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プロボノ社会インパクト・プログラムで小規模農家を支援

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国連の持続可能な開発目標「SDGs」の1つに、2030年までに飢餓のない世界を作ることがあります。2021年には8億2800万人もの人々が飢餓の影響を受けており、世界保健機関によると2020年よりも4600万人増えています。

このままでは、SDG目標2「飢餓をゼロに」の達成はとても危ういと言わざるを得ません。

 

持続可能な開発目標2のターゲットには、「2030年までに、小規模の食料生産者の生産性と収入を倍にする」や、「2030年までに、持続可能な食料生産の仕組みをつくる」、「開発途上国での農業の生産量を増やすために、国際協力などを通じて、農業に必要な施設や研究、知識の普及、技術開発支援などをする」などが挙げられています。

しかし世界の食料安全保障の向上を支援する上で、食料供給の約3分の1を生産している小規模農家への支援は、重要でありながらも見過ごされがちです。

 

持続可能な方法で世界に十分な食料を行き渡らせるために

持続可能な方法で世界の人びとに十分な食料を行き渡らせるという責任は、巨大で困難なものです。

とりわけ、大規模生産者のようなツールや技術を持たない小規模の食料生産者は、競争力と生活の維持に大変苦労しています。ラテンアメリカでは、小規模農家は気候変動、生産コストの上昇、サプライチェーン全体の不透明性など、多くの課題に直面しています。

 

「気候変動は私たちに影響を与えています。ここでは雨の問題が多く、私たちが気づいていない疫病や病気の影響も受けています。そしてときには、生産が崩壊してしまうこともあるのです。」

コスタリカの小規模農家で、小規模農業協同組合の運営協議会の一員であるウィリアム・バルベルデはそう話します。

 

ラテンアメリカを拠点とする非営利団体「Plan21 Foundation」の代表であるファビアン・ロマン氏は、世界中で多くの農業生産者が同じ問題に直面していると語ります。

「その他にも汚染や水へのアクセス、生物多様性などの問題もあります。」そしてこれらの要因が、農作物の生産を妨げ、小規模の食料生産者が十分な生計を立てることができない原因となっているのです。

 

小規模農家を支援することは食の持続可能性を高めること

より正確なデータとツールを用いて意思決定を行えるようになれば、小規模農家はより持続的かつ生産的に作物を管理することができるようになります。つまり、「小規模農家がデータの力を活用できるようにすること」に、持続可能な農業変革の成功の鍵があるのです。

IBMは昨年、気候変動や異常気象、環境汚染などの環境問題の影響を特に受けている人びとのために活動している非営利団体や政府機関の事業強化・拡大を目指し支援する、プロボノ社会インパクト・プログラム「IBM サステナビリティー・アクセラレーター」を立ち上げました。

そしてIBMとPlan21は、ソリューションの共同開発に向け、チームを組みました。

 

Plan21とIBMは、コスタリカ工科大学の開発者とともに、ラテンアメリカの小規模の食料生産者が農作物をより持続的に管理できるようになること、その結果生産性と収入が向上することを目指しています。

IBMの社会的責任プロジェクト・マネージャーであるパオラ・シモネッティをはじめとするボランティアのIBM社員は、カスタマイズされたモバイル・アプリケーション「YvY」の開発支援をしています。

モバイルアプリ「YvY」は、農家に気象データ、農学データ、カーボンフットプリント計算から得られる知見を活用し、生産管理を容易にし、気候変動にもっとスムーズに適応するための技術トレーニングを提供するものです。

 

IBM サステナビリティー・アクセラレーターが果たすべき重要な役目は、IBMのリソースとテクノロジーを、コミュニティや環境に対する目標達成に役立てていただくことです。Plan21とのコラボレーションでは、IBMのクラウドテクノロジーとIBM Environmental Intelligence Suiteの気候データを活用いただき、小規模農家が持続可能な作物の生産・管理を提供することとなります。

「IBM Environmental Intelligence Suiteにより、ラテンアメリカの小規模農家は、どのような作物が適しているのかを検討する際に、短期的な気候予測や、より良い意思決定を支援してくれる農学データなどを提供してもらえるのです。」ロマン氏はその影響の大きさをこう語っています。

 

今後の展望 | エクアドル、コロンビア、チリ、アルゼンチン…

Plan21とIBMのコラボレーションはすでに有望な結果を示し始めています。コスタリカでは190の農家が初期テストを行っており、2023年にはエクアドル、コロンビア、チリ、アルゼンチンで、1,300以上の農家がソリューションの試験導入を予定しています。

現在は全体で7つの農家協同組合がこのソリューションのテストに参加し、コーヒー、ユカ(キャッサバ)、バナナ、カカオといった作物の収量を増やしています。

 

しかし、まだやるべきことはたくさん残っています。

YvYアプリのプロジェクト・マネージャーとしてPlan21とのコラボレーションをリードするIBM社員ナタリア・ビケスはこう語っています。

「来年度は新しいモジュールを開発し、ラテンアメリカの小規模農家をさらに支援していく予定です。協同組合か個人の農家か、ラテンアメリカのどの国と一緒に進めるか、それは分かりません。しかしいずれにしろ、より多くのユーザーがアクセスできるようになるでしょう。1,600人を見込んでいますが、もっと増やすことができればいいですね。」

 

ロマン氏は、IBMとPlan21のコラボレーションが、YvYが今もたらしているもの以上のより大きなものへと成長するかもしれないと言います。

「我われはボランティアチームによって機能する組織であり、テクノロジー企業でもテクノロジー組織でもありません。しかし、持続可能なプロセスの構築には間違いなくテクノロジーが不可欠だと深く理解しています。ですから我われにはIBMの支援が不可欠なのです。」

 

食料不安と飢餓を撲滅するために

YvYが小規模の食料生産者に示したのは、かつては不可能だと思われていたテクノロジーも、今や現実に手にすることができるということです。

しかし、世界中の食料安全保障の向上に貢献するには、その歩みを止めることは許されません。私たちは、サイエンス、テクノロジー、パートナーシップの力を最大限に発揮し、世界中のコミュニティに真の変化をもたらしたいのです。


当記事は『The fight for food security must empower smallholder farmers』を日本の読者向けに再構成したものです。

 

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