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インテリジェント・アシスタントとは(対談後編) | 在りたい未来を支援するITとは? シリーズ3

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デジタル変革が急ピッチに進む日本。しかし「旧来のモノサシ」のままにビジネスや都市生活基盤の変革を進めていては、現代社会の「ある種の生き難さ」が改善されることはなく、社会はさらに格差という歪みに覆われてしまうのではないだろうか?

— そんな問題意識からスタートした「インテリジェント・アシスタント」と、それを基盤へと拡張した「都市OS」についての対談をお届けしている「在りたい未来を支援するITとは?」。

インテリジェント・アシスタントの考え方と都市OSのつながり、そして信用の担保や時間軸の変化への対応について主に対話が進んだ前編に続き、その社会的効果と対象範囲についての話から後編はスタートした。

前編はこちら

 

目次
■ バッファーのない社会とインテリジェント・アシスタントの社会的効果
■ マルチ・アシスタントとデジタル・ツイン
■ 人間の意識や知性の向かう先の変化


 

対談者3名

 

村澤 賢一  (IBM Cognitive Applications事業部 事業部長)

AIやIoTなどのテクノロジーを、新しい社会や人間の在り方にどう活かせばよいのか。社会基盤としてどう活かしていくべきなのかに興味を持ち、その実現方法を探っている。

 

坂本 佳史 (IBM GBS, CTO of Edge Computing in Japan)

テクノロジーが人の生活をいかに幸せにできるかを研究・実践している。日本IBMのエッジ・コンピューティングCTOであり、製品開発のスペシャリスト。

 

磯部 博史  (IBM Cognitive Applications事業部 Master Shaper)

IBMが「スマーター・プラネット(IT技術を軸に地球規模の課題を解決して地球をよりスマートにしようというイニシアティブ)」を標榜していた2008年頃から、ソフトウェアを中心に社会実装に取り組んできた技術者。


 

 

議論に先立ち村澤が共有した図

 

■ バッファーのない社会とアシスタントの社会的効果

村澤: 前編で磯部さんが「競争に明け暮れているゲゼルシャフト」という話をされましたが、今、その傾向は一層強まっていると思っています。

また、個人が「オールウェイズ・オン状態」で社会と直結し対応を求められるようになったという話もしましたが、ゲゼルシャフト社会に在る企業側は、それを自社の従業員や取引先にも求めています。そしてそのスピード感を前提としたマネタイズモデルやビジネスモデルへと転換している。そして人びとがオンラインで発信している情報を、「自社ビジネスの資源」として囲い込む企業も増えています。

それが悪いと言いたいわけじゃないですよ。ましてや近代を否定したいわけでもありません。ただ、もう少しバッファーというか、アソビや余力を必要としている人間が多いと感じているんです。もちろん個人差や違いはあっていいわけで、「今のままでいい」という人もいるでしょうし、「積極的にインテリジェント・アシスタントにお任せして余力を取り戻したい」という人もいるでしょう。

 

磯部: そうですよね。個人の違いという観点から言えば、インテリジェント・アシスタントという仕組みを受け手としてではなく、作り手としてのスタンスで捉える人も少なくないだろうと思うんです。

どんなサービスにも、積極的にチャレンジを好むユーザーもいれば、完全に世の中に浸透するまでは慎重に進めたい、手を出したくないというユーザーもいます。同様に、作り手側として「一緒にこの仕組みを育てたい。多少の失敗があろうと一緒に歩んでいきたい」という人も一定数いるんじゃないですかね。

 

— ちょっと違う話ではありますが、WHOはコロナウイルスのワクチン摂取率が2/3を超えれば安全宣言が出せると言っていますよね。インテリジェント・アシスタントの場合はどれくらい普及すれば社会的な効果を発揮するのか、気になるところです。

 

村澤: 適用範囲をどう設定するか、あるいは活用領域の定め方で社会的効果の範囲も大きく変わってきますね。例えばインテリジェント・アシスタントがパーソナルヘルスケアの領域で用いられれば、それによって国民医療費や総保険医療支出額がどれくらい圧縮されるがもっとも分かりやすい効果として考えられるでしょう。この範囲で効果を見るには、かなり広い年代に用いられることが必要でしょうね。

一方で、例えばジェネレーションZやミレニアル世代だとか、独身あるいは子どものいない家族世帯だとか、そういう特定の世代や属性を持つ人びと向けに社会的に役立つ分野や領域が定義できれば、その属性を持つ人が市民の2割に満たなくても、そのうち8割が使用すれば大きな効果を現すのではないかと思いますね。

 

 

■ マルチ・アシスタントとデジタル・ツイン

村澤: 活用領域の定め方が大切な理由はもう一つあると思っています。それは領域ごとに「キャズム」と言うか「閾値」のようなものもかなり異なるだろうということです。

インテリジェント・アシスタントを人間の「能力拡張基盤」、いわば「オーグメンテッド・アビリティー」として捉えると、そこに価値を見出す人はぐっと増えそうです。

 

坂本: その通りだと思いますよ。インテリジェント・アシスタントって実は社会的基盤にしなくても成立する概念ですよね。さらに言えば、別にIBMが提供しなくても、すごく高いITスキルや拡張知能に関する知識を持っている人なら、自分自身のために個人で作り上げることもできないわけではないでしょう。

とは言え、サービスとして提供することで、そうした専門性や能力を持っていなくても、インテリジェント・アシスタントがもたらす利便性 — 正しい判断をするための支援や情報収集の能力 – を容易に手にすることができるようになるわけです。それ自体にも大きな社会的価値があると思います。

そして村澤さんの言うように、10%や5%の人だけかもしれまないけれど、その人たちにとっては能力拡張基盤は大きな価値となるんじゃないでしょうか。

 

磯部: 「インテリジェント・アシスタントがもたらす利便性」自体も、常に同じものじゃなくて良いですよね。

アシスタントは1つではなくマルチ・アシスタントの集合体として構成されるものとなるでしょうから、そのときどきで、自分のなんの能力を拡張させたいのか…。

例えば「肉体的にのびのびと」だったり「精神的にいきいきと」だったり。そんな風に自分の状態に合わせて「今は成長スピードが高い時期なので、あえて負荷を高める」というような、そんな風に選べるのがいいですよね。

 

村澤: 選べるのは大切ですね。前編で話した「アシスタントをお払い箱にできることで信頼性が上がる」という話しにも通じるところがありますが、なにもクビまでいかなくても、オンオフできる必要はあるでしょうね。

オンにしているときはインテリジェント・アシスタントが頑張って自分のために働く。オフを選択しているときは休止状態に入る。そんなシンプルなスイッチでいいのかもしれません。タイムスパンの制御も同様かもしれません。

物理レイヤーと情報レイヤーがつながっている「デジタルツイン」という世界では、情報レイヤーからのフィードバックが物理レイヤーに正しく届き、その制御に活用されることで本来の価値を発揮します。その一方、主体者が意図的につながりを切り離せることも重要です。

 

 

■ 人間の意識や知性の向かう先の変化

— そろそろお時間ですが、インテリジェント・アシスタントの「能力拡張基盤」としての役割がかなりはっきりした気がしています。そしてこの部分の思想の強さが「都市OS」への拡張の成否を握っているのではないかと感じました。

 

村澤: これまでは、いや今も、企業は競争に勝ち抜くために必要な情報入手に必死です。そして同じように、人びとも命や生活の維持に必要なものを確保するのに必死でした。

でもステージが変わったんですよね。生き残るために必要なものをがむしゃらに手に入れようとするところから、環境や地球のサステナビリティへと、意識の向かう先が移りました。なぜなら、そうしなければ人類という集団の生存が、すなわち市民の生活というものが成立しない状況が待っていると分かったので。

この人間の意識や知性の向かう先の変化を、地球資源の無駄・無理のない分散へと向かわせること、つまり「人間の知性の主戦場」を全地球資源計画(Planet Resource Planning)という理念に向かわせてくれる「相棒」が、インテリジェント・アシスタントだと私は思っています。

 

坂本: 私は、都市OSには2つの側面があると思っています。

1つは、都市をいかに維持・管理していくかという社会基盤としての役割り。ここ最近、あちこちで非常によく語られている側面です。そしてもう1つは、そこに住んでいる人たちにどれだけ幸せな暮らしを提供できるかという役割りです。

現状では多くの自治体が、そこに住む人たちに「ここで情報提供しているので自分たちで見てください」という情報発信のやり方で終わってしまって、あるいは止まってしまっています。そうではなく「あなたはこれを活用できますよ」という、個別の提案にまで広げられないものでしょうか。

それが、「何が自分たちにとっての幸福なのか」「どんな幸せな生活ができるのか」を住民と共に考えていく行政の役割りであり、それを支援できる都市OSこそが必要ではないでしょうか。

 

村澤: 全地球資源計画という理念を各地域が持つ文化に合わせ、そこに暮らす人びとが自分たちの求める幸福や生活に落とし込み実践していく。そのためのプラットフォームが都市OSである、と。

そしてその成立には個人の負荷の低減が必要なので、それを実現するのがインテリジェント・アシスタントである、と。

 

— そこにはまだ若干の飛躍というか、その2つをブリッジとしてつなぐものが必要な気もします。

 

磯部: 私もそう思います。でも、都市OSとインテリジェント・アシスタントをつなげるヒントが、東京電機大学さんと現在進めているデジタルビレッジプラットフォーム(DVP)とデジタルマーケットプレイス(DMP)という「地域課題解決システム」にあるんじゃないかと思っているんです。

(参考『地方創生の推進に向け、地域の取り組みを連携させるIT基盤の実証実験を開始 データ流通プラットフォームと地域課題流通マーケットプレイスを構築』)

 

地域課題解決システムを簡単に説明すると、DVPが社会にどういった解決策や技術が存在しているのかという「シーズ」をカタログ化し、DMPが地域の困りごとという「ニーズ」を吸い上げ、そのシーズとニーズを村や町レベルでマッチングしていくという仕組みです。

この展開版として、より細かい個人レベルでのマッチングシステムがあったり、より広範な都市レベルでのマッチングが行われれば、かなりの課題を解決でき幸福を追求する暮らし方ができるのではないでしょうか。

今はマッチングプラットフォームを介した実証実験の途中ですが、いずれはこれがよりスムーズになり、プラットフォームを解さずインテリジェント・アシスタント間で直接行えるようになるんじゃないかと考えています。

 

村澤: みなさん、今日はインテリジェント・アシスタントと都市OSについて幅広くこれまでのディスカッションを振り返ることができたと思います。ありがとうございました。

私たちIBM社員は、技術で社会をより幸福な生活を送れるより良い場所にしていこうというミッションを、自ら選んだ人間たちの集まりです。

引き続き議論を重ねつつ、実践と実装を進めていく必要があるのは間違いありません。また近いうちにこうした場を持たせてください。

 

 


いかがだったろうか。「より良い生活(ベターライフ)」と「インテリジェント・アシスタント」の関係が、そして「より良き市民(ベターシチズン)」と「都市OS」の関係が、対話を通してその像を結んできたのではないだろうか。

次回はより具体的な取り組みにフォーカスした記事をお届けする予定だ。

 

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TEXT 八木橋パチ

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