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値段が1割高くても消費者は「由緒正しい魚」を買う ―― 調査結果で明らかに

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持続可能な漁業の実現を目指す協議会「Ocean to Table Council」*が先日開催したオンライン懇談会で、漁場や漁業・流通情報などのトレーサビリティー(商材の出所や流通経路を追跡できること)がしっかりした商品であれば、一般消費者は値段が1割高くても購入するであろうことが研究結果として発表されました。

 

* Ocean to Table(O2T)とは、「IBM Food Trust」というブロックチェーン技術を基盤とした、トレーサビリティや認証制度、魚価を上げるための活動を行っているコンソーシアム。日本におけるシーフードの高付加価値化の推進と、それを通じたサステイナブルな漁業の実現を目的としている。

 

由緒正しさにいくら払う? | 消費者調査の背景

昨年、O2Tは東京湾で獲れたスズキに漁獲日時や出荷時間、漁業者の思いや流通経路などをQRコードで確認できる状態として、魚好きが集まる都内の鮮魚店「sakana bacca(サカナバッカ)」で販売する「江戸前フィッシュパスポートフェア」という実証実験を行いました。

→ 参考 | 【取材】ブロックチェーンで魚を追跡、都内魚屋が「IBM Food Trust」活用

 

フェア期間中は会場とインターネットを通じてアンケートを実施し、149名から回答が寄せられました。アンケート結果から見えたのは、トレーサビリティーに対する期待の大きさです。

「値段がもっと高くても、水揚げ場所やその後の経路などが保証されている今回のような”由緒正しい魚”であれば、もっと高くても購入したい」という声が集まりました。

 

しかし、ここで注意しなければならないのは、こうした好意的な声が「魚好き」たちから集まった声であるということです。

つまり、一般的な消費者も同様の傾向を持っているかどうかは、より学術的な追加調査の結果から判断する必要があります。そしてその結果を踏まえた上で、O2T最大の目的である「持続可能な漁業」の達成に向けて取り組む方が、その実現可能性が高まると同時に実現スピードも早まるでしょう。

今回のオンライン懇談会では、東京大学大学院農学生命科学研究科で「食糧安全保障問題」研究を行なっている大学院生らにより、一般的な消費者の「”由緒正しい魚”への選好」についての追加調査、およびその結果と分析内容が紹介されました。

以下、発表内容をご紹介します。

 

調査・分析方法と結果 | 経済的価値は売価の1割を上回る

● 調査・分析方法

インターネット上で、500人の消費者にアンケートを実施。

200グラムのスズキの刺身の「産地、価格、QRコードによる付加情報の有無」を10種類のパターンで提示し、各商品をどのくらい買いたいかを10点満点で回答してもらい、どの要素をどの程度重視するかをあぶり出す「コンジョイント分析」を実施。

 

● 主な調査・分析結果

・ 消費者はQRコードがない刺身よりもある刺身に、約1割高い金額を支払う意思があることが判明した。具体的には、250〜350円の刺身に対して31〜38円高い金額を支払う意思を示し、とりわけ、過去にスズキを買った経験のある消費者は、経験のない消費者よりもより高い金額を支払う意思を示した。これは、商品に対してある程度の知識を持っている人ほど、付加情報により大きな価値を見出すためと推測される。

 

・ 消費者が魅力を感じるQRコードによる提供情報の種類は、以下の順に高かった。

  1. 漁獲情報 2. 仲卸情報 3. 店舗情報 4. 魚のおいしい旬の時期 5. 調理方法 6. 商品情報 7. 漁業者情報

 

・ 以上のことから、「QRコードによる情報提供が消費者の購買意欲を増加させること。その意欲の経済的価値は元売価の1割を若干上回る程度であること」のエビデンスが取得できた。

 

O2Tメンバー、および水産関連メディア記者の声

ここからは、懇談会で交わされた会話の中から、印象的だったものをいくつか紹介します。

 

・ 「200グラムのスズキの刺身」という商材でのこの結果は、O2Tメンバーの想定が妥当であったことを証明してくれるものであった。店舗規模などにもよるが、商材拡充などにより実施コストを大きく上回る売り上げ増が期待できることが分かった。水産業界にとってとても喜ばしいことだと思う。

 

・ 熊本産アサリ、大間まぐろなど、水産業界で偽装問題が続いているのは嘆かわしいことだが、水産物へのトレーサビリティー付与を行なっているO2Tから見ればチャンスだとも言える。これからはちゃんとやっている関係者がきちんと報われるようにしていかなくてはならない。

 

・ 店頭販売活動を通じ、アンケート分析などの数字には表れない「ブランド価値」を感じた。たまたま「フィッシュパスポート」ののぼり旗を目にした小学生が、その取り組みについての背景を親に説明したり、友だちを連れて翌日に再来店したりする姿を目にした。将来への大きな希望だと思う。

 

・ 東京湾を「EDOMAE」にブランド化し、非価格競争による消費拡大を目指しているが、注目や興味を今後も維持していくことは簡単ではないだろう。継続して消費者に伝えていくためにも、商材・取り扱い店舗の拡大はもちろん、仲間作りが非常に重要だと考えている。

 

・ 水産業界関係者も、これまでの常識が変化していることに対しより敏感になるべきだ。日本では「このままでは好きな魚が食べられなくなってしまうのでは?」と若者ほど不安に感じ、実際に消費行動を変化させている。しっかりとそうした声に応えられるようにならなければならない。

→ 参考 | 3人に1人が「サステナブルシーフード選びたい」

 

・ ノルウェーのように国を挙げて水産トレーサビリティーに取り組んでいるケースもある。日本も海外市場を見据えて一層の推進が必要であろう。

→ 参考: SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」 | 水産養殖漁業をブロックチェーンで支援

懇談会は、O2Tメンバーからの下記メッセージで締めくくられた。

O2Tの目的は、日本におけるサステナブルな漁業の推進であり、そのためには日本の水産業の輸出拡大が欠かせない。

O2Tの技術基盤となっているブロックチェーンは、GDSTなどのトレーサビリティーの世界標準や国際基準の水産エコラベルにも対応する仕組みとなっており、すぐにでも輸出に適用できる状態です。輸出にこの仕組みを適用したいと考えている業者・組織と連携して、日本の水産業を競争から協働へと転換したいと考えています。

 

日本の水産業の持続可能性を高める取り組みにご興味のお持ちの組織・企業の方はぜひ、下記よりご連絡ください。

 

問い合わせ情報

 

Ocean To Table Council 参加企業(50 音順)

 

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TEXT 八木橋パチ

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