ワークフロー・エンジンとは

コンベヤー/ベルトに並んださまざまなサイズの段ボール箱

執筆者

Chrystal R. China

Staff Writer, Automation & ITOps

IBM Think

ワークフロー・エンジンとは

ワークフロー・エンジンは、デジタル・ワークフロー・ソフトウェアを実行するアプリケーションです。オーケストレーション・エンジンとも呼ばれるワークフロー・エンジンは、企業がワークフローを作成・自動化することを可能にします。多くの場合、 ローコードまたはノーコードのビジュアルビルダーを使用します。

従来の手動ワークフローでは、IT担当者がすべてのタスクとプロセスを管理および実行する必要があるのに対し、ワークフロー・エンジンは手動ワークフローを自動化されたソフトウェア管理プロセスに変換します。情報パス、責任、コラボレーション・チャネルのルーティングを容易にし、企業が演算処理リソースとネットワーク・リソースを最大限に活用できるようにします。

現代のビジネス環境では、多くの場合、ワークフロー・エンジン・ソフトウェアがビジネスの自動化と管理戦略のバックボーンとして機能します。ワークフロー・エンジンは、組織がワークフロー管理プロトコルを自動化するのに役立ち、主要な内部および外部のビジネス・プロセスのシームレスなオーケストレーションを可能にします。

タスクの完了時にマネージャーにアラートを送信することから、アプリケーションやデータベースからデータを要求するAPI呼び出しの開始まで、ワークフロー・エンジンは、企業がビジネスプロセス全体の複雑なワークフローを合理化および最適化するのに役立ちます。

 

ワークフロー・エンジンが重要な理由

ワークフローは従業員や企業が作業を完了するためのメカニズムであり、持続可能なビジネス慣行と継続的な成長に不可欠なものです。ワークフローは、反復的なプロセスやタスクを管理およびルーティングし、1つのステップから次のステップに進めるためのシステムを提供します。また、ワークフロー・エンジンは、特定のビジネス目標を達成するために完了する必要がある一連のタスクを含むワークフローを定義、実行、監視するためのフレームワークを提供します。

ワークフロー・エンジンは、ビジネス・プロセス・マネージャーやチーム・メンバーが、同時発生したワークフローに付随する膨大なタスクをより簡単に管理できるようにします。ワークフロー・エンジンを活用すれば、タスクとプロセスは通常、事前に設定された時間と期限に従って開始および解決されます。人間主導のタスクでは、1つのタスクが完了すると、別のタスクが開始されます。また、ネットワーク・サーバーの保守など、ソフトウェア主導のタスクでは、ワークフローは設定された期限や時間指定の応答に基づいてタスク管理を自動化できます。

ワークフロー・エンジンは、タスクの自動化だけでなく、ビジネス・プロセスを最も効率的な次のステップに自動的に導き、企業が面倒な意思決定プロセスへの人間の関与を最小限に抑えるのに役立ちます。

ワークフロー・エンジンの仕組み

今日のワークフロー・エンジンにより、企業はスキルセット、稼働状況、既存のワークロードに基づいて、人的リソース、物流リソース、技術リソースなどのリソースを作業タスクに動的に割り当てることができます。多くの場合、複雑なビジネス・プロセスに適応できる、より柔軟でスケーラブルなソリューションを構築するために、マイクロサービス・アーキテクチャで構築されています。

グラフィカル・インターフェースまたはビジネス・プロセス・モデリング表記法(BPMN)のようなプロセス定義言語を使用して、ワークフロー・エンジン・ソフトウェアは各ワークフローにダイアグラム構造を適用します。そして、割り当てられた構造に基づいて、タスクの順序、意思決定ポイント、タイムライン、データの流れを指定します。

エンジンが他のシステムと統合する必要がある場合は、アプリケーション・プログラミング・インターフェース (API)を使用してデータ交換を促進し、外部ワークフロー・タスクをトリガーし、システム間通信用のメッセージ・キューを維持できます。たとえば、ユーザーが「今すぐ購入、後払い」サービスを使用して電子商取引サイトでチェックアウトする場合、ワークフローAPIは支払いを手配するためにユーザーを決済サービスにガイドし、その後、注文確認のため小売業者のWebサイトに戻します。

ワークフローが進行中、エンジンは他のタスクへの移行をトリガーするワークフロー・イベントに応答します。カスタマー・サービス担当者がサービスに関する通話を終了すると、オートメーション・エンジンから顧客満足度調査が送信され、必要に応じて問題が管理者にエスカレーションされます。

ワークフロー・エンジンには、監視、ロギング、視覚化の機能も含まれています。これらの機能により、プロセス・マネージャーは、各ワークフロー(保留中のタスクや完了したタスクを含む)の現在の状態をリアルタイムで可視化し、すべてのシステム・イベントとアクションの詳細な記録を確認できます。

ワークフロー・エンジンを介したタスク移動の流れ

ワークフロー・エンジンは、ワークフローを調整するためのビジネス・ロジックと実行可能なビジネス・ルールを保管し、特定のワークフローを構成するトリガー、アクション、イベントを自動化します。ライターが会社のレビュー・プラットフォームに記事を送信するとします。

ワークフロー・エンジンは送信を完了したタスクとして見なします。また、事前に定義されたスクリプトと統合を使用して、送信内容をレビューのため適切な編集者に送信します。同時に、ソフトウェアはプロジェクト・マネージャー、編集チーム、ビジネス・プロセス・マネージャーなど、関係者全員に電子メールまたはプラットフォーム・ベースの通知を送信し、送信があったことを知らせます。

編集者は、記事のレビューを終了すると、編集されたドキュメントをレビュー・プラットフォームに送信します。その後、ワークフロー・エンジンはそれをライターに送り返し、必要な通知を送信します。これらのプロセスは、記事の公開準備が整うまで、編集のたびに継続して行われます。

編集者は、会社のコンテンツ管理システム (CMS)を使用して最終草稿を公開し、それにより一般読者が読めるようになります。ワークフロー・エンジンは適切な関係者に再び通知を送信し、プロセスが完了したことを通知します。

このエンジンはまた、CMSをトリガーして、出版物アラートを購読する読者に通知を送信します。全てのタスクが完了し、各条件が満たされると、ワークフロー・エンジン・ソフトウェアは編集および出版ワークフローの結果を記録し、ワークフローをアーカイブします。

ワークフロー・エンジン・ソフトウェアの機能

高度なワークフロー・エンジン・ソフトウェアは、企業がワークフロー管理とオートメーションを合理化するため、次のような様々な機能を提供します。

ワークフロー・プロセスの自動化

ワークフロー・エンジン・ソフトウェアには、ハイブリッドおよび完全自動化ワークフロー用のプロセス自動化機能が含まれています。タスクを自動的に完了させたり、タスクの完了やその他の介入について、プロセス・マネージャーやチーム・メンバーに通知を送ることができます。

API接続

APIは、サービス間およびワークフロー間の通信を容易にします。ワークフロー・エンジンでは、柔軟かつ軽量で、マイクロサービス・アーキテクチャでのコンポーネント統合を効率化できるREST APIが頻繁に使用されます。APIを使用すると、ワークフロー・エンジンは既存のクラウド・サービスやプラットフォームとシームレスに統合できるため、エンジンの導入が簡素化され、開発者は新しいワークフローをより迅速に導入できるようになります。

ローコード・ワークフロー・ビルダー

ローコードとノーコードのアプローチにより、開発者は定義済みのブロックとテンプレートを使用してワークフローを構築できます。これらのテンプレートは、広範囲にわたるコーディングの必要性を減らし、技術者以外のチームメンバーがワークフローをより簡単に管理するのに役立ちます。ワークフロー・エンジンには、チームがビジネス・ワークフローの反復やデバッグをより簡単に行えるように、視覚的なユーザー・インターフェイスも用意されています。

クラウドに依存しないプラットフォーム

多くのワークフロー・エンジンはあらゆるクラウド・インフラストラクチャと連携できるため、ベンダー・ロックインを防ぎ、ハイブリッド環境やマルチクラウド環境とのシームレスな統合が可能になります。

ワークフローのバージョン管理

ワークフローには、頻繁な変更と改善が必要です。複数のワークフローが同時に実行されるため、チームやプロセス・マネージャーにとって変化に対応するのが困難になる場合があります。ワークフロー・エンジンは、各ワークフローの反復を追跡し、ユーザーが必要に応じて異なるバージョンのワークフローを実行できるようにするバージョン管理機能を備えています。

長期的なワークフロー管理

従業員のオンボーディングやカスタマー・リレーションシップ管理(CRM)ワークフローなど、一部のワークフローは、長期間にわたって継続的または定期的に実行する必要があります。主要なワークフロー・エンジンには、開発者が必要なときにワークフローを自動化し、繰り返し実行できるようにするスケジューリング・ツールや「ワークフローの開始」機能が含まれています。

コードベースのワークフロー

開発者に優しい最新のワークフロー・エンジンは、JavaScript Object Notation(JSON)をサポートするオープン・ソース・ソフトウェア開発キット(SDK)を使用して、チームによる単純なワークフローと複雑なワークフロー両方の構築をサポートします。SDKは、さまざまなランタイムとプログラミング言語(Java、JavaScript、Pythonなど)もサポートしています。ワークフローをコードとして使用すると、ビジネス・ワークフローが一貫して実行され、チームがワークフローを簡単にテスト、再利用、追跡できるようになります。

エラー処理とサポート

ワークフロー・エンジン・ソフトウェアはネイティブのエラー処理ツールを提供し、ワークフローとアプリケーションのレジリエンスを向上させます。ソフトウェアには通常、タスクやワークフローがネットワーク運用を中断することなく、タイムアウト、レート制限、障害に対処できるようにするための再試行サポートが組み込まれています。

ステートフルなサーバーレス実行

マイクロサービス、DockerコンテナKubernetesクラスター、サーバーレス関数にわたって状態を維持できるワークフローを構築するのは複雑な作業です。ワークフロー・エンジンは、タスクとワークフローがネットワークを通過する方法を指示する一連の機能によってプロセスを簡素化し、シームレスなワークフローの実行とサービスのインタラクションを可能にします。

ワークフロー・エンジンのイノベーション

ワークフロー・エンジン・ソフトウェアの進歩により、その用途は大幅に拡大しました。

IoT(モノのインターネット)デバイスを使用すると、ワークフロー・エンジンはデバイス・センサーに接続して未加工データをリアルタイムで収集、集約、前処理し、処理されたデータに基づいてワークフローをトリガーできます。IoT(モノのインターネット)デバイスは、特定の条件(温度しきい値や動きの検知など)に基づいてイベントを生成する傾向があります。デバイスがしきい値に達すると、ワークフロー・エンジンは、温度を下げたりアラームを鳴らしたりなどすることで、そのしきい値イベントに対処するための応答ワークフローを開始します。

ワークフロー・エンジンは、複合イベント処理(CEP)を使用して複数のイベント・ストリームにわたるパターンと相関関係を検出することもできるため、より高度な自動化と的を絞った意思決定が可能になります。

企業がクラウドネイティブ・テクノロジーとデジタル・トランスフォーメーションの取り組みを採用し続けるにつれて、クラウドベースのワークフロー・エンジンはワークフローのオートメーションと管理にとってますます重要になります。クラウドベースのワークフロー・エンジンにより、企業は多額のインフラストラクチャー投資をすることなく、計算処理のニーズに基づいてリソースを動的に調整、割り当て、拡張できます。

また、クラウドベースのソリューションは、ワークフローにどこからでもアクセスできるように(リモートワークやハイブリッド・ワークモデルにおいて重要)、またチーム・メンバーが地理的な場所にかかわらず共同作業を続けられるようにします。

人工知能(AI)機械学習(ML)のテクノロジーも、ワークフロー・エンジン・ソフトウェアに大きな影響を与えています。AI駆動型のエンジンは、結果を予測し、変化するビジネス状況に適応し、インテリジェントな自動化を実装できます。

たとえば、ワークフローエンジンはAIツールを使用して、ドキュメントからコンテキスト情報を抽出し、次のステップの承認や実装のために適切な受信者にルーティングできます。インテリジェントなワークフロー・エンジンは、以前のプロセス・インスタンスのデータを使用して、将来のワークフロー・インスタンスを最適化することもできます。MLアルゴリズムは、膨大な量となる過去のワークフロー・データを分析して、傾向やパフォーマンスのボトルネックを特定し、ワークフロー・プロセスの改善点を提案できます。

さらに、最先端のワークフロー・エンジン・ソフトウェアは、プロセス全体を自動化し、ワークフロー・エンジンを他の自動化ツール(ルール・エンジン、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)、インテリジェント・ドキュメント処理など)と統合するハイパーオートメーションを促進できます。エンドツーエンドの自動化により、企業はワークフローのライフサイクル全体を通じてビジネス・オペレーションを合理化し、人間の介入を最小限に抑える一貫したワークフロー・エコシステムを構築できます。

ワークフローエンジンのメリット

  • 運用効率の向上。ワークフロー・エンジンは、反復的なタスクを自動化し、人的エラーを最小限に抑え、タスクの完了とワークフロー・プロセスを加速することで、ビジネス・プロセスを合理化します。
  • プロアクティブな問題管理。ワークフロー・エンジンは、組織がワークフローの進行状況を監視するために役立つリアルタイム分析を提供し、問題を迅速に検知して解決できるようにします。
  • ユーザー・エクスペリエンスの向上。最新のワークフロー・エンジンは、ユーザー・エクスペリエンスを優先しているため、ワークフロー管理を簡素化し、新規ビジネス・ユーザーの学習曲線を短縮するクリーンで直感的なインターフェースを提供します。
  • 合理化された拡張性。組織は、ワークフロー・エンジンを使用すると、リソース要件を比率的に増加させることなく、複雑さやタスク量の増加に合わせてワークフローを拡張できます。
  • セキュリティーの強化。今日のワークフローは機密データを扱うことが多いため、堅牢なセキュリティー対策が最重要です。主要なワークフロー・エンジンは、高度な暗号化、認証、アクセス制御メカニズムを組み込んで、データの整合性とプライバシーを維持します。
  • より価値の高い作業のサポート。ワークフローエンジン上で実行されるワークフロー・システムは、効果的なビジネスプロセス管理(BPM) に不可欠です。ソフトウェア、ハードウェア、および人員におけるワークフロー・オーケストレーションタスクでは、ワークフロー・エンジンが自動化を使用して価値の低い作業やタスクを処理することで、従業員がより価値の高いイノベーションに集中できるようにします。

ワークフロー・エンジンのユースケース

プロプライエタリおよびオープンソースのワークフロー・エンジン・ソフトウェアは、さまざまな業界や部門にわたるビジネス・プロセスの自動化と管理をサポートします。たとえば、以下のような例が挙げられます。

  • 人事:人事部門がワークフロー・エンジンを使用できる方法の1つとして、従業員の休暇申請の管理がある。申請を手作業で処理する代わりに、ワークフローによって休暇申請をマネージャーにルーティングして承認してもらい、休暇や病気休暇の残高を追跡し、休暇申請のステータスを従業員に通知できる。
  • ITとオペレーション:IT部門はワークフローを使用して、インシデント対応チェンジ・マネジメントを管理できる。たとえば、システム停止が発生した場合、ワークフローによってITサポート・チームに自動通知が送信され、重大度に基づいて問題がエスカレーションされ、解決作業が追跡される。また開発者は、ワークフロー・エンジンを使用してデータ処理とチェンジ・マネジメントを自動化し、アーキテクチャーに対するすべての変更を文書化、レビュー、承認できる。
  • サプライ・チェーン管理:ワークフロー・エンジンは、企業が複雑なサプライ・チェーン・プロセスを管理する上で役立つ。注文処理、在庫確認、出荷通知を自動化することで、注文処理を効率化できる。在庫レベルが設定されたしきい値を下回った場合、ワークフローでは自動的に供給を再注文できるため、在庫の過剰な低下を回避できる。
  • 医療:医療施設では、ワークフローが患者管理プロセスを最適化できる。組織は、予約スケジュールの自動化による管理上の負担の軽減、患者へのリマインダーの送信、キャンセルと再スケジュールの管理、および状況に応じた患者記録の更新を実行できる。また、ワークフローは、請求の検証と必要書類の確認を行う自動化されたワークフローを使用することで、保険金請求処理を効率化することもできる。
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