ITコストの最適化を実現するための6つのストラテジー

エンタープライズ・テクノロジーはかつてない速さで進化しており、それに伴い価格も高騰しています。世界のIT支出額は2025年に5.74兆米ドル（前年比9.3％増）に達すると予想されており、CIOとCFOは経費を抑制しながら高性能なシステムを導入するプレッシャーにさらされています。¹その結果、ITコストの最適化は、ビジネスおよびITリーダーにとって最優先の戦略的優先事項となりました。

ITコストの最適化とは、運用をサポートしながらIT支出を定期的に見直し、不要な支出を特定して排除するプロセスです。適切に実行すれば、ITコストの最適化の取り組みでは、ベスト・プラクティス、戦略、ソフトウェア・ツールを組み合わせて、コスト削減とパフォーマンスおよび価値の最大化のバランスをとることができます。

とはいえ、ITコストの最適化には、生成AIなどの新興テクノロジーと関連する経費の増大など、注目すべき課題が伴います。IBM Institute for Business Value（IBV）レポートによると、コンピューティングの平均コストは2023年から2025年の間に89％上昇すると予想されており、調査対象の経営幹部の70％が、この増加の主因として生成AIを挙げています。

ITコストの最適化は、ITコスト管理とは異なります。ITコスト管理とは、ITコストが予算配分に従っていることを確認するためにITコストを監視、分析、レポートするプロセスです。一方、ITコストの最適化はコストの追跡にとどまらず、IT経費を最小限に抑えながらITリソースから得られる価値を高める戦略の実行に重点を置いています。

構造化されたフレームワークがなければ、ビジネス・リーダーは、長期にわたって持続可能な変化を推進するITコスト最適化戦略を実行するのが困難になる可能性があります。Gartner社の調査によると、3年連続でコストを削減し続けられている組織はわずか11％でした。²

ITコスト最適化フレームワークは、効率性を維持し、より広範なビジネス目標を達成しながら、組織のIT費用（ハードウェア、ソフトウェア・アプリケーション、クラウド・コンピューティング、ベンダー契約、データ・ストレージなど）を分析するための段階的なアプローチを提供します。

効果的なフレームワークとなるためには、次の手順を含める必要があります。

すべての主要な事業単位（運用、財務、顧客サービスなど）の関係者を関与させ、これら個人の賛同を得て、情報に基づいた意思決定を実現します。各事業部門には独自の技術ニーズと支出パターンがあり、最適化の機会が明らかになります。

ITコストの最適化の取り組みをより広範なビジネス目標と整合させ、コスト削減だけでなく、運用効率、イノベーション、収益性の達成に重点を置きます。

例えば、企業が顧客満足度の向上を目指している場合、ITチームは業務プロセスと顧客サービス用ツールの最適化に重点を置き、全体的なパフォーマンスを向上させることが考えられます。

包括的な評価を実施して、現在の支出、リソースの割り当て、非効率性を把握します。IT支出データを業績指標（収益成長率や顧客獲得コストなど）と統合すると、IT投資が期待どおりに機能せず、期待どおりの利益が得られていない領域が明らかになります。

そのうえで、CIOやその他のITリーダーは、パフォーマンスや価値を損なわない潜在的なコスト削減戦略を特定する必要があります。例えば、高コストのオンプレミスのアプリケーションを移行すると、よりコスト効率の高いデータセンターからハイブリッドクラウド・ソリューションに、資本コストと運用コストの両方を削減しながら、拡張性と柔軟性を向上させることができます。

組織がフレームワークを確立したら、ITコスト最適化の取り組みを開始できます。この記事では、テクノロジー投資からより大きな投資収益率（ROI）を実現し、競争上の優位性をもたらす6つのITコスト最適化戦略について説明します。

IT資産を統合してコストと複雑さの両方を削減します。冗長なシステムやアプリケーション、古いハードウェア、十分に活用されていないソフトウェア・ライセンスによって、ITの無秩序な拡散、つまり過度に複雑で分散化されたIT環境が生じ、シャドーITの存在につながる可能性があります。統合により、ITサイロを解体するだけでなく、ワークロードの管理と運用の合理化も容易になります。

例えば、仮想マシン（VM）はIT運用を変革し、企業が単一の物理サーバー上で複数のアプリケーションを実行できるようにしました。VMは柔軟性と拡張性に優れている一方で、VMスプロール（仮想マシンの過剰かつ制御されない拡張）により、VMが十分に活用されなかったり、忘れ去られたりするおそれがあります。

VMの作成、保守、廃止のための標準化されたプロセスを含むITガバナンス・ポリシーを確立すると、VMの無秩序な増加を防ぐことができます。さらに、VMライフサイクル全体を監視するための仮想化管理プラットフォームに投資することで、リソースの無駄を減らし、管理の複雑さを軽減することができます。

現在、ほとんどの企業は、ワークロードのデプロイメントの管理と柔軟性の両方を提供するハイブリッドマルチクラウド・モデルに投資しています。ただし、この最新のITインフラストラクチャー・モデルには複雑さが伴います。使用するクラウドが増えれば増えるほど、管理ツール、データ転送速度、セキュリティー・プロトコルがクラウドごとに異なるため、環境の管理が難しくなる可能性があります。例えば、クラウドの使用パターンの可視性が不足すると、十分に活用されていないサービスに過剰な支出が発生する可能性があります。

最近の調査によると、企業は不適切な管理のためにパブリッククラウド・インフラストラクチャーに数十億ドルを無駄に費やしており、回答者の4分の3以上がクラウド支出の21％～50％が無駄になっていると推定しています。³

クラウド・コスト管理は、クラウド・コスト最適化またはクラウド・コスト・ガバナンスとも呼ばれ、企業のクラウド支出を管理および削減します。クラウド・コスト管理戦略を効果的に実装すると、ハイブリッドおよびマルチクラウド環境でビジネス価値を最大化することを目指す、進化するクラウド財務管理の規律と文化的実践であるFinOpsが可能になります。FinOpsは、組織が不要な支出を積極的に特定して削減し、クラウド・リソースを拡張し、コスト管理ポリシーを自動化するのに役立ちます。

その他の主なクラウド最適化手法は次のとおりです。

• 適正化： 過剰なプロビジョニング・リソース（コンピューティング、ネットワーク帯域幅、クラウド・ストレージ容量など）は、組織がクラウド環境で直面する一般的な問題です。クラウド・コンピューティング・インスタンスのタイプとサイズをワークロードに合わせて調整するプロセスである適正化により、組織が適切な量のクラウド・インスタンスを購入できるようにすることで、コスト効率を向上させることができます。クラウドコスト管理プラットフォームを利用すると、企業はリソースを追跡し、その使用状況を調整してコスト削減策を実現で​​きます。

• リザーブド・インスタンス（RI）： 組織は、コストを節約し、柔軟性を維持するためにリザーブド・インスタンス（RI）を購入できます。リザーブド・インスタンスは、通常、割引価格で事前に購入され、フラッシュ・セールなどのピーク時によく使用されます。

• スポット・インスタンス： クラウド顧客は、スポット・インスタンスを使用して、クラウド・サービス配信プロバイダーから未使用のコンピューティング容量を低価格で購入できます。スポット・インスタンスは、他の場所で容量が必要になったときにプロバイダーがほとんど通知せずにこれらのインスタンスを中断または終了できるため、バッチ・ジョブやバックグラウンド処理などの短期的なタスクに最適です。

組織の購入の大部分はソフトウェアに費やされますが、使用状況を追跡する際に課題が頻繁に発生します。SaaS管理プラットフォームを提供するProductiv社が実施した調査によると、90日間連続で使用されるSaaSライセンスは平均して、わずか47％に過ぎません。⁴

ソフトウェア関連の費用を最適化するには、使用状況とライセンスおよびサブスクリプションの購入を評価するための徹底的な監査を実施します。同様の機能をより低コストで使用するため、可能な場合はオープンソース・ソフトウェアの採用を検討するとよいでしょう。

ソフトウェア資産管理（SAM）プロセスとツールに投資することで、効率性が向上し、リスクが軽減され、ソフトウェア投資を最大限に活用できるようになります。SAMは、SaaSおよびクラウド・サービスのデータ・ストレージなどの使用状況を追跡するのに役立ちます。この使用状況データを分析することで、企業はサブスクリプション・プランを最適化するためのベンチマークを設定できます。例えば、これらのベンチマークにより、ソフトウェアのライセンスが不足していないこと（コンプライアンスの問題につながる可能性があります）、またはライセンスが過剰でない（不要なライセンスへの無駄な支出につながる可能性があります）ことを確認できます。

組織は、自動化ツールとAIを活用したインテリジェントなワークフローを使用することで、業績を向上させ、競争上の優位性を獲得できます。

• 日常的なタスクの自動化：日常的なIT運用タスクを手動で実行すると、膨大なリソースと労力を費やすことになります。これらのプロセスを自動化することで、組織はITチームをより戦略的な活動に専念させられるだけではなく、人為的エラーのリスクを軽減できます。IT自動化は、ソフトウェアのパッチ適用、インフラストラクチャーのプロビジョニング、定期的な保守などの反復的なタスクを処理できます。自動監視システムは、問題が業務に影響を与える前に検出できるため、タイムリーな介入とコスト削減の機会が生まれます。

• コストの可視性と管理を向上： AI駆動型ツールは、IT支出に関するリアルタイムの分析情報を提供し、コストの異常を特定し、レポートを生成して、ITリーダーがコストを効果的に理解して管理できるように支援します。今日では、組織は生成AIを活用して予測モデルを組み込み、将来のITコストを予測しています。

• サイバーセキュリティーの最適化： サイバーセキュリティーは、ITコスト最適化の取り組みにおいて重要な役割を果たします。IBMが発表した2024年度のデータ侵害のコストに関する調査によると、漏洩による世界平均コストは488万ドルに達し、前年比で10％増加しており、パンデミック以来で最大の増加率となりました。自動化ツールとAIツールは、脅威の迅速な検知と対応を可能にし、脆弱性の特定とリスクの軽減にかかる時間を短縮することで、サイバーセキュリティーの最適化に役立ちます。

アジャイル手法とDevOpsをIT運用に適用すると、リソース使用率、ひいてはIT管理のコスト効率が向上します。

アジャイル手法とDevOpsは、開発、運用、ビジネスといったチーム間の緊密な連携を促進し、ITリソースが部門間で効果的に使用されるようにします。

• Infrastructure as Code（IaC）： IaCは、インフラストラクチャーを手動プロセスではなくコードを通じて定義および管理する手法です。この機能により、ITリソースのプロビジョニングがより効率的かつ予測可能になり、過剰プロビジョニングや不足プロビジョニングのリスクが軽減され、コストが削減されます。

• 生成AI：生成AIツールは、コード生成の自動化、ソフトウェア開発の支援、さらにはドキュメンテーション作成の支援などを通じてソフトウェア開発ライフサイクル（SDLC）を改善します。この機能により、効率性が向上し、開発コストが削減されます。

ITインフラストラクチャー、特にデータセンターは、膨大なエネルギーを消費する可能性があります。持続可能なITとは、IT運用の環境への影響と気候変動への影響を最小限に抑えることを目指すエンタープライズITへのアプローチです。

持続可能なIT調達ポリシーは、組織が「Energy Star」認定などの高いエネルギー効率評価を受けた環境に優しい機器やハードウェア（サーバー、冷却システム、ソリッド・ステート・ドライブなど）の使用を優先するのに役立ちます。再生可能エネルギー（太陽光、風力、水力など）との電力契約を活用すると、IT運用の環境影響を大幅に軽減し、長期的にはコスト削減を実現できます。

企業が継続的な技術変化に取り組む中で、ITコストの最適化は一度行えばそれで完了するものではなく、継続的なプロセスでなければなりません。この複雑さを管理するための鍵は、コスト効率とパフォーマンスのバランスをとるために適切なツールと戦略を採用することにあります。