クラウドの最適化とは、クラウドリソースの管理や割り当てをすることで、サービスのパフォーマンスとセキュリティを向上させ、無駄を最小にしコストを削減するためのプロセスです。
これは、効率的なクラウド・インフラストラクチャーの構築を伴うものです。リソースのプロビジョニングをアプリケーションとワークロードの需要に合わせてリアルタイムで調整することで、パフォーマンス、コンプライアンス、コスト効率の間でニーズのバランスを取る、ということです。クラウドの最適化は、CloudOpsの範囲内にあります。CloudOpsとは、クラウドサービスの提供とパフォーマンスを管理し最適化するために設計されたDevOpsをモデルにしたプラクティスです。
ITリソースがプライベートクラウド、パブリッククラウド、マルチクラウドインフラストラクチャ、ハイブリッドクラウドインフラストラクチャにわたって広がるにつれ、CloudOpsチームとDevOpsチームもクラウド・リソースの管理をさらに重視することが必要になります。その課題は、クラウドアプリケーションの可用性とパフォーマンス最適化を確保しながら、クラウド・コストを常に抑制することです。
クラウドの最適化で効果を発揮するストラテジーでは、コスト管理ツールなどの最適化ツールを使用して、クラウド環境の可視性を高めます。可視性が強化されると、DevOpsチームは、リソースの利用状況のほか、クラウドとアプリケーションのパフォーマンスをより正確に把握できるようになります。こうしたデータからは、オーバープロビジョニングされているリソースの削減あるいは消去が通知されるので、より効率的で項パフォーマンスのクラウド環境が構築できます。
両チームは、ワークロードとリソースの管理や割り当てに、自動化ツールや機械学習ツールも使用します。たとえば、自動化ツールでは、使用率のピーク時にリソース割り当てを調整したり、インスタンスヘルスに基づいてワークロードをインスタンス間で移動したり、需要に応じてワークフローをパブリッククラウドとプライベートクラウドとの間でシフトしたりできます。
両チームは多くの場合、機械学習ツールを使用して大規模なデータセットを分析し、クラウドオペレーションの改善方法に関するインサイトを産み出します。このようなツールがあれば、専門家は管理に時間をあまり費やさずに済み、その分イノベーションに充てる時間が取れます。
クラウド・サービスのどの側面が最適化に適しているのか、クラウド・リソースを最適化するには費用対効果の高いアプローチをどのように導入するのかを把握しておくことは重要です。
クラウド環境のある企業は、オンデマンドでスケーリングする機能を含め、多くのメリットが得られます。クラウド移行(オンプレミスのデータ、アプリケーション、ワークロードをクラウドへ、またはクラウドからクラウドへ移動すること)により、柔軟性、可視性、データ・セキュリティー強化が実現します。この柔軟性を得た企業は、顧客のニーズをより的確に満たし、ビジネス目標を達成することができます。しかし、クラウドを導入した企業の多くでは、こうしたメリットを得るまでに、クラウド・コンピューティングの費用が予想以上にかかっていることがわかりました。
クラウド環境は動的であり、リソースの需要は絶え間なく変化します。リソースが遊休状態でクラウド環境が管理されていないと、たちまち過剰支出やセキュリティー問題につながります。ツールが十分でないIT部門は、どのクラウド・リソースが必要なのか、どのクラウド・リソースがコスト削減策などクラウドによるメリットを活かせていないのか、その大部分を当て推量しています。
クラウドの最適化により、クラウドへの支出が抑制されると、クラウドは設計どおりの費用対効果が高いソリューションになります。クラウド環境を最適化すると、リソースはワークロードの需要に合わせて移動されるので、ボトルネックも予期しないサービス停止も減ります。また、クラウド環境のセキュリティーも強化されます。
クラウド・サービスのパフォーマンスは、ビジネスチームにとってもITチームにとっても最大の関心事です。両チームの課題は、高パフォーマンスと可用性とでニーズのバランスを取りながら、費用対効果を維持し、予算内に収めることです。クラウドの最適化は、無駄を省きパフォーマンスを維持するトランスフォーメーションへの道筋となります。
多くの場合、組織が最適化の取り組みの中心は、クラウド・コストの最適化、監視とレポート作成、パフォーマンスとセキュリティーです。
コスト削減がクラウドの最適化の第一目標とされることが多いのですが、クラウド・コストの最適化ストラテジーとは、クラウド使用量を削減することだけをいうのではありません。必要なものにはきちんと支払い、リソースの無駄を最小化することをいうのです。クラウド・コスト管理で優先する必要があるのは、クラウド・サービスのパフォーマンス、セキュリティー、拡張性です。支出を惜しんでも、それでビジネスがリスクにさらされたり、ビジネスが損害を被ったりするのでは、無意味です。
クラウド予算の管理は動的なプロセスです。アプリケーションやワークロードは、トラフィックの変動や組織の成長といった要因により、需要が常に変化するためです。コンピューティング・コスト(インスタンス、仮想マシン(VM)、組織が実装している自動化のレベルに関連するコスト)、クラウド・ストレージ、サポート・サービスなどの支出はすべて、全体的な請求額に寄与します。最適化へのアプローチを取る組織は、クラウドにまつわる請求額、何のサービスになぜ支払っているのかを把握しておくべきです。たとえば、高パフォーマンスクラウドプランと低コストプランのどちらが組織のニーズに適っているか、などです。
ツールの自動化は、クラウド・サービス・プロバイダーからのリソースのプロビジョニングで有用です。そうしたツールにより、リソースとアプリケーションでの需要とが自動的に一致し、それに応じてリソース割り当てが調整されるのです。リソースのオーバープロビジョニング(使用率のピーク時にはアプリケーションでのニーズをカバーするものの需要の低下時には不必要となるようなリソースのプロビジョニング)をセーフティネットとするというプラクティスだと、コストが急速に増加し、収益性が損なわれます。
(クラウドの最適化によって実現されるという意味での)より良いソリューションとは、ビジネスチーム、ITチーム、DevOpsチームの間のサイロをなくし、企業全体のニーズを満たす料金体系構成とリソーシングツールを探し当てるものです。クラウドの最適化ストラテジーを実施する企業は、クラウド投資のROIを向上させ、ビジネス価値を高めることができます。
Gartner社の予測だと、2027年には70%の企業がクラウド・プラットフォームを利用してビジネス・イニシアティブを最適化する(2023年から55%増加)、とのことです。1この種の拡張では、クラウド・インフラストラクチャーの可視化が、アプリケーションのパフォーマンスを把握し最適化するためのカギとなります。
クラウド管理ツールは、IT部門にとって、アプリケーションのパフォーマンスに関連するキーメトリック(ネットワーク・トラフィック、エラー率、CPU使用率、レイテンシーなど)を監視するための助けとなります。こうしたメトリックをリアルタイムで監視するITチームは、リソースの利用状況とクラウド・コストとを相関させる詳細なレポートを通じて、効率の悪いところや使用されていないリソースを発見できます。
企業が探し求めるべき監視ツールは、コンテキストでクラウド・アーキテクチャーを広範にカバーしているレポートを作成するものです。こうしたコンテキストがないと、データはサイロ化されたままになるので、組織でクラウド・リソースがどの程度利用されているのか把握しにくくなります。
アプリケーションのパフォーマンスを保護するためにリソースのオーバープロビジョニングをするのは、長期的に実行可能なソリューションではありません。組織が目指すべきなのは、支払い対象を必要なクラウド・サービスだけにすることです。クラウド・インフラストラクチャーを合理化したIT部門は、アプリケーションのパフォーマンスと、ユーザーがアプリケーションをどう操作しているのかが、よりよく把握できます。
パフォーマンス最適化ストラテジーのないクラウドアプリケーションは、ダウンタイムや高レイテンシーにあおられ、満足度の低いユーザーエクスペリエンスにつながります。
パフォーマンス最適化技法には、次のようなものがあります。
クラウド環境のセキュリティーを保護するとは、潜在的な脅威や異常が発生しないうちにプロアクティブに検知することです。企業にセキュリティーの問題が発生してから対応したのでは、サービスの中断やデータ侵害が発生する確率が高くなります。
データのセキュリティーを十分に保護できない組織には、企業データもユーザー・データも漏洩し、コンプライアンスや規制にまつわる問題が発生する、というリスクがあります。DevSecOpsプラクティスが強力であれば、アプリケーションとインフラストラクチャーのセキュリティーがアプリケーションライフサイクル全体にわたって最優先されます。DevSecOpsチームは、可視性、トレーサビリティー、監査適合性を通じて、クラウド環境のあらゆる側面を監視できます。クラウドの最適化は、こうした機能を配備する助けとなります。
クラウド・プロバイダーから購入したリソースの利用状況やサービスを最適化するために組織が実施できるストラテジーは複数あります。クラウドの最適化ストラテジーには、次のようなものがあります。
適正化は、クラウド・コンピューティング・インスタンスの種類と規模をワークロードに合わせて調整するプロセスです。適正化は、組織が必要なクラウド・インスタンスを購入することを確実にすることで、コスト効率の向上を支援できます。
ライトサイジングは、必ずしもリソースのダウンサイジングを意味するものではありません。クラウドベースのアプリやサービスでコンピューティング・リソースの増加が必要になった場合でも、ライトサイジングをすれば、クラウド・ベンダーから確実に獲得できます。ライトサイジングの効果を出すには、ワークフローの分析、アプリケーションのパフォーマンス要件の分析、利用パターンの把握により、インスタンスのタイプとボリュームを調整することが要求されます。
自動化は、クラウドの最適化で重要な役割を果たします。ハイブリッド環境やマルチクラウド環境の利用が増加する中、リソースを監視し、異種環境にわたるワークロードごとに適切に割り当てるのを、ITチームが手動で行うのは不可能です。
自動スケーリングでは、クラウド・リソース(ストレージや仮想マシンのインスタンスを含む)のプロビジョニングとデプロビジョニングを自動化することで、リソースと需要をリアルタイムで調整します。こうすれば、クラウド・コストを削減しながら、アプリケーションのパフォーマンスに一貫性を持たせることができます。
コンテナ化では、コードの実行に必要なオペレーティング・システム、設定ファイル、ライブラリ、依存関係を記述したソフトウェアコードを1つの「コンテナ」にパッケージ化して、あらゆるプラットフォームやクラウドで実行できるようにします。このようなコンテナは仮想マシン(VM)よりも効率的であり、起動時間も短く済みます。
多くのコンテナは仮想マシン1つと同じコンピューティング能力で実行できるため、クラウドの使用量もコストも削減されます。Kubernetesなどのオーケストレーション・プラットフォームは、コンテナ化したアプリケーションのデプロイメント、管理、スケーリングを自動化するのを支援するものです。
リザーブドインスタンスは特定のサービスを長期間利用するコミットメントであり、通常は1~3年間です。このコミットメントは多くの場合、クラウド・サービス・プロバイダーによる有利な価格設定モデルで提供されており、ワークフローに一貫性がある場合に理想的です。
スポットインスタンスは終了間際でのリソース購入であり、多くの場合は割引価格で提供されます。このようなインスタンス・タイプに、オンデマンド購入はありません。場合によっては入札することになります。購入した場合のサービス中断は、直前になって通知されることがあります。スポットインスタンスは信頼性が一定でないため、時間的制約のないワークロードやオペレーションにクリティカルでないワークロードに使用されることが多いです。
データの移動は多くの場合、クラウド間で行われます。転送のたびにコストがかかるので、不要な転送をするとクラウド支出を増やしてしまいます。クラウド管理ツールで、データをクラウド間で効率的に移動するプロセスが自動化され、そのコストが最小限に抑えられます。
クラウドネイティブ・アプリケーションは、マイクロサービスという再利用可能なコンポーネントで構成されているプログラムです。マイクロサービス・アーキテクチャーを構成するのは、アプリケーション機能をさまざまな側面で制御する小さな構成要素です。マイクロサービスは、デプロイメントもスケーリングも相互に独立して行われるため、柔軟性があり、継続的インテグレーション(CI)や継続的デリバリー(CD)といったプラクティスに有用です。
開発者はCIにより、新しいコードを統合するプロセスを開発サイクル全体で自動化できます。DevOpsチームはCDにより、テストやコードのデプロイメントを含め、ソフトウェア開発のさまざまなプロセスを自動化できます。こうしたDevOpsプラクティスと、ITインフラストラクチャーのプロビジョニングを自動化する高水準の記述型コーディング言語Infrastructure as Code(IaC)とで、新しいアプリケーションの開発、テスト、デプロイメントの効率化が促進されます。また、アプリケーション更新プロセスも、さらに効率的になります。
クラウドの最適化の取り組みを最大限に活用するため、多くの組織は次の選択をしています。
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1「Gartner Forecasts Worldwide Public Cloud End-User Spending to Reach USD 679 Billion in 2024」、Gartner.com、2023年11月13日