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電力送配電DXレポート 第2回 気象データを活用した国内外の送配電DX事例

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川井 秀之
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業
公益サービス事業部

 

送配電事業において「気象情報」はキーファクターとなる情報の一つであり、「作業の安心安全」から「消費者需要」「業務生産性」「エネルギー市場」「設備の状況認識」まで、事業のさまざまな側面に決定的な影響を及ぼします。したがって、目的に最適な高品質のデータを使って高い精度の分析/予測を行うことが不可欠だと言えます。今回は「停電予測」「太陽光/風力発電予測」「作業効率化/安心安全の確保」に気象データを活用している国内外の事例をご紹介します。

※ 本記事は公益サービス事業部主催「電力送配電部門様向けDXセミナー」の実施内容を基に構成しています。

 

気象情報を活用した業務変革、新ビジネス創出があらゆる業界で活発化

気象情報は今日、さまざまな業界で業務に活用されているほか、既存事業との組み合わせによる新たな価値創出、新規ビジネスの創出などでも積極的に利用されています。下表に示すのは、気象データに関するIBMのソリューションを活用して新たなビジネスやデジタル変革(DX)を推進している国内のお客様の一例です。

表 IBMのお客様における気象データ活用事例(国内)

IBMは現在、「発電」から「送電」「配電」「小売」「サービス」まで、国内の多くの電力関連企業様に対して、気象データを活用した業務変革をご支援しています。その適用領域は、「太陽光/風力/水力発電予測」「アセット劣化分析」「停電予測」「作業効率化/安心安全」「電力取引」「需要予測」など多岐にわたります。

以降では、次の3つのテーマについて、IBMの支援で気象データの活用を進めている国内外のお客様の主な事例をご紹介します。

①「停電予測」に気象データを活用する

初めにご紹介するのは、気象データを活用した停電予測の事例です。これは高精度な気象データと過去の事故停電のデータを機械学習させて予測モデル(AI)を作り、次に発生した台風の進路や気圧などを予想した気象データを使って「どのエリアで、どのくらいの規模で、何時頃に台風による被害が発生しそうか」を予測し、その結果に基づいて対応計画を作り、作業手配や出向手配、協力会社への支援要請などを行うという活用法です。

▶北米2社は指定エリアの設備の故障確率を75%以上の精度で予測

例えば、北米の2つの電力会社様は、IBMの停電予測ソリューションを活用することで、いつ、どのエリアのどの設備が故障する可能性があるのかを予測することが可能となりました。これらのお客様が利用している予測画面は次のようなものです。


図1 停電予測ソリューション例

図の中央に2つの地図画面が表示されていますが、これらは地図上に気象情報と設備の位置情報をマッピングしたものであり、上の地図が現在の状況、下の地図が数時間後の予測状況を示しています(地図は営業所の担当地域で細かく分割されています)。前述のように、過去の気象データと事故停電の相関関係を機械学習させて予測モデルを作り、それに現在の台風の情報(進路や規模、予測降水量)を与えて事故を予測します。プルダウンメニューによって予測対象の設備(電線、鉄塔など)を選ぶことができ、設備の事故が予想されるエリアは地図中に赤で示されます。

このソリューションの活用により、お客様は次のような成果を確認されています。

お客様 成果
北米電力会社A社様 ・最大72時間前に停電範囲を予測
・停電範囲的中率80%
・停電範囲誤報1%以下
・停電しないと予測された地域(平均20カ所)への要員手配を削減し、待機人員も削減(出向作業者の人員減少に対応)
北米電力会社B社様 ・最大72時間前に停電範囲を予測
・停電範囲的中率75%
・停電範囲誤報1%以下
・工事作業車の手配効率化

いずれのお客様も最大で3日前に停電範囲や停電時刻、設備故障の予測を75〜80%の的中率、1%以下の誤報率で行うことが可能となりました。その効果として、コスト削減効果(金額は非公開)のほかに、各営業所での要員手配や待機人員を削減し、その分を被害が予想されるエリアに振り分けられるようになったほか、高所作業車の手配を効率化しています。高所作業車は高価なため、全ての営業所に導入するのは難しく、協力会社から手配して待機させておいても使わずに終わるケースが少なくありません。もし高所作業車が必要になる場所を事前に予測できれば、手配を効率化してコストも抑えられるというわけです。

▶気象データと過去の作業記録報告による予測で約70%の的中率

国内の電力会社様も、同様の停電予測をパイロットプロジェクトとして実施されています。高精度な気象データと過去の設備被害のデータを機械学習して予測モデルを作り、台風などによって送電(送電鉄塔、送電線)、変電(特高、高圧、中間、配電の各変電所)、配電(電柱、配電線)、情報通信(マイクロ波鉄塔、光通信中継所、 移動無線基地局、局舎)の各設備にどの程度の影響が出るかを予測するモデルを作成しました。設備被害については、過去10年以上の作業記録報告を全て取り込んで機械学習を行い、予測モデルを作成しました。

この予測モデルに対して、過去に実際に発生した台風の情報(進路、降雨量、風速など)を与えて実際の被害状況と比較したところ、チューニングをほとんど行わない状態でも約70%の的中率が得られました。

このプロジェクトではIBMが提供する気象情報サービスを活用し、複数の気象項目と停電の相関関係から営業所単位で停電予測モデルを作って水没や飛来物による破損など、さまざまな予測を検証しています。

本パイロットプロジェクトを実施した感想として、お客様からは「作業員によって作業報告書の記載方法が異なるため、データ項目の統一が必要」「『フィーダ◯◯線 XX号〜XX号』といった記載で人は停電個所がわかるが、AIは理解できないため停電個所の緯度経度への変換が必要」といった課題を伺っています。

また、このプロジェクトを他の電力会社様にご紹介したところ、「事故停電の事後対応の効率化は進めているが、事故停電そのものを予測する発想はなかった」「今後、AIによる予測が実用化されるのなら、データの蓄積方法を早急に検討しなければならない」といった感想をいただきました。

作業者の皆様の長年の経験から、季節や台風の進路によって事故が起きる場所をある程度予測できるといった現場もおありでしょう。その暗黙知をデジタル化したものがここでご紹介している気象データとAIを活用した停電予測だと言えます。熟練作業者の退職などによりノウハウの継承が難しくなっている今日、属人化したノウハウをデジタル化して継承可能なかたちにしていくためにも、データとAIの活用が必要とされているのです。

なお、IBMは現在、先進テクノロジーを活用して人が行うさまざまな業務プロセスの遂行を効率化する「インテリジェント・ワークフロー」を提唱しています。気象予測や作業計画の作成、要員手配といった個別のタスクを人に代わってAIが行うだけでなく、それらのタスクの実行そのものをAIが担当者と対話しながら制御することで、業務プロセスの実行スピードの向上や高精度化を実現します。このアプローチを活用し、例えば悪天候を予想する気象データが届いたら、自動的に事故停電の予測から出向司令の計画の作成までを自動的に行う仕組みを検討しているお客様もいらっしゃいます。

②「太陽光/風力発電予測」に気象データを活用する

次に、太陽光発電と風力発電による発電量の予測をIBMがご支援した事例をご紹介します。これは日射量や風向、風力、風速などの予測データに基づいて発電量を予測するというもので、高い精度で予測するためには使用するデータの種類や精度が重要となります。

▶多様なデータの活用で積雪状況に応じた発電量予測も可能に

例えば、国内で太陽光発電量の予測に取り組まれているお客様からは、次のような課題をお伺いしています。

これまでさまざまな企業から日射量予測の気象データを購入してきたが、一部に予実の差が激しいデータがあった。固定価格買取制度(改正FIT法)の関連から、より精度の高い予測が必要とされている。

これは精度の低いデータを使って予実に大きな相違が生じた場合、改正FIT法の観点から損益に大きな影響が出るため、ご相談いただいたケースです。

また、次のような課題もお聞きしています。

メガソーラーによる発電量予測について、特に積雪期から融雪期の発電量予測を課題としている。現在は国内の気象データ会社から日射量や降雪量のデータを購入しているが、これらのデータだけでは予測が行えない。

これは、雪の解け具合によって発電量にバラツキが出るため、これを予測できないかというご相談です。予測には機械学習を使いますが、さまざまな気象関連データを活用して日射量を高精度に予測し、それに基づいて雪の解け具合や発電量を予測しようというのです。IBMがきめ細かなメッシュでご提供している多種多様な気象データから、次のようなデータ(非公開パラメーターを除く)を利用して雪の解け具合も踏まえた日射量を予測するモデルを作成しました。

【積雪期から融雪期の発電量予測に使用したデータ】
月、地点、雲量、降水確率、気圧、降水量、降雪量、相対湿度、気温、露天温度、体感温度、UV指数、風向、突風、風速、全天日射量
※ 非公開パラメーターを除く


図2 太陽光発電予測

また、ある電力会社様からは、風力発電量の予測についてご相談をいただき、同様に風速、風向、空気密度、気温、気圧、湿度などのデータをご提供し、タービンごとの発電量を予測しています。

▶多様な気象関連データの提供でさまざまなビジネスを支援

これらの事例では、IBMの気象サービスであるThe Weather Company(ソリューションの名称)のデータをご活用いただいています。The Weather Companyでは、きめ細かなメッシュで更新頻度の高い気象データをご提供しており、IBMが予測モデルの作成までご支援しています。

以上のほかにも、IBMは次のような気象データの活用をご支援しています。

  • 出向作業前に出向先の天候を予測したい(特に風速)
  • 体感温度と生体データから熱中症のアラートなどを出したい
  • 上空の風向/風速のデータをギャロッピング対策に使いたい。または送電線近辺の気温を予測したい
  • 気象情報をサイネージやデジタル広告(電柱)に取り込みたい

 

③「作業効率化/安心安全の確保」に気象データを活用する

最後に、気象データを活用した作業効率化や安心安全の確保に関してIBMが支援した事例をご紹介します。

▶衛星画像を活用した樹木管理業務の効率化

まず取り上げるのは、前回も簡単にご紹介した米国テキサス州の送配電会社Oncor社における衛星画像を活用した樹木管理業務の効率化の事例です。

Oncor社が課題としていたのは、送電線への樹木の接触を避けるための樹木管理、伐採管理です。樹木の状態を確認するためには巡視を行いますが、対象地域が広大であるため、定期的な巡視や伐採計画の作成/実施などに非常に多くのコストがかかることが悩みの種でした。しかも、これを怠ればハリケーンなどの災害時に大規模な停電を発生させてしまう可能性があり、その精度と効率性をいかに高めるかが同社の課題でした。

課題解決のためにご活用いただいたのが、地理空間分析プラットフォーム「PAIRS」です。これは時間と空間の情報を組み合わせて予測を行うソリューションであり、各種の時空間系データを重ね合わせてさまざまな予測が行えます。例えば、国内の電力会社様は時間と場所のデータを使ってスマートメーターの電波の到達状況が冬と夏でどれくらい違うのかを検証するために利用されていますし、大型台風の前後でどの場所の樹木が倒れて道路をふさいだかの予実をとる目的で活用されたお客様もいらっしゃいます。

▶PAIRSによる解析の手順

PAIRSを使った画像解析の流れを示したものが次の図です。


図3 IBMソリューション: PAIRSでの解析手順

まず、人工衛星で撮影した地上の画像に対してハイパースペクトル分析を行って樹木がある場所を抽出し、さらに葉や幹の光の反射率などを抽出した画像を重ね合わせて各場所の樹木の高さを推定します。その画像データに対して送配電設備の位置を示すマップを重ねることにより、どの鉄塔や送電線に樹木がかかっている可能性があるのかがわかるため、そこを重点的に巡視することで巡視コストを大幅に削減できます。

さらに、Oncor社では第1回の記事でご紹介した公益企業向けの設備管理ソリューション「IBM Maximo APM for Energy and Utilities(E&U)」を活用し、それぞれの鉄塔や送電線がカバーするエリアなどを基に重要度の重み付けを行い、どの設備から優先的に対応するかを判断するといったことまで行っています。

また、国内電力会社様でも同様の取り組みを実施されており、Oncor社と同様に衛星画像から樹木の位置/高さを解析して配電線などの位置とマッピングしています。このお客様は地方部と都市部を対象に解析を行われましたが、非常にマッチング率が高く、さまざまな観点から新たな視座が得られたとのご評価をいただいています。

▶遺跡保護、災害対応などでもPAIRSを活用

PAIRSは、樹木以外にもさまざまな画像に対して時空間系の解析が行えます。例えば、IBMは山形大学様と共同でPAIRSを「ナスカの地上絵」の保護活動に活用。広大な地域に散在する地上絵の分布状況を解析して、新たな地上絵の発見に役立てています。

また、あるお客様は台風前後の衛星画像を解析し、それぞれの画像のどこに樹木があるのかを推定。それらの差分から倒木がありそうな場所を特定し、それを道路地図と重ね合わせることで倒木に塞がれていない可能性が高い道路を推定して災害時の対応に活用されています。

さらに、ドローンで撮影した地域一帯の大量の画像をつなぎ合わせて1枚の大きな画像を作成するためにPAIRSを活用されているお客様もいらっしゃいます。

以上、今回はIBMがご支援した国内外の気象情報データ活用事例をご紹介しました。次回は「次世代スマートメーター」に関する国内外の事例を取り上げる予定です。

 


IBMソリューション

The Weather Company ─ 高精度の多種多様な気象関連データを提供

本記事でご紹介した多くの事例で、The Weather Companyの各種気象データをご活用いただいています。同社は30年以上の歴史を持つ気象サービス会社であり、2016年に買収によってIBMのグループ会社となりました。
The Weather Companyは、気象にかかわるデータを世界中のさまざまなポイントで取得し、機械学習を利用して精度の高い予測データを作成してビジネス用途向けに提供しているほか、それらのデータがビジネスに与える影響を予測するビジネスインパクト予測分析サービスも提供しています。

The Weather Companyが提供する気象データの特徴としては、大きく次の3つが挙げられます。

  • 多種多様なデータを取得:気象衛星やレーダー、観測所に加えて、5万フライト/日、約25万カ所におよぶ独自の観測点からデータを取得
  • メッシュのきめ細かさ:半径500m単位、15分ごとにデータを更新。毎時1TBを処理し、ビジネス用途向けに多様な情報を提供。上空260mまでの風向/風速も提供
  • 気象データの正確性No.1の実績:162以上の気象モデルをブレンドし、機械学習によって予測精度を向上

提供するデータ項目も多岐に渡り、気温、風向、風速、湿度 、降水確率、降水量、降雪量のほか、露点、気圧、雲量 、視程、日射量、体感温度、各種指数などのデータを提供しています。これらのデータはAPIを介してご利用いただけるほか、上述のビジネスインパクト予測分析サービスやPAIRSなども併せてご提供しています。

→ ソリューション情報: 気象データとソリューション(The Weather Company)
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~ IBMのAI(人工知能)技術で地上絵の全体像把握を目指す ~

 

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