パブリッククラウドのユースケース:組織がパブリッククラウドを活用する10の方法
2024年3月20日
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20年前に最初の商用クラウドが発表されて以来、パブリッククラウドの採用は急増しています。ソーシャル・メディア・サイト(Instagram)、ビデオ・ストリーミング・サービス(Netflix)、WebベースのEメール・アプリケーション(Gmail)など、パブリッククラウド関連の無数のサービスが私たちの生活に浸透していることを、ほとんどの人が当たり前のように思っています。

ビジネス分野では、大企業も小規模なスタートアップ企業も、ビジネスの成長を促進するために必要な柔軟性、費用対効果、拡張性を提供するために、パブリッククラウド・コンピューティング・モデルに頼っています。International Data Corporation(IDC)のレポート(ibm.com以外へのリンク)によると、パブリッククラウド・プロバイダーのサービスに対する支出は、2027年には全世界で1.35兆ドルに達する見込みです。

ここでは、パブリッククラウドがどのように現代のビジネスの基盤を形成し、継続的なデジタル・トランスフォーメーションを促進するのに役立つかを明らかにする、上位10件のビジネス・ユースケースをご紹介します。

パブリッククラウドとは

パブリッククラウドとはクラウド・コンピューティングの一種であり、サードパーティーのサービス・プロバイダー(Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud Platform、IBM Cloud、Microsoft Azureなど)がコンピューティング・リソース(すぐに使用できるソフトウェア・アプリケーション、仮想マシン(VM)、エンタープライズグレードのインフラストラクチャー、開発プラットフォームなど)を、パブリック・インターネット経由でユーザーに従量課金制で提供しています。さらに、パブリッククラウド・モデルを使用すると、企業は個別のニーズに合わせて(データ・セキュリティーの対策とサービスとともに)コンピューティング・リソースとストレージ・リソースを自動的にスケールアップまたはスケールダウンできます。

パブリッククラウド・コンピューティングの仕組み

パブリッククラウド・コンピューティング・モデルでは、クラウド・サービス・プロバイダー(CSP)が、クライアントのワークロードを実行する広大な物理データセンターを所有し運用しています。パブリッククラウド環境はマルチテナントであり、セルフサービスAPIインターフェースを通じて個々のテナントに自動的にプロビジョニングされ、割り当てられる、仮想リソースのプールをユーザーが共有します。マルチテナント・ホスティングを使用すると、クラウド・サービス・プロバイダーは自社のデータセンターとインフラストラクチャーのリソースを最大限に活用でき、企業所有のオンプレミス・データセンターよりもはるかに低コストでサービスを提供できます。

クラウド・サービス・プロバイダーは、アプリケーションとデータに迅速にアクセスして交換できるように、ハードウェアの保守をすべて行い、高帯域幅ネットワーク接続を提供する責任もあります。また、パブリッククラウド・データセンターを強化し、データセンターのリソースを最大限に活用するサーバー、オペレーティング・システム、ソフトウェア、ネットワーク、その他のインフラストラクチャーの基盤となる仮想化も管理します。例えば、仮想化を使用すると、1台の物理サーバーを、複数の個別の仮想マシンに分割して異なるクライアントにサービスを提供できます。

主要なパブリッククラウド・プロバイダーはすべて、インフラストラクチャーを継続的に更新・保守し、最高レベルのデータ保護とセキュリティー要件を活用してデータ侵害を防止しています。

さらに、IDおよびアクセス管理(IAM)、データ損失防止(DLP)、セキュリティー情報とイベント管理(SIEM)などの多数のクラウド・セキュリティーのツールとソリューションも提供しています。

最後に、サービス・レベル・アグリーメント(SLA)はCSPとクライアントとの関係を定義し、クラウド・サービスの性能、可用性、管理性を対象としています。

パブリッククラウド・サービス・モデル

現在のクラウド・プロバイダーは、4つの主要なカテゴリーで何百ものマネージド・サービスとツールを提供しています。これらのサービスは相互に排他的ではありません。ほとんどの大規模組織は4つすべてを使用して最新のITクラウド・コンピューティング環境を構築しています。

パブリッククラウドのメリット

パブリッククラウド・ソリューションを採用すると、組織が享受できるメリットには、以下のようなものがあります。

  • 費用対効果:従量課金制またはサブスクリプション価格モデルにより、ハードウェアとオンプレミスのインフラストラクチャーへの支出を削減できます。
  • 効率性:使用した分だけ支払うことで、リソースの無駄をなくします。
  • 弾力性: 予期せぬトラフィックの急増(eコマースのフラッシュセールなど)に対応し、自動的に容量を追加します。
  • 拡張性:既存リソースの機能をアップグレード(スケールアップ)するか、追加リソースを組み込んで負荷を分散(スケールアウト)することで、効果的にワークロードを増やします。
  • イノベーション:最先端テクノロジー(人工知能(AI)、エッジコンピューティング、モノのインターネット(IoT)など)を利用できます。
  • 支出の予測可能性:継続的な運用費用が予測しやすくなるため、IT支出全体のコストを削減できます。
  • チームの協力:どこからでもパブリッククラウドのリソースを利用できるため、チームは分散した場所間でリアルタイムに相互に通信して、より迅速に結果を得ることができます。
  • 高可用性と高信頼性:自動バックアップと災害復旧により、ダウンタイムを短縮し、データ・レジリエンスを確保できます。
  • サステナビリティー:プールされたCSPリソースを通じてエネルギー効率を高め、カーボン・フットプリントを削減できます。
パブリッククラウド、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウド、マルチクラウドの比較

パブリッククラウド以外にも、クラウド導入モデルにはプライベートクラウド、ハイブリッドクラウド、マルチクラウドがあり、それぞれに独自の利点があります。

プライベートクラウドとは、企業の物理的な場所でオンプレミスでホストされ、1つの企業専用に運用されるシングルテナントのクラウド・インフラストラクチャーを指します。専用のクラウド・プロバイダーやサードパーティーのインフラストラクチャーもプライベートクラウドをホストすることがあります。プライベートクラウドは、金融、官公庁・自治体、医療など、厳しい規制要件やセキュリティー要件がある機密データを扱う業界の組織に最適な環境です。

ハイブリッドクラウド・モデルでは、さまざまなコンピューティング環境(オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドなど)を組み合わせて、単一の柔軟なマネージドITインフラストラクチャーを作成します。

今日、企業では通常、ハイブリッドクラウド環境とマルチクラウド(複数のプロバイダーのパブリッククラウド・サービスの使用)を組み合わせています。マルチクラウドのアプローチは、組織がベンダー・ロックインを回避し、ニーズに合った最適なクラウド・サービスを選択するのに役立ちます。

ハイブリッド・マルチクラウドは、大企業にとって事実上の選択肢となっており、ワークロードの展開とスケーリングを最も詳細に制御できるようになりました。

パブリッククラウドの主なユースケース

ここでは、企業がパブリッククラウド・コンピューティング・サービスを活用してコスト削減、イノベーション、全体的なビジネスの成長を達成する10の方法をご紹介します。

1. ストレージ

パブリッククラウドのストレージは、ストレージ容量とテクノロジーをサービスとして提供することで、組織が社内ストレージ機能を構築、維持するための資本コストを削減または排除するのに役立ちます。クラウド・ストレージは、同じ企業データを複数のマシンに保存することで、自然災害、停電、その他の緊急事態に直面した場合でも事業継続性をサポートするために必要な冗長性を提供します。

2. 動的なリソース割り当て

パブリッククラウドを使用すると、企業はビジネスニーズに応じてリソースをスケールアップまたはスケールダウンできる弾力性が得られます。例えば、季節性の高い販売を行うeコマース・サイトは、パブリッククラウドを使用してオンライン・サービスを迅速に拡大できます。ピーク期間中に追加された容量に対してのみ支払い、その後、通常の販売中にスケールダウンすることができます。

3. 開発とテスト

パブリッククラウド環境は、かなりのコストと時間がかかる従来のウォーターフォール方式と比較して、新しいアプリケーションの開発とテストに理想的な環境を提供します。例えば、開発者はわずか数分で、パブリッククラウド・ベースの仮想マシン上にテスト環境をプロビジョニングできます。開発者がテスト環境の使用を終えたら、簡単に廃止できます。

4. クラウドネイティブ・アプリケーションとDevOps

パブリッククラウド設定は、クラウドネイティブ・アプリケーション(マイクロサービスと呼ばれる複数の小さな相互依存サービスから構成されるソフトウェア・プログラム)をサポートします。これは、DevOpsのベストプラクティスの重要な部分です。開発者はDevOpsツールを使用して、クラウドネイティブな開発と高品質なソフトウェアの迅速な配信を自動化し、コンテナ化されたアプリケーションを一度構築すればどこにでもデプロイできます

5. ローコード

ローコードは、ドラッグ・アンド・ドロップ機能を備えたグラフィカル・ユーザー・インターフェースを特徴とする、ソフトウェアへの視覚的なアプローチであり、開発プロセスの自動化をサポートします。ローコード・プラットフォームは、正式なコーディング経験がほとんどないユーザーである「市民レベル」の開発者に対して、アプリ開発を民主化します。ローコードは、企業がワークフローを合理化し、Webサイトやモバイル・アプリケーションの開発、外部プラグインの統合、人工知能(AI)や 機械学習(ML)など、クラウド・ベースの次世代テクノロジーの開発を加速するのに役立ちます。

6. 分析

携帯電話、モノのインターネット(IoT)、その他のスマート・デバイスから収集されるデータの増加に伴い、企業はこれまで以上にデータを迅速に分析する必要があります。ビッグデータ分析(非常に大規模で多様なビッグデータ・セットに対する高度な分析手法の使用)は、ビジネスの成功に不可欠になっています。パブリッククラウド環境は、ビッグデータをサポートするために必要なコンピューティングとネットワーキングのインフラストラクチャーを提供するため、企業はデータ駆動型意思決定を迅速に行い、より優れた顧客体験を大規模にリアルタイムで提供できます。

7. ハイブリッド・マルチクラウド戦略

パブリッククラウドは、ハイブリッド・マルチクラウド戦略にとって極めて重要ですパブリッククラウド・サービスをプライベートクラウドまたはオンプレミスのインフラストラクチャーと統合することで、組織はワークロードを実行する場所を選択し、さまざまなCSPから最適なサービスを選択できます。例えば、金融機関が、パブリッククラウドを使用して新しいアプリケーションのテストと開発を行いながら、不正行為の影響を受けやすく規制の対象となるワークロードを、専用のCSPがホストするプライベートクラウドにデプロイしたい場合などがあります。

8. 生成AI

コンピューティング、ストレージ、ネットワークの機能を大量に必要とする生成AIには、データをリアルタイムで大規模に処理するクラウドが必要です。パブリッククラウド・プロバイダーは、生成AIのワークロードをサポートできる複数の分散データセンターから、データにアクセスし処理能力を活用する機能を企業に提供します。

9. エッジコンピューティング

エッジコンピューティングによって、エンタープライズ・アプリケーションがデータ・ソース(携帯電話、センサー、IoT、デバイス、ローカル・エッジ・サーバーなど)に近づき、より迅速なインサイトと応答時間、帯域幅の向上が実現できます。例えば、エッジ・デバイスは、電力網の運用を監視して、電力セクターのエネルギー浪費 を削減するのに役立ちます。パブリッククラウドは、エッジ・サービスを一元化されたパブリッククラウドやその他のエッジ・データセンターに接続することで、エッジ・サービスと相乗効果を発揮します。ほとんどの場合、最も関連性の高いデータのみがエッジで処理されます。対照的に、重要性の低いデータは処理のためにプライマリー・パブリッククラウドのデータセンターに送信されるため、コンピューティング・リソースが解放されて低遅延となります。

10. 量子コンピューティング

量子コンピューティングは、コンピューターのハードウェア、アルゴリズム、その他の量子力学テクノロジーを使用して、複雑な問題を解決します。ビジネス向けの量子コンピューティングはまだ初期段階にありますが、膨大なコンピューティング能力を必要とする業界(化学、生物学、医療、金融など)の組織は、ビジネスのやり方を変革するために量子の可能性を活用し始めています。現在のパブリッククラウド・サービス・プロバイダーは、実用規模の量子アルゴリズムやアプリケーションを開発するための量子マシンやプラットフォームのレンタルなどのサービス提供を開始しています。

IBMによるパブリッククラウド・ソリューション

パブリッククラウドの機能をすべて活用するには、高性能でセキュアかつコンプライアンスに準拠したクラウド環境を提供できるエンタープライズ・グレードのプラットフォームが必要です。最もミッションクリティカルなワークロードをサポートするために構築されたIBM Cloudは、170を超えるパブリッククラウド・ソリューションを備えたフルスタックのクラウド・プラットフォームで、お客様がサードパーティーおよびフォースパーティーのリスクを軽減し、価値実現までの時間を短縮し、所有コスト(TCO)を削減するのに役立ちます。

著者
Stephanie Susnjara IBM Content Contributor