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MaaSが実現する「移動体の中でのサービス」

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皆さんは、遠方の目的地へと移動する際に、事前に移動のプランを綿密に立案しますか?
移動中に、交通状況や天候が変化した場合には、臨機応変に移動のプランを変更できますか?
滞りなく移動できている場合、移動時間は何をして過ごされますか?
モビリティー(移動)をサービス化する「MaaS(マース)」は、前述したそれぞれの局面で何らかの解決策を提供できる可能性があります。

現在、国内では複数のMaaSの実証実験が行われています。その多くは、「マルチモーダル・モビリティー・サービス(複数の交通機関の連携による交通環境の効率化を実現)」に関するものです。実は、MaaSが実現するサービスには、その他に、「マッチング・サービス」と「移動体(車や鉄道などの移動手段)の中でのサービス」があります。「マッチング・サービス」は、オンライン配車やライドシェアに関するものであり、「移動体の中でのサービス」は、まさに、本記事の冒頭に述べたような局面のためのサービスとなります。

「移動体の中でのサービス」とは〜2030年 自動車業界の将来展望より

「移動体の中でのサービス」がどのようなものかをイメージしていただくために、まず、『2030年 自動車業界の将来展望』の冒頭に記されている「2030年の朝の通勤風景」を見てみましょう。

「2030年の朝の通勤風景」には、ACES(Autonomous, Connected, Electrified and Shared)と呼ばれる車両が、「あなた」を自宅まで迎えに行き、勤務先まで送り届ける間の「移動体の中でのサービス」が描かれています。

『2030年自動車業界の将来展望』の表紙「ACESがあなたの目的地までの運転を開始するとともに、通勤に影響を及ぼす事故の情報をあなたに伝えます。ACESは、代替ルートを提案するとともに〜」
この場面は、クルマが外部データと接続されていることで、クルマは臨機応変にルート変更の提案が行なえます。

「ACESは、あなたの承認済みリストにある地元企業と情報連携をします。そして、あなたの配偶者が参加したいコンサートが開催される施設を通過する際に、スケジュール、チケット価格、空席状況を確認して、チケットを購入するかどうかを尋ねます」
この場面は、モビリティー・プロファイルに「あなた」と「あなたの配偶者」の趣味や嗜好といった個人情報が開示されていることが前提です。

「2030年の朝の通勤風景」は、2030年の自動車産業に関する以下のような予測に基づいて描かれています。

  • 15台のインターネットにつながるデバイスを、すべての人が所有します。¹
  • 2030年までに、販売される新車の最大15%が、完全に自動運転化される可能性があります。²
  • 車両の革新の90%をソフトウェアが占めるようになり、プログラム規模(コード行数)は現在の100倍になります。³
  • カーシェアリングは、世界の走行距離の26%を占める可能性があります。⁴

ただ、海外が前提で描かれている「2030年の朝の通勤風景」は、日本の我々からすると他人事のように感じられることは否めません。

「2030年の観光バス」に見る「移動体の中でのサービス」

次に、日本が舞台の「2030年の観光バス」の映像から、「移動体の中でのサービス」を想起しやすい場面を4つ取り出してみましょう。「2030年の観光バス」とは、2019年の東京モーターショーの日本IBMブースで、幕間やシアター・セッションで上映した映像です。(各場面ごとに、どのようなデータが関わっているかについて、「車両(移動体)」「外部(環境)」「個人」の3つの観点で明示します)

場面1:「体験」の選択肢を乗客に提示
「2030年の観光バス」で「体験」を選択「2030年の観光バス」は、経由地や運行コースは固定ではありません。乗客の嗜好データにもとづいて「体験」の候補が提示され、希望内容を選択することで乗客ごとの目的地が決まります。この場面では、「個人」データの「嗜好」が、「車両」と連携しているデータです。

場面2:最適な走行ルートを決定
「2030年の観光バス」自身が最適な走行ルートを決定「2030年の観光バス」は、全乗客の下車地と乗車地、道路情報と渋滞情報、そして「車両」自身の「位置情報」を用いて、最適な走行ルートを決定します。この場面では、「個人」データの「嗜好」情報と、「外部」データの「道路情報」と「渋滞情報」が、「車両」と連携しているデータです。

場面3:景観の鑑賞を乗客に提案
「2030年の観光バス」が景観の鑑賞を提案「2030年の観光バス」は、天候の情報と「車両」自身の「位置情報」を分析して、鑑賞に良い景観を判定。乗客に鑑賞を提案します。この場面では、「個人」データの「嗜好」情報と、「外部」データの「天候情報」「道路情報」「渋滞情報」が、「車両」と連携しているデータです。

場面4:乗客の嗜好に基づく購買の提案
「2030年の観光バス」が乗客の嗜好に基づく購買の提案「2030年の観光バス」は、「車両」自身の「位置情報」と「過去を含む走行ルート」を参照しながら、移動中の車内で乗客の嗜好に基づく購買の提案が行えます。この場面では、「個人」データの「嗜好」情報と、「外部」データの「店舗情報」「渋滞情報」「道路情報」「天候情報」が、「車両」と連携しているデータです。

ここまで、一言で「連携しているデータ」と書き続けましたが、「移動体」、「個人」、「外部」のデータ連携は、どのような仕組みで行えるのでしょうか。

「移動体」とのデータ連携を実現するクラウド上のサービス基盤と、欧州のMaaS事例で活用された「IBM Garage」

「移動体」には、インターネットにつながるデバイスが設置され、位置情報などのデータをリアルタイムにクラウド上のサービス基盤に送ります。クラウド上のサービス基盤の1つに、IBM IoT Connected Vehicle Insights(以降、略称の「CVI」で記述)と呼ばれるものがあります。CVIは「移動体」の情報をダイナミック・マップに取り込むことで、道路やその周辺環境の最新の状況を把握できます。また、地図上のルートと「移動体」の走行軌跡をマッチングすることで、走行中の道路や周囲の状況を先読みして「移動体」に通知できますし、「移動体」からの情報を分析することで、ドライバの運転挙動を判定できます。そして、CVIがバックエンド・システムや外部のサービス事業者のデータと連携することにより、「移動体」のデータと組み合わせた新たなモビリティ・サービスが創出できるのです。

IBM IoT Connected Vehicle Insightsのコンポーネント概要図

IBM IoT Connected Vehicle Insights(CVI)のコンポーネント概要図(クリックで拡大表示)

CVIは今日現在存在しているサービス基盤であり、例えば、フランスの大手保険会社グルパマ社はクルマの走行データを収集してドライバーの運転技量を分析および評価し、保険料の算定に反映させるテレマティクス保険にCVIを活用しています。また、国内では、株式会社IDOMが提供する個人間のカーシェアリング・サービスでは、クルマを借りたい人がどのような運転をしてきた方なのかを評価するためにCVIを活用しています。

MaaSが実現する「移動体の中でのサービス」は、決して絵空事ではありません。「車両(移動体)」「外部(環境)」「個人」に大別されるデータの三位一体の相関を踏まえた最適なソリューションの提供が可能です。サービスの基盤には、CVIが利用可能です。また、「IBM Garage(ガレージ)」というコンサルティング・メニューを活用いただくことで、顧客体験を意識したサービスを構想してプロトタイプを作成し、短いサイクルで改善を繰り返せます。

事実、欧州には、IBM Garageを活用いただいた「移動体の中でのサービス」のMaaS事例が複数あります。代表的なものを列挙しましょう。

今後、国内で「移動体の中でのサービス」の実証実験をご検討の際には、ぜひ、IBM Garageをご活用ください。

関連情報


¹ Heslop, Brent. “By 2030, Each Person Will Own 15 Connected Devices—Here’s What That Means for Your Business and Content.” Martech Advisor. March 4, 2019.

² “Automotive revolution—perspective towards 2030: How the convergence of disruptive technology-driven trends could transform the auto industry.” McKinsey & Company. January 2016.

³ “VW CEO expects software to make up 90 percent of auto industry innovation.” Reuters. Auto.com. From The Economic Times. March 13, 2019.

⁴ “Shared Mobility on the Road of the Future.” Morgan Stanley. June 15, 2016.


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