顧客体験(CX)におけるAI

会議中にマーカーペンでホワイトボードに書く女性

共同執筆者

Teaganne Finn

Staff Writer

IBM Think

Amanda Downie

Staff Editor

IBM Think

顧客体験(CX)におけるAI

顧客体験(CX)におけるAIには、企業内のカスタマー・ジャーニーのすべての構成要素に人工知能(AI)テクノロジーを応用することが関係しています。

顧客が企業により多くのことを期待し続けるようになっている中で、顧客体験はAIを活用したテクノロジーの貴重なユースケースとなりました。このアプローチで導入されるAI技術には、機械学習、自然言語処理(NLP)、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)、予測分析などが含まれます。AIを組み込むことは、現代のあらゆるデジタル・トランスフォーメーションの取り組みにおける主要な構成要素となっています。

AIは、膨大な量の顧客データを分析して分類することで、顧客対応を強化します。データ分析の結果として、あらゆるタッチポイントで顧客のニーズに対応し業務効率を向上させる、高度にパーソナライズされた顧客体験が実現します。

AIを活用した顧客体験は、そのデータ処理と詳細な分析実行能力により、他のアプローチとは一線を画すものとなっています。パターンの検出、購入履歴の確認、ソーシャル・メディア行動の監視といった機能により、企業は顧客の好みや対応を調整することができ、導入直後から顧客満足度を向上させることができます。

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顧客体験においてAIが重要である理由

今日の顧客は、企業が提供するエンドツーエンドのエクスペリエンスに大きな期待を寄せています。企業は、顧客のそのようなニーズを満たす方法を見つける必要があります。ビジネス・リーダーは、時代を先取りして新しいテクノロジーを導入し、消費者を満足させ続けるための戦略を検討する必要があります。

AIツールを使用することで、企業は大量のデータを取得し、顧客行動と顧客エンゲージメントを分析できます。また、AIソリューションと生成AIツールにより、AI搭載のチャットボットを構築して、カスタマー・サポートを管理し、バーチャル・アシスタントを顧客に提供することもできます。

AI技術の導入にはリスクが伴うこともありますが、適切に実装できれば大きなメリットが得られます。これには、意見に耳を傾け、テストし、イノベーションを活用するというプロセスが含まれます。AIを実装することで、企業は顧客からのフィードバックやユーザー・エクスペリエンスを活用して顧客とのやり取りをパーソナライズし、信頼を勝ち得ることができます。

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顧客体験におけるAIのメリット

AIを活用した顧客体験システムには、いくつかの大きなメリットがあります。

パーソナライズされた推奨

AIツールの主なメリットの1つは、機械学習アルゴリズムを使用して、顧客の行動に関する貴重な洞察を得られることです。このテクノロジーにより、企業は顧客の興味や好みを追跡し、推奨内容をカスタマイズできます。このパーソナライズされたアプローチにより、顧客ロイヤルティーと販売コンバージョン率を向上させることができます。

バーチャル・アシスタント/カスタマー・サポート

AI搭載のチャットボットは、テクノロジーの向上に伴い人気が高まっています。AIルーティングにより、特定の顧客がサポートを求めている理由を予測できるようになりました。チャットボットは対話型AIを使用して、問い合わせへのすばやい回答や簡単な問題の解決方法を求める顧客のための、24時間体制のコンタクト・センターとして機能します。

オムニチャネルのサポート

AIのメリットの1つは、オンライン、店舗、モバイル、ソーシャル・メディアなど、複数のソースからのデータを統合できることです。これにより、顧客は中断されることなく自由にチャネルを切り替えることができ、取引への関心を保ち続けられる可能性が高くなります。

センチメント分析

顧客は、多くのさまざまな方法とチャネルによりフィードバックを返します。AIはこのフィードバックからテキストを分析し、感情分析を通じて感情を判断できます。このアクションは、企業が顧客をより深いレベルで理解し、製品について顧客がどのように感じているかを真に理解する上で役立ちます。

リアルタイムのパーソナライゼーション

今日の顧客はリアルタイムのアクションを期待しており、AIを使用すると、企業はその場でカスタマー・ジャーニーを変更できます。AIツールにより、Webサイトのコンテンツを、顧客のリアルタイムの検索内容により一致度の高い製品が強調されるよう調整できます。

AI搭載のCRM

顧客体験にAIを追加すると、顧客関係管理(CRM)システムを改善できます。AI搭載のCRMは、データ入力やリード・スコアリングなどのタスクを自動化し、どのリードがコンバージョンする可能性が高いかを営業担当者が予測するのに役立ちます。これにより、営業チームは意思決定プロセスを改善できます。

顧客体験におけるAIの課題

ビジネスの顧客体験の領域へのAIの実装は、期待感を抱かせるものですが、いくつかの課題も生じます。

人とのやり取りが減る:AIは効率的で革新的なテクノロジーですが、顧客が求めているような人間味には欠けている場合があります。顧客は依然として、ある程度の人と関わりと共感を期待している可能性が高いです。AIを過度に使用すると、顧客は疎外感を感じる可能性があります。

より複雑なシステム統合:AIを活用したシステムを既存のカスタマー・サービス・システムに導入することは、困難で複雑な作業となる場合があります。統合は落ち度なく調整して、顧客体験にマイナスの影響を及ぼさないようにする必要があります。

顧客の信頼不足:AIシステムは期待値こそ高いものの、顧客の信頼を構築することは依然として難題です。一部の顧客は、AIを活用した対話やソリューションの正確性に懐疑的です。

顧客体験におけるAIのユースケース

大手企業は、顧客体験におけるAIの力を活用し始めており、そのROIも手にし始めています。以下は、顧客体験におけるAIが、企業と顧客とのやり取りをどのように変え、ビジネス・モデルを消費者のニーズに合わせてさらにどのように調整したかを示す例です。

ウィンブルドンのAIを活用したソリューション

世界で最も有名なテニス・トーナメントの1つであるウィンブルドンは、IBM®コンサルティングと提携して 、AI生成の洞察と世界クラスのデジタル・エクスペリエンスを生み出しました。

エンタープライズ対応の生成AIソリューションは、試合前の概要と試合後の分析を提供します。また、IBM® watsonx.ai™でトレーニングされて調整されたモデルを使用して、生成AIアプリケーションは関連データを抽出して要約し、自然言語でストーリーを生成します。

Starbucksの予測分析

Starbucks社はAIを活用して「人とのつながりを強化」しています。1Deep Brewの取り組みを通じて、Starbucks社はコーヒー・ビジネスと店舗での顧客体験を向上させるための一連のAIツールを構築しました。

このツールは、機械学習と予測分析を使用してマーケティング・メッセージをパーソナライズし、顧客維持を促進し、ワークフローを改善します。このツールはモバイル・アプリケーションで使用され、特に顧客の注文履歴や場所などに基づいてメニュー項目を提案します。

Boots UKのデジタル・トランスフォーメーション

健康・美容の小売業者であり薬局チェーンでもあるこの企業は、eコマースの世界における進化するニーズに応えるためにインフラストラクチャーのアップグレードを必要としていました。Boots社はIBMと協力してレガシー・プログラムをIBM® Cloudに移行し、IBM Cloudコンテナ・プラットフォーム上でRed Hat® OpenShift®を使用してデジタル環境を構築、複製、テストしました。

インフラストラクチャーがモダナイズされたことで、Boots社はブラック・フライデーなどの大規模な販売イベントや主要製品の発売に容易に対応できるようになりました。さらに、この変革により、サイトの検索機能と、商品を紹介するパーソナライズ機能が向上しました。

Amazonの推奨システム

Amazon社のAIシステムは、パーソナライズされた商品を顧客に推奨することで、eコマースのショッピングに革命をもたらしました。このデータ主導のシステムは、顧客の行動、購入履歴、カート履歴などを分析して、人口統計を把握し、他の顧客が何を購入する可能性があるかを理解します。

Amazon社は、NLPを使用してカスタマー・レビューや製品説明の情報を抽出しています2。別途、機械学習とディープラーニング・アルゴリズムを使用して、レコメンデーション・システムを管理しています。履歴データに基づいてモデルをトレーニングし、オムニチャネル・アプローチを通じて消費者に正確な製品予測を提供します。

顧客体験におけるAIの未来

AIは、さらに進歩するにつれて、顧客体験により大きな役割を果たす可能性があります。以下に、今年中の残りの期間とその後についての予測をいくつか示します。

没入型のAI体験

拡張現実(AR)や仮想現実(VR)など、他の関連技術における進歩がさらに前面に出てくる可能性があります。例えば、顧客はデジタル・バージョンの自分を作成して、購入前にVR環境で試着できます。このような進歩は、顧客と企業とのやり取りやつながりを変革する可能性があります。

自律型AIとオートメーション

AIの現在の役割は、プロセスをより高速かつ効率的にすることですが、時間が経つにつれて、顧客体験(CX)の管理においてより自律的な役割を果たすようになる可能性があります。将来的にはAIの統合は、セルフサービス・ツールなど、ビジネス・エコシステムの一部になると思われ、それもさらに普及していく可能性があります。

会話インテリジェンス・テクノロジー

企業のオンライン・チャネルや電話チャネルは依然として顧客体験(CX)ジャーニーの定番であるため、会話インテリジェンスは今後も人気が高まる可能性があります。適切なツールを導入すれば、企業は会話インテリジェンスによって顧客エンゲージメントについてより深い洞察を得ることができ、従業員エクスペリエンスも向上させることができます。

AIを取り巻く倫理

テクノロジーの進歩は、特にAIを活用したツールに関しては目を見張るものがあります。しかし、これらの新しいテクノロジーにはより多くのリスクが伴い、AIの倫理と透明性に重点を置く必要性が高まっています。顧客は、企業でデータがどのように使用されているか(とりわけAIプロセスでどのように使用されているか)を知りたいと思っています。AIで顧客体験を継続的に向上させるには、顧客の信頼が重要になります。

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脚注

 How Does the Amazon Recommendation System Work?, Baeldung, 18 March 2024