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オードリー・タン氏と4,000人の社員が共鳴する、デジタルな学びがリアルを超えた日

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IBMでは5年前から春と秋の年2回社内のラーニングイベント「IBM Way Day」を開催し社員が一日中学ぶ日を設けています。完全に任意参加ですが動員数4,000人の大イベントです。回を重ねる毎にバージョンアップし、今では内定者や家族まであらゆる関係者が学びを楽しんでいます。今年のIBM Way Dayは、コロナ禍を乗り越え、完全デジタル開催へ進化しました。「やるからには集合形式ではできないことを」この発想から生まれたのが、オードリー・タン氏へのインタビューを元に4,000人が交流する場。ニューノーマルにおける大規模ラーニングの新しい挑戦から得たLessons Learnedを、オードリー・タン氏のインタビューを動画と共にご紹介します。


中井 真代
著者:中井 真代
ラーニング・コンサルタント、ラーニング・オーガナイゼーション・イニシアティブ

2016年に日本IBMへ新卒入社後、人事領域のコンサルタントとして業務改革や業務アウトソーシング系のプロジェクトに多く従事。自組織の組織変革や人材育成へ貢献したいと考え、2020年4月から同部門内の人材/組織開発部署(ラーニング・オーガナイゼーション・イニシアティブ)へ異動。毎月発刊するニュースレターやIBM Way Day等のコミュニケーション領域を担当。

 

オードリー・タン氏が語るデジタルの未来に、4,000人のIBM社員と家族がオンラインで耳を傾けた日「IBM Way Day」

オードリー・タン氏とIBM Digital Makers Lab.嶋田敬一郎(インタビュアー)

オードリー・タン氏とIBM Digital Makers Lab. 嶋田敬一郎(インタビュアー)

11月、とある土曜日の朝。IBM社員は各自の自宅から続々とIBM Video StreamとSlackを立ち上げていました。ログイン数はあっという間に4,000へ迫ります。Slackは「今日は実家から参加しています」「ご近所でしたね」「家族で一緒に見ています」なんて書き込みで温まり始めました。

突如始まるロックなBGMが、休日らしい和んだ雰囲気を一気に切り替えます。
OK, So, Hello Everyone! Thanks for joining us today for the interview with Minister Audrey Tang of the Taiwanese Government!

インタビュアーであるIBM Digital Makers Lab.嶋田敬一郎が口火を切り、画面の正面にオードリー・タン氏が穏やかな笑顔でうなずく姿が映し出されました。自然とSlackの書込みが止まり、4,000人の視聴者が一気に集中していることがわかります。

  • 若干13歳で通学を辞めるという決断はどの様になされたのですか?
  • なぜあなたはデジタル大臣になろうと思われたのですか?
  • あなたが「参加」というとき、そこには「対話」が含まれているようですね?
  • あなたはデジタル・ディバイドの問題にどの様に対処しましたか?
  • あなたの仕事はコロナ禍を通して複雑になり過ぎてしまったのでは?
  • 企業はこの様な時代にどの様な役割を果たしていけるのでしょうか?
  • これから国を上げてデジタルを推進していく日本に何かアイディアをいただけませんか?
  • 私達の次の世代、若い世代に、どのようなことを期待していますか?

次々と繰り出される嶋田からの問いに、オードリー・タン氏は穏やかな笑顔のまま、たまにイタズラっぽくユーモアを交えながら淀みなく答える。視聴者はやり取りを聞きながら、刺さった言葉、得たインスピレーション、湧き出てきた問いを次々と書き込む。そこへ更に共感のスタンプや、話題を深堀りする派生スレッドが滝のように溢れ出す。この様子はすべて、グラフィックレコーダーの風間菜央によってリアルタイムにレコーディングされ、50分のインタビューが終わった瞬間、参加者はみなそのセッションの熱量をそのままに、イメージとして記憶しました。

リアルタイムに作成されたグラレコの完成図


 
これは、「IBM Way Day」と呼ばれるIBMの社内向けラーニングイベントの様子です。このインタビューのテーマは、「私達は、この不確実性の時代において社会をより良くするためにどのように貢献できるのか」でした。「デジタル」をコンセプトではなく、社会実装している台湾の中心人物であるオードリー・タン氏から、その活動の根底にある価値観、世界観に触れて学びたい。そんな思いが結実した濃い時間を過ごしました。

例えば、オードリー・タン氏の答えは以下のようなものでした。

  • DX(デジタライゼーション)とは、「人と人をつなぐ」ことです
  • フェアな政府調達を行うためにAPI Firstの方針を進めました。当初はアクセシビリティを念頭においたものでしたが、結果的にはこのAPIのビルディングブロックがコロナ禍中のマスク・アベイラビリティ・マップなど様々な施策をAgileに実現することにつながったのです
  • 私は自分のことを、インターネット・コミュニティから派遣された「大使」のような存在のように考えています
  • 私にとって民主主義とはテクノロジーの一つであり、より良くしていく事ができるものと捉えています

私達はこれらの言葉を様々な視点から受け止め、理解し、意見を述べ合いました。9割以上はお互いに一度も会ったことがない4,000人が、オードリー・タン氏を通じて総体的な思索を行い、そのやり取りはインタビュー終了後もしばらく続いたのです。まるで「デジタルが人と人をつなぐ」そのものの相似形が今まさに現出していたかのように。

オードリー・タン氏をなぜ招いたのか?それはコロナ禍の時代背景が生んだ必然だった

お招きしたのは「IBM Way Day」と呼ばれる社内のラーニングイベントです。お客様先に常駐する社員も多く、平日は集まることすら難しいコンサルタントやエンジニア等を多く抱えるIBMですが、社員は「学び」を求めていました。そこで5年前から、年2回、その一日は全員で学ぶ日にしよう、という発想で始められたものです。冒頭ご紹介したようなキーノートスピーチに加え、各領域で活躍する社員によるテクノロジーや業界動向の紹介から自主研究活動やハッカソンまで、あらゆる学びを幕の内弁当のように仕立てたイベントになっています。いつしか「学び」は社員の枠を超えて、内定者や家族の皆さんまで巻き込んだ企画へ進化しています。

参加は100%任意ですが、2015年の第一回は600人程度だった参加者は回を重ねる毎に増えていき、2019年には3,000人が参加するイベントになりました。2020年春ももちろん、箱崎事業所に3,000名が集う一大イベントとして企画していたのです。しかしそこにコロナ禍がやってきて、人が集い学び合う学びのお祭りはできなくなりました。

振り返るとこのときが一つの転機でした。集うどころか外出さえままならない社会状況だからこそ「完全オンライン化した形でIBM Way Dayを開催することが社員とその家族の皆さんの希望につながるのではないだろうか?」数千人がオンラインで学ぶ場作りは完全に手探りでしたし、開催したところで果たして参加する人はいるのだろうか?不安は尽きないままで当日を迎えましたが、結果は大成功、過去を大幅に上回る4,000人が参加してくれたのです。

春のDigital IBM Way Dayの成功を受けて、秋は企画当初から「Digital」を大前提として行く、と決めました。そして「集合イベントをオンラインに置き換える」のではなく「集合イベントを超えるデジタルイベントを実現する」ことを目指したのです。デジタルならではのイベントとは何か。その解の一つが「デジタル開催ならば、東京にお招きするのが難しいゲストを招くことができる」でした。その発想の転換が生まれたとき、オードリー・タン氏をお招きできる可能性が同時に拓けたのです。
Digital Over Real「集う」を超えるラーニング体験を目指して

私達「ラーニング・オーガナイゼーション・イニシアティブ」は、デジタルに強いわけではありません。オンラインツールに特段詳しいわけでもありません。しかし、「学びの場作り」を考え抜くことについてはプロでありたいと思っています。コンセプトさえ定められれば、必要な技術は習得できましたし、素晴らしい協力者にも恵まれました(インタビュアーの嶋田やグラフィックレコーダーの風間も有志の協力者です)。

今年2回の挑戦を通して「大規模ラーニングの新しいあり方」の一つを形作ることができたと感じています。オンラインだからこそ過去最高の集客を記録しましたし、オンラインだからこそ数千件ものSlack投稿でリアルタイムな感情を記録できました。これまで見えなかったそれぞれの思いが可視化され、集合していたときよりも遥かに一つになれたように感じました。皆様のお役に立つことを願い、私達のLessons Learnedを3つご紹介します。

1. 会議ツールに加えてSlackを併用する

オンラインにおける「一体感・参加感・ライブ感」の鍵は、実はWebexの会議ツールではなく、Slackでした。WebexやZoomなどのチャット機能によるコミュニケーションはできますが、敢えてチャットをSlackにすることで4つのメリットがあります。

  1. イベントの開始前からコミュニケーションができる
  2. スレッドをつけられるので多人数が同時に書き込んでも議論が混線しない
  3. 投稿だけでなくスタンプによる気軽な参加がしやすいので盛り上がりや共感が可視化される
  4. イベント後もチャンネルを残せばフォローや復習が可能

複数ツールを同時に扱うことの煩雑さは当初リスクと考えていましたが、全員がすぐに慣れました。実は、オードリー・タン氏のインタビュー自体はライブではなくレコーディングでしたが、当日に全員が同時に視聴し交流することによるライブ感は圧倒的なものでした。

2. Slackの当日盛り上がりは前日までが勝負

イベント開始と同時によーいドンで盛り上がって下さい、感想を書き込んでくださいとお伝えしても、急にエンジンは掛かりません。勝負はすでにイベント開始前から始まっているのです。当日のセッション開始にともない自然にSlackに投稿が始まるようにするために、開催前から参加の意気込みや質問などを事前投稿していただくようにしました。これにより、一番盛り上がって欲しいイベント肝の部分でのチャット投稿へのハードルが大きく下げることができます。

3. こまめなフォローを欠かさない

投稿してもらって終わり、ではなく、参加者同士のコラボレーションを促進するために、初めは運営メンバーが頑張って、投稿された内容に対してどんな内容であっても片っ端からスタンプやスレッドで反応します。これを見た他の参加者は、「ここでは何を言っても大丈夫だ、必ず誰かが反応してくれる」という安心感を得ることができます。この層の皆さんが動き始めたら、あとは焚き火が自然に大きくなって行きます。輪になってマイムマイムを踊る一体感が得られます。

以上3つのLessons Learnedをお伝えいたしましたが、これらはいわば「How」の技術です。この手前に実は「What」と「Why」があります。「What」については、何を目指すか?今回で言えばそれは「Digital Over Real」でした。


集合研修をオンラインに置き換える、のではなく、企画段階からオンラインを前提とした可能性を追求し、Realではできない、Digitalだからこそのラーニングを企画すること。この発想なしにRealの焼き直しを作ってしまうと、これまでの体験を超えることはできません。Realの場の企画は何十年、いや何百年をかけて検討されてきましたが、オンラインの場は黎明期です。これまでの常識を超える、新しい体験をデザインできる余地はまだ沢山あるのではないでしょうか。

そして最後に「Why」です。なぜやるのか。なぜ他の何かではなくこれをやる必要があるのか。私達にとってこれが、数ある困難を乗り越えて行くための支えになりました。「もしかしたらこのイベント、やらなくてもいいのではないか?」と敢えて自問したとき、自分はどう答えるか。シミュレーションする価値はあると思います。

オードリー・タン氏の発言を素材にして社員同士がさらに意見を重ね、またグラフィカルに記録されていく場の熱量はライブならではのもので、それそのものをお伝えすることができず残念ですが、そのもととなったオードリー・タン氏へのインタビュー自体も素晴らしい内容ですので、関係者承諾のもと、インタビュービデオをYouTubeに公開させていただきました。みなさまが一緒にお仕事に取り組む仲間とこの動画(日本語字幕付き)を視聴しながら意見交換し、今後の取り組みに対するヒントを得て少しでもお役に立てればと願っております。

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