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プラスチック資源循環コンソーシアム「Pla-chain」がつくる未来

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「2050年って、遠いようですぐそこですよ。」

三井化学執行役員デジタルトランスフォーメーション推進本部の浦川俊也副本部長はそう言う。「2050年カーボンニュートラルを宣言している私たち三井化学にとっては、循環型社会やサーキュラーエコノミーは絶対に実現すべきものです。それに欠かせないのは、その手段を広げていこう、実装スピードを上げていこうという、人や組織が集まるコンソーシアム「Pla-chain(プラ・チェーン)」の盛り上がりです。」

次世代に今よりすばらしい地球環境を手渡すために、本気で資源循環に取り組むPla-chain幹事会社3社の3名——三井化学 浦川俊也氏、野村総合研究所 橋本俊樹氏、日本IBM 槇あずさ——に話を聞いた。

写真左: 株式会社野村総合研究所 グローバル製造業コンサルティング部 橋本 俊樹 氏
写真中央: 三井化学株式会社 執行役員 デジタルトランスフォーメーション推進本部 浦川 俊也 副本部長
写真右: 日本アイ・ビー・エム株式会社 IBMコンサルティング アソシエイト・パートナー 槇あずさ

 

1度も耳にしない日がないほど、「循環型社会」や「サーキュラーエコノミー」、そして「脱炭素」という言葉は日常語となった。多くの企業や組織は今、「それが実現できるのか」ではなく、「どのように社会実装し、どうスケールするのか」に日夜頭を悩ませている。つまり、必要なのは、試行錯誤を行い足りない要素を明確にし、それを補う技術・手法・パートナーを見つけて再び試行錯誤を行うことに他ならない。

「コンソーシアムの盛り上がりは欠かせない」という言葉が出てくるのには、どのような背景があるのか。まずはPla-chain発足経緯について伺った。

浦川 プラスチックを根幹においている三井化学にとって、循環型社会への転換は、2050年までのカーボンニュートラル社会の実現に欠かせないものです。

ものづくりの根幹を成す素材メーカーとして自社のCO2排出をニュートラルとし、社会のカーボンニュートラル実現に寄与するという三井化学のミッション達成には、循環型社会に必要な技術開発や社会実装を進め、環境と調和したビジネスへのスピーディーな転換が必要です。

「資源循環」のためのコンソーシアム「Pla-chain」と、IBM様のブロックチェーン技術を用いた「RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォーム」は、私たち三井化学の循環型社会への転換を具現化したものです。

 

 「資源循環」というコンセプトがプラスチック業界に大変重要なことは最初から明らかでしたが、社会実装への道のりが示されなければ大きな流れにはつながりません。

資源循環の取り組みを進めていくのにあたり、プラスチック・リサイクル市場の活性化が急務であり、そのためにはリサイクル素材を安心・信頼して扱っていただける「トレーサビリティ」の担保が不可欠だと、この3社で知恵を出し合っていたのが2021年です。そしてスタートしたのが、「RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォーム」サービスでした。

その後、プラスチック資源循環について、より多くの人や組織が集まり意見やアイデアを交わし、社会課題解決のために力を合わせるための場が必要だとコンソーシアムを立ち上げようということになりました。準備を経て、実際に設立したのが昨年2022年です。

参考 | 三井化学と日本IBM、ブロックチェーン技術による資源循環プラットフォーム構築で協働開始(2021.04.26)

参考 | 三井化学と日本IBMおよび野村総合研究所、資源循環型社会の実現に向けコンソーシアム「Pla-chain」を設立(2022.10.13)

 

橋本 当初、私たち野村総合研究所(NRI)は、三井化学様をコンサルティングでご支援するという立場でプラスチック資源循環の話し合いに参画していました。

話し合いの中で明確になっていったのは、世界的な「資源循環」の大潮流の中で、日本大手のプラスチックメーカー三井化学様が、制度やルールができるのを待っているわけにはいかないし、待っていてはいけないだろうということでした。

NRI自身も、コンサルティング企業としての関わり方からもう一歩二歩踏み進め、企業理念として「未来創発」を掲げる企業としてしっかりビジネスと社会の両面に貢献をしていこうということで、「Pla-chain」の幹事企業となりました。

三井化学株式会社 執行役員 デジタルトランスフォーメーション推進本部 浦川 俊也 副本部長


 

サーキュラーエコノミーは、大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としたリニア型社会システムからの脱却を実現するためのものであり、気候危機や生物大量絶滅の危機を迎えている今、世界の安定は、どれだけ上手くサーキュラー型に転換できるかに大きく依存している。

日本では昨年4月、「プラスチック資源循環促進法(プラスチック新法)」がスタートし、その取り組みがいよいよ本格化したものの、その実践においては、国や自治体よりも企業が先導する形での仕組みづくりが進む傾向が強く三井化学を中心としたPla-chainに対する期待と注目は非常に大きい。

すでに50社に迫る加盟企業があり、その拡大スピードは幹事会社の想定を上回るということだが、設立は順調に進んだのだろうか。そして中ではどのような活動が行われているのだろうか。

浦川 コンソーシアム設立は最初から考えていたものではありません。ただ、資源循環を通じたより良い未来社会の実現には、より多くの企業が集結して知恵と力を合わせ、より大きなソーシャル・インパクトを出す必要があることは意識していました。そうした認識が深まった結果として、場の必要性が高まっていきました。

ただ、これはよく3社で話をしているのですが、多くの関係者がただ集まって話をしたところで、それだけでは課題解決には近づけません。課題の芯を捉え、実際に解決を図っていくこれからが、本当の意味での難しさでしょうね。

 

 循環型社会の構築においては、製品を生み出し消費者の手元に送り届ける「動脈産業」と、使用を終え不要となった製品を回収して再活用のために処理する「静脈産業」の連携が不可欠です。

Pla-chainには現在50社程度の皆さまにご加盟いただいていますが、その中にはプラスチック資源回収と再生のリーディング企業である石塚化学産業様や協和産業様など、多くの静脈産業企業もいらっしゃいます。

動脈産業と静脈産業がこの規模で定期的に集まって意見を交わせる場は多くありません。私どもとしては、まずそうした場を生みだせたこと、そして、想像以上の「熱」を持ってお集まりいただけていることに、変革の予感を強めています。とても嬉しいです。

 

浦川 設立以来、これまで2回ラウンドテーブルを行い、我われ3社がどのような考えで「Pla-chain」を設立したのか、そしてどのような未来に向かおうとしているのかをお伝えさせていただきました。そして参画いただいた皆さまから、それぞれどんな思いや課題を持ってお集まりいただけたのかを共有しあっていただきました。

 

 前回は参加者に7つのグループにランダムに別れていただき、それぞれの取り組み内容と課題を共有し合いました。2回のラウンドテーブルを実施し、ここまでで困り事の共有と洗い出しができたというところでしょうか。

 

橋本 ラウンドテーブルで語られたお悩みや課題ですが、本当にいろいろなものがありました。

中でも多かったのは、再生プラスチック原料の認定を取るための準備作業やデータ取得方法について、そして実際の申請に関する作業などですね。

「データが必要なのは分かるけど、少人数でやりくりしている現場では追加で入力作業を行うことは非現実的」といった、現場の人手不足や作業量に起因する問題。そして実際にモノを回すこと自体が大変だという運搬の問題ですね。技術的な話もあるものの、運ぶとなれば費用もかかりますし、それに見合うだけの量をどうやって集めるのかという話もあります。そこで環境負荷を高めていたら本末転倒ですから。

これらを解決していく方法について、みんなで頭を寄せ合い話をしていくのがこれからですね。

 

浦川 「資源循環社会の実現」に向け、何をどのようなステップで実行していくのか——我われがそれを決めていくのではなく、みんなでそれを考えていくことが重要だと思っています。先ほど申し上げましたように、本当に難しいのは今後の「場の設計」です。

そうは言うものの、Pla-chainにはすでにかなり幅広い企業にご参画いただいており、それが課題解決へのアプローチの多様さにもつながっていると感じています。

ブロックチェーンをはじめとしたIBM様の先進テクノロジーの開発力や社会実装力、NRI様の制度設計や政策提言の豊富な経験、そしてプラスチック製造のトップランナーである私たち三井化学という3社の組み合わせはバランスがよく、社会に対する「引きの強さ」のようなものもあるのだと思います。それがPla-chain参加企業の顔ぶれの多彩さに表れているのではないでしょうか。

株式会社野村総合研究所 グローバル製造業コンサルティング部 橋本 俊樹 氏


 

資源循環社会の実現の遅れは、そのまま自分たちを取り巻く社会の不安定さと危険さの拡大を意味している。だが、その不安定さを前に足をすくませていては、本来脱することができる危機にまで捕らえられてしまいかねない。私たちに必要なのは、大いなる不安さえをも飲みこむ強い意志と信念、そしてチャレンジそのものを楽しむマインドセットなのかもしれない——。

Pla-chainの今後の活動予定と未来への展望について伺った。

 トレーサビリティの問題はブロックチェーンで解決できますが、じゃああの問題はどうだろう、この課題はどうやって解決できるだろうかと、現在のプラスチック周辺の課題を包括的に見ていくと、もっと多くの人たちからの多様なアイデアやツールが必要になると思っています。

その観点から、Pla-chainという場がどう発展していくかは、日本社会に対しても非常に大きな鍵を握っているのではないでしょうか。

 

浦川 特に、先ほど槇さんが話しをされていた静脈部分は本当に重要です。

資源が回らなければ循環は成り立ちません。しかしこれまで、静脈産業は比較的「陽の当たらない」分野でした。これを変えていく必要があると思っています。

日本では、回収・再生に取り組む企業のほとんどが小規模で、全国に多数あります。この日本の特徴を強みと変えていくためにも、これからは動脈と同様かそれ以上に光が当たるようになるべきだと思います。そこに私たちも力を入れていきたいです。

 

橋本 今後、Pla-chainとしての情報発信をもっと積極的に行い、仲間を増やしていかなければということを、この3社でよく話しているところです。

 

 一層仲間を増やし、たとえば業種ごとに分かれての分科会ですとか、サプライチェーンの流れに沿ってグルーピングして話し合いを行うなどのやり方を検討しています。

 

浦川 分科会の立ち上げと同時に、すぐに取り組める課題が見つかったときにはまずは小規模であってもアクションを起こし、解決方法を可視化していきたいとも考えています。

一例ですが、昨年の暮れ、オフィス用品のクリアーホルダーに、RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォームのトレーサビリティ機能を利用した水平リサイクルの実証実験を行いました。こうした目に見えるケースを増やしていきたいですね。

参考 | 三井化学、野村総合研究所、プラス、協和産業間でデジタルトレーサビリティ機能を実装したオフィス用品の水平リサイクル実証実験を実施(2022.12.21)

 

——今後、どのような企業に参加いただきたいと思われていますか?

浦川 改めて、石油という資源を使ってきている会社として、地球環境を第一に考えないということはありえません。すでに何社かはご参加いただいていますが、同業のプラスチック製造企業の方たちにももっとどんどん加盟して欲しいですね。

さらには、「プラスチックをどうするか」だけにとどまらず、「使い捨て社会」に対する構造変化や生活の仕方の見直しまで視野に捉えた対話を続けていきたいと思っていますし、それにはPla-chainでの共創がどれだけ拡がっていくか、そして社会と共にどれだけ取り組めるかがポイントとなるでしょう。

 

 私は、Pla-chainが日本社会における経済活動の縮図になったらいいなって思っているんです。こうした企業の枠を超えた集まりが普通にあって、そこで社会課題の解決に向けてco-work(コワーク)していく——Pla-chainがそれを体感できる場に育っていけばいいなと思っています。

「仕事だからやる」「担当になったからやる」もそれはそれでいいですが、「自分たちの失敗が次にチャレンジするPla-chainメンバーの糧になる! そう思えば無駄な取り組みなんて一つもない」くらいの気持ちで、チャレンジそのものを楽しめる「大人のクラブ活動」になったらステキですよね。

日本アイ・ビー・エム株式会社 IBMコンサルティング アソシエイト・パートナー 槇あずさ

 

浦川 私も槇さんと同じように思っています。「仕事を度外視」は少々言い過ぎかもしれないけれど、それくらいの気持ちでESGの本質的な精神に立ち返り、「地球環境を守りたい」「次世代の生活を守りたい」という強い想いをお持ちの方にぜひご参画いただきたいです。

 

橋本 お2人に強く共感します。そして我われNRIがこの場にいる理由は、なんと言っても「未来創発」のためです。ですから未来創発したいという企業の方に、ぜひPla-chainにご参画いただきたいです。

 

 Pla-chain加盟は企業単位なので、社内で「プラスチック資源循環アンバサダー」のような方を決めていただき、その方が社内の意見や声を集めて参加いただけるのが理想的ですね。

現在は女性参加者が非常に少ない状態なので、社会に多様性が広がってほしいということも考えると、願わくば女性が増えて欲しいですね。ぜひ、加盟をご検討ください。

なお、次回のラウンドテーブルは7月の上旬を予定しています。それ以降も適宜開催予定です。

 

Pla-chain入会申込フォーム
https://lp-eq.mitsuichemicals.com/LP=31

 

問い合わせ情報

 

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TEXT 八木橋パチ

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