AIワークロードとは

データセンターの画面の前にいる作業者のグループ

執筆者

Josh Schneider

Staff Writer

IBM Think

Ian Smalley

Staff Editor

IBM Think

AIワークロードとは

AI ワークロードとは、人工知能機械学習、およびディープラーニング・システムに固有のタスクを完了するために使用される個々のコンピューター処理、アプリケーション、およびリアルタイム・コンピューティング・リソースの集合です。

より具体的には、AIワークロードという用語は、 AIモデルの開発、トレーニング、デプロイに関連する、大量のデータ処理が必要で、リソースを大量に消費するタスクを指します。

AIアプリケーションの舞台裏では、個々のAIワークロードが、人間のような特性をシミュレートできるようにしています。この特性には、理解、意思決定、問題解決、創造性、自律性など、人間が学び、考え、結論を導き出す方法に関連するものが含まれます。

AIワークロードと従来のワークロードの違い

IT 業界では、ワークロードという用語は発展してきており、状況に応じて異なる意味合いを持つようになりました。一般的に、ワークロードとは、特定の期待する結果を達成するために必要なシステム需要の総量、時間とリソースの量のことを指します。ワークロードは、単一の計算やスタンドアロン・アプリケーションなどの比較的単純なタスクから、大規模なデータ分析や、ハイブリッドクラウドパブリッククラウド・サービスの処理、相互接続された一連のアプリやワークフローなどといった複雑なオペレーションまで多岐にわたります。

その一部であるAIワークロードは、ChatGPTなどの生成AI大規模言語モデル(LLM)、自然言語処理(NLP)などのAIアプリケーションに関するタスク、およびAIアルゴリズムの実行に関するものです。AIワークロードは、その高い複雑性と処理されるデータの種類によって、他のほとんどのタイプのワークロードと区別されます。他の種類のワークロードとの違いとして、AI ワークロードは通常、画像やテキストなどの非構造化データを処理します。

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AIワークロードのタイプ

大まかに言うと、AIワークロードは2つの主要なカテゴリーに分類できます。最も大きな分け方は、モデルのトレーニングとモデルの推論です。

モデル・トレーニング

モデルのトレーニング・ワークロードは、AIフレームワークにパターンを識別するよう学習させ、正確な予測を行うために使用されます。

モデルの推論

モデルの推論ワークロードは、AIモデルがまったく新しいデータやリクエスト解釈し、それに対応するために必要なタスク(およびそれに関連するコンピューティング能力)で構成されます。

詳しく掘り下げると、AIワークロードについて、以下のようにさらに細かく分類できます。

データ処理ワークロード

このタイプのワークロードには、より詳細な分析やモデルのトレーニングのためにデータを準備することが含まれます。AIモデルをトレーニングするために不可欠なステップとして、ワークロードを処理することで、データが事前に定義された品質とフォーマットの基準を満たしていることを保証します。データ処理ワークロードには、さまざまなソースからデータを抽出して一貫した形式に変換し、そのデータをストレージ・システムに読み込んでAIモデルで簡単にアクセスできるようにするなどのタスクが含まれています。このタイプのプロセスには、あまり構造化されていないデータセット内から特定のデータポイントや属性を求めるインプットとして識別する、特徴の抽出などといった高度なオペレーションが含まれる場合もあります。

機械学習ワークロード

機械学習(ML)ワークロードは、学習と予測に使用されるMLアルゴリズムの開発、トレーニング、デプロイメントに直接関係しています。MLワークロードは大規模なデータセットを処理し、モデル・パラメーターを繰り返し調整して精度を向上させます。MLモデルは、過去のパターンに基づいて将来の出来事を予測するなどの推論作業に役立ちます。このタイプのワークロードは、トレーニング・フェーズでは特にリソースを大量に消費することがあり、並列計算によってオペレーションを高速化するには、GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)やTPU(テンソル・プロセッシング・ユニット)などの特殊なプロセッサーが必要になります。

ディープラーニング・ワークロード

ディープラーニング(DL)ワークロードは、人間の脳が考え、学習し、問題を解決する方法を模倣するニューラル・ネットワークのトレーニングとデプロイに使用されます。機械学習のサブセットであるディープラーニング・システムは、層の深さが特長です。次第に複雑化していくデータ階層から成る複数の層の人工ニューロン(ノード)を使用して、関連付けや抽象化を行います。DLモデルは画像認識音声認識タスクに特に役立ちますが、これらのタイプのワークロードはMLワークロードよりもさらに負荷が重く、ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)で使用されるような強力なAIアクセラレーターが必要になります。

自然言語処理ワークロード

自然言語処理(NLP)タスクは、会話プロンプトを通じて人間が AI システムと対話できるよう支援します。このタイプのワークロードは、AIモデルが自然言語を理解して解釈し、人間にとっても理解しやすい応答を生成するために役立ちます。NLPに関連するタスクには、感情分析、言語翻訳、音声認識が含まれます。NLPシステムでは、コンテキスト、文法、セマンティクスを把握するため、大量のテキストおよび音声データを分析できる必要があります。最新のCPU(中央処理装置)はNLP AIシステムを実行できますが、より複雑な言語モデルでは、標準的なプロセッサーでは負担が重く、より高いレベルの計算リソースが必要になる場合があります。

生成AIワークロード

生成AIシステムは、膨大なトレーニング・データとユーザー・プロンプトに基づいて新しいコンテンツ(テキスト、画像、動画など)を制作するために使用されます。生成AIワークロードは、ユーザー・コマンドを解釈し、一貫性のあるアウトプットを作成するために推論を行います。大規模言語モデルでは、文中で次に使用する最適な単語を予測するなどのタスクに生成AIワークロードを使用します。画像やビデオの生成に使用される拡散モデルでは、このタイプのワークロードを使用して、ランダムなノイズを一貫性がありコンテキストに関連したビジュアルなるよう繰り返し調整します。これは、彫刻家が大理石のブロックを削り取る作業に似ています。

コンピューター・ビジョン・ワークロード

コンピューター・ビジョン・ワークロードにより、コンピューターはカメラやLiDARなどのセンサーを使用して視覚データを解釈し、物体を識別してリアルタイムで反応できるようになります。この種のタスクは、自動運転車や自動監視などのアプリケーションにとって非常に重要です。コンピューター・ビジョン・ワークロードには、画像分類、物体検出、顔認識などのタスクが含まれます。

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インフラストラクチャはAI時代をどのように支えているのか

ハードウェアの機能がが大規模言語モデルの実行に必要なマトリックス計算を可能にする仕組みを解説し、銀行から地域のカフェまで、AIを業務に利用するためのクリエイティブな事例をご紹介します。

AIワークロードのユースケース

AIワークロードは、あらゆる種類のAIアプリケーションで便利です。最近のテクノロジーにおける飛躍的な進歩により、AIの実用性は新しい時代を迎えました。その用途は、オートメーションから自動車、ヘルスケア、重工業といった業種にわたります。毎日、新しいAIアプリケーションがテストされ、以前のアプリケーションが改良されており、幅広いサービスやオペレーションを大幅に改善できる可能性があります。

顧客体験、サービス、サポート

AI搭載のチャットボットやバーチャル・アシスタントは、顧客の懸念、サポート・チケット、さらには営業に至るまでを、より適切に処理したいと考えている企業でますます導入が増えています。このようなツールは、自然言語処理と生成AIにより顧客の質問を解釈して対応し、迅速な回答を提供したり、より困難な問い合わせをライブ・エージェントにエスカレーションしたりします。AIはよくある質問への回答や常時サポートの提供といった低レベルのタスクを処理できるため、人間のエージェントは高レベルのタスクに多くの時間を集中させることができ、結果として全体的なユーザー・エクスペリエンスが向上します。

不正アクセス検知

詐欺師が用いる手口は継続的に進化していますが、AIはそうした策略に対する非常に強力な防護策として急速に普及しつつあります。機械学習やディープラーニングのアルゴリズムは、複雑なトランザクション・パターンを分析し、異常検知を通じて不審な行動にフラグを立てることが可能です。人間の不正検知専門家の作業量は限られていますが、AI は毎秒、人間とは比較にならないほど多くのデータを確認できるため、銀行などの業種とっては非常に貴重なツールとなっています。

パーソナライズされた体験

小売業者、銀行など顧客に対応する企業は、よりパーソナライズされた買い物体験やエンターテイメント体験を生み出し、顧客満足度を向上させ、顧客離れを防ぐためにAIを活用しています。AIアルゴリズムは、個人の興味や過去の買い物データなどの顧客情報を使用して、顧客の好みに合わせて製品やサービスのおすすめを調整します。

人事・採用

有能な労働力を雇用し、管理することは、どの業界にとっても大きな負担となり得ます。AI搭載の採用プラットフォームは、履歴書の審査、優秀な候補者と募集中の職務のマッチング、さらにはビデオ分析を使用した事前面接の実施により、採用プロセスの合理化を支援します。こうしたツールを活用することで、人事担当者は軽微な管理業務に費やす時間を削減し、最も有力な求職者に集中できます。AIは大量の採用候補者を分類することによって、採用までの時間を短縮し、応答時間を短縮することによって、採用されるかどうかにかかわらず、応募者のエクスペリエンスを向上させることができます。

アプリケーションの開発とモダナイゼーション

会話形式のプロンプトに基づいて詳細なアウトプットを生成できる生成AIツールは、プログラマーや開発者にとって独自の価値を発揮しています。実行可能なコードを生成できる自動化されたAIツールは、コードの作成に関連する反復的なタスクを効率化し、アプリケーション開発を支援し、アプリの移行アプリのモダナイゼーションの取り組みを加速します。AIコーディング・ツールは有能なコーダーに取って代わるものではありませんが、エラーを削減し、コードの一貫性を確保するために役立ちます。

予知保全

仮想化などの強力なツールと組み合わせることで、機械学習モデルはセンサー、IoT(モノのインターネット)対応デバイス、オペレーショナル・テクノロジー(OT)から収集されたデータを分析し、設備のメンテナンスの必要性に関する信頼性の高い予測を構築して、機械の故障を防ぐことができます。AIを活用した予知保全は、コストのかかるダウンタイムを削減し、企業の収益保護に貢献します。

AIワークロードの課題

あらゆるタイプのワークロード管理は、大規模なIT部門にとって重要な要素です。不適切な構成は、システム全体のパフォーマンスを直接的に阻害し、コストの増加、安定性の低下、ユーザー・エクスペリエンスの悪化を招きます。IBM、Microsoft Azure、Nvidia、Amazon Web Services(AWS)などのAIソリューション・プロバイダーは、最適化、主要なパイプラインにかかる処理負荷の削減、および全体的なパフォーマンス向上のための費用対効果の高い方法をあらゆるタイプのワークロードのライフサイクル全体において常に模索しています。

多くのタイプの複雑なワークロードの中でも、AIワークロードは特に要求が厳しくなります。オンプレミスまたはリモート・データセンターにおける十分なデータ・ストレージ・ソリューションと、強力で特化型のハードウェアが必要です。

AIワークロードの導入における主な課題には、次のようなものがあります。

  • リソース割り当て:低遅延で効率的なAIワークロードを実現することは、CPUなどの従来のプロセッサーにとっては難題です。複雑なAIアルゴリズムと大量のデータ処理には、並列処理用に構築され、AI向けに最適化されたハードウェアが必要です。AIシステムの複雑さとデータ密度が高まるにつれて、拡張性も重要な要素になります。
  • プライバシーとセキュリティー:AIワークロードは、膨大な量のデータに依存(および生成)します。多くの場合、このデータには、機密性の高い個人情報から企業秘密、政府諜報機関の機密情報まで、あらゆるものが含まれています。システムの複雑さが増すにつれて、潜在的なセキュリティの脆弱性も増大します。大規模で多様なデータを扱う場合、厳格なセキュリティ制御の重要性はいくら強調してもし過ぎることはありません。
  • メンテナンス:精度を確保するために、時間の経過とともにAIモデルの再トレーニングと再調整が必要になることがあります。AIモデルの定期的な再トレーニングは、コストと労力がかかるプロセスになることがあり、適格な専門家が実行する必要があります。
  • 倫理的懸念:AIワークロードを使用したAIシステムの運用には、一定の新たな倫理的問題が生じます。アルゴリズムのバイアス管理、モデルの透明性確保、説明責任の確保などの問題に関する論争は絶えません。元の知的財産に基づいてトレーニングされることが多い生成AIの場合、著作権と帰属に関する懸念が、興味深くかつ重要な疑問を提起しています。
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