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視覚障がい者補助「ココテープ」ワークショップレポート | PwDA+クロス7

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インクルーシブデザイン専門企業「PLAYWORKS」様と視覚障がいがある方たちに虎ノ門のIBM Innovation Studioにお越しいただき、視覚障がいのある方たちが安心して利用でき、周囲の晴眼者たちとの共創を進めやすい施設とするために、どこにどのような形でココテープ(脱着簡単な視覚障がい者誘導シート)を用いるのがよいかを皆で考え、検証するワークショップを実施しました。

当記事では、ワークショップの内容と、PwDA+コミュニティーが考える共創の未来についてご紹介します。

ワークショップ終了後の参加者全員での記念写真。社長の山口さん(後列左)を交えて。

<もくじ>

  1. ■ 日本IBMの視覚障がいに関する取り組み | CDO 今野智宏
  2.  ■ グループ編成ポイント | 「とらわれ」を外すリードユーザー
  3.  ■ 検証結果発表 | ココテープここに貼って!
  4.  ■ まとめにかえて | PwDA+コミュニティーが考える共創の未来

ワークショップの内容について紹介する前に、いくつか、多くの方にはなじみが少ないであろう言葉について解説します。

・ インクルーシブデザイン

インクルーシブデザインとは、多様な背景を持つ人たちが「リードユーザー(未来へ導く人)」として参加し、これからの社会に必要な新たな価値の発見・創造を行うデザイン手法です。
従来の「すべての人のため(for)」のユニバーサルデザインを、「すべての人とともに(with)」へと進化させたものでもあります。

・ 視覚障がいの種類

視覚障がいにもさまざまな種類や程度があります。まったく見えない「全盲」、光を感じる機能の調整がうまくできない「光覚障害」、見える範囲が狭い「視野障害」、色を感じる機能が一般と違う「色覚障害」など、組み合わせによる違いや個人差が、また、先天性か中途障害かによる違いもあります。
なお、「晴眼者」とは「視覚に障がいのない者」を指す、視覚障がい者の対義語です。

・ ココテープ

錦城護謨株式会社とPLAYWORKS株式会社が共同で企画開発した、気軽に必要な場所に必要な時だけ脱着できる、幅48mmの塩化ビニル製の屋内専用視覚障がい者歩行ガイドテープ。
「ココテープ、ココに貼って!」と気軽に言える社会の実現と、視覚障がい者の自主的な移動をサポートします。

・ PwDA+コミュニティー

障がいの有無に関わらず、誰もが自分らしく活躍できる会社の実現を目指し、障がいのある社員とアライ社員(当事者を支援する社員)が共に活動する日本IBMの社内コミュニティー。「PwDA+ ALLY宣言」という、PwDA社員が自分らしく活躍する職場づくりのサポートや共創に協力することを宣言することでメンバーになれます。
なお、「PwDA+」は「People with Diverse Abilities Plus Ally(多様な能力を持つ人たちとアライ)」の意。

 

オープニング挨拶の後、弱視を疑似体験できる「ロービジョン(コントラスト低下)メガネ」を装着中の今野さん

 

ワークショップ本編の前には、日本IBM 執行役員兼チーフ・ダイバーシティー・オフィサー(CDO)であり、ワークショップ出席者でもある今野智宏さんよりオープニングの挨拶があり、IBMのダイバーシティー&インクルージョン(D&I)の取り組みの一部が紹介されました。

紹介された取り組みの中で、特に今回のワークショップと関連する部分が大きいものが、視覚障がい者向け自律型誘導ロボット「AIスーツケース」です。

 

「一社での取り組みでは、実現可能性も社会実装の範囲も狭まってしまいます。ですから、産官学多くの仲間と共創をしていくことが重要だと考えています。」と今野さんが語るように、AIスーツケースは、日本IBMをはじめとした複数企業によるコンソーシアムにより開発が進められています。

つい先日、2025年の大阪・関西万博で実証実験が行われるとの発表がありました。そして首相官邸で開催された総合科学技術・イノベーション会議では、日本科学未来館の館長でIBMフェローでもある浅川智恵子さんの案内により、岸田文雄首相がAIスーツケースを体験し、その様子がさまざまなメディアを通じて報道されました。

 

オープニング挨拶の後は、ココテープとPLAYWORKS様の紹介があり、その後アイスブレイクとして「アイマスクをして袋の中のお菓子を当てよう!」というアクティビティーが行われました。

タイトル通り、目隠しをしたまま手探りで3つのお菓子を食べ、その名前を当てるというゲーム。味覚だけではなく、嗅覚と触覚の重要性を再確認する時間となりました。

その後、アイマスクをしたまま、ワークショップへの期待などを伝え合う自己紹介を行いました。

真剣にお菓子の種類と味についてディスカッションする参加者たち

 

ワークショップでは、参加者は4〜5名からなる3つのグループに分かれ、それぞれ以下のユースケースについて検討と実地検証を行いました。

 

  1. 視覚障がいのあるお客様と虎ノ門本社の会議室で打合せ
  2. Innovation Studioで開催されるオープンなイベントに、視覚障がい者の方が参加
  3. 視覚障がい者向けIBM本社オフィスツアーを開催

 

グループ編成のポイントは、各グループに必ず「リードユーザー」と呼ばれる視覚障がい当事者が加わっていることです。

オフィスやイベントスペースがもたらす行動の制約や不自由さをよく知るリードユーザーには、「どこにどのような形でココテープを用いることが利便性や安心につながるか」を、随時念入りにフィードバックしてもらいました。

 

新しいものの導入時や、新しい取り組みのスタート時には、人びとの「とらわれ」が思わぬ邪魔になることがあります。今回のワークショップにおいても、日々その場所を使用している社員の「思い込み」や、業務や仕事を通じて蓄積されている「常識」が、ココテープの可能性や、視覚障がい者のスキルの発揮を邪魔してしまいそうな場面が垣間見られました。

そうした「チャンスの芽」を摘み取ってしまうことがないように、そしてマニュアルを読んで理解したつもりになることがないように、自らの手や考えを通じて「臨機応変なアプローチ」をマスターしようというメッセージが込められたグループワークでした。

リードユーザー3人の自己紹介&質問タイムの様子

 

ガイド役とペアになり、アイマスクと白杖でInnovation Studioのカフェテリアや会議室、トイレやエレベーターホールを探索するウォーミングアップを行った後は、いよいよグループ毎でのユースケースの検討です。

筆者が参加したのは「オープンなイベントに視覚障がい者の方をお迎えする」際のココテープの使い方です。当日は大規模セミナーが行われており、実際の受付とセミナーホールは使用できなかったことから、小規模展示エリアに仮想の受付を設置して、実際にココテープを貼り付けていき、使用風景を写真に撮りながら以下を確認していきました。

 

・ エレベーターを降りてから受付までの移動に、どの位置にどのくらいの長さでココテープを貼るのがよいか

・ 各展示ブース前には、どの位置にどのくらいの長さでココテープを貼るとよいのか

・ 受付とカフェテリア間のココテープによる導線補助方法

・ タイルやカーペットなど床材が混在している環境で、激しい白杖との接触や踏みつけに対し、安全性や使い勝手に問題がないか

 

ワークショップの最後には、各グループが撮った写真を使用しながら、気づき・学びを共有しました。以下は、筆者が参加したグループの発表内容です。

 

・ 無尽蔵にテープがあるわけではないので、行動のスタート地点とストップ地点を意識する(直線的な移動には誘導の必要性は低い)。

・ ココテープを貼る位置が、ユーザーに停止してほしい位置に近すぎると、ココテープに気付いても止まりきれずに接触してしまう可能性が高まる。めどは停止位置の50cm手前。

・ 人間による直接的な誘導を好む人と好まない人がいるし、状況によってその好みも変化する。視覚障がい者個人の違いにも意識を向けよう。

・ ココテープを不用意に使い過ぎると、視覚障がい者と晴眼者の「違い」に意識を向けてしまいかねない。「共創の場」として、その点は意識した方がよい。

グループによる検証と発表の様子

 

今回のワークショップは、現在300名弱の社員がメンバー登録をしている、日本IBMの社内コミュニティー「PwDA+コミュニティー」による関係部門への呼びかけからスタートしたものでした。

IBMのPwDAおよびD&I活動にはいくつか特徴的なところがありますが、私たちコミュニティー・メンバーにとっては、とりわけ以下の2つが大きなポイントとなっていると感じています。

 

1つは、私たちPwDA+コミュニティーが中心となって活動をリードしていることです。

これまでも当事者の声が広く社内に行き渡りやすくするための社内イベントの開催や、社外の有識者や団体とのコラボレーションを積極的に行い、社会に向けて発信する活動を行ってきていますが、今回のココテープ導入とワークショップも、総務や不動産部門、Innovation Studioや人事など、複数の組織が私たちを後押ししてくれたことにより実現したものです。

今後もこうした活動を通じて、取り組みを社内外に少しずつでも波及させていくことにを通じ、IBMの「良き企業市民たれ」という理念の実践につなげていきたいと考えています。

もう1つは「徹底した合理的配慮を行うが特別扱いはしない」というIBMの方針です。当事者社員や配属部門・チームからの相談には柔軟に対応をしてもらっていますが、その一方で、現場側で何が必要なのかを見極め、それをしっかり要求することが非常に重要です。

そうした状況においては、「あの人は要求ばかり」と思われてしまうのではないか? という不安から口をつぐんでしまうようなことが決して起きてはならず、「要求が邪険にされることなく、適切に扱ってもらえる」という信頼感を醸成し続けていくことが不可欠だと考えています。

 

最後に、今回のワークショップに参加した、全盲のPwDA+コミュニティーメンバーの言葉を紹介します。

 

このワークショップにご参加くださった皆様が視覚障がい者の方向感覚や移動について学び、理解しようと熱心に取り組んでくださっているのを見て、私はとても感謝しています。

私が最も強く心を打たれたのは、参加者の方たちが最後に語っていた以下の話です。 

 

視覚障がい者の方たちに必要なものを提供するだけで、たとえば飲み物を用意して届けるだけで、十分だと思っていました。それで「良い」サポートだと思っていました。

しかし、彼らが、自分で移動できる部分は自分で移動したいと思っていること、それを広げていきたいと思っていることが、今日はよく理解できました。

自分たちで行動したり作業したりできるよう手助けしてあげるほうが、ずっと良いのですね。

 

「視覚障がい者は単に視力を失っているだけで、多くの身体的感覚、内面の精神が残っている人間であり、(社会側の)障壁を取り除くことができ、障壁のない(バリアフリー)作業環境を実現できれば、多くのことを成し遂げる能力と可能性をまだ持っている」というのが私の信念です。

障壁を取り除こうとするすべての方がたに、心から敬意を表します。

 

あらゆる立場のあらゆる人との共創で、社会をもっとよくするために。

このワークショップがさらなる歩みへとつながっていくように、そして「1つでも2つでもいいから、できるだけ早くできるだけたくさん、社内と社会から制約を減らしていこう」という思いを胸に、PwDA+コミュニティーは今後もさまざまな取り組みにチャレンジしていきます。

PwDAコミュニティー+との共創活動にご興味をお持ちの方は、ぜひこちらまでご連絡ください。

 


TEXT 八木橋パチ

 

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