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THINK Business

AIが変革する日本の人事・キャリア開発制度

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取材・文:仲里 淳、写真:銭田豊裕

 

金融分野のFinTech、教育分野のEdTech、保険分野のInsTechなど、さまざまな業界にテクノロジーによる革新の波が押し寄せている。伝統的な分野であるほどそのインパクトは大きく、新たなルールの誕生やパラダイムシフトが起きている。企業の人事業務でも「HR Tech(Human Resources Tech)」として、データに基づいた人材採用や育成、AIによる高度なマッチングなど変化が始まっている。このHR Techにおいて、コグニティブ・テクノロジーを柱に人事業務の効率化や高度化を進め、働き方改革を支援するのが「IBM Watson Talent」だ。同ソリューションを担当する日本IBMの河野 英太郎氏に、HR Techや「IBM Watson Talent」が人事業務やビジネスパーソンの働き方をどう変えるのか聞いた。

 

HR Tech──人事・人材分野に到来するテクノロジー・イノベーション

 

──テクノロジーによって人事業務を革新しようとする「HR Tech」が注目されています。

FinTech、EdTech、InsTechなど、さまざまなX-Techがブームになっています。これまではFinTechのように、テクノロジーとの相性がいい分野が先行していました。ここへきて、人に関する領域にもようやくスポットライトが当たり始めたという印象です。

2016年10月に米国で開催された、HR Tech関連の世界最大級イベント「HR Technology Conference & Exposition 2016」には、8500人以上もの人が参加しました。フル参加すると20万円ほどもする参加費にもかかわらず、イベントは大盛況でした。日本ではまだそこまでではありませんが、HR Techの勢いを感じています。

HR Techで扱われるトピックは、日米で大きな違いはありません。「従業員や候補者の体験向上」「アナリティクス(分析)」「コンシューマー化」の3つが主要テーマです。
コンシューマー化というのは、個人向けに提供されている優れたソフトウェアやサービスを、企業でも取り入れようという動きです。ソフトウェアの分野は、まず個人向け市場で目覚ましい革新が起こり、その波がしばらくして企業にもやってくる傾向にあります。

個人向けのさまざまなソフトウェアやサービスを使いこなしている若者が、会社に入ったらあまりに古めかしくて使いづらいシステムであることに愕然とするという話は珍しくありません。そこで、個人向けで成功しているソフトウェアやサービスを、企業向けにも提供しようというわけです。

 

──イベントで強く印象に残っているソフトウェアやサービスはありましたか。

「HireVue(ハイアービュー)」という、ウェブ面接のサービスは興味深いですね。人材採用のための録画面接サービスで、移動時間や交通費などがネックにならないように、わざわざ企業に行かなくても面接を受けることができます。

応募者は、与えられた課題に対して自分で面接動画を撮影し、ウェブ上にアップするというものです。リアルタイムの面接ではなく、何度でも撮り直せるので、自分がベストだと思った動画をアップできます。企業の担当者は、アップされた動画を都合の良い時にチェックできるのが利点です。

他には、採用内定者に入社時のオリエンテーションをバーチャルリアリティ(VR)で体験してもらうソリューションもありました。これはまだ実用化の段階ではなく、あくまでも候補者の体験向上の一例ですが、HR Techの可能性を示しています。

 

HR Tech――人事・人材分野に到来するテクノロジー・イノベーション

 

──今後、人事の仕事はどのように変化するのでしょうか。

 

これまでの人事業務は、個人の経験と勘に頼るところが多くありました。特に日本では、職人のような世界で、人材配置や組織編制などを人事部門が取り仕切ってきました。しかし、グローバル化によって人材の流動化が進むと、「私を信じろ」という今までのやり方は通用しません。勘頼みの人事から、データに基づく科学的人事へと転換する必要があります。

HR Techによって人事業務のデータ化や数値化が行われると、客観的な根拠に基づいた議論ができるようになります。それを支援するのがコグニティブ・テクノロジーであり、IBM Watsonなのです。

 

「分析」「キャリア開発」「採用高度化」を実現する新しいツール

──HR Techや人事業務向けに提供する「IBM Watson Talent」について教えてください。

IBM Watson Talentは企業の人事担当者に向けた製品で、カウンセリングとアシストという2つの大きな役割があります。カウンセリングは人事業務そのものを効率的にするもので、アシストは人事が社員に対して打ち出す施策の品質を向上させるためのものです。

IBM Watson Talentは現在、「IBM Watson Talent Insights」「IBM Watson Recruitment」「IBM Watson Career Coach」という3つのツールで構成されています。

 

「分析」「キャリア開発」「採用高度化」を実現するWatsonの新ツール

 

──まず、IBM Watson Talent Insightsについて教えてください。

1つ目のIBM Watson Talent Insightsは、分析ツールです。例えば、人事部門にデータサイエンティストがいると理想ですが、実際にいることはめったにありません。では、人事部門の人材をデータサイエンティストにすぐに育成できるかといえば、それも難しい。そこで、簡単に利用できる分析ツールが役立ちます。

人事部門には、本来の価値を発揮しないまま眠っている、膨大な情報があります。「ダークデータ」と呼ばれるもので、正規化されていなかったり、散在していたりして、活用されずに放置されている情報です。ダークデータを従業員と紐づけてIBM Watson Talent Insightsに入れれば、瞬時にさまざまな分析が可能になります。

自然言語で質問できますが、逆にIBM Watson Talent Insightsのほうから「こういう質問をお持ちではないですか?」「こういうことを知りたいのではないですか?」「こういう視点で分析してみるといいですよ」といった提案もしてくれます。

また、相関関係分析も簡単です。例えば、長時間労働と相関関係のある要素が何かを、データとして示してくれます。それまで感覚的には把握していた事象が数値として示されることで、誰もが納得したうえで次のアクションを起こせます。

IBM Watson Talent Insights

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──続いて、IBM Watson Recruitmentについて教えてください。

2つ目のIBM Watson Recruitmentは、人材採用におけるキャリア開発支援ツールです。求人情報と応募者の情報——職務経歴、職能資料などを読み込ませると、その人に適したポジションを提示する「マッチング機能」を備えています。また、空いているポジションが複数あった場合に、どこから優先的に採用すべきかといった分析もできます。

企業の人事担当者は採用時、すべての履歴書に目を通さなければいけません。それには大変な労力を要しますが、IBM Watson Recruitmentなら大量のデータを一瞬で読み込んで分析し、包括的に判断を下せます。勘と経験ではなく、根拠に基づいた見極めが可能になるんです。

 

「分析」「キャリア開発」「採用高度化」を実現するWatsonの新ツール

 

──最後に、IBM Watson Career Coachについて教えてください。

3つ目のIBM Watson Career Coachは、社員からのキャリア相談に対して助言を行う採用高度化ツールです。従業員がチャットで悩みを入力すると、IBM Watson Career Coachが瞬時に回答してくれます。

例えば将来のキャリアプランについて、「あなたにはこんなスキルがあるから、そのポストに就きたいならこれを勉強しましょう」といったアドバイスを提供できます。IBM Watson Career Coachに聞かなくても探せる情報はありますが、日頃から意識していなければ、その作業に数十分かかるかもしれません。IBM Watson Career Coachなら、それを1秒もかからずに実現します。待ち時間なく、何度でも嫌がらずに答えてくれるというのは、コンピュータならではのメリットと言えるでしょう。

また、社員の離職理由として上位に挙げられるのが「会社の中でキャリアが見出せない」というものですが、それを解決するソリューションにもなります。

AIによる変革インパクトが期待できる日本の人事業務

──IBM Watson Talentを導入するうえで、準備すべきことや注意点はありますか。

日本企業は、海外企業と評価制度が大きく異なることなどから、HR Techの浸透は遅れ気味です。また、関連するデータが整備されているかどうかも重要なポイントです。

人事の世界には、「職能資格制度」と「職務等級制度」というものがあります。職能資格制度は、日本企業にある年功序列の考え方に近く、なんとなく人ありきでポジションが決まる傾向があります。

一方、ポジションに対して人を付けるのが職務等級制度です。職務ごとに職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)があり、仕事でやることと、それに必要スキルなどが定義されています。このように情報がテキスト化されていれば、IBM Watson Talentはそれを読み込み、判断に活かすのです。

日本企業では若手やベテランという風に社員を漠然と定義するケースが多いため、IBM Watson Talentを導入する前に、きちんとデータを整備する必要があります。そして、IBMではそのためのツールやメソッドも用意しています。

 

──IBM Watson Talentはどのような変革をもたらすのでしょうか。

まず、人事業務においてはIBM Watson Talentに任せられる仕事は全て任せ、その代わりに社内制度の策定や人事施策など、その他の取り組むべき仕事に集中できます。人事業務が改善すれば、社員の働く環境や仕事とのマッチングが向上し、会社が成長します。その先にあるのは、まさに今日本が目指している「一億総活躍社会」の実現です。

日本の労働人口はこの先減少していきますが、政府は2020年の名目GDPを600兆円にすることを目標に掲げています。達成に向けて、IBM Watsonのような効率化を目指すソリューションが一層求められるでしょう。

会社の方針と社員の利害が一致しているかどうかを測る、エンゲージメント調査というものがあります。エンゲージメントが高いと業績が高く、離職率は低く、コンプライアンス違反が起きにくくなります。ところが日本は世界第3位の経済大国でありながら、他国に比べてエンゲージメントが低い状態が続いています。

しかし、逆にいえばまだまだ改善の伸びしろが大きいとも言えます。IBM Watson Talentの本格的な日本展開はこれからですが、人事業務の改善に貢献できるように取り組んでいきます。

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