エージェント型AIと生成AI

2025年2月11日

共同執筆者

Teaganne Finn

Content Writer

IBM Consulting

Amanda Downie

Inbound Content Lead, AI Productivity & IBM Consulting

人工知能(AI) はこれまで10年間にわたりつねに人気の話題となってきましたが、最近では 生成AI やエージェント型AIなどの用語が登場しています。従来のAIは、パターンを認識してデータを分析するためのわくわくするような新しい方法をユーザーに提供していましたが、生成AIでは、テキスト、画像、動画、音声、ソフトウェア・コーディングなどの新しいパターンやコンテンツを作成できます。

さらに、エージェント型AIは、大規模言語モデル(LLM)、機械学習(ML)自然言語処理(NLP)のデジタル・エコシステムを活用することで、自律的な能力を次のレベルに引き上げ、ユーザーや他のシステムの代わりに自律的なタスクを実行します。注目を集めている生成AIモデルがChatGPTです。この製品はエージェント型AIと似たような創造的な能力を提供しますが、同じものではありません。

エージェント型AIは、新しいコンテンツの作成ではなく、意思決定に重点を置いており、人間のプロンプトのみに依存しているわけでも、人間の監視を必要としているわけでもありません。初期段階のエージェント型AIの例には、自律走行車、バーチャル・アシスタント、およびタスク指向の目標を持つコパイロットなどがあります。生成AIとエージェント型AIのツールは、個人や組織の生産性向上に多大なメリットをもたらします。この2つの用語を区別し、それぞれがイノベーションと意思決定を推進する上でどのように機能するかを理解することが重要です。

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エージェント型AIと生成AIの主な違い

エージェント型AIと生成AIの違いを掘り下げるには、まずそれぞれを定義することが必要です。

生成AIは、ユーザーのプロンプトや要求に応じて、オリジナルのコンテンツ(テキスト、画像、動画、音声、ソフトウェア・コードなど)を作成できる人工知能です。生成AIは、ディープラーニングモデルと呼ばれる機械学習モデル(人間の脳の学習や意思決定プロセスをシミュレートするアルゴリズム)や、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)などのテクノロジー基づいて動作しています。

これらのモデルは、大量のデータに内在するパターンや関係性を識別してエンコードし、その情報を利用してユーザーの自然言語によるリクエストや質問を理解します。これらのモデルは、学習したデータに基づいて、テキストや画像などの高品質なコンテンツをリアルタイムで生成できます。

エージェント型AIとは、自律的に意思決定を行って行動するように設計され、限られた監督で複雑な目標を追求する能力を持つAIシステムのことを指します。大規模言語モデル(LLM)の柔軟な特性と従来のプログラミングの精度がかけ合わされています。この種のAIは、自然言語処理 (NLP)、機械学習、強化学習、知識表現などのテクノロジーを使って自律的に動作し、目標を達成します。生成AIはユーザーのインプットに反応するのに対し、エージェント型AIはAIによるプロアクティブなアプローチです。エージェント型AIは、多様な、または変化する状況に適応でき、文脈に基づいて意思決定を行う「エージェンシー(代理機能)」を備えているのです。ロボティクス、複雑な分析、バーチャル・アシスタントなど、独立した運用でメリットを得られるさまざまなアプリケーションで活用されています。

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エージェント型AIと生成AIの主な機能

エージェント型AIと生成AIはそれぞれ異なる目的と特性を持ち、互いに異なる価値を発揮します。

生成AIの主要な機能

  • コンテンツ作成:生成AIが最も優れている点は、コンテンツ生成です。このAIモデルは、小論文や複雑な問題への解答といった、文脈の通ったコンテンツを生成することができます。OpenAIのChatGPTのようなAIアプリケーションは、ユーザーからの入力に応じて解答を生成したり、リストを作成したり、アドバイスを提供することが可能です。生成AIソリューションを活用してコードを作成すると、ソフトウェア開発の効率化が図れるほか、スキル・レベルに関係なく開発者がコードを書きやすくなります。

  • データ分析:生成AIは膨大な量のデータを分析し、その分析結果からパターンや傾向を導き出すことができます。この生成AIモデルは、特にサプライチェーンにおいて複雑なワークフローを効率化し、より良い顧客体験を提供することができます。

  • 適応性:生成AIは、ユーザーから受け取ったインプットに基づいてアウトプットを適応させることができます。ユーザーがモデルに対して具体的なフィードバックを提供すると、結果はユーザーの求める方向にシフトし、それによりアウトプットが洗練されます。

  • パーソナライゼーション:生成AIテクノロジーは、ユーザーからのインプットに基づいてパーソナライズされた推奨事項やエクスペリエンスを提供できます。たとえば、小売業界では、生成AIテクノロジーを活用することで、顧客の好みの詳細を理解し、高度にパーソナライズされたエクスペリエンスを提供しています。

エージェント型AIの主な機能

  • 意思決定:この種のAIシステムは、事前に定義された計画や目標に基づいて状況を評価し、人手を介さず、または最小限の人間によるインプットで進むべき道を決定することができます。

  • 問題解決:エージェント型AIは、問題を解決する際に「認識」、「推論」、「行動」、「学習」という4つのアプローチを用いります。この4つのステップは、AIエージェントがデータを収集して処理することから始まります。その後、LLMは、認識されたデータを分析して状況を理解するためのオーケストレーターとして機能します。次に、外部ツールと統合され、フィードバックを通じて継続的に改善と学習が行われます。

  • 自律性: エージェント型AIは自律的に動作します。自ら学習して動作する独自の能力を備えているため、ワークフローを効率化し、人間の介入を最小限に抑え機械に複雑な作業を実行してもらいたいと考える組織にとっては前途有望な技術です。

  • 対話性:エージェント型AIはその能動的な性質により、外部環境と対話を行い、リアルタイムでデータを収集して調整することができます。一例として、自動運転車があります。自動運転車は、周囲を常に分析し、安全で正確な運転判断を下す必要があります。

  • 計画:エージェント型AIモデルは、複雑なシナリオを処理し、複数のステップからなる戦略を実行することで、特定の目標を達成することができます。

エージェント型AIとAIエージェント

エージェント型AIAIエージェントを区別することが重要です。基本的に、エージェント型AIはフレームワークです。AIエージェントは、フレームワーク内の構成要素です。

エージェント型AIは、限られた監視のもとで問題を解決するというより広い概念ですが、AIエージェントは、システム内でタスクやプロセスを一定の自律性を持って処理するように設計された特定のコンポーネントです。このモデルは、人間とAIが対話する方法を変えています。エージェント型AIシステムは、ユーザーの目標やビジョンを理解し、提供された情報を使用して問題を解決します。

例を挙げると、エージェント型AIがエネルギー消費システム全体を管理・運用するスマート・ホームを考えてみてください。これは、リアルタイム・データとユーザーの好みを活用して、スマート・サーモスタット、照明、さらには家電製品などの個別のAIエージェントを調整することによって実現されます。各エージェントには個別の目標と任務があり、エージェント型AIのフレームワーク内で連携して、住宅所有者のエネルギー目標を達成します。

エージェント型AIと生成AIのユースケース

生成AIには多くのユースケースがありますが、エージェント型AIにおける用途の多くはまだ実験段階にあります。エージェント型AIの潜在的なユースケースとしては、カスタマー・サービス、医療セキュリティ、ワークフロー管理、金融リスク管理などの分野で現れ始めています。

生成AIのユースケース

SEO向けコンテンツの作成

企業は、生成AIを使って、オーガニック・トラフィックを促進するブログやランディング・ページなど、SEOに最適化された大量のコンテンツを作成しています。例えば、あるデジタル・マーケティング代理店では、生成AIツールを使って、クライアントが検索エンジンでより上位にランキングされるために、キーワードを最適化した高品質のブログ投稿やウェブページを作成するかもしれません。

マーケティングおよび営業

人間の営業チームでは、セールス・リードを見つけ開拓することが主な目的であるにもかかわらず、事務作業に追われてしまうことがよくあります。これまでの間、営業チームでは、チャットボットやバーチャル・アシスタントなどをAIのユースケースとして活用してきました。AIテクノロジーは、リード創出の接点づくりに加えて、特定業務を処理し、営業チームの最適化を推進できます。

製品の設計と開発

利用可能な生成AI機能は、組織が市場調査、トレンド、ユーザーの好みに基づいて新しい製品コンセプトやデザインを作成する際に役立ちます。これにより、製品開発サイクルがスピードアップする可能性があります。一例として、ファッション企業では、生成AIを活用して新しい衣料品ラインをデザインし、消費者からのインプットと市場データの分析に基づいてデザインを生成することが挙げられます。

カスタマー・サポートの自動化

生成AIは、企業がカスタマー・サービスへの問い合わせに対して回答を自動的に生成する際に役立ちます。この種のツールは、よくある質問に対する回答を作成し、リアルタイムで問題のトラブルシューティングができます。eコマース・ビジネスを例にとってみます。このビジネスでは、生成AIを活用したチャットボットを使った、注文状況の照会、返金リクエスト、配送に関する質問など、さまざまなタスクを処理しています。

エージェント型AIのユースケース

カスタマー・サービス

これまでカスタマー・サポートで使われていたチャットボットのモデルは、テクノロジーが事前にプログラムされたものであるため限界があり、場合によっては人間の介入が必要でした。一方、自律型エージェントでは、モデルが顧客の意図や感情を迅速に理解し、問題解決に向けて適切な対応をとることができます。

そのため、この種の自律型システムは、状況を予測的に評価し、顧客と企業のやり取りをよりスムーズにするのに役立ちます。今日のビジネス環境では、企業が顧客維持率の向上とロイヤルティの強化を求めているため、顧客体験が極めて重要になります。具体的には、エージェント型AIは、組織のデータを収集、クリーニング、フォーマットすることで、煩雑な作業を自動化できます。こうしたシステムは、人間の従業員の負担を軽減し、より大きな効果をもたらすプロジェクトやタスクに集中できるようになります。

ヘルスケア

AIテクノロジーはすでに、診断、患者ケア、管理業務の効率化など、医療分野で使われています。サイバーセキュリティーは、患者データとプライバシーの懸念から、医療分野で使わされるAIツールの最も重要な機能の1つです。

この懸念の対策は、新たなエージェント型AIツールにもきちんと引き継がれています。可能なユースケース例としては、エージェント型AIをスマート吸気テクノロジーに統合しているPropeller Health社の例が挙げられます。スマートデバイスは、空気の質など、患者からの薬の使用状況や外的要因に関するデータをリアルタイムで収集します。この装置は、必要に応じて医療従事者に警告を発し、患者のパターンを追跡します。

自動化されたワークフロー管理

エージェント型AIは、ビジネス・プロセスを自律的に管理し、サプライ品の再注文やサプライチェーン運用の最適化など、複雑なタスクを処理できます。社内のワークフローを自動化することで、人間の従業員が物理的に介入することなく、彼らの業務をより簡便にします。

たとえば、物流会社では、エージェント型AIシステムを使用して、リアルタイムの交通状況や出荷の優先順位に基づいて配送ルートやスケジュールを自動的に調整することができます。エージェント型AIの拡張性と増大した処理能力により、特に物流業界に適したユースケースとなっています。

財務リスク管理

エージェント型AIは、市場の動向や財務データを分析し、投資や信用リスクに関する自律的な意思決定を行うことで、業種・業務が顧客の目標を達成し、その成果をリアルタイムで最適化する支援ができます。金融機関は、顧客の投資を保護すると同時に、より高い成果をもたらす賢明かつ戦略的な意思決定を行うことを目指しています。

エージェント型AIは、リアルタイムの経済的、社会的、政治的な出来事に基づいて戦略を調整し、自律的に行動することで、これらの実践を改善することができます。たとえば、フィンテック企業がエージェント型AIを活用して市場の変動を監視し、ポートフォリオの配分を自動的に調整するといったケースがあります。

エージェント型AIと生成AIのトレンド

生成AIのトレンド

  • 生成AI拡張アプリケーション: さまざまなソフトウェアやプラットフォームに生成AI拡張アプリケーションが統合される方向にシフトしています。この統合により、ユーザー・エクスペリエンスがさらにパーソナルなものになり、インテリジェントな機能が提供されています。

  • モデル・トレーニング用の合成データ:実際のデータが手に入りにくい、または高価な場合、AIによって生成された合成データがモデルのトレーニングに使用されています。合成データを使用することで、ロボティクス、自律運転、金融などの業種・業務におけるAIトレーニングを改善できます。

  • ディープフェイク・テクノロジー:やや娯楽的ではありますが、生成AIはAIを使用して、本物のように見える超リアルな画像や動画を生成しています。誤情報をめぐる倫理的な懸念が高まっており、現在も問題視されています。

  • コンテンツのパーソナライゼーション: 小売業で人気が高いのはパーソナライゼーションです。マーケティング・チームは、生成AIによるデータ分析に基づき、コンテンツやキャンペーンを個人の好みに合わせて調整します。

エージェント型AIのトレンド

  • 金融サービス業界:エージェント型AIは、市場データを分析し、取引の実行を迅速化することで、取引戦略を革新する可能性を秘めています。エージェント型AIはWebを広範囲に検索するように設計できるため、エージェント型AIの広範なリーチは重要なメリットとなります。エージェントは更新情報を取得し、リアルタイムの情報を取得できます。

  • ロボティクス:Amazonの倉庫のような場所では、倉庫の自動化や製造プロセスを効率化するために、フルフィルメント・センターでロボットの導入が進んでいます。エージェント型AIは複雑なタスクを処理するだけでなく、特定のタスクを独立して遂行することもできます。

  • 都市計画:エージェント型AIシステムは、都市計画において、リアルタイムの交通データやカメラ・センサーなど、あらゆる種類のデータセットを分析して、計画者が情報に基づいた意思決定を行えるよう支援します。エージェント型AIは直感的な特性は、プレゼンテーションのスライドや表の作成にかかる時間を大幅に削減し、チームの負担を軽減する可能性があります。

  • 人事:人事部門がエージェント型AIを活用すると、生成AIの機能を超え、自律的な意思決定と動的な従業員サポートを組織に提供できます。AIエージェントは、定例業務を自動化し、従業員に対してパーソナライズされた回答を提供することで、人事担当者はより戦略的な優先事項に集中できるようになります。

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    脚注


    What is Agentic AI, and How Will it Change Work?、Harvard Business Review、2024年12月12日