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変化を恐れず挑戦し続けるオリックスが語る、真のグローバル企業の条件とは

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真のグローバル企業とは、どんな企業だろうか。日本企業のグローバル化を考えるにあたり、そのビジネス展開に注目したい企業がある。1964年の創業以来、リースを皮切りに融資、投資、生命保険、銀行、資産運用、自動車関連、不動産、環境エネルギー関連など多角的な事業をグローバルに展開するオリックスだ。

「オリックスって何の会社?」と聞かれることも多いというオリックスだが、同社は既存事業の隣接分野に次々と進出していく独自のビジネスモデルで変化を続けてきた。さまざまな新しいビジネスに挑戦することで業績を伸ばし、2018年3月期は9期連続での増益(過去最高益)を達成した。

今回、オリックス株式会社取締役 兼 代表執行役社長・グループCEOの井上 亮氏に、ビジネス拡大における判断基準と同社が描く真のグローバル企業の条件について話を聞いた。

井上 亮
井上 亮
オリックス株式会社 取締役 兼 代表執行役社長・グループCEO
東京都出身。1975年中央大学法学部卒、オリエント・リース(現オリックス)入社。ギリシャや香港、米国に駐在し、船舶や航空機のリース事業に従事するなど主に国際畑を歩む。2010年取締役 兼 執行役副社長、11年取締役 兼 代表執行役社長・グループCOO、14年から現職。

 

多岐にわたるオリックスの事業展開

——オリックスといえば、リースというイメージがありますが、現在は多角的に事業を展開されていますね。

井上 「オリックスって何の会社?」という質問にひと言で答えるのは難しく、実はいつも伝え方に困っています。リースを起点に、隣のフィールド、隣のフィールド……と隣接領域に事業を広げてきた結果、現在は非常に多岐にわたる事業を展開しており、法人金融、メンテナンスリース、不動産、事業投資、リテール、海外事業という6つのセグメントに分類しています。

具体的には、生命保険や銀行などのリテール金融事業のほか、不動産事業では、オフィスや物流施設などの開発・投資からホテル・旅館などの施設運営を手掛けています。「すみだ水族館」と「京都水族館」も、実はオリックスが運営しています。それから、レンタカー、カーシェアリングなどの自動車関連事業、再生可能エネルギーによる発電や電力供給をはじめとする環境エネルギー事業なども行っています。

あまりに多くの領域で事業を手掛けているため、「リース会社なのになぜそんな事業をやっているのか」とよく聞かれますが、顧客やマーケットのニーズがあるところに、既存のノウハウが生かせる「隣地戦略」で広げてきた結果なのです。既存事業とのつながりやこれまでの展開に至る経緯などを時系列で説明すると、「なるほど、そういうことなのですね」と納得いただけることが多いのですが、現在の企業形態だけを見ると、どうしてもわかりにくいですよね。

——簡単に説明するのが難しく、市場からは理解を得るのには苦労をされていると。

井上 市場ではまだまだ「金融機関」「リース会社」というイメージが強いため、金融以外の事業を幅広く展開していることに、一見すると違和感があるのだと思います。リースを含む金融関連事業からの収益はもはや2割程度なのですが、「オリックス=金融」と捉えている投資家やアナリストの目には「戦略なく事業を拡大している」と映るのかもしれません。

一見全く異なる飛地の事業を手掛けているように見えても、実は歴史を紐解くとつながっている事業ばかりです。リース事業で培った「金融の専門性」と「モノを見定める専門性」を生かした「隣地戦略」。今、やっている事業のノウハウを生かしながら、隣の領域に進出していく……というのがオリックスのやり方なのです。

しかし、世界でも比較対象のないユニークなビジネスモデルのため、なかなか評価していただくのが難しい。では、どうすれば良いのか―—。これがここ最近ずっと考えているテーマです。

井上 亮

——50年近く事業の多角化を進められてきた中で、バブル崩壊やリーマンショックなどの金融危機も経験されています。乗り越えられた要因をどうお考えでしょうか?

井上 分散型の投資をしていたことです。まさに多角的な事業展開が功を奏したと考えています。展開するすべての事業領域が軒並み好調という局面はなかなか訪れず、事業の1つや2つはマーケットが不調……ということが多い。しかし、さまざまな領域でビジネスを同時並行で展開し、分散型の投資を進めていたおかげで、ある分野の事業環境が悪化しても、他の領域の事業でカバーすることができました。

バブル崩壊の際も、海外事業や船舶事業などは好況を迎えていたため、これらが業績を支えました。リーマンショック時は、さらに収益の柱が多角化して企業体力が増していた結果、乗り越えることができました。こうした経験があるので、分散型の投資はやはり必要だと感じています。

 

「まずは検討してみる」がオリックスの文化

——事業拡大の手段として、投資やM&Aも積極的に行われています。投資やM&Aを決める際、どのような観点で意思決定を下していますか?

井上 2017年10月に中期経営目標(2019年3月期~2021年3月期)を発表したのですが、その中の一つとして「株主資本当期純利益率(ROE)11%以上」という目標を掲げています。2018年3月期連結決算では、ROEが12.1%でした。この水準の維持・改善に見合うM&Aかどうかというのが、基本的な観点です。そのうえで、案件ごとに収益性やリスクを慎重に判断しています。

投資先の業界はあまり絞っていません。ある時は不動産、ある時はアセット・マネジメント会社、ある時は事業会社…といったように、社内で日々さまざまな案件を検討しています。引き合いがきた際には、検討に値する最低限の条件がそっているものは領域を問わず「まず検討してみよう」と動き出す――これが私たちの企業カルチャーです。

案件の検討にあたっては、ビジネス面、会計・税務面、法務面の3つの面からデューデリジェンスを行いますが、特に会計・税務面、法務面については厳しくチェックするようにしています。この2つの面からの検討が丁寧にできていないと、投資が失敗に終わることが多いためです。他方で、ビジネスそのものについては、基本的にはあまり口出しはしません。現場に身を置く社員にしかわからないことがたくさんあるからです。

——オリックスらしい意思決定が功を奏した例などはありますでしょうか?

井上 昨今ではコンセッション事業が良い事例でしょう。コンセッションとは、空港や道路、上下水道などの公共施設の所有権を国や自治体に残したまま、運営権を民間に売却する仕組みで、オリックスは現在、パートナー企業とともに、関西国際空港、大阪国際(伊丹)空港、神戸空港の3つの空港運営と、浜松市の下水道施設の運営を担っています。

空港も下水道も、国内のコンセッション第1号案件で未知の世界ではありました。それでも、「まずは検討してみよう」ということで、社内から躊躇する声は上がりませんでした。企業として、新しいものを創り上げていく姿勢が表れていたと思います。

井上 亮

 

課題解決手段としてのデジタル化

——新しい事業や取り組みなど、これだけ多様な展開を続けていると苦労する面はないのでしょうか?

井上 基本的にはそれぞれの事業や社員を信頼しつつ、ガバナンスを効かせることで多様な事業にも対応できると考えています。強いて言えば、現状のデジタルツールなどは、どうしても個々に最適化されてつくられているものも多く、全体最適を図りづらくなっています。ただ、必ずしも個別最適がダメとも言い切れません。必要に応じて対応していますが、デジタル化はあくまで手段だということが重要です。

——課題解決の手法としてのデジタル化、ということでしょうか?

井上 その通りです。何らかの課題に対し、デジタル化やデジタルツール、全体最適がベストな解決策であれば導入します。闇雲にデジタル化を進めるのではなく、あくまで課題に対し、どうアプローチすべきかという視点で検討するべきだと考えています。どの部分をデジタル化するべきか常に社内で議論をしていますが、実際に課題と向き合う現場からの声は非常に重要ですね。

小さな例ですが、レンタカー事業では現場の声をもとに、それまで手入力をしていた免許証などのデータ管理にOCR(Optical Character Recognition)を導入したことで、業務効率が格段に向上しました。また、リースや銀行、生命保険などオリックスグループの各種事業の営業事務を担うオリックス・ビジネスセンター沖縄では、データ入力など処理手順が定型化された業務にRPA(Robotic Process Automation)を導入し、業務品質の向上や所要時間の削減を図っています。

デジタルによる効率化を推し進めるためには、現場の意識変革が重要だと考えています。トップダウンだけではうまくいきません。「デジタル化が必要だよね」といった意見を現場のオペレーション側が明らかにしていかなければいけない。経営層が行うべきことは、現場の社員が課題と解決策を発見しやすい仕組みづくりと、現場から上がってきた新しい施策を積極的に推し進めることでしょう。

井上 亮

 

真のグローバル企業の条件とは?

——最後に、今後の展開についてお伺いします。 年初には「真のグローバル企業を目指す」とも述べられていましたが、どのような想いが込められているのでしょうか?

井上 グローバルに成功している企業の利益率を見るとROEが15%や20%以上、ROAも4〜5%という水準です。また、海外からの収益が大半で、日本の収益は”one of them”となっている。そういった企業をグローバル企業だと考えると、私たちはまだまだグローバル企業とは言い切れません。

そして、グローバル企業として成長し、真のグローバル化を進めるためには、それに相応しい組織体制の構築、人材の確保・育成が不可欠だと考えています。

コンプライアンス体制を例に取ると、海外の大手金融機関では、コンプライアンスに従事する社員を2~3万人も雇っている企業もあると聞きます。もちろん、2万人ものコンプライアンス担当者を採用するということではありませんが、海外の事象にもタイムリーに対応できるようなグローバル・スタンダードのコンプライアンス体制を構築して初めて、真のグローバル企業といえるのだと思います。

今後も、さらなる成長に向けて、新たな挑戦を続けていきたいと考えています。