銀行業務における対話型AI

オンラインで銀行とやり取りする人物

銀行業務における対話型AIの定義

銀行業務における対話型人工知能(AI)は、AIを活用した自然言語技術により、お客様が音声やチャットで銀行とやり取りできるようにします。意図を理解し、口座データにアクセスし、お客様をリアルタイムで案内することで、迅速で個別化されたサポートを提供します。

対話型AIは、自然言語処理(NLP)機械学習(ML)を使用して、音声またはテキストを理解し、意図を解釈し、分かりやすく人に近い応答を生成します。これらのシステムがより多くの会話を処理するにつれ、NLPとMLがフィードバックループで連携し、精度を高めながら、時間の経過とともにパフォーマンスを継続的に改善します。生成AIは、より自然で柔軟、かつ文脈を踏まえた応答を生成することで、このパフォーマンスをさらに向上させます。

対話型AIは、音声とテキストの両方で自然なやり取りを実現できるため、デジタル・バンキングサービスの重要な要素になっています。銀行は対話型AIを、AIチャットボットバーチャル・アシスタントとして活用し、お客様がより簡単に直感的にサポートを利用できるようにしています。これらのシステムは意図と感情を理解し、固定的なメニューを不要にすることで、手間を減らし、顧客体験を向上させます。

銀行業務におけるAIの一形態として、対話型AIは、お客様が支援を受ける方法をモダナイズし、金融機関がサポートを提供する方法に、より高い柔軟性をもたらします。銀行は対話型AIを活用し、モバイル・アプリケーション、Webサイト、電話システムで、24時間体制のリアルタイムサポートを提供しています。このテクノロジーは、お客様が必要としていることを特定し、適切な情報を取得し、不正アラート、口座の問題、クレジット・カードやローン申し込みに関する質問などの場面で、分かりやすいガイダンスを提供できます。

対話型AIは、待ち時間の長さや営業時間外の支援が限られることなど、銀行のお客様が他社へ乗り換える要因になりがちな課題にも対応します。AIを活用したアシスタントは、即時で的確なセルフサービスを提供することで、人のチームの負担を軽減します。必要に応じて、会話の全体像を把握した状態で、人の担当者に引き継ぐこともできます。

テクノロジーの進化に伴い、先進的な金融機関は、金融ルールとセキュリティー要件を理解するシステムを採用しています。こうしたフィンテック・プラットフォームにより、金融機関はお客様のニーズをより深く把握でき、先を見越した、より意味のあるコミュニケーションを支援できます。このアプローチは、多くのお客様が従来型銀行のデジタル・トランスフォーメーションで失われたと感じていた、個別対応で迅速なサービスを取り戻します。

銀行業務における対話型AIが重要な理由

対話型AIが銀行で重要なのは、デジタルの利便性と、お客様が期待する個別対応で迅速なサービスとの間に広がるギャップを埋めるのに役立つためです。銀行は、より多くの業務をオンラインに移行しています。世界のお客様の16%は、支店を持たないデジタル専業銀行を主要な取引銀行として利用することに抵抗がありません 1。一方で、サポートが必要な場面で手間や障壁を感じるお客様も少なくありません。

対話型AIは、こうしたデジタルチャネルに基本的な人に近い理解を持ち込み、やり取りをより直感的で機械的でないものにすることで、銀行が信頼を回復できるように支援します。AIテクノロジーが進化するにつれ、銀行はサービスを大規模に向上させるための新しい手段を得られます。

また、銀行業界がお客様のニーズを捉え、対応する方法を大きく変えるものでもあります。従来のメニューやルーティングシステムでは、状況が複雑な場合や緊急性が高い場合に、お客様が迷い、十分に支援されていないと感じることがあります。対話型AIは、お客様が達成しようとしていることを理解し、それに合わせて対応を変えられます。この方法により、迅速で分かりやすく、状況に応じたサポートを求めるお客様の期待に応えやすくなります。

銀行にとって対話型AIは、組織内でのカスタマー・サービスの役割が変わることを示します。常時利用でき、迅速で一貫性のある対応を提供できるため、対話型AIは、カスタマー・サービスを、受動的なコールセンター/コンタクトセンターのモデルから、戦略上の差別化要因へと変えます。高度な対話型システムを導入する銀行は、信頼性が高く迅速に対応できる存在として位置付けられます。

対話型AIを導入することで、銀行はイノベーションと長期的なお客様関係を重視する姿勢を示します。これらのシステムは、銀行がお客様のニーズを理解し、製品を改善し、セキュリティーを強化し、より的確な意思決定へと導くインサイト(洞察)を得られるようにします。

生成AIの台頭により、金融機関は応答をさらに向上させ、状況に応じて変化するサービス体験を提供できるようになります。このように、対話型AIは、銀行が運用する方法と、お客様が金融サービスを体験する方法を再構築する基盤テクノロジーになります。

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銀行業務における対話型AIの活用例

対話型AIはさまざまなニーズに対応します。以下では、多くの銀行での一般的な利用状況に沿って、ユースケースを紹介します。

1. カスタマー・サポート

AIエージェントは、口座残高、製品の詳細、取引履歴などの定型的な問い合わせに対応します。利用者の本人確認が済めば、実際のお客様データにアクセスし、迅速かつ正確な回答を提供して、銀行の利用体験を向上させます。

AIだけでは対応が難しい質問の場合、会話の全体像を把握した状態で人の担当者に引き継ぐため、お客様は同じ説明を繰り返す必要がありません。このプロセスにより、銀行はカスタマー・ジャーニー 全体でサポートの効率を最適化し、顧客満足度を向上できます。

2. セルフサービスによる取引

対話型AIは、セルフサービスによる取引も支援します。お客様は、支払いの実行、振込の設定、カードの有効化などを、実行したい内容をシステムに伝えることで開始できます。AIが意図を認識し、自ら処理を完了するか、手順に沿ってお客様を案内します。

3. 本人確認・認証(ID&V)

対話型AIは、自然な対話の流れで本人確認・認証(ID&V)の手順を案内し、プロセスを効率化できます。AIは、同じチャットまたは音声インターフェース内で、質問、書類の提示依頼、アップロードの処理まで行えます。これにより手間が減り、認証をよりスムーズに行えます。

4. お客様のオンボーディング

バーチャル・アシスタントは、新規のお客様に対し、口座開設、本人確認、製品の選択といったオンボーディングの手順を案内できます。AIがバックエンドシステムと連携することで、必要情報を収集し、有効化のワークフローを起動し、オンボーディングプロセス全体を効率化できます。

5. 担当者支援

AIは人の担当者も支援します。通話やチャット中に、AIが会話を把握して文字起こしし、関連する参考情報や回答候補をリアルタイムで提示します。また、引き継ぎ前に背景情報を整理するため、担当者は、誰と話しているのか、何が問題なのかを事前に把握できます。この仕組みにより、担当者の対応力が高まり、対応時間が短縮され、一貫性のある対応につながります。

6. マルチチャネル/多言語対応

対話型AIは、音声、SMS、WhatsApp、モバイルバンキング用アプリ、Webチャットなど、多様な接点で動作します。この柔軟性により、お客様は好みのチャネルを選べます。また、多言語に対応するため、銀行はより幅広いお客様に対して、お客様の言語で一貫したサービスを提供できます。

7. 支払いリマインダーと処理

AIエージェントは、チャットチャネルを通じて、支払い期限が近い支払いや手数料に関するリマインド通知を事前に送信できます。また、利用者を別の画面やプラットフォームに誘導せず、会話の中でそのまま支払い処理を支援できます。

8. 感情に応じたエスカレーション

対話型AIプラットフォームの中には、お客様メッセージの感情や緊急度を分析するものもあります。AIが不満、混乱、重大な問題を検知した場合は、人の担当者に即座にエスカレーションし、重要な問題が適切に対応されるように支援します。

9.データ収集と分析

すべてのお客様とのやり取りがログとして記録されます。対話型AIシステムは、コンプライアンス対応に利用できる会話の書き起こしと要約を作成し、よくある問い合わせ、課題、製品の問題、その他のトレンドに関するインサイト(洞察)を抽出する際にも活用できます。こうしたインサイトはAIソリューションの改善に役立ち、将来のやり取りをより良いものにします。

銀行業務における対話型AIのメリット

対話型AIは、銀行業務の自動化を超える幅広いメリットをもたらします。主なメリットは次のとおりです。

不正アクセス検知とリスク管理の強化:高度な対話型プラットフォームは、リアルタイムの口座アクセスとインテリジェントなモニタリングを組み合わせることで、不正アクセス検知の改善と不正リスクの低減に役立ちます。銀行の経営層の61%は、不正リスクの検知がビジネス価値に最も大きな向上をもたらすと回答しており、サイバーセキュリティーが52%で続きます。2

顧客体験の向上:対話型AIは、信頼、スピード、パーソナライゼーションなど、顧客体験の主要な側面を向上させます。チャネルをまたいで24時間稼働できるため、お客様は待たずに支援を受けられます。また、文脈と感情の手がかりに基づいて応答を調整できるため、より関連性が高く、人に近い会話につながります。

効率性の向上とコスト削減 定型的な問い合わせの多くを処理することで、対話型AIは人の担当者の負担を軽減します。AI主導のソリューションは、問い合わせ量と運用コストを削減しながら、運用効率を向上させます。また、文脈、関連する回答、会話の要約を提供することで、担当者がより効果的に対応できるようにします。

コンプライアンスと信頼の向上:規制の厳しい銀行業界では、対話型AIがコンプライアンスの維持に役立ちます。監査とレポーティングのために会話の書き起こしを記録すると同時に、お客様に安全でオープンなやり取りを提供します。この透明性が信頼の構築につながります。

オムニチャネル/多言語での対応範囲:対話型AIエージェントは、同じバックエンドシステムに接続されたマルチチャネルの接点全体で動作します。多言語にも対応するため、銀行はより幅広く多様なお客様基盤にサービスを提供できます。

拡張性とイノベーション:対話型AIは顧客エンゲージメントのイノベーションを後押しします。一貫したやり取りを通じて、銀行は行動習慣や好みに関するより豊富なデータを収集できます。その結果、より最適化された提案、適切なアドバイス、新しい製品アイデアにつなげられます。

銀行業務における対話型AI導入でよくある失敗と回避策

銀行が対話型AIを明確な目的や十分な設計検討なしに導入すると、問題が発生しがちです。次のよくある失敗を避け、システムの精度、有用性、使いやすさを高めるベスト・プラクティスに従うことで、最大の価値を引き出せます。

明確なユースケースがないまま開始する

一部の銀行では、広範で焦点が定まらないまま開始してしまい、成果が上がりにくくなります。

ベスト・プラクティス:具体的で価値の高いユースケースから開始し、無駄な取り組みを防ぎます。AIが早期に目に見える成果を提供できるようにもなります。FAQ、口座に関する質問、カードサポートなど、一般的なタスクから着手します。これらの領域は、大きな複雑さを伴わずに問い合わせ量を減らし、応答時間を改善できるため、早期に効果が表れます。

汎用的なチャットボットのスクリプトに頼りすぎる

固定的なスクリプトに従う従来型のボットは、実際のお客様ニーズに対応しきれません。限定的または古いロジックを使用すると、行き詰まりが生じ、お客様は人のサポートを求めざるを得なくなります。

ベスト・プラクティス:会話は自然で、見通しのよいものにします。プロンプトと応答には、シンプルで明確な言葉を用います。お客様が、AIが意図を理解し、混乱なく各ステップを案内してくれると感じられることが重要です。

コアシステムと統合しない

AIがより深いデータにアクセスできないと、表面的なアシスタントにとどまります。お客様が求めているのは、Webサイトで確認できる基本情報ではなく、具体的な回答です。

ベスト・プラクティス:システムが口座データ、取引の詳細、本人確認・認証、製品情報にアクセスできるようにします。これにより、AIは一般的な説明にとどまらず、正確な回答を提供し、実際のタスクを実行できるようになります。

引き継ぎの重要性を見落とす

エスカレーション設計が不十分だと、すでにストレスを感じているお客様の不満が増します。人の担当者への切り替えが遅い、一貫性がない、文脈が欠落している場合、サービス体験が損なわれます。

ベスト・プラクティス 人への引き継ぎをスムーズに行います。AIが人の担当者が必要な場面を検知し、文脈を失うことなく引き継ぐ必要があります。これにより、お客様が同じ説明を繰り返すことを防ぎ、不満を軽減できます。

AIを単一のチャネルにのみ導入する

お客様はどの接点でも一貫した体験を期待しています。単一チャネルでの提供では、システムが限定的に感じられ、採用が進みにくくなります。

ベスト・プラクティス 複数のチャネルと言語に対応します。 音声、チャット、アプリ、メッセージングにわたってAIを展開します。すべてのチャネルで体験を一貫させ、お客様ニーズに合った言語オプションを提供します。

AIの監視と再学習を怠る

銀行がシステムを構築した後に改善を止めると、精度が低下し、お客様の不満が増えます。継続的な学習は、長期的な成功に不可欠です。

ベスト・プラクティス:パフォーマンスを監視し、継続的に学習させます。会話の書き起こしをレビューし、途中離脱が多いポイントを特定し、学習データを更新して精度を高めます。指標を追跡し、分析を活用して、お客様の質問が多い内容とAIが苦手とする領域を把握します。

実際のお客様でテストしない

社内レビューだけでは、多くの摩擦点を見落とします。分かりにくいフローや曖昧なプロンプトを修正し、セッションの途中離脱を防ぐには、実ユーザーによるテストが必要です。

ベスト・プラクティス:拡大展開の前に実際のお客様でテストします。小規模なグループでパイロット運用を行い、会話フローを改善します。分かりにくい表現、手順が長い箇所、利用者が行き詰まるポイントを確認します。

共同執筆者

Matthew Finio

Staff Writer

IBM Think

Amanda Downie

Staff Editor

IBM Think

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脚注

1 2025 Global Outlook for Banking and Financial Markets, IBM Institute for Business Value (IBV), originally published 26 January 2025

2 Banking in the AI era: The risk management of AI and with AI, IBM Institute for Business Value (IBV), originally published 23 June 2025