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特別寄稿 | 欧州は本当にサーキュラーエコノミー先進地域なのか? (「欧州サーキュラーエコノミー 政策・事例レポート 2022」より)

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「サステナブルであること」が、企業価値とビジネスの将来性を高めていく —— 多くの業界でそれが証明されつつあるものの、まだその方法を模索中の企業が多い状況です。

そんな中、「サーキュラー・エコノミー」はすでに高いビジネスの将来性を約束された企業や業界のサステナビリティを向上させる取り組みであり、今後、企業が生活者や行政と共に価値共創を進める上で、より一層欠かせないものとなっていくことでしょう。

IBMは、資源循環型社会・経済の確立に向けこれまでに下記をはじめとしたお客様との共創を発表していますが、地球規模での安心・安全な社会の持続可能性を高めるためには、今後こうした取り組みの広がりをよりスピードアップしていくこと必要があると考えています。

今回、循環型経済の拡大という共通の目的を持ち、欧州のサーキュラーエコノミー政策と事例を現地調査している「ハーチ欧州」より、日本のビジネスのサステナブル・トランスフォーメーション推進に向けてご寄稿いただきました。

ぜひ、皆様の「サステナブルであること」への取り組みの参考にしていただければ幸いです。


 

欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動している、「ハーチ欧州」。

ハーチ欧州は、世界のソーシャルグッドなアイデアを発信するメディア「IDEAS FOR GOOD」とサーキュラーエコノミーの情報を集めたメディア「Circular Economy Hub」を運営するハーチ株式会社の欧州在住メンバーによる事業組織です。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。

 

2022年8月、そんなハーチ欧州は「欧州サーキュラーエコノミー 政策・事例レポート 2022」を発行いたしました。今回はレポートの見どころや、欧州の事例から学ぶ、日本のビジネスのサステナブル・トランスフォーメーションのヒントをご紹介したいと思います。

世界で注目を集める「サーキュラーエコノミー」とは?

2050年には97億人へ増加すると予想されている世界人口に対し、限られた資源で私たちが持続可能な企業活動をしていくための概念が、今注目されている「サーキュラーエコノミー」です。

サーキュラーエコノミーは、廃棄物や汚染などが発生しない製品・サービスの設計を行い、原材料や製品の価値をできる限り高く保ったまま循環させ続けることで、自然を再生し、人々のウェルビーイングや環境負荷と経済成長のデカップリング(分離)を目指します。

 

経済産業省による2020年5月の「循環経済ビジョン2020」をはじめ、2022年4月から施行された「プラスチック新法」など、ここ数年で日本の政策や企業の動きの中でも「サーキュラーエコノミー」に対する注目は徐々に高まりつつあります。

そんな「サーキュラーエコノミー」を世界でいち早く取り入れてきたのが、欧州の国々です。オランダをはじめとした国々ではサーキュラーエコノミーが経済および環境政策の中心に位置付けられ、行政だけでなく民間組織によるユニークな取り組みが数多く展開されてきました。

 

欧州企業は市民に対して、どんなアプローチをとっているのか?

欧州市民の生活レベルで見ていくと、サーキュラーエコノミーはどの程度浸透しているのでしょうか。たとえば、EU内ではパッケージごみの出ない量り売りショップの数は、2010年から2022年までで劇的に増えており、2030年には市場規模が12億ユーロと推定されているほどです。*1

*1 https://zerowasteeurope.eu/wp-content/uploads/2020/06/2020_06_30_zwe_pfs_executive_study.pdf

 

中でもフランスでは、こうした量り売りスタイルが生活に浸透しており、フランス世帯の40%が量り売りで購入しているというようなデータもあります。パリでは近所のスーパーに行っても、こうした量り売りコーナーがほとんど必ずある状況で、食品や調味料、洗濯洗剤の量り売りなどもよく見かけます。

 

一方で、興味深いデータも。2021年に行われた調査によると、市民が量り売りショップを選ぶ理由としては「パッケージの削減(22%)」よりも「適切な量を購入できる(37%)」という回答の割合が上回っていました。つまり、フランス市民にとっては「廃棄物を削減したい」という環境負荷削減だけではなく、「家計に優しい選択肢であること」が重要であるということです。

2022年、パリで2店舗目の量り売りショップ「kilogramm」をオープンしたオーナーによると、量り売りを広めるための工夫として、野菜や米、パスタなどの需要が大きい製品の価格はできるだけ低くすることで、多くの人が購入できるような設計にしているというお話もされていました。

 

こうした経済面を考慮したアプローチ方法はフランスの例ですが、市民にサステナビリティを広めるための方法は、欧州各国それぞれで文化が異なる分、さまざまなアイデアがあります。何よりも「美味しさ」を大事にするロンドンのゼロウェイストレストランや、オランダのキャッチーなネーミングやユーモアあふれる事例の数々。「サステナビリティ」や「SDGs」を強調するのではなく、「その土地に暮らす人々がどうしたら心地よく暮らすことができるのか?」を考えた切り口で訴求しながら、結果的に市民にサステナビリティが広がっていくというパターンが多いと感じます。

 

欧州は本当にサーキュラーエコノミー先進地域なのか?

「なぜ欧州のサーキュラーエコノミーは進んでいるのでしょうか?」

 

イベントなどでよくいただく質問がこちらです。今回のレポートでは「欧州のサーキュラーエコノミーは進んでいる」という前提には立たず、欧州各国が試行錯誤しながらサーキュラーエコノミーを進める中で直面する問題やジレンマなどを“ありのまま”お伝えしています。

 

外側から見ているとつい欧州をひとまとめに見てしまいがちなのですが、欧州全体のサーキュラリティは12%で、国別に比較してみるとオランダ(31%)が最も高く、ベルギー(23%)、フランス(22%)が続く一方で、最も低いルーマニアは1%など、実は国によってかなり差があります。*2

このように、欧州の中でもサーキュラーエコノミーが進んでいるとされている国はまだ一部です。

 

さらに、実際に欧州で暮らしていると課題を肌身で感じることも多くあります。年間3万人の人が命を落としている大気汚染の問題や、街中のプラごみ問題、パリで頻繁に起こっている、市民の生活苦や増税に対する政府への抗議運動などから見る格差問題など、欧州でもそれぞれの国で葛藤や課題を抱えているのです。

 

欧州といってもいろんな国があり、それぞれの背景や文化が異なっていることから「政策によってルール化する」というのがEU的な手法であり、それによって欧州では政策的なアプローチが推進の大きなドライバーとなっているといえます。一方で日本はどうでしょうか。日本では、経済産業省の「循環経済ビジョン2020」でもソフトロー活用を謳っており、法律的な規制は最小限にとどめるというスタンスで業界の自主的な取り組みを促進しています。*3

このように、各地域のスタンスがそれぞれ異なっていることもあり、一概に特定の場所を「進んでいる」「遅れている」と評価することは難しいことなのです。

*2 https://ec.europa.eu/eurostat/en/web/products-eurostat-news/-/ddn-20211125-1

*3 https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200522004/20200522004-2.pdf

 

欧州のユニークな事例から得られるもの

もちろん、欧州と日本では、前提となる法律や政治の仕組みなど異なる部分が多く、レポートの事例をそのまま日本で適応できるわけではありません。しかし、欧州には「Learning by doing(やりながら学ぶ)」で進められてきたサーキュラーエコノミー実験からの事例がすでに数多く存在しています。そのなかで、今後の日本の政策策定から企業や市民の活動にいたるまで、役立つヒントや苦い反省を提供してくれるはずです。

 

何よりも、欧州各国に散らばる数々のアイデアを見ていると、ユニークでデザイン性あふれるものが多く、見ているだけでワクワクした気持ちになります。たとえば、オランダの完全循環型音楽フェスティバル「DGTL(デジタル)」では、会場にごみ箱を置かず参加者自身に資源箱に分別してもらうなどの工夫が会場の所々に凝らされているなど、ユーモアを交えた体験デザインが大切にされています。

こうした事例を一つ一つ見ていると、自分の事業でも「やってみたい」「試してみたい」という好奇心が湧き出てくるのです。日本でサステナビリティを進めていると、どうしても真面目で堅苦しくなってしまうことも多いですが、欧州の言葉遊びを交えたキャッチーなネーミングやデザインで顧客にその価値を伝える様子は私たちに「サステナビリティはワクワクするものだ」ということを教えてくれます。

 

サステナブルな新規事業を検討中で、海外のユニークな参考事例を探している方や、欧州市場参入を検討していて、現地の企業の取り組みや消費者の動向が気になる方、サーキュラーエコノミー実践者(企業やNPOなど)の現場の声を知りたい方など、ご興味のある方はぜひ下記より詳細をご覧ください。

 

「欧州サーキュラーエコノミー 政策・事例レポート 2022」概要


当記事は、ハーチ株式会社の欧州在住メンバーによる事業組織「ハーチ欧州」に寄稿いただいたものです。

 

問い合わせ情報

 

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