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WWFジャパン ウェビナーレポート | 持続可能な漁業実現のために

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11月2日、国際NGO「世界自然保護基金」を母体とするWWFジャパン主催のウェビナー「第5回カツオ漁業の持続可能性に関するラウンドテーブル」が開催されました。

このウェビナーは、カツオ漁業を中心に「水産資源の持続可能性」に関する情報や取り組みを国内外の関係者に情報共有し、水産資源保護に対する具体的なアクションを拡げていこうという趣旨のもので、昨年6月からシリーズとして開催されており、主に水産関連企業・団体や研究・行政機関などが参加しているものです。

 

第5回目となった今回は、水産資源保護の取り組みとして、「Ocean To Table(O2T)カウンシル」によるブロックチェーンを用いたトレーサビリティシステム導入事例が紹介されました。

そのセッションを中心に、ウェビナーのレポートをお届けします。


 

 

オープニングでこれまでのシリーズ4回を簡単に振り返えった後、WWFジャパン 植松周平氏によるセッション「WCPFC年次会合における課題と日本マーケットの役割」が行われた。

ここでは詳細は割愛し、植松氏の話の中から、本日のメインテーマであるブロックチェーンを活用した資源保護に関係してくるポイントを何点かお伝えする。

 

・ 日本は「WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)」と呼ばれる世界のカツオ・マグロ類資源管理機関に属しており、この地域では現時点ではカツオ資源量が枯渇するなどの問題は発生していない。だが、漁獲量は増加し続け、資源も過去最低レベルまで低下していることから、「負のインパクト」が可視化してからでは手遅れとなりかねない状況である。

・ 状況を複雑かつ悪化させているのは、「IUU漁業」と呼ばれる「違法・無報告・無規制(Illegal, Unreported and Unregulated」)」漁業

・ IUU漁業根絶のための制度・取り組みとして、水産物のサプライチェーンを構成する世界60以上の主要企業が参加するフォーラムによる世界標準「GDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)」の推進・展開に大きな期待が寄せられている。

 

IUU漁業とGDSTについては、次のセッション「ブロックチェーンを用いたGDST基準フルチェーントレーサビリティシステム導入」で数値を含めてより詳細に紹介された。

それでは、「Ocean to Table」チームの3名のスピーカーの話を順に見ていこう。

 

(株)UMITO Partners 村上春二氏 | https://umitopartners.com

「リスク管理をビジネス機会に」UMITO Partners 村上氏資料より

 

環境保護団体のリーダーとして、そして水産事業のビジネスリーダーとして、両面で長年の経験を持つ村上氏が、今年シーフードレガシー社から独立創業したのがUMITO Partners(ウミトパートナーズ)社だ。

「生産者」「企業」「シェフ」「地域」と幅広く協業しながらウミ・ヒト・事業の支援をしている村上氏は、日本の水産業界の概況を、前述のIUU漁業との関係と「GDST」、そして消費者意識・行動の変化の点から伝えた。

 

まず、最初に説明したのが、IUU漁業と偽装表示がもたらしている被害・問題だ。

  •  世界の総漁獲量の13〜31%が違法・無報告漁業由来と推計されている
  • 年間2.6〜5兆円ほどの経済ロスとなっていると推定されている(例: スルメイカ 年間240億円〜460億円の経済ロス)
  •   児童労働・誘拐・人身売買など、非人道的な労働・奴隷労働が少なくない(これまで無事送還された東南アジア国籍の漁師はおよそ3千人)
  •  海外では、人権侵害商品と知らずに販売した小売業者が集団訴訟を起こされるケースも
  •  北米市場においてNGOが水産物1,500サンプルを調査した結果、約20%が偽装表示
  •  国内でも広範囲でカイヤン(ナマズの一種)が舌平目と表記されていたケースも

 

続いて、IUU漁業根絶および偽装防止のための制度・取り組みとして、注目の「GDST」について以下のように説明した。

  •  世界中の小売業者、食品メーカー、水産加工業者、60社以上が参加するフォーラム
  •  上記フォーラムによる、水産物の漁獲時から販売時までを一貫してトラッキングできるトレーサビリティの世界標準
  •  日本からは日本水産、日本生協連、味の素の3社がGDSTに参加している

 

次に、日本の消費者の意識・行動の変化について以下を強調した。

 

最後に、「メリットを得ながら課題解決に貢献しましょう!」というメッセージを村上氏は残し、バトンを次のスピーカーに渡した。

「おいしい漁業が、続く社会を。」というUMITO Partnersのコンセプトを感じさせるメッセージであった。

UMITO Partnersの事業紹介より

 

日本アイ・ビー・エム(株) テクノロジー事業本部 片山敏晴

日本IBMでブロックチェーン技術による食の信頼プラットフォームに取り組む片山からは、まず、ネスレ、ユニリーバ、ウォルマート、カルフールなどの世界の小売りリーダー企業による、IBMの商用ブロックチェーン技術を用いた事例が紹介された。

2016年以降、世界で商用事例が加速度的に増え続けている理由について、片山は以下のように語った。

「企業秘密に関わる部分なので各社はっきりとは発表しませんが、商用ブロックチェーンを導入した企業の多くがその取り組みを一層広げていきます。これは、従来とは比較にならない情報共有スピードの速さや、システム連携による自動化・サプライチェーンの高度化が、売上増と間接費削減に直結しているからに他ならないでしょう」。

 

上記事例で取り扱われていたのは豚肉、マンゴー、葉物野菜、牛肉パティなどの「地上の食品」だったが、ここからはノースアトランティックの自然ホタテ漁、ノルウェー北極圏での養殖サーモンなど、水産物への応用事例が紹介された。

ここでは、以下のページを参考として紹介する。

 

水産物事例に共通しているのが、漁獲者、加工業者、卸事業者、そして店舗までの一貫したトレーサビリティに加え、「消費者とのつながり」を重視している点だ。

どんな人たちが、どこでどのような思いを持って水産物に向き合っているのか。

それをつながりのある「ストーリー」として伝えることが、大きな、そして新しい価値であり、環境と社会に配慮した安全・安心な商品であることを伝えるのと同じように重要だということを、これまでの取り組みを通じて学んだと片山は語った。

 

ストーリーとして消費者にダイレクトに伝えること。その重要さがよく分かるのが、9月から4週間にかけて実施された「江戸前フィッシュパスポートフェア」ではないだろうか。

これをお読みのあなたが漁業・水産業関係者であれば、おそらく、みなと新聞や、水産経済新聞などの業界新聞で、「江戸前フィッシュパスポートフェア」について目にしているだろう。

あるいは一般の方でも、NHKや日本テレビ、フジテレビのニュース番組で、あるいは読売新聞や夕刊フジの記事で目にした方もいらっしゃるのではないだろうか。

サスティナブルな漁業の実現を目指して『江戸前フィッシュパスポートフェア』を開催します

 

アイエックス・ナレッジ(株) 顧問 渡邉彰氏 | https://www.ikic.co.jp/index.html

渡邉氏は、「江戸前フィッシュパスポートフェア」の概要と実際のフェアの店頭での盛り上がりの模様、そして安全・安心を証明するトレーサビリティと消費者にストーリーを伝えるためのカギを握るQRコードの運用が紹介された。

多数のメディア取材が入った江戸前フィッシュパスポートフェア

 

「各メディアや業界関係者の視察や取材もたくさん入り、大変盛り上がりました。でも、私が一番嬉しかったのは、自主取材に来てくれた子供たちのグループです。

小学生でSDGsや水産の問題を学んでいるであろう子どもたちは、たいへん感度が高かく、サステナビリティーについて私たち大人を啓蒙してくれるんじゃないかと期待しています。彼らに住みよい地球を残すことは、私たち大人の責務です」。

渡邉氏はフェアの店頭の様子をこう語った。

 

それではここで、江戸前フィッシュパスポートフェアの商品とルート、そしてQRコードの運用について見ていこう。

江戸前フィッシュパスポートフェアの商品とルート

 

漁獲〜加工・出荷〜中継〜店舗〜消費者の商品の流れを追ってみよう。ここでは一部簡略化して紹介する。

漁獲

漁船上では、航跡、漁獲量(どこで、どれだけ、どの魚が獲れたか)などを記録。操業支援タブレット漁撈IoT「ISANA」を用いることで、作業は非常に簡単で、APIにより帰港時にデータは自動アップロードされます。

加工・出荷

加工・出荷時には「荷捌・梱包」を行う業者が、スマホあるいは業務用タブレットで発行された漁獲情報のQRコードを読み込み、最終的な商品の数や形を想定して同一QRコード付シールを印刷。函に同梱します。

中継

中継市場では、函単位で「入荷」を、そして「出荷」情報を業務用タブレットまたはスマホでQRコードから専用アプリに登録します。

店舗

店舗にて、入荷した函ごとに入荷情報をQRコードで登録。その後各商品にQRコードを「パスポート」装飾を付けて展示します。

消費者

お客様ご自身のスマホで「いつ、どこで、誰が獲ったか、どこを通ってきたか」をQRコードを使い見ることができます。また、「海のエコラベル」とも呼ばれるMSC認証、責任ある養殖を証明するASC認証などの認証情報や、栄養成分や漁の様子を撮影した動画、素材に合わせたおすすめ調理方法なども表示することができます。

消費者向け「トレース情報」 画面構成

 

なお消費者向けとは別に、サプライヤー向けには、前述のIUU規制に合わせたGDST漁獲証明のためのデータ表示方法や、海外輸出時に必要となるデータを保持することも可能だ。

 

渡邊氏は最後に、趣味の料理の腕前を振るい自身で作ったというアクアパッツアの写真を表示した。

今回の江戸前フィッシュパスポートフェアで取り扱った「江戸前瞬〆スズキ」は、味はもちろんのこと、切断面を見るだけでも「美味しさが見えた」と言う。

渡邊氏が作った美味しそうなアクアパッツア

 

セミナーはこの後、サステナブルシーフードの積極的な調達のほか、数々のエシカルな取り組みで知られている和食店「きじま」の「世界初MSCかつお削り節デビュー」についての講演と、質疑応答と総合討論をもって終了しました。

 

日本の水産業が直面している問題についての理解と、それに対して真摯に取り組んでいる人びとの活動を知ってもらうことにつながることを期待し、このレポートを終えます。

江戸前フィッシュパスポートの基盤であるIBMの商用ブロックチェーン技術について、並びに「漁場から食卓まで」を意味するOcean to Tableプロジェクトの詳細については、下記よりご確認・ご相談ください。

 

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TEXT 八木橋パチ

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