クラウド・コンピューティングは、今やビジネスに不可欠の要素になりました。クラウド・コンピューティングがなければ、Eコマース、リモート・ワーク体制、生成AIや量子コンピューティングといった先端テクノロジーをサポートするために必要な ITインフラストラクチャー・フレームワークは存在していないでしょう。
企業のビジネスを成功に導くためには、最適なクラウド・コンピューティング・アーキテクチャーを決定する必要があります。プライベートクラウド、パブリッククラウド、ハイブリッドクラウドがそれぞれに持っている機能を比較することが重要なのはそのためです。現在、これら3つのクラウド・アーキテクチャー・モデルは相互に排他的ではありません。それぞれのモデルが連動して、ハイブリッド・マルチクラウドを構築しています。ハイブリッド・マルチクラウドとは、コンピューティング環境(オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウド、エッジなど)と複数のプロバイダーのパブリッククラウド・サービスを組み合わせたITインフラストラクチャー・モデルです。
クラウド・コンピューティングを導入することで、組織はインフラストラクチャーとアプリケーションをオンプレミスまたは社内でインストールして保守を行うことなく、インターネット経由で使用できるようになります。このインフラストラクチャー・モデルは、サードパーティーのサービス・プロバイダーが所有・運用するリモート・データセンター、サーバー、およびストレージ・システムのネットワークを活用します。ビジネス向けクラウド・コンピューティングの主なメリットは、ビジネスのニーズに合わせてリソースを迅速かつ効率的に拡張できる柔軟性であり、組織は独自の物理ITインフラストラクチャーの拡張に時間と費用を投資する必要がありません。
クラウド・コンピューティングの技術は1960年代から存在していますが、モダナイズされたビジネス向けクラウド・インフラストラクチャーが登場したのは2000年代初頭です。Amazonなどのインターネット企業は、2002年にクラウドベースのストレージとコンピューティング・サービスを提供するAmazon Web Services(AWS) を導入し、2006年にはElastic Compute Cloud(EC2)をローンチして、ユーザーがバーチャル・コンピューターをレンタルして、独自のアプリケーションを実行できるようにしました。
2020年の新型コロナウイルス感染症のパンデミックの最中に、企業はロックダウン下で事業継続性を維持できるように、データ、ストレージ、オペレーションへのリモート・アクセスを提供するクラウドの導入を加速しました。最新の「IBM Transformation Index: State of Cloud」によると、回答者の77%以上がデジタル・トランスフォーメーションを推進するために、ハイブリッドクラウド・アプローチを採用しています。
プライベートクラウド、パブリッククラウド、ハイブリッドクラウドの各モデルはすべて、次のテクノロジーを組み合わせて使用します。
クラウド・コンピューティングの基礎となる仮想化は、単一のコンピューターのハードウェア・リソース(プロセッサ、メモリ、ストレージなど)を仮想マシン(VM)と呼ばれる複数の仮想コンピューターに分割できるようにする抽象化レイヤーです。仮想化では、クラウド・サービス・プロバイダー(CSP)が多数の場所で管理する物理サーバーを接続し、リソースを分割して抽象化して、インターネット接続がある場所であれば、エンドユーザーがどこからでもアクセスできるようにします。クラウド・コンピューティングでは、サーバーの仮想化以外にも、ネットワークの仮想化やストレージの仮想化など、さまざまな形式の仮想化を使用します。
すべてのクラウドコンピューティング・モデルでは、集中管理プラットフォーム(CMP)を含む、さまざまなソフトウェア・ツールを使用します。CMPは、情報やデータの複数のソースを可視化する単一のビュー(SPOG)を提供します。管理者と開発チームは、この統一されたビューを通じて、インフラストラクチャーとアプリを一元的に管理できるため、コスト、セキュリティー、可用性、リソースの使用を最適化できます。
オートメーション(自動化)ツールは、クラウドベースのインフラストラクチャーの重要な機能です。これらのツールは、人的介入の必要性を減らして、セルフ・サービスによるリソース提供を可能にします。ほとんどのクラウド環境に組み込まれているソフトウェア・オートメーションには次のようなものがあります。
APIは、データ・ストレージやデータベースへのアクセスの促進、セキュリティー・コントロールへのアクセスと管理など、さまざまなソフトウェア・アプリケーションとサービス間の通信とやり取りを可能にし、クラウド・コンピューティングにおいて重要な役割を果たします。
クラウドベースのアプリケーションとサービスは、バックアップや災害復旧からビッグデータ分析、ソフトウェア開発まで、さまざまなビジネスのユースケースをサポートします。各サービスは、フロントエンドのクライアントと、クラウド・サービス・プロバイダーが提供するバックエンドのクラウド・システム間のインターネットを介したデータの流れを容易にします。これらのサービスは、パブリックラウド、プライベートクラウド、およびハイブリッドクラウド環境に展開できます。
ここでは、主要なCSP(Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud Platform、IBM Cloud、Microsoft Azure)やVMwareなどのその他のクラウド・サービス・プロバイダーが提供する最も一般的なクラウド・コンピューティング・サービスの概要をご紹介します。
パブリッククラウド・プロバイダーが提供するその他のサービスのほとんどは、上記3つの基本モデルと連動する拡張機能(セキュリティーやコスト管理プラットフォームなど)です。具体的には、その他のサービス・プラットフォームには次があります。
パブリッククラウドとは、クラウド・サービス・プロバイダーがコンピューティング・リソース(ソフトウェア・アプリケーション、開発プラットフォーム、VM、Bare Metal Serverなど)をパブリック・インターネット経由でユーザーに提供するコンピューティング・モデルです。CSPは、サブスクリプション・ベースまたは従量課金制の料金モデルでリソースを販売します。
Gartner のレポート(ibm.com外部へのリンク)では、パブリッククラウドに対する世界中のエンドユーザーからの合計支出は6,790億ドルになり、2027年には1兆ドルを超えると予測されています。
パブリッククラウド環境はマルチ・テナントであり、ユーザーはセルフサービスのインターフェースを通じて、個々のテナントに自動的にプロビジョニングされ、割り当てられた仮想リソース・プールを共有します。この環境では、複数のテナントのワークロードが共有の物理サーバー上でCPUインスタンスを同時に実行しますが、データは別々のままです。多数の顧客がリソースを共有することで、クラウド・ベンダーは、それぞれの顧客が独自のインフラストラクチャーを維持する場合よりも低コストで、多くの顧客にサービスを提供できます。
プライベートクラウド環境は、単一の組織専用のクラウド・コンピューティング・モデルです。パブリッククラウドとは異なり、プライベートクラウドはシングルテナント環境であり、リソースにアクセスできるのは1社のクライアントのみです。プライベートクラウドは、組織のデータセンターのオンプレミス、オフサイトのデータセンターのレンタル・インフラストラクチャー、またはクラウド・サービス・プロバイダーのインフラストラクチャーでホストできます。
プライベートクラウドでは、パブリッククラウドよりもセキュリティーとリソースをより細かくカスタマイズできます。多くの企業は、機密データを保護するために、プライベート・クラウドを選択しています。たとえば、政府機関では、機密文書や個人情報(PII)、その他の機密データを扱うワークロードにプライベートクラウド環境がよく選択されます。Gartnerの調査(ibm.com外部へのリンク)によると、2024年までに世界の人口の75%の個人データが最新のプライバシー規制の対象となる見込みです。
企業は、ファイアウォール、仮想プライベート・ネットワーク(VPN)、データ暗号化、APIキー、その他のカスタマイズしたセキュリティー対策を行うことで、特定のデータ保護ニーズを満たせるように、プライベートクラウドをカスタマイズできます。さらに、プライベートクラウドを活用することで、データの場所と管轄区域を選択できます。たとえば、石油・ガスなどの業界のグローバル組織は、業界のガイドラインやローカル法、国内法、国際法によって定められた厳しい規制コンプライアンス基準を遵守する必要があります。プライベートクラウドを活用することで、クラウド・サービス・プロバイダーの能力だけに頼るのではなく、コンプライアンス対策をカスタマイズして適用し、調整することができます。
ハイブリッドクラウド環境では、パブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプレミスのインフラストラクチャーを組み合わせて単一の IT インフラストラクチャーを構成し、企業がニーズに応じてすべてのコンピューティング環境を最大限に活用できるようにします。本質的には、両方の長所を併せ持っています。
多くの組織は、技術的目標やビジネス上の目標に基づいて、クラウド環境間でアプリケーションやワークロードを俊敏に移動できるハイブリッドクラウド・モデルを好みます。例えば、パブリッククラウドのリソースは、プライベートクラウドのワークロードに影響を与えることなく、トラフィックの急増に応じて迅速かつ自動的にコスト効率よくスケールアップできます。「クラウド・バースト」として知られるこの構成方法は、ブラック・フライデーのセールなど、オンライン小売で発生する可能性があるコンピューティング・ニーズの急増を管理するのに役立ちます。
これまで、ハイブリッドクラウドのアプローチは主に、オンプレミスのデータセンターからプライベートクラウド・インフラストラクチャーにワークロードを移行し、そのインフラストラクチャーをパブリッククラウドに接続することに重点を置いていました。今日のハイブリッドクラウド・アーキテクチャーは、すべてのクラウド環境にわたるワークロードのポータビリティーをサポートし、特定のビジネス目的に最適なクラウド環境へのワークロードのクラウド展開を自動化することに重点を置いています。
ハイブリッドクラウドのもう1つの核となる機能は、マイクロサービス(またはマイクロサービス・アーキテクチャー)をサポートすることです。これは、単一のアプリケーションが、疎結合され、独立して展開可能な多数の小さなコンポーネントまたはサービスで構成されるクラウドネイティブのアーキテクチャー・アプローチです。クラウドネイティブ・アプリケーションは、コンテナにデプロイされます。次に、KubernetesやDocker Swarmなどのオーケストレーション・ツールが、すべてのクラウド・コンピューティング環境にわたってこれらのアプリケーションの自動展開、管理、スケーリングをスケジュールします。マイクロサービスは、DevOpsにおいて極めて重要な要素になりました。マイクロサービスは、チームがあらゆる種類のクラウドにわたってアプリケーションを一度に開発するのに役立ちます。たとえば、Uberは、マイクロサービス・アーキテクチャーを活用して、配車サービスと食品配達サービスを迅速に構築してリリースしています。
ハイブリッドクラウド・アーキテクチャーは、柔軟なコンピューティング、ネットワーク、クラウド・ストレージ・リソースを通じて、複数のエッジ およびモノのインターネット(IoT)環境から収集されたデータを管理するためのリソースの柔軟性も提供します。たとえば、製造工場の現場では、ハイブリッドクラウドは、インサイトを収集し、データを分析し、低遅延でダウンタイムのない予知保全ソリューションを提供するためのエンドツーエンドのソリューションを提供するのに役立ちます。
今日のほとんどのエンタープライズ・ビジネスは、ハイブリッド・マルチクラウド環境を活用しています。マルチクラウドとは、複数のクラウド・ベンダーのクラウド・サービスを利用することを指し、企業がベンダー・ロックインを回避するのに役立ちます。ベンダー・ロックインは、技術的な非互換性、法的制限、および1つのベンダーのみを使用することによる過剰なコストにつながる可能性があります。ハイブリッド・マルチクラウドは、最も費用対効果の高いクラウド・サービスを柔軟に選択できるだけでなく、ワークロードを展開およびスケールアップする場所を細かく制御できるため、組織の効率性を高め、パフォーマンスを向上させて、支出を最適化できます。
クラウド・コンピューティングは、プライベートクラウド、パブリッククラウド、ハイブリッドクラウドにかかわらず、今日のデジタル・トランスフォーメーション・ジャーニーの基盤となっています。IBMは、20年以上にわたる深い技術およびコンサルティング経験を活かして、あらゆる主要業界のお客様がニーズを満たし、最大限のビジネス価値を引き出せるように支援しています。