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クラウド・コンピューティングとは

2025年2月10日

8分

執筆者

Ian Smalley

Senior Editorial Strategist

クラウド・コンピューティングとは

クラウド・コンピューティングとは、物理サーバー、仮想サーバー、データ・ストレージ、ネットワーキング機能、アプリケーション開発ツール、ソフトウェア、AI搭載分析プラットフォームなどのコンピューティング・リソースをインターネットを介してオンデマンド利用できる従量課金制のサービスです。

端的に言えば、「クラウド」とは空に浮かんでいるものを指していません。クラウド・サービスを使用するとは、インターネットを介して、大規模なデータセンターに設置された強力なメインフレーム・コンピューターであるリモート・サーバーにアクセスすることを指します。クラウド・コンピューティング・モデルのサービスは、従来型のオンプレミス・インフラストラクチャーと比較して、柔軟性と拡張性に優れています。

Google Gmailなどのクラウド・アプリケーションにアクセスしたり、Netflixで映画をストリーミングしたり、クラウドでホストされるビデオ・ゲームをプレイしたりするなど、クラウド・コンピューティングは私たちの日常生活に欠かせないものとなっています。クラウド・コンピューティングを利用すれば、物理的なハードウェアを自分で所有したり管理したりすることなく、必要なコンピューティング能力やストレージを手に入れることができます。

クラウド・コンピューティングは、従来のオンプレミス・インフラストラクチャーよりも優れた柔軟性と拡張性を備えているため、小規模なスタートアップ企業からグローバル企業まで、ビジネス環境において不可欠なものとなっています。こうしたビジネス・アプリケーションにはさまざまなものがありますが、場所を問わずデータやアプリケーションへのアクセスを可能にするリモートワーク用アプリケーション、オムニチャネルでシームレスな顧客エンゲージメントを実現するためのフレームワークを作成するためのアプリケーション、生成AI量子コンピューティングなどの最先端テクノロジーの活用に必要とされる膨大なコンピューティング能力などのリソースを提供するアプリケーションなどが挙げられます。

AIとハイブリッドクラウドによるビジネスのトランスフォーメーションについての動画をご覧ください。

クラウド・サービス・プロバイダー(CSP)は、リモート・データセンターでホストされているクラウドベースのテクノロジー・サービスを管理するとともに、通常、これらのリソースを従量課金制または月間サブスクリプション料金で提供しています。

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クラウド・コンピューティングのメリット

企業がコンピューティング能力やデータ・ストレージなどのリソースを利用するために物理データセンターと物理サーバーを所有し保守する従来型のオンプレミスITと比較して、クラウド・コンピューティングには次のような多くのメリットがあります。

  • 費用対効果
  • スピードとアジリティの向上
  • 無制限の拡張性
  • 戦略的価値の向上
費用対効果

クラウド・コンピューティングの導入により、メインフレーム・コンピューターやそれ以外のオンプレミス・インフラストラクチャーの購入、設置、設定、管理にかかる費用と労力の一部またはすべてを省略できます。料金については、クラウドベースのインフラストラクチャーなどのコンピューティング・リソースを使用した分だけお支払いいただきます。

スピードとアジリティの向上

クラウド・テクノロジーなら、数分でエンタープライズ・アプリケーションを使用できます。ITチームがリクエストに応えて対応ハードウェアの購入と設定を済ませ、ソフトウェアをインストールするまで週単位または月単位待つ必要はなくなります。特にDevOpsなどの開発チームのユーザーはこの機能により、クラウドベースのソフトウェアとその基盤となるインフラストラクチャーの活用を支援できます。

無制限の拡張性

クラウド・コンピューティングにより弾力性が向上するとともに、プロビジョニングもセルフサービスで行えます。繁忙期以外は使われないままになる過剰な容量を購入することなく、トラフィックの急増または減少に合わせて容量をスケーリングできます。また、クラウド・プロバイダーが提供するグローバル・ネットワークを利用して、世界各地のユーザーの近くでアプリケーションを配信できます。

戦略的価値の向上

クラウド・コンピューティングにより、さまざまなテクノロジーと最新のイノベーションを使用して組織の競争上の優位性を高めることができます。例えば、小売や銀行など顧客に対応する業界では、生成AI搭載バーチャル・アシスタントをクラウドにデプロイすることで顧客への応答時間を短縮するとともに、従業員がより高度な業務に集中できるようにしています。製造業では、クラウドベースのソフトウェアを使用して共同作業を行い、物流やサプライチェーンのプロセスで発生するリアルタイム・データを監視できます。

クラウド・コンピューティングの起源

クラウド・コンピューティング・テクノロジーの起源は、1960 年代初頭にまで遡ります。当時、アメリカのコンピューター科学者で心理学者で「クラウド・コンピューティングの父」として知られるジョセフ・カール・ロブネット・リックライダー博士は、銀河間コンピューター・ネットワークについて論じた一連の論文の中で、グローバル・ネットワーキングの最も初期のアイデアを紹介しました。

ただし、モダナイズされたビジネス向けクラウド・インフラストラクチャーが登場したのは、2000年代初頭になってからした。 2002年、Amazon Web Services社はクラウドベースのストレージとコンピューティングのサービス提供を開始しました。また、2006年には、アプリケーションを実行するために仮想コンピューターをレンタルできるAmazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)の提供を開始しました。同じ年に、GoogleはSaaS 生産性向上アプリケーションを集めたGoogle Apps suite(現在のGoogle Workspace)をリリースしました。

また、2009年には、Microsoft社が同社初となるSaaSアプリケーションであるMicrosoft Office 2011の提供を開始しました。

Gartner社は、2028年までにクラウドが業界の破壊要因からビジネスに不可欠なもの、そしてビジネス運営に不可欠なものへと移行すると予測しています。1

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クラウド・コンピューティング・コンポーネント

以下は、今日最新のクラウド・アーキテクチャーの最も重要なコンポーネントの一部です。

  • データセンター
  • ネットワーキング機能
  • 仮想化
データセンター

CSPは物理サーバー、ベアメタル・サーバークラウド・ストレージ・システムなどの物理ハードウェアを収容するリモート・データセンターを所有、運営します。これらの物理ハードウェアは、基盤となるインフラストラクチャーを構成するとともに、クラウド・コンピューティングの物理的な基盤となります。

ネットワーキング機能

クラウド・コンピューティングで非常に重要なのは、高速なネットワーク接続です。通常、インターネット接続またはワイドエリアネットワーク(WAN)は、バックエンド機能(データセンターやクラウドベースのアプリケーションおよびサービス)を使用して、フロントエンド・ユーザー(インターネット対応デバイスに表示されるクライアントサイド・インターフェース)に接続します。

また、フロントエンドのユーザーとバックエンドのリソース間のスムースかつ安全な高速データフローの実現に貢献するために、ロード・バランサーコンテンツ配信ネットワーク(CDN)、ソフトウェア定義ネットワーキング(SDN)などの高度なクラウド・コンピューティング・テクノロジーも統合されています。

仮想化

クラウド・コンピューティングは、ITインフラストラクチャー(サーバー、オペレーティング・システム・ソフトウェア、ネットワーキング)の仮想化に大きく依存しています。これらのインフラストラクチャーは、物理ハードウェアの境界に関係なくプールおよび分割できるよう、特別なソフトウェアを使用して抽象化されます。

例えば、ハードウェア・サーバー1台を複数の仮想サーバーに分割できます。仮想化によって、クラウド・プロバイダーは所有するデータセンターのリソースを最大限活用できます。

クラウドコンピューティングサービス

Infrastructure-as-a-service(IaaS)、Platform-as-a-Service(PaaS)、Software-as-a-Service(SaaS)、サーバーレス・コンピューティングは、最も一般的な「as-as-service」クラウド・プラットフォーム・モデルです。大規模組織の開発者のほとんどは、これら4つすべてを組み合わせて活用しています。

IaaSはITインフラストラクチャーを完全に管理し、組織がシステムを構築および管理できるようにします。PaaSは、基盤となるインフラストラクチャーを処理し、アプリケーションの開発とデプロイメントを簡素化するプラットフォームを提供することで、IaaSを基盤として構築されます。最も広く使用されているクラウド・サービスであるSaaSは、すぐに使用できるソフトウェアを提供するため、管理の必要がなくなります。また、IaaSとPaaS上に構築されたサーバーレス・コンピューティングにより、コードの記述のみに集中できます。

IaaS (Infrastructure-as-a-Service)

Infrastructure-as-a-Service(IaaS)はインターネット経由で基本的なコンピューティング・リソース(物理サーバー、仮想サーバー、ネットワーキング、ストレージ)をオンデマンドで利用できる従量課金制のサービスです。

IaaSは、エンドユーザーが必要に応じてリソースを増減することを可能にし、高額な初期資本支出や不必要なオンプレミス(つまり自社所有の)インフラストラクチャー、定期的な使用量の急増に対応するためのリソースの過剰購入の必要性を低減します。

Business Research Company社のレポートによると、IaaS市場は年平均成長率(CAGR)14.2%で今後数年間で急速に成長し、2028年には2,123.4億米ドルに達すると予測されています。2

PaaS (Platform-as-a-Service)

Platform-as-a-Service(PaaS)の導入により、ソフトウェア開発用のオンデマンド・プラットフォーム(ハードウェア、完全なソフトウェア・スタック、インフラストラクチャー、開発ツール)を活用できます。同じプラットフォームをオンプレミスで維持する際の費用や煩雑な作業なしで、アプリケーションを柔軟に実行、開発、管理できます。

クラウド・プロバイダーはPaaSを使用して自社データセンターでサーバー、ネットワーク、ストレージ、オペレーティング・システム・ソフトウェア、ミドルウェア、データベースなどの、あらゆるサービスをホストしています。開発者はメニューから選択するだけで、アプリケーションの実行、構築、テスト、デプロイ、保守、更新、拡張に必要なサーバーと環境を起動できます。

現在、PaaS は通常、仮想サーバーから一歩離れた仮想化コンピューティング・モデルであるコンテナ を中心に構築されています。コンテナはオペレーティング・システムを仮想化するため、開発者はアプリケーションに必要なオペレーティング・システム・サービスのみをパッケージ化し、ミドルウェアを使用せずに、変更なしであらゆるプラットフォームで実行できます。

Red Hat OpenShiftは、Dockerコンテナと、コンテナベース・アプリケーションのデプロイ、スケーリング、ロード・バランシングなどを自動化するオープンソースのコンテナ・オーケストレーション・ソリューションであるKubernetes中心に構築された人気のPaaSです。

SaaS (Software-as-a-Service)

また、Software-as-a-Service(SaaS)(クラウドベースのソフトウェアまたはクラウド・アプリケーション)はクラウド上でホストされるインタラクティブなアプリケーション・ソフトウェアです。SaaSにアクセスするには、Webブラウザー、専用のデスクトップ・クライアント、デスクトップまたはモバイル用のオペレーティング・システムに統合されたアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)のいずれかを使用します。クラウド・サービス・プロバイダーは、SaaSサービスを月額または年間のサブスクリプション料金か、または従量課金制の料金体系で提供しています。

クラウドにはコスト削減、価値実現までの時間、拡張性上のメリットがありますが、さらにSaaSには次のようなメリットがあります。

  • 自動アップグレード:SaaSでは、オンプレミスのアップグレードを調整することなく、クラウド・サービス・プロバイダーが追加した新機能をすぐに利用できます。
  • データ損失からの保護:SaaSはアプリケーション・データをアプリケーションとともにクラウドに保存するため、デバイスがクラッシュしたり故障したりしてもデータが失われることはありません。

SaaSは、現在のほとんどの商用ソフトウェアの主要な配信モデルです。業界特化型ソリューションや、Salesforceなど幅広い管理業務ソリューション、堅牢なエンタープライズ・データベース、人工知能(AI)駆動型ソフトウェア・ツールなど、膨大な数のSaaSソリューションが提供されています。

Fortune Business Insights社の調査によると、世界のSoftware-as-a-Service(SaaS)市場規模は2023年には2,735.5億米ドルだったものが2024年には3,175.5億米ドルまで拡大し、さらに2032年までに1兆2,288.7億米ドルに成長すると予測されています。3

サーバーレス・コンピューティング

サーバーレス・コンピューティング(サーバーレス)は、バックエンド・インフラストラクチャーに関する管理タスク(プロビジョニング、スケーリング、スケジュール設定、パッチ適用など)のすべてをクラウド・プロバイダーが肩代わりするクラウド・コンピューティング・モデルです。この機能により、開発者は持てるすべての時間と労力をアプリケーションのコーディングやビジネス・ロジックの作成に注ぐことができます。

さらに、サーバーレスではアプリケーション・コードの実行をリクエストに応じるかたちでのみ行い、リクエスト数に応じて基盤となるインフラストラクチャーを自動的にスケーリングします。また、サーバーレスの料金はアプリケーションが実行する際に使用されたリソースに対してのみ発生します。アイドル状態の容量に料金が発生することはありません。

Function-as-a-Service(FaaS)は、しばしばサーバーレス・コンピューティングと混同されますが、実際にはサーバーレスのサブセットです。FaaSを使用して、特定のイベントが発生した際にアプリケーション・コードの一部(関数)を実行できます。コード以外のすべてのリソース(物理ハードウェア、仮想マシン(VM)のオペレーティング・システム、Webサーバー・ソフトウェアの管理)は、コードが実行されるとリアルタイムでクラウド・サービス・プロバイダーによって自動的にプロビジョニングされます。これらのリソースは、コードの実行が完了すると終了します。実行が開始されると課金が開始し、実行が停止すると課金も停止します。

クラウドコンピューティングのタイプ

パブリッククラウド

パブリッククラウドは、クラウド・サービス・プロバイダーがコンピューティング・リソースをパブリック・インターネット経由でユーザーに提供するタイプのクラウド・コンピューティングです。SaaSアプリケーション、個々の仮想マシン(VM)、ベアメタル・コンピューティング・ハードウェア、エンタープライズ・グレードの完全なインフラストラクチャー、開発プラットフォームなどもパブリッククラウドです。こうしたリソースは無料で利用できる場合もありますが、サブスクリプション・ベースや、従量課金制の価格モデルの場合もあります。

パブリッククラウド・プロバイダーは、顧客のワークロードを実行するデータセンター、ハードウェア、インフラストラクチャーを所有、管理し、すべての責任を負います。通常、高いパフォーマンスとアプリケーションとデータにへの迅速なアクセスを確保できるよう、高帯域幅のネットワーク接続を提供します。

パブリッククラウドは、すべての顧客がクラウド・プロバイダーのデータセンター・インフラストラクチャーやリソースをプールおよび共有するマルチ・テナント環境です。IBM Cloud、Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloudなどの大手パブリッククラウド・ベンダーの場合、顧客数は数百万に上ることがあります。

パブリッククラウド・サービスは弾力性と拡張性が高く、ワークロードの需要の変化に合わせて柔軟に調整できるため、ほとんどの企業がコンピューティング・インフラストラクチャーの一部をパブリッククラウドに移行しています。従量課金制の料金体系で効率性向上とコスト削減が期待できるため、パブリッククラウドは多くの顧客を惹きつけています。ハードウェアやオンプレミス・インフラストラクチャーの費用削減を目指す企業もあります。

プライベートクラウド

プライベートクラウドとは、すべてのクラウド・インフラストラクチャーとコンピューティング・リソースが顧客ごとに専用で提供されるクラウド環境のことです。弾力性、拡張性、サービス提供の容易さなど、クラウド・コンピューティングが持つ多くのメリットを併せ持つとともに、オンプレミス・インフラストラクチャーのアクセス制御、セキュリティー、リソースのカスタマイズの各機能を備えています。

プライベートクラウドは通常、顧客のデータセンター内でオンプレミスでホストされます。ただし、プライベートクラウドを独立したクラウド・プロバイダーのインフラストラクチャー上でホストしたり、オフサイト・データセンター内のレンタル・インフラストラクチャー上に構築したりすることもできます。

多くの企業が、規制コンプライアンス要件を満たすために、パブリッククラウド環境ではなくプライベートクラウドを選択しています。政府機関、医療機関、金融機関などの大規模な組織は、多くの場合機密文書、個人情報(PII)、知的財産、医療記録、財務データなどの機密データを扱うワークロードのためにプライベートクラウドを選択します。

クラウドネイティブの原則に沿ってプライベートクラウド・アーキテクチャーを構築することで、組織のワークロードをパブリッククラウドへ迅速に移行したり、ハイブリッドクラウド環境(下記参照)で実行したりできます。

ハイブリッドクラウド

ハイブリッドクラウドとは、その名の通りパブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプレミス環境を組み合わせたものです。具体的には、これら3つの環境を組み合わせて柔軟性の高い単一のインフラストラクチャーを構築し、組織のアプリケーションやワークロードを実行するのが理想的なハイブリッドクラウドです。

当初、ハイブリッドクラウド・コンピューティング・モデルに組織の注目が集まりましたが、その理由は主に組織のオンプレミス上のデータの一部をプライベートクラウド・インフラストラクチャーに移行した後、移行先のインフラストラクチャーをクラウド・ベンダーがオフプレミスでホストするパブリッククラウド・インフラストラクチャーに連携するためでした。このプロセスには「Single pane of glass(単一のペイン)」を実現するために、Red Hat OpenShiftなどのパッケージ化されたハイブリッドクラウド・ソリューションや、ミドルウェアとIT管理ツールが使用されました。この統合ダッシュボードを利用して、組織のアプリケーション、ネットワーク、システムを表示できます。

現在、ハイブリッドクラウド・アーキテクチャーは物理的な接続性やクラウド移行機能にとどまらず、柔軟性、安全性、費用対効果が高い環境の提供を通じて、複数の環境にまたがるワークロードのポータビリティーと自動デプロイメントを実現しています。これにより、組織はパブリッククラウドやプライベートクラウドのみを使用する場合よりも効果的かつコスト効率よく技術的およびビジネス上の目標を達成できます。例えば、ハイブリッドクラウド環境は、DevOpsなどのチームがWebアプリケーションを開発およびテストするのに最適です。これにより、アプリケーション・テストを実行するためにオンプレミスの物理ハードウェアを購入および拡張する必要がなくなり、市場投入までの時間を短縮できます。また、パブリッククラウドでアプリケーションを開発した後、ビジネス・ニーズやセキュリティー上の理由でプライベートクラウド環境に移行することがあります。

パブリッククラウドでは、トラフィックが予定外に急増した場合に、プライベートクラウド上のワークロードに影響を与えることなく、リソースを迅速にスケーリングできます(クラウド・バースティング機能)。Amazonなどのストリーミング・チャンネルでは、新しい番組を配信する際にクラウド・バースティングを使用して、視聴トラフィックの増加に対応しています。

今日、企業組織のほとんどがハイブリッドクラウド・モデルを活用する理由は、従来のオンプレミス・インフラストラクチャーの設定よりも高い柔軟性と拡張性を実現し、コストを最適化できるためです。IBM Transformation Index: State of Cloudによると、ビジネスおよびITのプロフェッショナルの77%以上がハイブリッドクラウドの手法を採用しています。

パブリッククラウド、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウドの違いについて詳しくは、「パブリッククラウドとプライベートクラウドとハイブリッドクラウドの違いとは」をご覧ください。

Multicloud

マルチクラウドとは、2つ以上の異なるクラウド・プロバイダーが提供するクラウドを複数使用することです。マルチクラウド環境の利用は、Eメールにあるベンダーが提供するSaaSを使用し、画像編集に別のベンダーが提供するSaaSを使用するのと同じくらい簡単です。ただし、企業のマルチクラウドの場合は、通常2社以上の大手パブリッククラウド・プロバイダーが提供するクラウド・サービス(SaaS、PaaS、IaaSなど)を複数使用することを指します。

組織は、ベンダー・ロックインを回避し、サービスの選択肢を増やし、より多くのイノベーションを活用するためにマルチクラウドを選択します。マルチクラウドを使用すると、クラウド機能やサービスを自社のビジネス・ニーズに合うよう組み合わせて選択し、カスタマイズできます。こうした選択の自由の例として、単一ベンダーのサービスや製品に縛られることなく、必要に応じてまたは新しいソリューションが登場した際に、あらゆるCSPが提供するなかで各分野で最も優れたテクノロジーを選択できることが挙げられます。例えば、グローバルな展開を目指す組織がWebホスティングにAWSを、データ分析と機械学習(ML)プラットフォームにIBM Cloudを、セキュリティー機能にMicrosoft Azureを選択するなどの場合が考えられます。

IT部門の承認なしに、また多くの場合IT部門に知られることも、監視されることもなく、企業ネットワーク上で使用されるソフトウェア、ハードウェア、ITリソースを「シャドーIT」と呼びます。マルチクラウド環境はこのシャドーITによって生じるライセンス、セキュリティー、互換性に関わる問題の軽減につながります。

最新のハイブリッド・マルチクラウド

今日、ほとんどの企業組織はハイブリッド・マルチクラウド・モデルを活用しています。ハイブリッド・マルチクラウドは、最も費用対効果の高いクラウド・サービスを柔軟に選択できることに加え、ワークロードのデプロイメントを最も詳細に管理できるため、業務の効率化、パフォーマンスの向上、コストの最適化を図れます。

IBM Institute for Business Valueの調査によれば、完全なハイブリッド・マルチクラウド・プラットフォームのテクノロジーと運用モデルを大規模に展開した場合、得られる価値は、シングルプラットフォームおよびシングル・クラウド・ベンダーのアプローチから得られる価値の2.5倍になることがわかっています。

しかし、最新のハイブリッド・マルチクラウド・モデルはそれほど単純ではありません。使用するクラウドが増えれば増えるほど、管理ツール、データ転送速度、セキュリティー・プロトコルがクラウドごとに異なるため、環境の管理が難しくなる可能性があります。大企業の97%以上が複数のクラウドを業務に使用し、ほとんどの組織が10以上のクラウドを運用するなか、ハイブリッドクラウド管理アプローチが非常に重要になっています。

ハイブリッド・マルチクラウド管理プラットフォームでは、一元化されたダッシュボードを通じて複数のプロバイダーのクラウドを可視化します。このダッシュボードで開発チームはプロジェクトやデプロイメントを表示し、運用チームはクラスタやノードを監視できます。また、サイバーセキュリティー担当者は脅威の監視を行えます。

クラウド・セキュリティー

従来、クラウド・サービス、特にパブリッククラウド・サービスの利用を検討する組織にとって最も大きな導入障壁はセキュリティー上の懸念でした。クラウド・セキュリティーを維持するには、従来型のIT環境とは異なる手順とスキルセットが必要です。クラウド・セキュリティーの主なベスト・プラクティスを以下に挙げます。

  • セキュリティの責任分担:一般的に、クラウド・サービス・プロバイダーはクラウド・インフラストラクチャーのセキュリティを確保する責任を、顧客はクラウド内のデータを保護する責任をそれぞれ担います。ただし、プライベート・サード・パーティーとパブリック・サード・パーティーの間でデータの所有権を明確に定義することも重要です。
  • データの暗号化:保存中、転送中、使用中のデータを暗号化する必要があります。お客様は、セキュリティー・キーとハードウェア・セキュリティー・モジュールを継続して完全に管理する必要があります。
  • 共同管理:IT、運用、セキュリティーの各チーム間の適切なコミュニケーションと明確でわかりやすいプロセスは、安全で持続可能、シームレスなクラウド統合の実現につながります。
  • セキュリティーとコンプライアンスの監視:IT、運用、セキュリティーの各チームは、業界に適用されるすべての規制コンプライアンス基準を把握し、連携されているすべてのシステムとクラウドベースのサービスをアクティブに監視して、オンプレミス、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウド、エッジなど、あらゆる環境でのすべてのデータ交換の可視性を維持する必要があります。

クラウド・セキュリティー管理ツール

新たな脅威に対応するために、クラウド・セキュリティーは常に変化しています。現在のCSPは、以下のような幅広いクラウド・セキュリティー管理ツールを提供しています。

  • IDおよびアクセス管理(IAM):IAMツールおよびサービスは、オンプレミス・サービスとクラウドベース・サービスにアクセスしようとするすべてのユーザーに対して、ポリシーに基づく措置の適用プロトコルを自動化します。
  • データ損失防止(DLP):DLPサービスは修復アラート、データ暗号化、その他の防止策を組み合わせ、保存中、移動中を問わず、すべての保存データを保護します。
  • セキュリティー情報およびイベント管理(SIEM)SIEMはクラウドベース環境で脅威の監視、検知、対応を自動化する包括的なセキュリティー・オーケストレーション・ソリューションです。SIEMテクノロジーは、人工知能(AI)主導のテクノロジーを使用して、複数のプラットフォームおよびデジタル資産にわたるさまざまなソース(ネットワーク・デバイスやファイアウォールなど)からのログ・データを相関させます。これにより、ITチームはネットワーク・セキュリティー・プロトコルを適切に適用して、潜在的な脅威に迅速に対応できるようになります。
  • 自動化されたデータ・コンプライアンス・プラットフォーム:自動化されたソフトウェア・ソリューションのコンプライアンス管理とデータ収集の一元化機能により、業界固有の規制遵守をサポートします。これらのプラットフォームにコンプライアンスの定期的な更新を組み込むことで、絶えず変化を続ける規制コンプライアンス基準に適応できます。

クラウドの持続可能性

ビジネスにおけるサステナビリティーとは、特定の市場における事業活動が環境に与える悪影響を軽減するための企業の戦略であり、コーポレート・ガバナンスにおける重要な責務となっています。Gartner社は、2026年までに50%の組織がハイブリッドクラウド環境のエネルギー消費と二酸化炭素排出量の指標を管理するために、持続可能性に対応した監視を導入すると予測しています。4

企業がビジネス・サステナビリティー目標の達成に向けて取り組みを進めるなか、クラウド・コンピューティングも二酸化炭素排出量の削減と気候関連リスクの管理を支援するうえで重要な役割を果たすよう進化してきました。例えば、従来型のデータセンターに必須の電源と冷却システムは、電力を大量に消費します。ITリソースとアプリケーションをクラウドに移行するだけで、プールされたCSPリソースを通じて組織の運用効率、コスト効率、全体的なエネルギー効率が向上します。

主要なクラウド・プロバイダーはすべて自社のカーボン・フットプリントを削減するとともに、顧客がオンプレミス環境の使用で通常消費するエネルギーを削減できるよう、ネットゼロの取り組みを行っています。例えば、IBMは2030年までにネットゼロを達成するためにサステナブル調達の取り組みを推進しています。

クラウドのユースケース

市場調査会社であるInternational Data Corporation(IDC)社は、パブリッククラウド・サービスへの世界的な支出は 2028年までに2倍になると予想しています。5

企業でクラウド・コンピューティングのメリットを活用する主な方法をいくつかご紹介します。

  • 既存のアプリケーションをクラウドに移行する
  • インフラストラクチャーを拡張する
  • 事業継続性と災害復旧を強化する
  • クラウドネイティブ・アプリケーションを構築してテストする
  • エッジおよびIoT環境をサポートする
  • 最先端テクノロジーを使用する

インフラストラクチャーを拡張する

組織は、ビジネス需要の変化に応じて、リソースを迅速かつ容易に増減できます。

事業継続性と災害復旧を強化する

クラウド・コンピューティングにより、データをシステム障害から保護する費用対効果の高い冗長性と、災害復旧戦略の実行と、クラウド・データとアプリケーションの復旧に必要な物理的な距離を確保できます。主要なパブリッククラウド・プロバイダーはすべてDisaster-Recovery-as-a-Service(DRaaS)を提供しています。

クラウドネイティブ・アプリケーションを構築してテストする

アジャイル、DevOps、またはDevSecOpsを採用している開発チームにとって、クラウドは、開発環境とテスト環境のプロビジョニングを効率化するオンデマンドでスケーラブルなリソースを提供し、サーバーの手動セットアップなどのボトルネックを排除して、チームがクラウドネイティブ・アプリケーションとその依存関係をより効率的に構築およびテストすることに集中できるようにします。

エッジおよびIoT環境をサポートする

クラウドは、データ・ソースをエッジに近づけることで、レイテンシーの課題に対処し、ダウンタイムを削減できます。リアルタイム・データを収集するために、モノのインターネット(IoT )デバイス(患者監視装置、生産ラインのセンサーなど )をサポートします。

最先端テクノロジーを使用する

クラウド・コンピューティングでは、ほとんどの組織がオンプレミスで購入およびデプロイできるストレージ容量と処理能力をはるかに上回る膨大な量のデータを高速で保存および処理できます。こうした高性能なリソースは、ブロックチェーン、量子コンピューティング、カスタマー・サービスの自動化などの生成AIプラットフォームを支える大規模言語モデル(LLM)のようなテクノロジーの基盤となります。

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