ブロックチェーンとは

ノートPCを使ってデスクで働く女性

執筆者

Stephanie Susnjara

Staff Writer

IBM Think

Ian Smalley

Staff Editor

IBM Think

ブロックチェーンとは

ブロックチェーン(Blockchain)とは、ビジネス・ネットワーク内で発生する取引の記録や資産の追跡を可能にし、唯一の信頼できる情報源の役割を果たす変更不能な共有されたデジタル台帳のことです。

分散型のデータベースとして、データが複数のコンピューターに保存されるブロックチェーンには、改ざんされにくいという特徴があります。トランザクションはコンセンサス(合意形成)メカニズムを通じて検証され、ネットワーク全体で合意が形成されます。

ブロックチェーン・テクノロジーでは、ブロックにグループ分けされてから結合された各トランザクションによって、安全で透明性の高いブロックチェーンが形成されます。この仕組みを通じてデータの整合性が保証された、改ざん不可能な記録が確立されます。そのため、ブロックチェーンは暗号通貨やサプライチェーン管理などの用途に最適です。

ブロックチェーンの主要なメリットは、銀行その他のサードパーティーなどの従来の仲介者に依存せずにセキュリティー、透明性、信頼性を提供できることにあります。不正やエラーのリスクが軽減される設計となっているため、金融や医療など安全なトランザクションが求められる業界では特に価値があります。プロセスを合理化し、説明責任を強化するため、企業が効率を向上させ、コストを削減するのに役立ちます。

ブロックチェーンの進化

ブロックチェーン・テクノロジーの発端となったのは、2008年にサトシ・ナカモトとして知られる匿名の人物またはグループによって作成されたビットコインの導入でした。ビットコインの基盤となるテクノロジーは、銀行などの信頼できる仲介者を必要とせずにピアツーピアのトランザクションを可能にする分散型デジタル通貨として設計されました。ブロックチェーンは、すべてのトランザクションが安全に記録される公開台帳の役割を果たすことで、当時のデジタル通貨が抱えていた「二重支出」という重大な問題を防止するのに成功しました。

ブロックチェーンは2015年におけるイーサリアムなどのプラットフォームの立ち上げを契機に、スマート・コントラクト(既定の契約条件が満たされると自動的に締結され、ブロックチェーン上に保存されるデジタル契約)に対応し始めました。

こうした進化によりブロックチェーンの実用分野は、不動産、金融、サプライチェーン、医療から投票システムに至るまで幅広く拡大していきました。ブロックチェーンは徐々に、暗号通貨という起源をはるかに超える規模に成長していき、分散型金融(DeFi)や代替不可能なトークン(NFT)の主要プレイヤーとなっています。

ブロックチェーンの進化の勢いは現在も継続しており、拡張性、プライバシー、AIIoT(モノのインターネット)などの新興テクノロジーとの統合の改善に焦点をあてた進歩が進行中です。

Statista社のレポートによると、ブロックチェーンは2021年以降、年平均成長率(CAGR)56.1%のペースで成長し続け、その市場規模は2032年までに約1兆米ドルに達する見込みです。1

IBM Blockchain Services:設計による成功

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ブロックチェーンのメリット

ブロックチェーンは複数の業種・業務にわたり、企業活動を変革するさまざまなメリットを提供しており、信頼性、セキュリティー、トレーサビリティー、効率性を強化します。

特に重要なブロックチェーンのメリットをいくつか挙げます。

  • 信頼性の向上
  • セキュリティーの強化
  • トレーサビリティーの向上
  • 効率性の向上
  • トランザクションの自動化
信頼性の向上

ブロックチェーン・ネットワークはメンバーが限定されるため安全性が高く、正確かつタイムリーにデータにアクセスできます。機密性の高い記録は許可されたネットワーク・メンバーとのみ共有されるため、信頼が築かれるうえ、システム全体がくまなく可視化されます。

セキュリティーの強化

データの正確性を検証するにはネットワーク・メンバー間のコンセンサスが必要です。検証されたトランザクションはすべて変更不可能で永続的に記録されます。こうした長所により、システム管理者であってもトランザクションを削除できないことが保証されます。

トレーサビリティーの向上

ブロックチェーンでは、資産の利用可能期間にわたって透明な監査証跡が記録されるため即時にトレーサビリティーが確保されます。サステナビリティーが重視される業種・業務では、原産地データを直接共有することで倫理的な企業活動を実証できます。また、遅延などのサプライチェーンの非効率性が浮き彫りになるため、説明責任の強化にも役立ちます。

効率性の向上

ネットワーク・メンバー間で共有される分散型台帳を使用することで、時間のかかる記録調整が不要になります。ブロックチェーン上に保存されるスマート・コントラクトは、プロセスを自動化し、トランザクションを高速化します。

トランザクションの自動化

スマート・コントラクトは、トランザクションのシームレスな自動化の促進、効率向上、リアルタイム・プロセスの加速に役立ちます。事前定義された条件が満たされると自動的に次のステップがトリガーされるため、手動介入が必要な場面が減ります。

ブロックチェーン技術の主要な機能

ブロックチェーン技術の主要機能のいくつかは、トランザクションやデータ管理におけるセキュリティー、透明性、効率性を向上させます。

  • 分散型台帳テクノロジー
  • 不変レコード
  • スマート・コントラクト
  • 公開鍵暗号

分散型台帳テクノロジー

すべてのネットワーク参加者が、分散型台帳と変更不能なトランザクション記録にアクセスできます。この共有台帳にはトランザクションが一度のみ記録されるため、従来のビジネス・ネットワークにありがちな作業の重複がなくなります。

変更不能な記録

参加者は、トランザクションが共有台帳に記録された後にトランザクションに変更を加えたり改ざんしたりできません。トランザクション・レコードにエラーが含まれている場合は、エラーを元に戻すために新しいトランザクションを追加する必要があります。これにより、両方のトランザクションが表示されるようになります。

スマート・コントラクト

スマート・コントラクトは、ブロックチェーン上に保管される自己締結型の契約であり、条件がコードで記述され、事前定義された条件が満たされると自動的に締結されます。社債の譲渡や旅行保険の支払い開始など、さまざまな目的に使用できます。プロセスを自動化することで、トランザクションの迅速化、仲介者の必要性の軽減、透明性とセキュリティーの確保といったメリットをもたらします。

公開鍵暗号

公開鍵による暗号化は、公開鍵と秘密鍵という2つの暗号鍵を活用して、ブロックチェーン上のトランザクションとデータを保護する手段となります。公開鍵は暗号通貨やデータの受信用アドレスとして機能します。秘密鍵は関連付けられたデジタル資産に対する制御権を付与する手段となり、所有者はトランザクションの承認、セキュリティーの提供、所有権の確認が可能です。一方、公開鍵を使用すると、他者に正しいアドレスへの資金やデータの送信を許可することができます。

ブロックチェーンの仕組み

ブロックチェーンとは、データ・ブロックをリンクすることでトランザクションを安全に記録する技術です。各ブロックに資産の移動に関する重要な情報を含めることで、プロセス全体の整合性が徹底されます。以下でその仕組みについて説明します。

トランザクションをブロックとして記録

各トランザクションはブロックチェーン上にデータの「ブロック」として記録されます。これらのブロックには、有形資産(製品など)か無形資産(知的財産など)の移動に関する重要な情報がキャプチャされます。各ブロック内のデータには、トランザクションの当事者、対象、時期、場所、数量、食品貨物の温度などの特定の条件といった重要な情報が含まれます。

さらに各ブロックには、トランザクションがブロックチェーンに追加された正確な時点を記録するタイムスタンプも含まれます。このデータによりトランザクションの時系列を確実に追跡できるため、遡及的に変更を加えることができず、データの検証可能性が一段と高まります。

ブロックを結合

各ブロックを前後のブロックと結合することで安全なデータチェーンが作成されます。このチェーンは、各ブロックの一意の識別子である暗号化ハッシュを通じて形成されます。ブロックのハッシュには前のブロックのデータが含まれ、各トランザクションの正確なシーケンスとタイミングが保証されます。暗号化ハッシュには不可逆性があるため、後続のすべてのブロックを変更せずにブロックを変更することはほぼ不可能となり、プロセス全体の整合性が保証されます。

不可逆的なブロックチェーンを構築

ブロックは、ブロックチェーンと呼ばれる不可逆的なチェーンにグループ化されます。新しいブロックが1つ増えるごとに前のブロックのセキュリティーと検証が強化されていくことで、チェーン全体が強化されます。ビットコインベースのこうしたアーキテクチャーにより、分散型システムの安全性と信頼性が高まります。

ブロックチェーン・ネットワークのノードはブロックチェーンを検証・維持するために、各トランザクションの有効性をコンセンサス・アルゴリズムによって確認します。その結果、システムは安全で変更不可能な状態に維持されます。プルーフ・オブ・ワーク(PoW)とプルーフ・オブ・ステーク(PoS)は、ブロックチェーン・ネットワークでよく使用されるコンセンサス・アルゴリズムの代表的なもので、それぞれトランザクションの検証中にシステムを安全に保護するのに役立ちます。

信頼性と不変性を確保

ブロックチェーンの安全性は新しいブロックが追加されるたびに高まり、過去のトランザクションの変更はほぼ不可能になります。この特徴により、ブロックチェーンはすべてのネットワーク・メンバーにとって信頼のおける透明な台帳となり、不正行為は回避され、すべてのトランザクション記録は正確で変更不可能となります。

ブロックチェーン・ネットワークの種類

ブロックチェーン・ネットワークの構築方法には複数あり、主なものとして以下の4つの種類を挙げることができます。

  • パブリック型
  • プライベート型
  • 許可型
  • コンソーシアム型

パブリック型ブロックチェーン・ネットワーク

 

誰でも参加可能で、ビットコイン・ブロックチェーンはその代表例です。分散化という長所がある一方で、高い計算能力が必要、トランザクションのプライバシーが不十分、セキュリティーが脆弱などの短所もあります。企業がブロックチェーンを利用する際は、こうした点を検討することが特に重要です。

プライベート型ブロックチェーン・ネットワーク

 

パブリック型ブロックチェーン・ネットワークと同様、分散型のピアツーピア式ネットワークです。ただし、ネットワークは単一組織によって管理され、参加者、コンセンサス・プロトコルの実行者、共有台帳の維持管理者が制御されます。ユースケースによっては、この構造により参加者間の信頼関係が大幅に高まる可能性があります。プライベート型ブロックチェーンは企業のファイアウォールの内側で実行可能で、オンプレミスでホストすることもできます。

許可型ブロックチェーン・ネットワーク

 

企業がプライベート・ブロックチェーンを構築する場合に利用されます。ただし、パブリック・ブロックチェーン・ネットワークも許可制にできることに留意する必要があります。許可制にすることで、ネットワークの参加者と参加可能なトランザクションを制限できます。参加者は招待状か参加許可を取得する必要があります。

コンソーシアム型ブロックチェーン・ネットワーク

 

事前に選択された組織グループによって能動的に管理されるネットワークで、ブロックチェーンを維持する責任は共有されます。トランザクションの送信者やデータへのアクセス権者は組織が決定します。複数の当事者が共有責任により協力し合う必要がある場合に最適です。エネルギー分野ではエネルギー生産者と消費者がこのタイプのネットワークを利用して電力使用量と配電に関するデータを共有する場合があります。

ブロックチェーン・プロトコルとプラットフォーム

ブロックチェーン・プロトコルとは、ブロックチェーン・ネットワーク内でのデータの記録、共有、保護方法を定める一連のルールであり、ネットワークの運用基盤となります。ただし、ブロックチェーン・プロトコルを最大限に活用するには、開発者は分散アプリケーション(dApps)を構築、デプロイし、対話するための環境とツールを提供するプラットフォームを必要とします。

そのため、このプロトコルを基盤にブロックチェーン・プラットフォームが構築され、ブロックチェーン・エコシステム内でアプリを作成・実行するために必要なインフラストラクチャーとサービスが提供されます。プロトコルが主要な機能を定義するのに対し、プラットフォームは実用的なソリューションの開発を可能にして、こうした機能を拡張させます。

プラットフォームは通常、特定のプロトコルに依存して動作するため、ブロックチェーン・プロトコルとプラットフォームは重複することがよくあります。

以下は、一般的なブロックチェーン・プロトコルとプラットフォームの概略です。

  • Hyperledger Fabric
  • イーサリアム
  • Corda
  • Quorum

Hyperledger Fabric

Hyperledger Fabricは、Linux® Foundationのオープンソース・プロジェクトである、モジュール型のブロックチェーン・フレームワークです。IBM® Blockchain Platformをはじめとする企業向けブロックチェーン・プラットフォームの実質的な標準となっています。エンタープライズ・グレードのアプリケーションと業界戦略を開発するための基盤となることを意図して設計されたHyperledger Fabricのオープンなモジュール型アーキテクチャーは、プラグ・アンド・プレイのコンポーネントを使用して、幅広い事業用ユースケースに対応します。

イーサリアム

イーサリアムは、開発者がスマート・コントラクトと分散型アプリケーションを構築、デプロイできるようにする分散型オープンソース・ブロックチェーン・プラットフォームです。Ethereum Enterpriseは、ビジネス用途に特化したブロックチェーンとして設計されたものです。

Corda

Cordaは企業向けに設計された分散型台帳プラットフォームであり、許可型ネットワーク上で安全な非公開トランザクションを実行します。組織はデータを共有して該当当事者とのみ契約を締結できるため、金融、医療、サプライチェーン管理などの業種に特に適しています。Cordaではプライバシー、拡張性、規制遵守が優先されます。

Quorum

Quorumは、イーサリアムをベースにしたオープンソースの許可型ブロックチェーン・プラットフォームであり、大企業向けの設計になっています。高度なプライバシーと拡張性を提供し、プライベート型ネットワーク内でスマート・コントラクトを実行し、トランザクションを安全に履行できます。トランザクションのプライバシー確保やより迅速なコンセンサス・メカニズムなどの主要な機能に対応するため、機密性と規制遵守が重要な金融機関に最適です。

ブロックチェーンとセキュリティー

エンタープライズ用のブロックチェーン・アプリケーションを構築する際は、サイバーセキュリティー・フレームワークや保証サービス、ベストプラクティスを利用して攻撃や詐欺に対するリスクを低減する、包括的なブロックチェーン・セキュリティー戦略を練る必要があります。戦略にはIDおよびアクセス管理(IAM)などの重要領域を盛り込んで、承認済みユーザーのみが重要コンポーネントにアクセスできるようにすると同時に、データ保護のために強力な暗号化手法を採用する必要があります。さらに、ネットワークの整合性を維持するために、攻撃耐性のある効果的なコンセンサス・メカニズムを採用することも重要です。

上記以外の重要なセキュリティー要件には、次のものがあります。

  • コードの欠陥は重大なセキュリティー侵害につながる可能性があるため、スマート・コントラクトの脆弱性を定期的に監査およびテストします。
  • ゼロ知識証明などのプライバシー強化技術を実装することで、GDPRなどの業界規制や金融基準に準拠します。
  • セキュアなメッセージング・プロトコルを統合すると、ブロックチェーンベースのネットワーク内で機密性の高い通信が円滑に実行されるようになり、メッセージとトランザクションのプライバシーと改ざん防止につながります。
  • 継続的な監視と明確に定義されたインシデント対応計画を採用すると、セキュリティー上の問題の検出と対処が迅速化し、潜在的な脅威の影響が最小限に抑えられます。

ブロックチェーンとビットコインの違い

ビットコインは、権限集中型でないピアツーピア式のトランザクションを実現した世界初の分散型デジタル通貨です。基盤インフラとしてブロックチェーン技術を採用しており、すべてのビットコイン・トランザクションを記録および検証する分散型台帳として機能します。

最も有名な暗号通貨として、ブロックチェーン・エコシステムの中心的な役割を果たしていますが、より広範な進化しつつある市場の構成要素でもあります。ビットコインや暗号通貨の価格は、技術進歩、市場センチメント、投資家需要、規制改正などの要因により、きわめて変動的です。

ブロックチェーンとAI

ブロックチェーンとAIの組み合わせは、さまざまな業種・業務で新たな商機を生み出しています。ブロックチェーンの不変の台帳と分散化というメリットを活用することで、AIはデータの透明性とセキュリティーを向上させ、説明可能なAIなどの課題に対処できます。

例えば、サプライチェーン管理で製品のトレーサビリティーと正規品の確保にブロックチェーンを活用する一方で、需要予測と物流最適化にAIによるデータ分析を活用できます。また。金融サービス分野ではリスク評価の自動化にAIが、トランザクションの保護と法令遵守の徹底にブロックチェーンが活用されています。

上記以外にも、ブロックチェーンとAIの統合は、医療などの業種・業務でも大きな進歩を遂げています。医療従事者は、各自に適した治療方法を特定する目的で患者データの分析にAIを利用したり、医療記録のプライバシーとセキュリティーを確保するためにブロックチェーン・ソリューションを利用したりしています。このように両方の技術を集約することで、信頼強化、効率向上、プロセス自動化の促進が徹底され、業種・業務全体でより迅速で信頼性の高い業務遂行につながります。

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