AIによるログ分析とは

コンピューターの画面の前に座っている開発者のグループ。

執筆者

Mesh Flinders

Staff Writer

IBM Think

Ian Smalley

Staff Editor

IBM Think

AIによるログ分析とは

AIによるログ分析とは、人工知能(AI)機械学習(ML)ツールを使用してログデータを分析する方法です。

ログ・データとは、コンピューター・システム、アプリケーション、ネットワーク内で発生したイベントの詳細な記録です。大規模言語モデル(LLM)でトレーニングされたAIおよびMLツールは、ログ分析の自動化、データセット内のパターンや異常の特定、そしてシステムやアプリケーションの動作状況に関するリアルタイムの洞察の提供を支援します。

生成AIなどのデータが豊富なテクノロジーの台頭により、組織が収集して処理する必要があるデータの数は飛躍的に増加しています。最近のレポートによると、企業レベルで分析を必要とするデータ・ログは、過去5年間において最大で前年比250%増加しています。1

AIツールやソリューションの発展に伴い、多くのIT運用チームはログ・ファイルやデータの収集、処理、分析にAIおよびMLツールを積極的に活用しています。現在、MicrosoftによるAI搭載Azure Monitor Log、AWSによるCloudWatch、IBMによる IBM® Watson AIOpsソリューションなど、世界有数の大手企業がAIを活用したログ分析ツールを提供しています。

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ログ分析とは

ログ分析とは、ログデータを調査して、システムのパフォーマンス、最適化、セキュリティーに関するより深い洞察を得るプロセスです。ログ分析は、ITチームがログ・データを収集、処理、保管するために用いているプロセスであるログ管理と密接に関連しています。ログ管理とログ分析はどちらも、アクセス・ログ、エラー・ログ、イベント・ログという3種類のログを扱います。

  • アクセス・ログ:アクセス・ログは、アプリケーション・サーバーの一般的なリクエスト(タイムスタンプ付きのIPアドレスなど)とユーザーがリクエストした宛先を記録するログです。アクセス・ログは、システム監視中にユーザーの行動を追跡し、潜在的なセキュリティー脅威を検知するために不可欠です。
  • エラー・ログ: エラー・ログには、ユーザーやアプリケーションがデータベースに接続しようとして、アクセスが拒否された場合など、特定のセキュリティー・インシデントに関連するデータが含まれています。エラー・ログは、データ侵害後に通常のオペレーションを復元する必要がある際のトラブルシューティング作業に役立ちます。また、セキュリティー・インシデント後のエラー・ログを調査すると、今後のダウンタイムの可能性を最小限に抑えることができます。
  • イベント・ログ:イベント・ログは、特定の期間におけるシステムの活動状況について、ITチームに洞察を提供します。システムの起動やシャットダウン、ユーザーのログイン、予期せぬ障害などの重要なイベントを記録しており、何がいつ発生したかをチームが把握するため役立ちます。

AIによるログ分析の仕組み

ITオペレーション(ITOps)チームやDevOpsエンジニアは、データの取り込みや整理から、AIで強化された高度なデータ分析や可視化技術の適用に至るまで、ログ分析のワークフロー全体にAIを活用しています。

データコレクター

ログ分析は、エンジニアが分析する必要があるハードウェアおよびソフトウェア・システムからデータを収集することから始まります。AIは、ネットワーク・デバイス、サーバー、アプリケーションなど、さまざまなソースからのログ・データの取り込みを自動化することで、このステップを効率化します。

データ処理

データ処理の段階において、AIはデータ・ログのインデックス作成や正規化といった処理(解析と呼ばれるプロセス)の自動化により支援します。AIはデータを取り込んで、タイムスタンプ、ソース、イベントの種類、その他の特性ごとに分類することで、エンジニアが理解しやすい形にします。AIで強化されたデータ処理は、異なるソースから収集された非構造化データを、エンジニアが理解できる整理された実用的なデータ・ログに変換するうえで不可欠です。

データ分析

データ分析段階において、エンジニアはデータ処理中にログから抽出した有用なデータを精査し、特定のシステムやアプリケーションが機能しない理由についての手がかりを探します。AIおよびMLツールは、高度な異常検知とパターン認識機能により、価値実現までの時間を短縮し、ログ分析の精度を向上させます。

データの可視化

ログ・データの価値は、システムの全体的な健全性についてどれだけの洞察を得られるかによって決まります。AI、特に生成AIは、分析段階で得られた洞察を、リアルタイムのシステムの健全性を示す鮮明なビジュアルに変換することで、データの可視化を強化します。現在の高度なAIダッシュボードは、中央処理装置(CPU)の使用率、ネットワークの遅延などの主要なメトリクスを可視化することで、潜在的な問題の特定に役立ちます。

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AIによるログ分析のメリット

今日のペースが速く、データ量の多いIT環境において、従来のログ分析ツールでは、現代の企業が求めるようなシステム・パフォーマンス関する洞察を十分に提供できない場合がよくあります。生成AIやハイブリッドクラウドといったデータの豊富なテクノロジーの普及により、データ量は指数関数的に増加しており、従来的なログ分析アプローチでは対応しきれない場合が多くなっています。

AIを活用したツールは、これまで人間の入力が必要だった多くのプロセスを自動化および高速化することで、ログ分析を変革しています。ここでは、ログ分析にAIを使用することで得られるメリットをいくつか紹介します。

  • サイバーセキュリティーの強化:毎年、データ侵害は企業に数百万ドルの損害を与えています。最近のIBM Institute of Business Valueの報告によると、データ侵害の平均コストは昨年10%増加して480万ドルになりました。AIを活用したログ分析は、インシデント対応能力を向上させ、プロアクティブな脅威管理の導入を支援します。AI アルゴリズムは、異常検知、根本原因分析、パターン認識など、人間のチームがこれまで何日も、ときには何か月もかかっていたリソース集約型タスクの自動化に役立ちます。
  • コンプライアンスの向上: 企業がデータを収集、保管、処理する地域の規則や規制の変化に追いつくのに苦労している中、ログ分析用AIは一部のコンプライアンスタスクを自動化することで役立ちます。ログ分析では、適用可能な特定のルール・セットやデータ・ガバナンスに従ってログの監視を自動化できます。
  • オブザーバビリティーの向上:AIを活用したログ分析は、企業の中核業務を支えるシステムやアプリケーションのオブザーバビリティー向上に役立ちます。AIアルゴリズムは、システムが機能しているときの通常のデータ・ログがどのようなものであるかを学習し、異常が発生した際にはITOpsチームのメンバーに即座に警告するようにプログラムできます。コードのデプロイメントを自動化するために使用される人気のオープンソース・プラットフォームであるKubernetesも、高度なオブザーバビリティーとトラブルシューティング機能を実現するために、AIで強化されたログ分析を活用しています。
  • 予測分析:AIを活用したログ分析は、大量のデータ・ログを取り込み、顧客の行動パターンを特定することで、ユーザーが製品とどのように関わっているかを企業がより深く理解するのに役立ちます。これにより、将来の顧客行動を予測し、新製品の開発や、既存製品を戦略的な観点から調整したりする機会を見いだせるようになります。

ログ分析におけるAIのユースケース

DevOps

現代のDevOpsチームは、プロセスを合理化し、システムやアプリケーションがどのように機能しているかについての認識を高めるためにAIを活用しています。例えば、最終的なテストとデバッグの段階では、AIがデータを集約し、コードの異常やパターンにフラグを立てることで、市場にリリースする前に開発者が修正できるようになります。

サイバーセキュリティー

AIを活用したログ分析は、フィッシングランサムウェアマルウェアなど、さまざまなサイバー脅威からシステム、アプリケーション、人々を保護するために役立ちます。ログ分析用の AIは、リアルタイムでデータを精査し、サイバー攻撃データ侵害の兆候となるパターンを検出することで、サイバーセキュリティ・チームのシステムやアプリケーションに対する可視性を高めます。最近のレポートによると、サイバーセキュリティー・ソリューションでAIセキュリティーと自動化を広範に使用した組織は、平均で220万米ドルのコスト削減を実現しました。

ITオペレーション

ITオペレーション(ITOps)チームは、効果的なログ分析ツールを使用して大量のデータにアクセスして観察し、パフォーマンスの問題を特定します。AIは、チームの戦略的アプローチを一元化し、これまで注意を必要としていたリソース集約型タスクの多くを自動化するために役立ちます。

例えば、従来のログ分析ツールからITチームに送られる「アラート」の多くは重要ではなく、対応の必要がないものです。AIはこうしたアラートに目を通し、重要なものだけをチームに通知するようにトレーニングできます。

自律型AIとログ分析の未来

AIの機能が拡張されるにつれ、ログ分析におけるAIは、自律型AIまたはエージェント型AIと呼ばれるタイプのAIにますます依存するようになっています。自律型AIおよびエージェント型AIでは、AI駆動型ツールは、複雑なビジネス環境において特定の目的を達成するため、単一の目的を持って構築されます。

常に人間による監視を必要とする従来のAI モデルとは異なり、AIエージェントは問題の診断や解決策の提案において自律性を発揮します。ここでは、このテクノロジーがログ分析におけるAIの使用に関する可能性を拡大している例をいくつか紹介します。

異常検知と対応

AIエージェントは、大規模なデータセットの異常やパターンを精査するだけでなく、継続的に取り込むデータから学習し、適応して、対応を行えるようにトレーニングすることも可能です。

例えば、従来の「パッシブ型」あるいは「ルールベース型」のAIツールがデータログ内のパターンを検出するだけであるのに対し、AIエージェントはその意味を解釈し、必要に応じて是正措置を講じることもできます。

予測分析

予測分析は、過去のデータを用いて将来の結果を予測する高度な分析の一分野です。エージェント的および自律型AIツールは、アプリケーションの問題が支障を引き起こす前に検知し、特定し、解決することで、このプロセスを大幅に強化します。

例えば、ログ・データ内の傾向を特定し、それを同じアプリケーションの履歴データと比較することで、AIエージェントはサーバーや仮想マシン(VM)のスケールアップやスケールダウンといった対応を自動化し、ダウンタイムや潜在的な障害を回避できます。

合成ログ・データ生成

おそらく、ログ分析における自律型AIの最も革新的な機能は、AIエージェントが分析した既存のパターンに基づいて合成ログデータを生成する機能です。この手段により、DevOpsチームは本番環境にコードをリリースする前に、さまざまなシナリオをシミュレーションしてテストすることが可能になります。以前は、このレベルのソフトウェア・テストには、手動での入力と膨大なリソースが必要でした。

例えば、自律型AIを使用することで、新しい金融サービス・アプリを開始するDevOpsチームは、手動入力なしで、ブルートフォース攻撃、マルウェア、サービス拒否などのさまざまな攻撃に対してコードをテストできます。自律型AIは、実際のインシデントから収集されたログ・データを学習することで、インシデントを正確に再現する合成ログデータを生成し、既存のコードをテストできます。

自然言語による対話

自律型AIおよびエージェント型AIは、自然言語処理(NLP)を活用することで、アナリストが使い慣れた会話形式のクエリーを通じてAIと対話できるようにします。NLPは、AIエージェントとのユーザー体験を向上させるとともに、重要なプロセスの効率化と高速化を実現します。

例えば、IT運用チームのメンバーは、ログ・データの概要を調べて洞察を得るのではなく、「今日は何か異常なアクティビティがありましたか?」とだけ入力すればよいのです。そうすれば、AIエージェントは人間のように応答します。

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