チャットボットのデザインとは、ユーザー・エクスペリエンス(UX)デザイン、ユーザー・インターフェース(UI)デザイン、コピーライティング、対話型AI、機械学習を融合して、チャットボット、音声自動応答(IVR)、バーチャル・アシスタントのデプロイメントに取り入れることです。その中では、人間のユーザーとの相互作用、求める結果、パフォーマンスの最適化について規定します。
エンタープライズ環境における高度なチャットボット設計のプロセスでは、ビジネス・プロセス管理とプロセス・マイニングも取り入れます。チャットボットの導入がどの部分でどのようにユーザー・エクスペリエンスとビジネス成果を向上させるかを特定して、チャットボットとのやりとりの最中またはその後で実行する具体的なアクションを定めます。
チャットボットのデザインにおけるUIデザインとUXデザインは、ユーザー指向設計の他の分野の場合と同様に、2つの異なる概念が互いに関連しています。
UIデザインは、物事の見た目に関連しています。見た目とはすなわち、レイアウト、ボタン、トグル、色、テキスト・フィールド、フォントなどの具体的な視覚要素であり、製品、アプリ、Webサイトのうちで、ユーザーが最も直接的に操作する部分(すなわち「インターフェース」)です。チャットボットのUI設計は、例えばユーザーがテキストを入力する場所や、チャットボット・ウィンドウのサイズと位置などに関する意思決定の基になります。
UXデザインは、物事の仕組みに関連しています。仕組みとはすなわち、各ステップで実行できるアクション、ユーザーに提供する情報やユーザーから収集する情報、理想的なユーザー・ジャーニーの展開方法など、戦略とロジスティクスに関する事柄です。チャットボットのUXに関する検討事項には、チャットボットが尋ねる質問、個別の入力に対してチャットボットが応答する方法、人間のエージェントにケースをエスカレーションすべきタイミングなどがあります。
要するに、UXデザインを動作として提示するのがUIデザインです。チャットボットが発言する内容(およびその理由)はUXデザインの話ですが、そのチャットボットとの対話をユーザーに表示する方法はUIデザインの話です。あるいは、特定のステップでチャットボットが要求する情報はUXデザインの話ですが、ユーザーからの回答を入力形式とドロップダウンでの選択形式のどちらにするかはUIデザインの話です。
企業のチャットボットのユーザー・インターフェースは、そのブランド、ユーザー、ユースケースの性質によって異なる細かな部分がある一方で、UIデザインの考慮事項としてきわめて普遍的な項目もあります。
いかなる状況においても、チャットボットのUIは以下を満たしている必要があります。
Slack、WhatsApp、Facebook Messengerのようなサードパーティー製メッセージング・アプリへの統合をはじめ、一部のチャットボット実装では、対話のインターフェースをカスタマイズできません。このような固定的なUI要素は、UXの計画段階で考慮に入れる必要があります。
独自のUIを一から開発するリソースがない企業をはじめ、多くの企業では、UIに関する意思決定を合理化できるテンプレートとドラッグ・アンド・ドロップのワークフローを備えたチャットボット開発ツールを利用するのが最も効率的です。主要なチャットボット・プロバイダーは、スタイルに関する要素をブランディングに合わせてカスタマイズできる機能を提供していますが、実証済みのUIデザイン・パターンを遵守することによって、組織は自社固有のUXの優先事項に専念できます。
これからチャットボットのUXデザインについてさらに説明していきます。その中では、この文脈において特定の意味を持つ用語をいくつか使用します。
優れたチャットボット体験を提供するためには、エンド・ユーザーが何を必要としているのか、そして、それらのニーズのどれを対話型のエクスペリエンスで対処するのが最適なのか、深く理解する必要があります。単にチャットボットを利用できるからではなく、チャットボットが最高のユーザー体験を提供するという確信のもとで、チャットボットを採用しましょう。
FAQは、頻繁に発生する予測可能な質問、タスク、問題に対処するための優れたナレッジ・ベースです。カスタマー・サービス・チームも同様で、インサイトを得るための重要な存在です。堅牢なビジネス・プロセス管理を取り入れると、機会や非効率な部分をより的確に特定できるとともに、各ドメインと密接に関連するさまざまなナレッジ・センター、コミュニケーション・チャネル、複雑さのレベル、セキュリティーのレベル、プライバシーのレベルを明確化できます。
チャットボットが最大の価値をもたらすのは、双方向の対話が必要な場合や、従来の手段よりもチャットボットの方が迅速、簡単、頻繁に目的を達成できる場合です。ドメインによっては、ヘルプ記事やセットアップ・ウィザードで対応する方が適切な場合があります。また、例えば高度な技術的支援を必要とする場合や、機密性の高い個人情報を扱う場合などは、人間の担当者に任せた方がよい場合があります。
初めてのチャットボットでは、応用の前にまずは基礎に取り組むことが得策です。保持しているデータが少ないほど、予測に対する信頼性が低くなります。企業が最初のチャットボットとして、多数のトピックをカバーするチャットボットを何カ月もかけて構築したとしても、ユーザーの行動に関する重要な想定に誤りがあったことが(本番稼働後に)往々にして判明します。その場合、実質的にゼロからのやり直しを余儀なくされます。幅広いドメインに対して一貫性のない結果を返すよりも、対象のトピックとインテントの数を絞って効果的に対処する方が、より質の高いユーザー・エクスペリエンスを提供できます。
ただし、発展の余地があるドメインを対象として選択する必要があります。本当の意味で成功を収めるチャットボット戦略が生み出すのは、スタンドアロンのソリューションではなく、関連するすべてのチャネルに導入する対話型のツールです。Webサイト、メッセージング・アプリ、電話システムなどのチャネルに導入するこれらのツールが、トレーニングと最適化のためのデータを生成および共有することによって、ツールが互いに強化されます。
大まかに言うと、チャットボット製品は2つのカテゴリーに分かれます。1つはルールベースのチャットボット、もう1つはAIチャットボットです。
ルールベースのチャットボットはシンプルで経済的です。こちらのチャットボットはif-then-elseのルールに基づいて動作します。すなわち、各ステップ(または決定木の分岐)には、チャットボットが認識できる特定の入力が割り当てられ、それぞれの入力はスクリプト化された応答と結び付いています。ルールベースのチャットボットは自然言語処理(NLP)を使用しないため、ユーザーの発話は単純なフレーズや事前に作成した選択肢に限定する必要があります。したがって、ユーザーのニーズがきわめて予測可能かつ反復的で分かりやすい場合を除けば、成功が限定的となる可能性があります。スケールアップしてもその点は変わりません。
AIチャットボットの方が堅牢かつ汎用的でスケーラブルです。こちらのチャットボットは、対話型AIなどの人工知能機能を活用して、ユーザーの固有の発話を解釈し、その中に含まれるユーザーのインテントを正確に識別します。ルールベースのプログラミングの補完または代わりとして機械学習を利用することが可能で、優先応答を生み出す可能性が最も高い発話を徐々に学習していきます。過去の発話やサンプルの発話に基づいてトレーニングされた生成AIは、チャットボットの応答をリアルタイムで生成できます。バーチャル・アシスタントは、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)が可能なAIチャットボットであり、有用性がさらに高まります。
多くの状況では、ハイブリッドのアプローチがメリットをもたらします。ほとんどのAIチャットボットは、ルールベースのプログラミングにも対応しています。
顧客体験の細部を設計する前に、チャットボットの基盤について計画します。
ユーザーは無意識のうちに、利用しているチャットボットの性格をおのずと推測します。チャットボットは、共感、好奇心、忍耐力、親近感など、私たちが人間の会話で求めるポジティブな特性を示しつつ、ロボットであることを常に明白にしておく必要があります。これを明白にしておくことは、ユーザーの期待を制御するためにも、人間に似たものに対して奇妙な不安を覚える「不気味の谷」効果を避けるためにも不可欠です。そのためには、名前、アバター、あいさつを注意深く選択するのが最も簡単です。
チャットボットの性格は、対話の設計のほとんどの要素に影響します。性格が自社のブランドに合っていることや、対象のユーザーと機能に適合していることが欠かせません。例えば、フィットネスを支援するチャットボットは、活気のある言葉を使用する必要があります。医療診断アプリは、冗談を避ける必要があります。
まずは、さまざまな尺度に関して、対象のチャットボットが範囲全体のうちでどこに該当するかを検討することから始めます。
チャットボットが担うのは対話の半分だけです。ユーザーが担う半分については、企業側が制御することや完全に予測することはできません。対話を強固に設計し、ユーザーのどのような発話に対してもチャットボットが説得力と生産性のある自然な応答を返したと感じられるよう、対話のフローを制御することによって、ポジティブなユーザー体験を確保できます。
トピックを本当の意味でカバーするには、理想的な対話の経路を設計するだけでなく、混乱や脱線、袋小路の可能性も含めて、対話がたどり得る特殊な経路をすべて考えておく必要があります。「予約を変更したい」という言葉を認識できるようにスケジュール処理用のチャットボットをプログラムしておいたとしても、ユーザーは「火曜日は都合が悪くなった」という言い方をするかもしれません。最も望ましい経路は考えてあったとしても、プランAが失敗した場合のプランBはあるでしょうか。プランBが失敗した場合に、チャットボットはユーザーに問題を説明できるでしょうか。ユーザーが要求を理解していない場合に、チャットボットは発話を言い換えることができるでしょうか。
フローのロジックが万全だったとしても、間違いは発生します。しかし、軽微な不備によってやりとりが損なわれるのは避ける必要があります。この点でも、AIチャットボットには大きなメリットがあります。それは、中断を避けるために入力ミスの一つ一つを人間が予測して計画を立てておくのではなく、人工知能が情報に基づいて推測を行うことでやりとりを続けられるという点です。例えば、IBM® watsonx Assistantには、スペルミスの自動修正機能や、インテントとエンティティーの認識を支援するファジー・ロジック機能が備わっています。同様に、Speech to Text機能を備えたAIチャットボットは、音声入力に含まれるなまり、発音誤り、専門用語を適切に解釈するようにトレーニングできます。
人間同士の通常の会話と同じで、ユーザーが望んでいるのは理解されているという感覚です。チャットボットの設計では、非優先応答も含めて、チャットボットのすべての応答がユーザーの発話に関連した有益な応答となるようにすることで、ユーザーの望みを満たすことができます。チャットボットが行う対話の文面を考えるときには、ユーザーが語った内容を認めることを心がけるとともに、唐突に話題を変更することや、話をあちらこちらに飛ばすこと、コンタクトの中でユーザーが以前示した情報を「忘れる」ことは避けるようにしてください。
チャットボットにも限界はあります。エレガントに失敗する能力と、対話を修復するための道筋を示せる能力は不可欠です。チャットボットに間違いがあっても構いませんが、間違っているうえに要領を得ないとなると、やりとりが破綻し、そのチャットボットへの信頼が損なわれる可能性があります。チャットボットは、ハラスメントに適切に対応し、無意味な発話や無関係な発話を認識し、話題の変化に対応し、対話を再び軌道に乗せられるように設計されている必要があります。
ユーザーの負担を常に軽減します。
明瞭で簡潔な表現を使うことで、ストレスを減らし、ユーザーの時間を大切にする姿勢を示すことができます。長文での指示が必要な場合は、対話のフローを再検討してください。
チャットボットを効果的に設計するには、テスト、デプロイメント、改善の継続的なサイクルが必要です。個人は予測できない行動をする場合がありますが、過去のコンタクトのデータを分析することによって、フローで生じた問題や、対話の設計を改善および拡張する機会を明らかにできます。
チャットボットは大量のユーザー・データに依存し、生成、分析します。こうしたデータは慎重に扱わなければなりません。それを怠ると、倫理的な影響に加えて、法的および金銭的な影響も生じる可能性があります。
この点はチャットボットの採用にも影響する可能性があります。Pew Researchによると1、アメリカ人の半数以上は、個人データの収集方法(および収集量)に懸念がある製品の利用を控えた経験があります。
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1 https://www.pewresearch.org/short-reads/2020/04/14/half-of-americans-have-decided-not-to-use-a-product-or-service-because-of-privacy-concerns/