公開日:2024年5月10日
寄稿者:Amanda McGrath、Alexandra Jonker
水力発電を行うには、水流や水の落下の運動エネルギーを発電機を使用して電気エネルギーに変換します。簡単に言えば、水流によってタービンを回転させ、発電するということです。例えば、川にダムを建設すると、貯水池ができます。電力が必要になったときに、ダムのゲートを開くと、重力によって導水管と呼ばれるパイプを通って水が引き込まれます。流れる水がタービンのブレードを押すことでこれを回転させます。これにより、接続された発電機が電気を作り出すことができます。水は最終的にはダムの外側の川へと流れて行きます。
水力発電は重要なエネルギー生産源です。その電力容量は過去20年間で70%以上増加し、2020年には低炭素電力の最大の供給源となり、世界の発電量全体の6分の1を占めるまでになりました1。
水力発電は、その再生可能性と信頼性が高く評価されることが多いです。化石燃料(石炭、石油、ガスなど)の供給は有限ですが、水力発電は地球の天然資源を枯渇させることなく、無期限に発電を可能にします。太陽光発電や風力発電などの他の再生可能エネルギー源は気象条件に左右されますが、水力発電は年間を通じて安定生産できます。
また、水力発電はクリーンなエネルギー源と考えられています。化石燃料ベースのエネルギー生産よりも温室効果ガス(二酸化炭素、メタンなど)の排出量が少ないため、企業や国・地域社会が気候変動の影響を緩和しようとする中、水力発電所はサステナビリティーに有利な選択肢となります。水力発電所は一般に、化石燃料発電所よりも効率的に稼働します。また、いくつかの水力発電方式では余剰エネルギーを貯蔵できるため、電力網の安定性を向上させ、電力容量総量を増やすことができます。
水力発電は、異なる発電方法を使用するいくつかのタイプの施設によって行えます。各タイプには特有の長所と短所があり、地理的位置や利用可能な水源、特定の電力ニーズなどの要因に影響を受けます。
貯水池式水力発電は、最も一般的なタイプの水力発電です。貯水池や大型ダムなどの貯水施設を利用して貯水し、必要に応じてタービンを通して放流し、発電します。
このタイプの水力発電は、大規模発電に適しています。貯水施設には大量の水を貯水できるため、大量の電力を生産できます。貯水は安定しているため、貯水池式水力発電は信頼性が高く予測可能なエネルギー源と考えられています。ただし、干ばつ時には発電に影響が出る可能性があります。
揚水発電では、標高の異なる発電所間で水を移動させます。これらの施設では、需要が少ない時間帯に低い標高から高い標高へ水を汲み上げ、需要が多い時間帯にそれを上から下に放出して発電します。
このタイプの水力発電所は電池のような働きをし、他の電源(太陽光、風力、原子力など)によって生成されたエネルギーを後の使用のために蓄えることができます。これらのストレージ・システムは、ネットワーク内の負荷を分散する方法を提供します。貯蔵エネルギーは、電力需要の突発的な急増に対応したり、断続的な再生可能エネルギー源(風力や太陽光など)で電力を十分に生産できない場合に補ったりするために使用できます。しかし、水域の高低差のある適した立地を見つけるのが困難な場合があります。
一般に流れ込み式水力発電として知られる分水ベースのシステムでは、水の貯蔵をほとんどまたはまったく必要としません。代わりに、川の自然な流れと落差を利用して、水を運河や導水管を通してタービンに流すことで再生可能電力を生成します。分水式水力発電の小規模水力発電所は、川の自然な高低差が発電向けの強い流れとなる山岳地帯に最もよく見られます。
こうした水力発電施設は、大きな貯水池を必要とせず、自然生態系への影響が少ないため、通常、貯水施設よりも環境フットプリントが小さくて済みます。ただし、運用規模も小さいため、発電総量は多くありません。また、河川の流れに依存しているため、特に季節によって降雨量が変化する地域では、変動が大きくなる可能性があります。
ほとんどの既存施設は上記のタイプのいずれかの水力発電ですが、他のタイプの水力発電も利用されています。例えば一部の施設では、海の潮の満ち引きを利用して発電する潮力発電を利用しています。また、マイクロ水力発電とは、小さなコミュニティーや単一の住宅または遠隔施設向けに電力を生成するように設計された小規模なシステムのことです。これらは流れ込み式か、小さな貯水池を備えたタイプのいずれかです。
水力の使用は、ギリシャ・ローマ・中国の漢王朝などの古代文明にまでさかのぼります。これらの文明では、水車を使って穀物をひいたり、水を汲み上げたりしていました。しかし、水力が発電に大規模利用されるようになったのは19世紀後半になってからでした。
1878
世界初の水力発電プロジェクトが、イギリスのノーサンバーランド州で1つのランプに電力を供給しました。
1882
最初の商用水力発電所の運用が米国ウィスコンシン州アップルトンで開始されました。1905年までに、世界中で数百の小規模な発電所が稼働していました。
1936
アメリカのコロラド川にフーバー・ダムが完成しました。建設当時、これは世界最大の水力発電所であり、水力発電プロジェクトのブームを巻き起こしました。現在も稼働しており、アリゾナ州、ネバダ州、カリフォルニア州に電力を供給しています。
1984
中国の三峡ダム計画が承認されました。2012年の完成で、設備容量では世界最大の水力発電所となりました。
2000年代~現在
水力発電技術が進歩し、大規模なダム・プロジェクトよりも、環境への影響が少ない小規模システムや流れ込み式発電設備への関心が高まっています。そうしたエネルギー技術は、水力発電能力の新たな機会を生み出しています。
水力発電は、クリーンで再生可能なエネルギーを供給するために世界中で利用されています。
中国は世界最大の水力発電国であり、設備容量は356,000メガワットを超えています。同国は、水力発電プロジェクトに多額の投資を行ってきました。それには世界最大の水力発電プロジェクトである三峡ダムも含まれます。このダムは長江沿いに位置し、2012年に完成し、容量は22.5ギガワット(GW)です。
水力発電所やその他の発電所では、米国の電力の約6%が発電されています2。ワシントン州のコロンビア川にあるグランド・クーリー・ダムは、約6.8 GWの発電能力を持つ米国内最大の水力発電プロジェクトです。しかし、おそらく世界で最もよく知られている水力発電プロジェクトはフーバー・ダムでしょう。アリゾナ州とネバダ州の境界に位置し、1936年に完成し、発電能力は約2GWです。このダムは、ネバダ州、アリゾナ州、カリフォルニア州の公共事業者と民間事業者に電力を供給するだけでなく、灌漑用の水量の調節や洪水の制御も担っています。
水力発電は、ヨーロッパにおける再生可能エネルギーの重要な供給源であり、EUの発電量の12%以上を占めています3。例えばノルウェーは、総発電量の90%以上を水力発電でまかなっています4。容量の点でヨーロッパ最大の水力発電プロジェクトは、ロシアのサヤノシュシェンスカヤ・ダムです。これは世界で7番目に大きい水力発電所であり、発電能力は6.4 GWです。
南アメリカ大陸にはいくつかの重要な水力発電プロジェクトがあります。パラナ川にある、ブラジルとパラグアイの共同事業であるイタイプ・ダムは、稼働中の世界最大規模の水力発電所の1つです。設備発電容量は14 GWです。また、シモン・ボリバル水力発電所としても知られるベネズエラのグリ・ダムは、約10.2 GWの容量があり、国の電力の80%を供給しています。
アフリカの多くの国は、増大するエネルギー需要を満たす方法として水力発電に注目しています。大エチオピア・ルネサンス・ダムやコンゴ民主共和国のインガ・ダムなどのプロジェクトによって、アフリカ大陸に大量の再生可能エネルギーを供給できる可能性があります。エジプトのナイル川にあるアスワン・ハイ・ダムは、アフリカ最大の水力発電プロジェクトの1つです。1970年に完成し、発電能力は約2.1 GWです。このダムは、灌漑用の貯水量を増やし、水力発電を行うことで、国の農業と経済に影響を与えてきました。
発電源として、水力発電には多くのメリットと長所があります。ただし、この方法には限界もあります。
環境上の課題
水力発電は他のほとんどの発電源に比べて環境への影響は小さいものの、それでも生態系や野生動物の生息地に影響を与える可能性があります。例えば、ダムは川の自然な流れを遮り、水温や堆積物、魚の移動パターンの変化を引き起こす可能性があります。大規模な水力発電プロジェクトの建設には費用がかかり、温室効果ガスが排出される可能性があります。完成すると、その結果として貯水池からも温室効果ガス(GHG)が排出されることもあるでしょう。貯水池に堆積した有機物が分解すると、二酸化炭素よりもはるかに強力な温室効果ガスであるメタンが放出される可能性があります。ただし、生成されるメタンの量がそれぞれの貯水池に固有の特性に応じて異なることに注意してください。
拡張の課題
水力プロジェクトは地理的な制限に直面することがあります。前述したように、特定の種類の水力発電は、それに適した立地を見つけるのが困難な場合があります。また、その全体的なパフォーマンスが気象条件の変化の影響を受けずに済むわけではありません。水は再生可能な発電源ですが、水位と供給量は、季節や自然災害(干ばつなど)、降水パターンの長期的な変化、または水の汚染などによって変化する可能性があります。
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再生可能エネルギーとは、絶えず補充されて枯渇することのない、自然資源から生成されるエネルギーです。
脱炭素化とは、温室効果ガス(GHG)の排出量を削減する気候変動対策の手法のひとつです。
気候変動とは、地球温暖化、つまり1800年代後半以降、地球表面の温度について記録されている地球規模での温度上昇のことを指します。
再生可能エネルギーの長所と短所を理解することは、組織がその導入をより適切に計画するために役立ちます。
世界の再生可能発電の容量は、過去30年間のどの時期よりも急速に拡大しています。
現在利用可能な再生可能エネルギー源の種類を理解することは、組織のカーボン・フットプリントと環境への影響を削減するための鍵となります。
1水力発電特別市場レポート(ibm.comの外部サイトにリンクします)国際エネルギー機関、2021年6月
2水力発電の説明(ibm.com外部へのリンク)米国エネルギー情報局(EIA)および米国エネルギー省、2023年4月
3エネルギーに光を当てる - 2023年版(ibm.comの外部サイトにリンクします)ユーロスタット、2023年3月
4ノルウェー電力安全保障政策(ibm.comの外部サイトにリンクします)国際エネルギー機関、2022年10月