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ゲゼルシャフトとゲマインシャフト | 在りたい未来を支援するITとは? シリーズ#1

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9月上旬に開催された「今だからこそ必要な”地方創生xTech”」ディスカッションで、対話のベースとして用いられた1枚の図がある。

ニューフロンティア、ゲゼルシャフト、ニュータックス、MMT現代貨幣理論入門、ゲマインシャフト…。ティール組織、地域通貨、循環経済。より良い生活(ベターライフ)、より良き市民(ベターシチズン)。
Planet Resource Planning – 日本語にすれば「地球資源計画」という意味となる言葉の下に置かれているのは、そんなキーワードだ。

 

「この全体コンセプトはまだまだラフなもので、もっと磨き上げていく必要があると思っています。そしてA〜Dの1つ1つや、この図の中に書かれている鍵となるキーワードを、より解像度の高いものにしてその本質を共有していく必要も感じています。」

そう語るのは、この図を作った日本アイ・ビー・エム AI Applications事業部長の村澤賢一だ。

 

当シリーズ「在りたい未来を支援するITとは?」では、この図に描かれているキーワードやその展望をもとに、村澤の考える未来へのステップと現在のIBMの取り組み、そして有識者や社会実装実践者とのコラボレーションについて紹介していく。

序章となる今回は、このチャートの全体像についてもう少し村澤に聞いていく。

 

■ 強くなり過ぎてしまった都市型・利益追求型のゲゼルシャフト

「左側に下から順にA〜Dまでが並んでいます。この4つは、それぞれが現在の人間の活動領域を示しています。Aはゲマインシャフト、Bはデジタル・ガバメント、CがゲゼルシャフトでDがニューフロンティアです。Bのデジタル・ガバメントとDのニューフロンティアは、耳にされる方も多いのではないでしょうか。

Bのデジタル・ガバメントは、ここ数年日本の喫緊の課題と言われ続けている、政府や地方自治体のデジタル化を主に意味しています。そしてDのニューフロンティアは、企業や国家が個々に取り組む範囲を超えた『人類全体としての挑戦』を意味しています。宇宙開発や新エネルギー研究開発などがイメージしていただきやすいと思います。

それに対して、AのゲマインシャフトとCのゲゼルシャフトは、社会学の分野では頻繁に使用される言葉ですが、ビジネスの世界ではあまり馴染みのない言葉かもしれないですね。」

 

ゲマインシャフトとゲゼルシャフトは社会学にルーツを持つ言葉で、村澤の言う通りビジネス界隈ではさほど頻繁に耳にする言葉ではないだろう。19世紀にドイツの社会学者テンニースが提唱した社会を表す対立概念であり、少々乱暴ではあるが大雑把に以下のように対比できる。

 

村澤は、日本においてAのゲマインシャフトに代表されるのが第一次産業を中心に成り立つ地方・地域であり、Cのゲゼルシャフトを代表するのが東京であると言う。

そして均衡が崩れた両者の関係性が端的に表れているのが「限界集落」であり「都市一極集中」ではないかと説明する。

「ゲマインシャフトとゲゼルシャフトは対立概念ですが、それでも20世紀の間はどうにかバランスを取って共存できていました。ただ、そのバランスが崩れ、都市型で利益追求型のゲゼルシャフトだけが強くなり過ぎてしまった。一方的に吸い上げられ、循環しない形になってしまっています。

今や、ゲマインシャフトは立ち直れなくなってしまう一歩手前と言ってもよいのではないでしょうか。」

 

■ コンテンツを見る都会型。コンテクストを見る田園型

突然だが、ここで筆者が最近体験したある出来事を紹介させていただきたい。

筆者には、東北地方で独居生活を送る叔父がいる。口数がとても少ないこともあり、普段はあまり頻繁にやりとりをしない。先日、そんな叔父と、姉を交えて3人でいろいろと話をする機会があった。ただやはり、姉と叔父がスムーズに会話をする一方で、筆者はあまり上手くコミュニケーションが取れずにいた。どこか、ぎこちないのだ。

 

「君の話し方は典型的な都会型。そして叔父さんの話し方は典型的な田園型。だからなかなか噛み合わないんだね。」叔父が席を立ち2人になった後、姉にそう言われた。

都会型と田園型…? おじさんが津軽弁だから…いや、そんなシンプルな話ではないだろう。言わんとするところを姉に尋ねてみたところ、その答えはまったく予想外のものだった。

 

「君は人の話を聞いて、『それでどうなったの?』とか『じゃあこうしよう』とか、話を理解して前に進めようとするよね。でもおじさんは違う。

私たちの話を聞いて『へーそうなのか』とか『そりゃ大変だね』とか、相手の気持ちを受け止めるだけで、おじさんはその場に立ち止まっている。話を先に進めるのは、常に話し手の側なんだよ。

おじさんと話すときは、私もそれを少し意識するようにしているの。」

 

言われてみれば、それは確かに都会型と田園型だった。

会話を前に進めてものごとを先に動かすのは、とても都会的だしビジネス的だ。意識が向けられるのは「話される中身(コンテンツ)」であり、ものごとは独立していて動かしやすい。

一方、意識を向ける先が「話を取り巻く事情や状況(コンテクスト)」となると、ものごとはさまざまな事柄をまとい動かしづらくなる。そんな状況下でものごとを先に動かすのは独立したコンテンツよりも関係性であり、それは田園的と言えるだろう。

 

■ 誰がゲマインシャフトをそこまで追い込んだのか?

ここで再び、村澤の言葉に戻ろう。

「『経済合理性やグローバリゼーションを率先してきた企業がそれを言うのか!』と思われる方も少なくないでしょうが、このまま企業主導のゲゼルシャフト社会が強過ぎる状態が続いていては、現代社会における人びとの『ある種の生き難さ』が改善されることはないでしょう。

人びとが『より良き市民』として生き、『より良い生活』を活き活きと営むために、今こそゲゼルシャフトに対抗できるゲマインシャフトの再構築の必要性を見直すべきではないでしょうか。そして同時に、ゲゼルシャフトとゲマインシャフト間の活動を縦横に連携することが重要です。

つまり、「ゲゼルシャフトかゲマインシャフトか」という2元論的な思考から脱却し、もう一度共同体を中心としたゲマインシャフトと機能体を中心としたゲゼルシャフトを共存共栄させることで、人間一人ひとりが持つ様々な異なるデマンドを満たし、生きやすい社会を作り上げるためのサービスの提供が可能となるのではないでしょうか。

そのためのIT基盤の整備を、広く対話を重ねながら作り上げていく必要があると思っています。」

村澤はそう語った。


 

■ より良き市民として生きより良い生活を営むために

より良き市民としてより良い生活を送るために、私たちに不足しているのは一体何なのでしょうか? そこに変化を起こすためには、何がポイントとなるのでしょうか?

次回より、インタビューや対話を通じて、村澤と共に皆様と考えを深めていきたいと思います。

 

 

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(TEXT: 八木橋パチ )

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