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アイデアミキサー・インタビュー | オカムラ 遅野井 宏 (前編)

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オカムラ エバンジェリスト 遅野井 宏 (前編)

主体性を発揮できる働き方を「場」に持ち込む

この「アイデアミキサー」シリーズでは、ご自身の軸となる強いアイデアを持ちながら、越境や新分野の開拓を実践している方に、その想いを語っていただきます — その「アイデア」は、IoTやAIに代表されるテクノロジーやIBMと、そして社会と、どう混ざっていくのでしょうか?

第2回目は、オカムラでDX推進をリードしているエバンジェリスト遅野井 宏さんにご登場いただきました。

(インタビュアー 八木橋パチ)

 

株式会社オカムラ – 1945年、終戦から2カ月後に零戦を造っていた技術者たちが現在の横浜市磯子区岡村町に創業。2018年4月に岡村製作所から「オカムラ」へ商号を変更。コーポレートメッセージは「人を想い、場を創る。」。

遅野井 宏 – 日本企業の在り方と日本人の働き方に課題感を持ち、なんとか変えたいと考えている人。イチをヒャクにすることよりも、ゼロをイチへと仕掛けるのが好き。好きな言葉は「多事争論(たじそうろん)」。

インタビュー写真

オンラインインタビューの様子

 

■ オカムラ社内でDXが必要となったわけ

— 遅野井さんと言えば「WORK MILL*1の初代編集長」というイメージが私には強いのですが、現在はどんな肩書きで何をされているんですか?

エバンジェリストとしてオカムラのDX(デジタル変革)を推進しています。

パチさんと出会ったのは、WORK MILLの立ち上げ直後の2016年頃だったのかな? 実はあの頃から社内IoTプロジェクト推進も同時進行していました。それが現在のDX推進室につながっていて、そこの室長をやっています。

*1 「はたらく」を変えていく活動を研究し発信する複合メディア「WORK MILL

 

— 「DX推進」は社外に対してではなく、オカムラ社内のDX推進なんですね? それはつまり、「オカムラはまだデジタル化が足りていない」と自分たちでは認識しているということですよね?

そうですね。2016年当時から見ればかなり進んでいますが、まだまだ先に進めなければいけないと思っていますし、足を止めてはいけないものなんじゃないかとも思っています。

オフィス家具造りを中心に据えて大きくなってきた会社ですから、ITの価値とその本質を踏まえたモノ・コトづくり企業へとそう簡単に転身はできないですよね。でも、かなりいいところまできていると思います。

 

— そもそもなぜ「DX推進」が必要になったんでしょう?

オカムラの営業担当者たちは優秀です。総務部門を中心としたお客さまとのやりとりを通じて、オフィスに求められている機能や役割がどんどん変化してきているのはみな感じ取っていました。そしてオカムラの研究所でも、その変化に対応するさまざまな研究が進められていました。

でも残念ながら、オフィス家具や什器と同じレベルでITの本質を掴み、それをお客さまにお伝えするレベルまでは咀嚼しきれていませんでした。そこをしっかりと見つめ、社員それぞれが自分の言葉で語れるようになってから、今はさまざまな変化が起きているところです。

 

■ DXと新型コロナウイルス感染症

— 今、新型コロナウイルス感染症への対策・対応が急がれる中で、ますますDXや働き方改革が進んでいるのでは?

まさにそうですね。オカムラ自身もそうですし、日本社会が急速にDXに舵を切ったのを感じます。

先月、オカムラは、新型コロナウイルスが働き方と働く場をどう変えていくのか、今どのようなワークプレイス戦略が必要とされているかをレポート*2として発行しました。Twitterにも投稿がありましたが、これまでCIOやCFO、CTOがなかなか進められなかった変革が、コロナショックにより一挙に推し進められた形です。

*2アフターコロナにむけたワークプレイス戦略

 

インタビュー中の遅野井さんとパチ

シャツが偶然お揃いっぽくなりました

— DXはビジネスモデルやプロセスまでを大きく変化させるものですが、一方で仕事や働き方に関する意識の変化も必要ですよね?

その通りです。日本企業における仕事観って、あえて少々乱暴な言い方をすると「目の前に流れてきた仕事を漫然と行う、それが仕事。」というところが強くあったと思います。

昔話になりますが、僕が20年くらい前に最初に就職し、その後13年間働いた会社でとてもショッキングだった出来事が、配属早々に先輩社員から「働いていて閉塞感を感じている」と聞いたことでした。毎年、希望に満ち溢れ血気盛んな新入社員がやってくる。でもしばらくすればキバを抜かれて大人しくなってしまう。

思い返してみると、僕がこれまでやってきていることって、日本企業の現場にあるこの閉塞感を打破したいという気持ちの表れなのかもしれないですね。

 

— でもその最初の会社に13年いたんですよね? 「しんどい時期もあった」と以前聞いた気がしますが、何をしていたんですか?

確かにとてもしんどい時期はありましたね。本当に色々とあったのですが、何とかその状況の中でも自分なりに活躍できるようになっていきました。でもそうやって仕事をしている中で、業務効率が悪い仕事がたくさんあるな、と感じたんです。

当時3,000人くらいからなる大きな事業部にいたんですけど、その事業本部内での公募制度を活用して、ITで業務を変えたいという意思を伝えてIT企画部門に異動させてもらったんです。Excelの集計表を配って、コピペして表にまとめて…といったような付加価値の低い仕事をシステム化したり、本部内のデータ連携図などを作ってさまざまな改革を仕掛けたりしていきました。

そんな中で、10歳くらい上の世代の先輩社員が本部内で立ち上げた「会議の質を変えよう」というチームに仲間として加わりいろんな活動をさせてもらいました。外資系企業を中心に、いろんな企業のオフィス見学をして話を聞かせてもらったり…。

そうやって、いろどりと工夫に満ちたオフィスをたくさん目にする中で、僕は完全に「オフィスの魅力」に取り憑かれてしまったんです。

 

■ 「よいオフィス」の3つのポイント

–オフィス研究家になるまでに、そんな流れがあったんですね。

そうですね。オフィス研究家の多くが建築やデザイン出身なのに対し、僕はまったく出自が違います。完全に現場目線ですね。

そしてそれが、物理的なオフィスの機能や設計とは異なる、ハード面よりはソフト面寄りの部分に目が行きやすいという自分の特徴になっているんだと思います。

 

— 私も「オンラインコラボレーション・ツールを用いた働き方変革」をもともとは研究・実践していた人間なので、ソフト面の重要さはよく分かります。

その頃僕は大学院にも通っていて、そこでコワーキングスペースの研究をしていたんです。自分がそれまで過ごしてきた職場と、活気のあるコワーキングの違いが何なのかを浮かび上がらせくて。

そこで分かったのは、コワーキングスペースの本質と強みが「人と人が専門性を持ってつながり、そこからモノゴトが起こっていく」という点にあることでした。

 

— 少し細かく説明してもらえますか?

よいコワーキングには3つのポイント*3がありました。「1. 関心のエネルギーの高さ」「2. 互恵関係」「3. 秩序」です。

まず「関心のエネルギーの高さ」ですが、場を共にしている人がどんな人で、どんな専門性を持っているのか。その世界で今何が起きているのか — こうしたことに興味を持っている人たちが集まっていないと、なにも起きません。不活性ガスが溜まるだけでスパークしない。

次の互恵関係ですが、利用料金を払ったのだから「何をしてくれるのか」または「使うのは当然の権利だ」と個人の使い勝手だけを主張する人、そんな消費者的なマインドセットを持っている人ばかりでは良い場になりません。利用料金を払いながらも、その場のつながりから生まれるコミュニケーションやコラボレーションの可能性を積極的に広げる行動をとるような、投資家的マインドセットが必要です。

そして最後の秩序。これはコミュニティ・マネージャーと呼ばれる場作りの担当者や常連メンバーの行動です。彼らがどんな規範の基に行動しているか。それが秩序となって周りに浸透していきます。

*3 コワーキングスペースを維持発展するために不可欠な3つの要素

 

— 分かります。言葉だけではなく、行動や態度からも伝わってきますよね。

そうですよね。コワーキングのような場所をカオスと捉える人たちも一定数いますが、そうではないです。主体性を発揮できる働き方を「場」に持ち込もうとすれば、ここに挙げた3つが必要になります。

 

— あれ? この3つって、「よいコワーキングのポイント」じゃなくて…

パチさん気づきましたね? そうなんです。

これってコワーキングに限らず、「よいオフィスのポイント」でもあるんですよね。周囲に関心を持ち、能動的に自ら率先して行動し、周囲に示していく。

ちなみに、このときの学びは、いくつかの企業で共同出資して2019年7月にスタートしたコワーキング「point 0 marunouchi」に取り入れています。

2019年7月にオープンしたpoint 0 marunouchi。さまざまな企業共創が日々繰り広げられている。

 

■ 対話することでチームの制約を乗り越える

— 新型コロナウイルスは遅野井さんの働き方、DX推進室の働き方、そしてオカムラの働き方をどう変えていますか?

僕自身はここ2カ月完全に自宅勤務で、今日久しぶりに出社しました。ただ、明日からはまた自宅勤務に戻し、必要な時だけ最低限出社するという形にします。

DX推進室のメンバーにも同じように「必要最低限の出社を基本スタンスとしよう」と伝えています。

オカムラとしては在宅は原則週3日までという指針を出していますが、その指針を大事にしながらも、DX推進室としては個人や家族の状況や制約とチームの状況を見て、主体的に判断して行動するようにと伝えています。

 

— 指針を受けて主体的に判断し行動する — すごくいいですね。大切だと思います。ただ一つ気になるのは、個人の制約とチームの状況がぶつかってしまうときはどうするのか という点です。

今回、僕はできるだけ早いタイミングで、チームメンバー全員に自分の考えをメッセージとして送ったんです。これは4つ目のメッセージかな。

4月3日の東京都の発表を受けてメンバーに届けられたメッセージ

 

— これ、社外に出していいの? 大丈夫?

広報に確認しなくちゃ(笑)。

コロナウイルス対策の局面が変わる度にチームにメッセージを送っていたんですが、その時求められている働き方の基本を示すこと、それから「乗り越えるべきチャレンジとその対応方法」を一貫して伝えていました。

例えば「どうしても対面を求めるお客さまがいたら、はっきり明確に断ろう。それでビジネスを失ってしまっても、それは構わない」というようなことです。

今後、たしかに個人の制約とチームや組織の状況がバッティングしてしまうことが増えていくかもしれません。でもそこで重要なのは、まず自分がどう考えていて、どうしたいと思っているのか。そして自分がどうチームに貢献しようと考えていてどんなサポートをチームに求めているのか。そうしたことをちゃんと言葉にして伝え対話することだと思うんです。

リーダーとして、僕はそれを声に出し自ら実践することが大事だと考えています。

 

— すばらしい! 「行動で示す」だけじゃなくて、言葉にして考えや思いを伝えることって大きな意味がありますよね。先ほどのコワーキングの秩序の話も同じですよね。

主体的に自らの仕事の意義を捉えて、自分の働き方を考え、それに向き合う。そしてチームのみんなに伝えて対話する。

「仕事を主体的に捉えて自分の働き方を考える」っていうのは、そういうことなんだと思います。

 


後編では「日本の労働市場」「テクノロジーの本質的な役割」「分断社会」、そして「多事争論」について伺っています。

後編 | テクノロジーは制約を取り除くために存在する

(取材日 2020年6月1日)

 

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