AIを「投資」から「価値創出」へ
【このレポートでわかること】 本レポートでは、生成AIを活用してROIを最大化し、価値創出へとつなげる戦略を解説します。
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日本考察──注目すべき視点
本レポートには、日本市場向けの特別考察を収録しています。日本企業がエージェント型AIを導入する際に直面する、業務標準化やデータ統合の遅れといった課題への打ち手を提案します。
日本企業は、エージェント型AIの導入において世界の先進企業に後れを取っている
AI導入には、日本市場特有の3つの構造的課題がある
・フルスクラッチ開発に依存する傾向が強く、パッケージ利用が浸透していない
・組織横断での業務標準化が遅れ、全体最適が困難
・データが事業部門ごとに散在し、統合・活用が進みにくい
持続的な価値創出には、5つの戦略的アクションが有効
・パッケージ活用と業務標準化を同時に進め、AI導入の前提を整備
・データ統合基盤を構築し、再利用可能なデータ資産を整える
・コア業務とノンコア業務を明確に区別し、適切なAI適用領域を選定
・投資効果の検証を組み込んだプロジェクト運営体制を構築
・技術選定の柔軟性を確保し、外部連携と拡張性を前提に導入を設計
AI投資の“その先”へ─成果を生む企業の新常識
生成AIを導入する企業が増加している一方で、ROIを達成したAI施策は、全体の4分の1ほど。 いま企業には、AIを業務の中心に据え、営業利益や株主価値に直結する持続的な成果を生むことが求められています。 財務成果の創出は、エージェント型AIの活用や、部門横断の責任体制の構築、信頼性の高いデータ基盤の整備がカギを握っています。

成果につながらないAI施策、原因はどこに?
生成AIの進化により、企業のAI活用は「試してみる段階」から「成果を出す段階」へと大きくシフトしています。投資対効果(ROI)や営業利益といった財務的な成果に対する期待が高まる中、生成AIをどう導入し、どのように価値を創出するかが重要な経営課題になっています。
このレポートは、そうした変化を踏まえて、企業がAI施策を単なる実行で終わらせず、確実に成果につなげるための戦略や実践例を明らかにすることを目的としています。特に、エージェント型AIの活用がどのように業務プロセスや意思決定を変革し、財務的なインパクトを生み出しているのかに注目しています。
調査は、IBM Institute for Business ValueとOxford Economicsが共同で実施したもので、世界19地域・18業種の経営層2,500人と、6カ国・11業種の最高幹部職400人を対象に行われました。定量調査に加えて、相関分析やクラスター分析などの手法を用いて、AI導入の成熟度や成果との関係性を分析しています。
今こそ見直そう、AI投資の「真の成果」
生成AIへの期待が高まる一方で、「本当に成果が出ているのか?」という問いが突きつけられています。実際、過去3年間において、期待されたROIを達成したAI施策は、全体の25%ほどというデータもあります。一方で、営業利益は着実に伸びており、生成AIが株主にもたらす実際の価値は増大していることがわかります。これは理論上の数字というばかりではなく、株主に実際に還元される「確かな成果」です。かつてPoC段階において目覚ましい短期的な成果を誇っていたプロジェクトも、全社に展開されると、ROIは約7%という現実的な水準に落ち着く傾向があります。
企業は短期的な成果ではなく、持続的な財務的インパクトに目を向ける必要があります。今こそ、AI投資の「真の成果」とは何かを見直すタイミングです。
AIによる営業利益の向上効果は、着実に伸び続けている

コア業務へとシフトするAI投資
生成AIはもはやノンコア業務の効率化ツールではありません。現在、生成AI関連予算の64%がコア業務に充てられており、企業の競争力の源泉として活用されています。こうした配分の見直しは、生成AI活用の成熟度の高まりの現れであり、生成AIはノンコア業務ではなくコア業務に活用した場合に、最も価値を発揮するという認識が広まっている証拠です。
コア業務での生成AI活用は、単なる効率化ではなく、ビジネスモデルや価値提供のあり方そのものを変える可能性を秘めています。もちろん、コア業務への生成AI導入は簡単ではありませんが、長期的には持続的なリターンとスケールの拡大につながります。企業は今、AI投資を見直し、戦略的に再配分することが求められています。
企業はAI投資をコア業務 へ振り向ける意向である

ケース・スタディー
背景と課題
世界で毎年70万人が大腸がんで亡くなっており、その54%は早期発見で予防可能とされています。従来の内視鏡検査は侵襲的でコストも高く、医療現場の負担となっています。
ソリューション
Informed Genomics社とCanSense社は、IBMのAIプラットフォームを活用し、非侵襲的な血液検査による大腸がん検出ソリューション「CanSense–CRC」を開発。分光法と独自AIにより、血液サンプルから腫瘍マーカーを検出します。
効果
診断期間を数週間から数日に短縮し、90%の高感度で精度も向上。臨床医はリスクの高い患者を優先的に対応でき、医療の効率化と患者の予後改善に貢献しています。
※詳細はレポートにてご確認ください。
背景と課題
建設業界は労働災害が多く、安全対策が喫緊の課題です。現場では高電圧設備や火災リスクなどが混在し、複数チームの連携が難しい状況にあります。
ソリューション
Edsvärd Hållbarhet社はIBMと連携し、AIを活用したインテリジェントな安全管理システムを開発。作業チーム間のコミュニケーションを支援し、安全手順の徹底を促進します。
効果
作業効率50%以上向上、情報検索時間50%以上削減、反復的な管理タスク75%以上削減を実現。安全性と業務効率の両立に成功し、業界の新たなスタンダードを提示しています。
※詳細はレポートにてご確認ください。
“静”から”動”へ─エージェント型AIの台頭
従来のAIは、静的で受動的なロボティック・プロセス・オートメーション(RPA:定型作業の自動化技術)にとどまっていました。今注目を集めているのは「エージェント型AI」です。エージェント型AIとは、人間の監督なしに、定められた目的を自律的に達成できるAIシステムのことです。
AIを用いたワークフローの割合は、2024年には全体の3%に過ぎなかったものの、2025年末には25%まで拡大する見込みです。これは単なる段階的な改善ではなく、業務全体にわたるビジネス・プロセスの根本的な再構築が進んでいることを示しています。
エージェント型AIは、単なる自動化にとどまらず、インテリジェントなオーケストレーション(全体的な調整・統合)を実現することで、業務設計そのものを再定義しようとしています。
AIを用いたワークフローは2025年末までに8倍に増加すると見込まれる

ケース・スタディー
背景と課題
IT運用では、インシデントの根本原因特定や対応の遅れが大きな課題です。特に複雑なシステム環境では、人的対応に限界があります。
ソリューション
IBMは、LLMとエージェント型AIを組み合わせたIT運用ソリューションを開発。因果関係に基づくAIアルゴリズム「PRCI」により、診断からアクション生成までを自動化しました。
効果
インシデントの真陽性率が1.6倍に向上し、偽陽性率は約200分の1に減少。IT課題の解決時間を大幅に短縮し、運用の信頼性と効率性を高めています。
※詳細はレポートにてご確認ください。
成果を出すのは「AIファースト」な企業
生成AIを導入しているかどうかではなく、どのように導入しているかが、企業の成果を大きく左右しています。IBVの調査によると、「AIファースト」と呼ぶにふさわしい企業は全体の約25%にとどまります。こうした先進的な企業は、AI施策に起因する収益や営業利益の向上において、同業他社を上回る成果を残しています。
AIの成熟度は、売り上げの成長だけでなく、業務効率の根本的な改善にも影響を与え、顧客満足度や従業員の生産性にも波及しています。さらに、「AIファースト」な企業は、データガバナンスなどAI活用の土台の整備にも力を入れており、持続的な競争優位を築いています。成果を出すのは、生成AIを単なるツールではなく、戦略の中核に据えている組織なのです。
過去1年間において、自社の収益成長と営業利益の向上のうち、半分以上がAI施策に起因するとAIファーストの企業は見なしている

ケース・スタディー
背景と課題
資産価値は日々変動するにもかかわらず、従来の評価は6〜12カ月に一度。投資判断に遅れが生じ、正確性にも課題があります。
ソリューション
Trust Anchor GroupはIBMと協力し、AIを活用した動的資産評価アプリケーションを開発。市場の変化やイベントをリアルタイムで分析し、人的介入なしで資産価値を自動調整します。
効果
評価にかかる時間を最大96.7%短縮。投資家に対して正確かつ最新のインサイトを提供し、自然言語によるバーチャル・アシスタントで顧客体験を向上しています。
※詳細はレポートにてご確認ください。
背景と課題
医薬品・医療業界では、品質管理や設備保全、エネルギー管理など多岐にわたる業務の効率化が求められています。
ソリューション
Thermo Fisher Scientific社は、社内検索エンジン「GeneAI」や製造ラインの品質管理にAIを導入。逸脱管理や是正措置(CAPA)にもAIを活用し、根本原因分析や是正案の策定を効率化しています。
効果
予知保全やエネルギー最適化にもAIを応用し、業務効率と信頼性を大幅に向上。AIは同社の業務全体に浸透し、イノベーションと競争力の源泉となっています。
※詳細はレポートにてご確認ください。
アクション・ガイド
生成AI導入成功のカギは信頼性・透明性・再利用可能性を備えたAI基盤に基づくAIガバナンスとデータ戦略にあります。
※詳細はレポートにてご確認ください。
AI施策を成功させるには、単なる支援者ではなく、実行者として経営層がリーダーシップを発揮することが重要です。AIが自分たちの仕事にも影響することを周知し、企業文化の変革を主導しましょう。
すべての業務に生成AIを導入するのではなく、真に価値を発揮できる領域に絞って投資しましょう。KPIとAI施策を結びつけ、成果を追跡できる仕組みを整えることが求められます。
IT部門だけでなく、各事業部門のリーダーが生成AIの成果責任を担う体制に移行しましょう。人事評価や報酬制度にも目標を反映させることで、コア業務への本格的なAI活用を促進します。
信頼性・安全性・拡張性を確保するために、設計段階から生成AIのライフサイクル全体にわたってガバナンスを組み込みましょう。監視やガードレール、可観測性の仕組みが不可欠です。
AIエージェントの活用基盤となる、信頼性が高く再利用可能な「データプロダクト」を整備しましょう。責任の所在やサービスレベル合意(SLA)を明確にし、高精度な推論と判断を支える基盤の構築が必要です。
成果を出すのは「AIファースト」な企業
生成AIを導入しても思うような成果が出ない──そんな課題に直面している企業は少なくありません。PoCの成功だけでは不十分で、営業利益や株主価値といった「真の成果」に目を向けるため、ROIの再定義が求められています。さらに、AI投資はノンコア業務からコア業務へと移り、エージェント型AIの台頭によって業務プロセスそのものが再設計されつつあります。
こうした変化の中で成果を出すには、生成AIを戦略の中心に据え、経営層の関与やデータガバナンス、部門横断の責任体制などを整えることが不可欠です。企業はまさに今、生成AIを「どう使うか」ではなく、生成AIで「何を実現するか」を考えていくフェーズにあるといえます。
成功事例の具体的な手法や、調査結果の詳細をご覧になりたい方は、ぜひレポートをダウンロードしてご確認ください。
著者について
Brian Goehring, Associate Partner and Global AI Research Lead, IBM Institute for Business ValueFrancesco Brenna, Global Vice President and Senior Partner, Artificial Intelligence, IBM
Kate Blair, PhD, Director of Incubation and Technology Experiences, IBM Research
Matt Sanchez, Vice President, Product, watsonx Orchestrate™
Nick Fuller, PhD, Vice President of AI and Automation, IBM Research
発行日 2025年9月12日








