量子コンピューター

いま押さえるべき「量子コンピューティングのいまとこれから」

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IBMが量子コンピューターをクラウド上で誰もが使えるよう、2016年5月にIBM Q Experienceを立ちあげてから4年。この間にどんな進捗があったのでしょうか。未来を拓くテクノロジーとして圧倒的に注目を集める量子コンピューティングについて「いまとこれから」をテーマに技術理事である東京基礎研究所の小野寺民也が語ります。

小野寺 民也
小野寺 民也
技術理事、東京基礎研究所 副所長

最近「直近のブレークスルーは数年以内」という記事を見ました。IBMのゲート方式の量子コンピューター「IBM Q」に関して、何か大きく発展した点はありましたでしょうか?

小野寺:あらゆる面で多くの進歩がありました。時系列に見ていくと、2016年当初は5量子ビットのものが1台でしたが、現在は20台以上の量子コンピューター

が稼働しています。それも、実験室の中で科学者に使われているのではなく、米国ニューヨーク州ポケプシーにある量子コンピュテーション・センターで稼働し世界中のお客様に使われているのです。それだけの安定度で稼働させているのは、多くの進歩の集積であり、驚異的なことだと思います。

安定的に稼働すること自体が技術的に難しく、驚異的だということですね。量子ビットの数が注目されているように見えますが、性能の面ではいかがですか?

小野寺:量子コンピューターの世界では、まだ標準ベンチマークというものは定まっていません。量子コンピューターの性能にとっては、量子ビットの数だけでなく量子ビットの質がとても大切だと考えています。IBMが量子コンピューターの性能を表す手段として現在提案している「量子ボリューム」は、量子ビットの数と質とを加味した指標です。ここでいう「質」とはコヒーレンス時間が長い、ゲートエラー率が低いなどを含みます。量子ビットの数が多くてもエラー率が高ければ、必然的に計算能力は低くなります。IBMは「量子ボリューム」を年々倍にするというロードマップを公表しています。

質の良い量子ビットを多く持つことができるかが大切ですね。ロードマップ通りに開発は進んでいるのでしょうか?

小野寺:はい、2017年のTenerifeというマシンでは4でしたが、2018年にはTokyoというマシンで8、2019年にはJohannesburgというマシンで16になり、そして今年1月にはRaleighというマシンで32を達成したことを発表しました。7月7日の七夕には、量子ボリューム32のマシンが新たに6台追加され合計8台になりました。これはパルシング技術(*) に1つのブレークスルーがあったことが大きいですね。
*パルシング技術とは:ゲートエラーを起こす要因を軽減する手法のこと。

小野寺:IBMでは量子ボリュームの発案者であり量子研究リーダーであるJay Gambetta自ら ”ガンベッタの法則” と名付け、チーム一丸となって技術革新と性能向上に取り組んでいます。

IBMの量子コンピューターは企業と共同で研究していることが大きな特色と記憶しています。

小野寺:世界中の有力な企業、学術団体、スタートアップとネットワークを組んで量子の未来を共創しようと2017年12月にIBM Q Networkを立ち上げました。発表当初は12メンバーでしたが、現在は110を超えるメンバーに参画いただいています。日本では、2018年5月17日に慶應義塾大学量子コンピューティングセンター内に開設されたIBM Q Network Hub at Keio UniversityにJSR株式会社、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ、株式会社みずほフィナンシャルグループ、三菱ケミカル株式会社の4社が参画し研究活動をスタートしました。昨年シンポジウムを開催し、化学、金融、AIの各分野で成果を発表するなど、世界的にみても最も先進的かつアクティブなHubだと思います。

今年の成果も楽しみです。昨年12月にはJapan-IBM Quantum Partnershipが発表されましたが、こちらの進捗はいかがでしょうか。

小野寺:いいポイントです。色々お伝えしたく、急ですが7月30日にイベント(※)を開催することになりました。ガンベッタの法則のJay Gambettaもライブで参加。私もモデレーターとして企業メンバーの方々からお話を伺います。量子コンピューティングに存在する多くのチャレンジに産官学が叡智を結集してどう挑んでいくかをお伝えしていきます。

※イベントは終了いたしました。

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