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インテリジェント・アシスタントとは(対談前編) | 在りたい未来を支援するITとは? シリーズ3

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2020年は、全世界を席巻する新型コロナウイルスにより、これまで後回しにされてきた課題がむき出しとなった年でした。そして今年、世界では「GX」とも呼ばれている「グリーン・トランスフォーメーション」が進み、日本でも世界に追いつこうとデジタル変革が急ピッチに進んでいます。

しかし、ビジネスや都市生活の変革基盤を「旧来のモノサシ」を使ったままで進めていては、現代社会に巣食う「ある種の生き難さ」が改善されるどころか、社会における人・モノ・金の偏りを一層ひどくしてしまうのではないか?

— そんな想いから、IBMはヒト・空間の次世代モデルを支える基盤の検討を進めている。

 

議論に先立ち村澤が共有した6つの視点とそのつながり

 

これまで第1回の『ゲゼルシャフトとゲマインシャフト』、第2回の『都市OSと人OS』とお届けしてきたシリーズ「在りたい未来を支援するITとは?」の第3回となる今回は、個人の判断を支援する「インテリジェント・アシスタント」と、それを基盤へと拡張した「都市OS」についての研究を中心となって続けている3名のIBM社員の鼎談をお届けする。

 

目次
■ インテリジェント・アシスタント | 実存にフィードバックする影
■ アシスタントへの信用 | ヒトとアシスタントのエンゲージメント
■ コンテキストの変換と適用範囲


 

対談者3名

 

村澤 賢一  (IBM Cognitive Applications事業部 事業部長)

AIやIoTなどのテクノロジーを、新しい社会や人間の在り方にどう活かせばよいのか。社会基盤としてどう活かしていくべきなのかに興味を持ち、その実現方法を探っている。

 

 

坂本 佳史 (IBM GBS, CTO of Edge Computing in Japan)

テクノロジーが人の生活をいかに幸せにできるかを研究・実践している。日本IBMのエッジ・コンピューティングCTOであり、製品開発のスペシャリスト。

 

磯部 博史  (IBM Cognitive Applications事業部 Master Shaper)

IBMが「スマーター・プラネット(IT技術を軸に地球規模の課題を解決して地球をよりスマートにしようというイニシアティブ)」を標榜していた2008年頃から、ソフトウェアを中心に社会実装に取り組んできた技術者。


インテリジェント・アシスタント | 実存にフィードバックする影

 村澤: 今日は「インテリジェント・アシスタントは都市OSの基盤と成り得るのか」を中心に、技術の観点だけではなく、人間中心のシステムや人を幸福にする哲学とはといった観点も含めて対話したいと思っています。

まず、坂本さんとは3日と空けずこの議論を行なっていますが、改めてインテリジェント・アシスタントと都市OSについて、現在私たちが会話している内容の概略を話していただけますか。

 

坂本: はい。すごく簡単に言うと、インテリジェント・アシスタントは仮想空間上に存在している私たち一人一人のエージェント、代理人ですね。私たちのために、本人の意思決定を支援したりそれに伴う活動を実行してくれる存在です。例えば、何らかのサービスや物品の購入だったり、仕事などの社会的な活動において代理人として活動します。

このインテリジェント・アシスタントを「1人の人間と1つのアシスタント」という組み合わせで見ればシンプルなものですが、それが「アシスタントとアシスタント」という組み合わせ、そしてそこで行われるやり取りとして見ていくと、その関係とつながりが大きく拡がっていきます。

そしてその活動が、個々の人間には捌ききれない量の雑務や意思決定から解放してくれるつながりが「都市OS」という「社会基盤」になっていくのではないか? というのが発想のスタートです。

 

村澤: ここで重要なのは「主役は人間」「目的は人間の幸福」というところですね。

我われ人間は加速し続ける環境変化スピードに付いていくのに精一杯で、自身の足元を見つめる時間すら取れないというのが、今という時代であり現代社会ではないかと私は捉えています。そんな状況で主体性を発揮するというのはとても難しいですよね。

そんな中、主体性を取り戻すことを支援してくれるのがインテリジェント・アシスタントである、と。

インテリジェント・アシスタントは「実存する主体」である個人に寄り添い光をあてる。そしてそこから生まれる実在の影を集めて取り込み、主体にフィードバックしていく。そして主体はそのフィードバックを活かして自身をより幸せに近づけていく。

インテリジェント・アシスタントと人はそんな関係性になっていくんじゃないでしょうか。

 

■ アシスタントへの信用 | ヒトとアシスタントのエンゲージメント

— 「人」には自然人という人間の他に、「法人」という実際の人間ではないものの法律上人格を認められているものもある。法人のアシスタンとしてもインテリジェント・アシスタントは成り得るのだろうか?

 

坂本: 私が思うに、法人は「人」とは異なるもので、組織や会社というコミュニティーの一形態だと考えています。なのでインテリジェント・アシスタントが直接対象とするものではなく、その集合体である都市OS側からアプローチする対象ではないでしょうか。

 

村澤: ちょっと議論を先走りさせてしまうところもありますが、先ほど「人は今、環境変化スピードに疲弊している」という話をしました。これは以前の社会においては、個々人と社会の間に「家族」であったり「地域」であったりという「コミュニティー」が存在していました。それがインターネットが日常に浸透する社会になるにつれ、個人と社会が直接つながるようになりました。

この影響は大きいと思っています。社会と直結することで、個人はありとあらゆるものを常に自身で判断し、対応しなくてはならなくなってしまいました。私はこうした生活と社会を「オールウェイズ・オン状態」と呼んでいます。

そんな状態の社会で、インテリジェント・アシスタントが個人の負担を減らしてあげられるのではないか。荷物を少し軽くしてあげられるのではないか。それが、個人が主体性を取り戻すことに大きく寄与するだろうと思うんです。

 

磯部: そこで「アシスタントに対する信用をどう担保するのか」は一つの重要なポイントとなりますね。

人間は生まれてすぐに親を信用します。それは何故でしょうか? そして大人になると、社会においてはお金を払うことで、安心や信用を購入し担保しようとします。

アシスタントに対しても、お金を支払うことで信用を担保できるでしょうか?

 

坂本: 少し「監視カメラ」に似ているところがある気がしますね。今でこそ街頭のあちこちに監視カメラが設置されていますが、当初は市民の拒否感や不安感は強かったですよね。

今やほとんどの人が監視カメラの存在を気にしていません。

 

村澤: むしろ、安心感を与えるものとして認知されている向きもありますよね。特に、COVID-19以降の社会においては、混雑度などのデータを可視化するものとして重宝されるものにもなっています。

 

— 逆説的かもしれませんが、アシスタントに何をどれだけ任せるのかを決められること、そして「見合わない」と感じたときにお払い箱にできるということも、信用に大きく関与する気がします。

 

坂本: アシスタントはいわばAIですから「モデル」の集合体です。それが意味するのは、学習結果を捨てる、あるいは別のモデルに交換することができるということであり、その行為が「クビ」に該当するものとなりますね。

他にも、何年以上前のデータはモデルに取り込まないだとか、ある出来事以前の意思決定は対象にしないなど、そうした設定を人が主体的に行えることが重要ですね。

もう一つ時間軸については他にも考えるべき点があると思っています。それは「実存する主体」の欲望や欲求に対する返答スピードです。

代理人を務めている「人」の欲望をすべて満たそうとすると、刹那的に寄りすぎてしまう危険がありますよね。ですから欲求のタイプや量に応じて、何らかのフィルターをかけるであるとか意図的に処理スピードを遅らせるといったことも必要となるでしょうね。とりわけ、影響範囲が社会的な問題とも関係してくるものに対しては。

 

■ コンテキストの変換と適用範囲

村澤: 坂本さんがおっしゃる通り、時間軸については考えるべき点が多いですね。例えば10年前の坂本さんと今の坂本さんは別人ですよね。状況が変化していけば本人もコンテクストも変化していく。アシスタントはそれにどう対応していくのか。

これはインテリジェント・アシスタントを拡げて都市OSへとつながっていく点からも非常に重要です。人も、その生活も、その土台となる環境も都市も変化していくわけですから。

 

坂本: そうですね。「本人の情報」と一口に言ってもいろいろですし。今のところ、それについては何らかの特定のイベント、つまり出来事をどう捉えていくかという点からのアプローチを思えています。その出来事の前後で重み付けを変えるとか。適用範囲をどう設定していくかとか。

『ブラックホール戦争』などの著作で知られているアメリカの物理学者レオナルド・サスキンドは、「情報はすべて表面に表れてくるはずである」と言っていますが、はたして、情報をどれだけインテリジェント・アシスタントに持たせてよいのか持たせるべきか、あるいは持ち得るのかというのは技術的・社会学的の観点の双方からしっかりと考えていくべきことで、ちょうど今、とある学術的なグループとも議論を重ねているところです。

 

「テセウスの船」という有名なパラドックスのことを思い出しました。部品が少しずつ交換されていき元の部品が1つも無くなったとき、それは同一の船なのか。

坂本: なるほど。例えば、本人が意思を持ってインプットしたものであっても、それがどういう意図だったのか。あるいは、どれくらい強くそして長くそれを維持したいと思っていたかは、インプットした時点から変化していくものですからね。

さらに、本人の意思とは関係なく、センサーなどが自動的に読み取って入力する情報もあります。

また、都市OSへの展開の点から言えば、どの情報をどの範囲、どのコミュニティーまで共有することを良しとするのか。こちらはデータガバナンスの問題とも関係してきますね。

 

磯部: 「情報の共有範囲」はビジネスの現場でも頻繁に議論となるテーマですよね。先日もとある大企業のトップの方からこんなお話を聞いたところでした。

「昔の日本企業が持っていた強みの源泉は、コミュニティーとしての横のつながりではなかっただろうか。企業は社員だけではなく、その家族まで交えたコミュニティーとなっていた。その強みを現代の中で取り戻すにはどうしたらよいのだろうか」と。

このシリーズの第一回で、村澤さんが『都市型で利益追求型のゲゼルシャフトだけが強くなり過ぎてしまった』と言っていましたよね。おっしゃる通り、ゲゼルシャフトの中は競争に明け暮れくれています。「他の会社が何をしているのかは知りたい。でも自分たちが何をしているのかは知られたくない。だから他社の事例は集めたいけど自社の事例は出したくない」 — そんな言葉もよく耳にします。

競争だけではなく共創していく文化、つまり腹を割って話しあえる文化や時間を取り戻す必要を感じますね。インテリジェント・アシスタントはそれを支援するものでもあるんじゃないかとイメージしています。

 

坂本: 横のつながりが失われていき、縦のサイロ化が強まり続けているのは感じますよね。

ジュリアン・テッドさんという方が書かれた『サイロ・エフェクト』という本には、高度に専門性の高い人たちが集まるとサイロ化が生まれていくという、さまざまな企業で見られる現象についての研究が書かれています。

現在ではさらに、以前はマネージャーや上役に集まっていた情報が、限定されたコミュニティーに集まりそれがそこに留まり続けるようになっていると感じています。サイロはより小さく細かくなっているのかもしれません。

磯部さんが言うように、たしかにインテリジェント・アシスタントは「あなたはもっとこことコミュニケーションを取ることで、より有用な情報や気づきが得られるのではないでしょうか」とアドバイスを与えられそうです。

 

磯部: 言ってみれば、アシスタントは現在の秘書に近いものじゃないですかね。かなり優秀で万能で、「のび太にとってのドラえもん」に近いのかも。

少し前まで、ドラえもんは夢物語というか空想的なものと捉えられていたけれど、テクノロジーが追いついてくる一方で、「たすけてドラえもん!」という社会のニーズも高まってきたのが今なのかなって気がしますね。

ところで、アシスタントって言葉がちょっと冷たさや固さを感じさせるところもある気もしますね。呼び名は考えた方がいいのかも?

 

村澤: たしかにアシスタントと呼ぶと「ドキッ」とすると言うか、身構えてしまうところはありますね。でも、プロスポーツの世界では、自分の契約だとか参加する大会だとかを一任しているエージェントを持っている選手も少なくないですよね。

僕らだって、何か法的な事柄に対応しなければならなくなったら弁護士や会計士などを雇うことあるし、もっと日常的なところで言えば、体調を崩せば医者という健康に関するプロフェッショナルに処置方法について聞きにいく。

先ほどの信用とも関係してくるところもありますが、現在の生活でも、お金を払うことで時間と専門性を信用と買っているとも言えますよね。

 


いかがだったろうか。

後編では、インテリジェント・アシスタントがもたらす社会的効果と、人間の意識や知性の向かう先の変化についての対話をお届けする。

 

 

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TEXT 八木橋パチ

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