AIでメインフレームの専門知識を活用

IBM z17の列を通り過ぎる労働者

執筆者

Khadija Souissi

Principal Solution Architect - AI on IBM Z and LinuxONE

Catherine Wu

Program Director, Db2 for z/OS development and product management

Stephanie Susnjara

Staff Writer

IBM Think

Ian Smalley

Staff Editor

IBM Think

メインフレーム・システムは今後もなくならない一方で、それを維持するための専門知識を持つ人材はますます見つけにくくなっています。メインフレームは、70を超える国々で28の産業にわたり、世界の本番ITワークロードのほぼ70%を支えています。しかし、そのパフォーマンスを最適化するために必要な専門知識は、ますます希少になっています。

ベテランのメインフレーム技術者が引退するにつれて、拡大する知識の空白が生じています。現代のコンピューター・サイエンスのカリキュラムは、JavaやPythonのような言語を重視する傾向にあり、これらは現在IBM® Zのようなメインフレーム・プラットフォームでもサポートされています。しかし、真の課題はさらに深いところにあります。

スキル不足の中心は、クラウドや分散環境に見られるものとは異なる、メインフレーム特有の用語、基本概念、複雑なサブシステムの理解にあります。しかし、企業のトレーニング予算は多くの場合、メインフレームの概念や設計よりも、これらのアーキテクチャーを優先しています。

その結果、IBM Zのようなメインフレーム・システムの独自の運用環境に精通した専門家の減少と、依然として続くメインフレーム依存との間で、溝が広がっています。ビジネス・リーダーにとって、この人材不足は事業の継続性とイノベーション能力の双方を脅かすものです。

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AIでスキル不足を埋める

人工知能(AI)を活用してスキル不足を補うことが、変革的なソリューションとして浮上しています。生成AI自動化を組み合わせることで、システム・プログラマー、オペレーター、開発者が知識を習得するプロセスを効率化でき、経験レベルに関わらず生産性、効率性、業務品質を向上させることができます。

このアプローチを採用することは、多くのグローバル企業のリーダーにとって大きな転換点となり得ます。このアプローチは特に、信頼性、セキュリティー、拡張性が求められる大規模かつ重要な業務をメインフレームが支えている金融、医療、政府、小売といった業界の専門家にとって重要となる可能性があります。

AI、特に生成AIは、メインフレームに関する知識へのアクセスを容易にすることで、これらの課題に対応するための独自の機会を提供します。大規模言語モデル(LLM)検索拡張生成(RAG)、自動化フレームワークの力を活用することで、企業は新しい専門人材のスキル習得にかかる時間を短縮できます。また、このアプローチにより、経験豊富なユーザーはビジネス価値を生み出す戦略的なタスクに集中できるようになります。

以下に、AIがメインフレーム教育と生産性向上にどのように貢献できるかを示します。

学習とサポートのための対話型AI

メインフレームを初めて扱うユーザーは、多くの場合、急な学習曲線に直面し、複雑なタスクに苦労します。例えば、開発者が数時間にわたりドキュメントを調べても、正しい解決策を見つけられたかどうか確信が持てない状況を想像してみてください。この不確実性によりワークフローが遅延し、わずかなミスでもメインフレーム環境では深刻な結果を招き得るため、担当分野の専門家(SME)に確認を求めることになります。

この開発者に必要なのは、信頼できて手軽にアクセスできるメンターですが、そこで役に立つのがAIです。対話型AIは、ユーザーに自然言語インターフェースを提供し、選定された情報やステップごとのガイダンスにアクセスできるようにします。ユーザーは質問でSMEを中断する代わりに、AIを活用したアシスタントと対話することで、次のことが可能になります。

  • メインフレームの基礎概念を理解すること
  • 製品の更新情報や新機能に関する情報にアクセスすること
  • タスクを完了するための手順に従うこと
  • エラーメッセージやシステムの動作について明確な説明を受けること

検索拡張生成(RAG)フレームワークを活用することで、このようなシステムは信頼できる知識ソースを利用し、根拠に基づいた正確な回答を提供できます。この方法は、回答の信頼性を高めるだけでなく、誤情報といったリスクを軽減するのにも役立ちます。

RAGシステムを導入する際のベストプラクティスとしては、高品質でドメイン固有の情報源を参照させること、そしてAIを定期的に更新し続けることが挙げられます。RAGの大きなメリットのひとつは、ハルシネーションを回避できることです。これらの保護策により、AIはメインフレームの学習とサポートにおいて、信頼性が高く安心して利用できるリソースであり続けます。

日常的な複雑なタスクの自動化

AIアシスタントがユーザーの学習を支援する一方で、自動化はユーザーに行動する力を与えます。ガイド付きのワークフローを提供することで、自動化は十分な事前知識がなくても、経験の浅いユーザーが効果的にタスクを実行できるようにします。

自動化のメリットは初心者にとどまらず、経験豊富なメインフレームの専門家にも及びます。例えば、経験豊富なシステム・プログラマーが、めったに使用しないセキュリティー設定の構成に直面する場合を考えてみてください。基礎知識は持っていても、このタスクを最後に実行してから何年も経過しており、手順や依存関係、システムの細かな点を思い出す必要があるかもしれません。

適切なガイダンスや手順がなければ、このプロセスは時間がかかり、重要な更新の遅延やエラー発生の可能性を高めてしまいます。

自動化とAI駆動型ツールは、このギャップを埋める手段となります。ステップごとの支援を提供し、反復的なワークフローを自動化し、対話型AIのコンテキストに基づいてリアルタイムで推奨を提示します。これらのツールは、新しい課題に取り組むキャリア初期の開発者と、めったに使わないスキルを再び活用するベテラン技術者の双方を支援します。エラーを減らし、効率を高め、ストレスを最小限に抑えることで、自動化はメインフレームの専門家が戦略的で付加価値の高い取り組みに集中できるようにします。

同様に重要なのは、自動化ソリューションが組織の既存の投資と統合できることです。企業は、多年にわたり多大な投資を行ってきた実績ある自動化フレームワークやテクノロジー、例えばジョブ制御言語(JCL)、Restructured Extended Executor(REXX)、Ansibleなどに依存しています。価値を最大化し導入を確実にするためには、自動化はこれらの基盤的なツールをサポートし、高額な置き換えを要求するのではなく、互換性とシームレスな統合を提供する必要があります。

AI Academy

メインフレームとAIの今後

AI Academyのこのエピソードでは、メインフレームがエンタープライズITにとっていかに不可欠なものであるか、また新しい統合や機能強化により、メインフレームが現代のITにおいて重要な役割を強めている状況について、Christian Jacobiが説明します。

多様なユーザー・グループ向けにAIをカスタマイズ

AIソリューションは、ユーザー・グループごとの固有のニーズに対応できるよう設計されるべきで、それぞれのスキルレベルや目標に合わせた体験を提供することで、すべてのグループがメリットを得られるようにする必要があります。いくつかの例をご紹介します。

  • キャリア初期の専門家は、AIによるガイド付きの実践的な体験から恩恵を受けられます。これは手作業によるタスク実行を通じて学習を強化することに重点を置き、基礎概念に取り組む中で自信を深めることができます。
  • 中堅ユーザーは、AI駆動の自動化に依存することで日常的なタスクを効率的に処理し、時間を節約してエラーのリスクを最小化しながら、より複雑な作業に集中できるようになります。
  • 経験豊富な専門家は、AIを活用して高度な機能を探求し、複雑なオペレーションを効率化できるだけではなく、さらに自身の専門知識を再利用可能な自動化資産としてコード化することで、チーム全体に貢献できます。

特定の役割に向けてカスタマイズされたAIアシスタント

役割に特化したアシスタントを作成することで、AIの体験をユーザーの責任範囲やスキルレベルに合わせることができます。これらの目的に応じて構築されたアシスタントは、質問に対応し、特定の自動化要件を満たすことで、ユーザーがタスクをシームレスに完了し、複雑なプロセスを対話型AIによる魅力的な体験を通じて進められるようにします。

AIアシスタントは、さまざまなユーザー・タイプのニーズに対応できるように設計できます。

1. キャリア初期の専門家向けのオンボーディング・アシスタント

これらのアシスタントは、メインフレームに関連するあらゆる質問に正確に答えることで、オンボーディング・プロセスを迅速化します。自動化スキルを提供するのではなく、ステップごとのガイダンスを示すことで、新入社員がタスクを手作業で実行し、実践的な経験を積み、メインフレームに慣れることを可能にします。

2. 中堅ユーザー向けのタスク指向アシスタント

組織は、ユーザー追加や証明書更新といった日常的なタスクに関連するスキルを備えたアシスタントを開発することもできます。これらのアシスタントは、生産性を向上させ、エラーを最小限に抑え、経験豊富な専門家への依存を軽減します。

3. 経験豊富な専門家向けの高度アシスタント

経験豊富なIT専門家は、高度なアシスタントから多くの形で恩恵を受けることができます。このアシスタントは、新しい製品バージョンに関する疑問を解消したり、複雑なタスクを管理するためのスキルを起動したりするために活用できます。そのようなタスクの一例として、メインフレーム・システムを新しいハードウェアにアップグレードする前に、欠落しているメンテナンス・レベルを特定するためのレポートを実行することが挙げられます。

これらのプロセスを加速することで、担当分野の専門家は、自らの専門知識やベストプラクティスを利用しやすい自動化に組み込み、他のユーザーが大規模なトレーニングを受けずに活用できるようにするなど、創造的なタスクにより多くの時間を割けるようになります。このアプローチは、専門家たちの蓄積された経験に基づく真のレガシーを築くことにつながります。

メインフレーム用AIの構築

AIソリューションを開発する際には、開発および保守のプロセスを簡素化することが不可欠です。AIシステムが進化し続ける中で、導入時に新たな複雑さを増やすことなく、サポートを提供することを目指すべきです。この目標を達成するには、直感的で既存ツールとの相互運用が可能で、かつさまざまなユースケースに適応できる十分な柔軟性を備えたAIシステムが必要です。その結果、自動化のメリットはあらゆるユーザー・グループにとって利用しやすく、持続可能なものとなります。

ここでは、いくつかのアプローチを紹介します。

自動化のためのローコード・プラットフォーム

ローコード・プラットフォームを利用することで、ドメインの専門家は高度なプログラミング知識がなくても、自動化資産を作成・変更・公開できます。これらの資産はAIアシスタントに組み込むことができ、より幅広いユーザー層が利用可能になります。

例えば、Ansible、JCL、REXXで作成された既存の自動化スクリプトを再利用可能なスキルに変換できます。

再利用性のための自動化カタログ

集中型リポジトリーを用いることで、自動化資産をチーム間で容易に見つけ出し、再利用できるようにできます。この方法は、タスクの実行を加速するだけでなく、知識共有や標準化の促進にもつながります。

AIサポート・インフラストラクチャーの導入

メインフレーム環境向けにAIソリューションを導入する際には、アーキテクチャーの選定が極めて重要です。クラウドベースのオプションは、実行コストを削減し拡張性を容易にしますが、ファイアウォールの内側にあるメインフレーム・システムとの統合には課題が生じる可能性があります。オンプレミスでの導入はメインフレームのセキュリティー要件に適合し、強力な自動化機能と直接的な統合を提供します。しかし、このアプローチでは、多くの場合、GPUハードウェアやITインフラストラクチャーへの多額の初期投資が必要となります。

多くの組織は、ハイブリッドクラウドのアプローチが最適であると考えています。クラウドを一般的な知識機能に活用し、オンプレミス環境をセキュアな自動化タスクに利用する方法です。重要なのは、AIサポート基盤を組織のセキュリティー要件、既存のメインフレーム投資、自動化の目標に適合させることです。

IBM z17とAIイノベーション

メインフレーム環境向けのAIソリューションは、専門人材の減少という課題に直面しながらも重要なシステムを維持していくうえで、有望な道を切り開きます。IBMは、このビジョンを実現するために、エンタープライズ規模のAI向けに設計された次世代メインフレームであるIBM® z17を提供しています。

Telum IIプロセッサーと新しいSpyre AIアクセラレーターによる組み込みAI機能を備えたz17は、システム上でリアルタイムのAI推論を直接実行できます。IBM® watsonx Code Assistant for ZIBM® watsonx Assistant for ZなどのAIアシスタントおよびエージェントツールは、開発者やITチームにインテリジェントなサポートを提供します。また、IBM Z Operations Uniteとの統合により、AIによるインシデント検知と解決を通じて運用を効率化します。

経験豊富なプロフェッショナルとプラットフォーム初心者の両方のニーズに対応するよう設計されたこれらのツールは、スキルギャップを埋め、生産性を向上させ、イノベーションを促進します。AIをメインフレームに直接組み込むことで、IBMはメインフレームの専門知識の民主化を支援し、それを再生可能な資源とすることで、これらのシステムが将来にわたって価値を提供し続けることを可能にしています。

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