しいデータや進化する要件に自律的に適応し、時間の経過とともに改善できるワークフローの作成を可能にします。

拡張性: AIエージェント・オーケストレーションにより、組織はパフォーマンスや精度を損なうことなく、需要の増加に対応できます。

AIエージェント・オーケストレーションにおける課題

AIエージェントのオーケストレーションにはいくつかの課題がありますが、それぞれに解決策があると見込まれています。これらの課題に対処することで、AIエージェント・オーケストレーションの効率性、拡張性、回復力を高めることができます。

マルチエージェントの依存関係: マルチエージェント・フレームワークを導入する場合、誤動作のリスクが発生します。同じ基盤モデル上に構築されたシステムは、共通の脆弱性の影響を受けやすくなる可能性があり、その結果、関与するすべてのエージェントに広範囲の障害が発生したり、外部攻撃を受けやすくなったりする可能性があります。これにより、基盤モデルの構築および徹底的なトレーニングとテスト・プロセスにおけるデータ・ガバナンスが重要であることは明らかです。

調整とコミュニケーション: エージェントが適切にやりとりしなければ、互いに対立する動きをしたり、作業が重複したりする可能性があります。これを防ぐには、明確なプロトコル、APIの標準化、信頼性の高いメッセージ受信システムを確立して、すべてを滞りなく実行することが大切です。

拡張性:AIエージェントの数が増えると、システムのパフォーマンスと管理の維持がより複雑になります。設計が不十分なオーケストレーション・システムは、ワークロードの増加に対応できず、遅延やシステム障害を引き起こす可能性があります。これは、意思決定を分散する分散型または階層型のオーケストレーション・モデルを使用することで回避でき、単一の障害点や混雑を防ぐことができます。

意思決定の複雑さ:マルチエージェント環境では、タスクの割り当てや実行方法を決定することが非常に複雑になる可能性があります。明確な構造がないと、エージェントは、特に状況が頻繁に変化する動的な環境で意思決定に苦労することがあります。強化学習、優先順位付けアルゴリズム、事前定義された役割により、エージェントは効率を維持しながら自律的にタスクを決定できるようになります。

耐障害性:エージェントまたはオーケストレーター自体に障害が発生した場合はどうなるのでしょうか。耐障害性は非常に重要であり、システムが自動的に復旧できるように、フェイルオーバーの仕組み、冗長性戦略、自己修復アーキテクチャを設計することで強化する必要があります。これにより、人間による介入がなくてもシステムの復旧が可能になります。

データ・プライバシーとデータ・セキュリティー:AIエージェントは機密情報を頻繁に処理・共有するため、データ・セキュリティーとデータ・プライバシーに関する懸念が生じます。こうしたリスクを軽減するために、組織は強力な暗号化プロトコルの実装、厳格なアクセス制御の実施、未加工データを公開せずにAIモデルが共同で改善できる連合学習技術を使用する必要があります。

適応性と学習:AIエージェントは新しいタスクや課題に継続的に適応する必要があります。継続的に手動で更新が必要なシステムは、非効率的になり、保守コストが高くなることがあります。適応性を高めるために、機械学習技術、継続的な監視、フィードバック・ループをオーケストレーション・プロセスに組み込むことができます。これらの方法により、AIエージェントは時間の経過とともにその動作を洗練させ、人間による頻繁な介入を必要とせずに、個々のパフォーマンスおよびシステム全体のパフォーマンスを向上させることができます。

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