カスタマー・サービスとは、購入プロセス全体にわたって顧客関係を管理する専用の組織機能のことです。これにより、顧客は購入した製品やサービスを最大限に活用し、購入した製品やサービスの使用から生じる顧客の問題を解決できます。
カスタマー・サービスは、カスタマー・ケアまたはカスタマー・サポートとも呼ばれ、顧客が購入に満足していることを組織が確認するのに役立ちます。最も重要な意義は、発生する可能性のある回避できない顧客問題に組織が確実に備えられることです。
残念ながら、製品の欠陥はどのプロバイダーであろうと発生します。顧客によっては、何らかの理由で製品を気に入らないということもあります。製品の機能と比較して価格が高すぎると不満を抱く顧客もいます。顧客からのフィードバックは、ポジティブなものでもネガティブなものでも、カスタマー・ジャーニーにおいて予想すべき事柄です。カスタマー・サービス・チームには、ブランドの評判が損なわれないように、これらすべての状況に対処する義務があります。
優れたカスタマー・サービス体験の神髄には、顧客のニーズに対応するスピード、創造的な問題解決能力、顧客全体を満足させるという圧倒的な意気込みがあります。
カスタマー・サービスの優劣は、ビジネスの成功に明らかな影響を与えます。カスタマー・サービスの向上は、顧客維持率と顧客満足度の向上に役立ち、最終的には顧客生涯価値の向上につながります。実際、Salesforceの調査1では、回答者の88%が、顧客を満足させるには実際に購入される製品やサービスと同じくらい優れたカスタマー・サービスが重要であると指摘しています。
回避可能な顧客離れを最小限に抑えると、カスタマー・サービスが向上し、組織の収益に貢献します。満足している顧客は忠実な顧客となり、肯定的な口コミを通じて製品を推奨する可能性が高くなります。顧客ロイヤルティーを築くということは、単に優れた製品やサービスを提供することに留まりません。それは企業とカスタマー・サービス担当者がカスタマー・サービスの苦情に積極的に耳を傾け、対応している姿を示すことによっても達成できます。
組織ごとに異なりますが、一般通念として、新規顧客を獲得する方が既存の顧客に販売するよりもコストがかかります。McKinsey社によると2、1人の既存顧客の価値を埋め合わせる代償として、3人の新規顧客を見つけて活発に取引することが必要になります。
カスタマー・サービス部門が効果的に機能していれば、顧客維持率が向上し、組織のコストを節約できます。顧客維持に加えて、優れたカスタマー・サービスを提供することは、より大規模なビジネス・コミュニティーに安定性をもたらします。投資家やその他の利害関係者は、組織が顧客に丁寧に対応しているかどうかに注目しています。その姿勢は、将来的に収益が増加したり収益を継続させたりできるかを示す指標となり得るからです。
顧客満足度を少なくとも20%向上させる取り組みは、他のビジネス成果にも連鎖的な影響を及ぼすことがMcKinsey社の調査2で判明しており、組織のクロスセル率と顧客支出に占める企業シェアを増やす可能性があります。
今では、ブランドやプロバイダーを乗り換えるためのコストが安くなっているため、顧客の期待に応えることはますます困難になっています。顧客は、組織がカスタマイズされたエクスペリエンスやソリューションを手頃な価格で提供することを期待しています。見合う価値がないものに対する許容度は低くなっています。既存の顧客のニーズを満たすだけでなく、新しい顧客を獲得するためにも、カスタマー・サービスに投資して高い優先順位で取り組むことが重要です。
積極的傾聴:多くの場合、優れたカスタマー・サービスを提供する鍵は、組織がどれだけ迅速に顧客の要求に対応できるかにかかっています。顧客がソーシャル・メディア、チャット・ルーム、掲示板を通じてオンラインで問題をぶちまけることが増えています。ほぼリアルタイムの対応を期待する顧客に対して、組織は強力なツールを使用して、問題を特定し、迅速に対応することが可能です。対応するカスタマー・サービス担当者は、必ずしも問題をすぐに解決する必要はありませんが、クレームを受理した旨は伝える必要があります。
事前対応的取り組み:ほとんどの組織は、カスタマー・サービスを、顧客体験機能全体の主要な要素と見なしています。カスタマー・サービスが顧客体験をメリットにできる1つの方法は、組織がEメールやその他の通信手段を使用して、新規顧客が製品またはサービスを購入した後にすぐに連絡を取り、顧客の満足度を評価することです。
適切なツールを使用する:企業は、顧客の購入、カスタマー・サポート・チームとのやり取り、報告された全体的な問題を追跡するために、堅牢な顧客関係管理(CRM)ツールに投資する必要があります。CRMワークフローは、組織が最も優良な顧客群をより良く把握し、全体的な購入を追跡できるようにするのに役立ちます。
悪い経験からの学習:新たな問題を報告する顧客から、組織は貴重で積極的なフィードバックを受け取ることができ、それによって組織は後からより大きな頭痛の種に悩まされるのを防ぐことができます。賢明な組織は、製品の発売直後の顧客からのフィードバックに高い優先順位を付けます。それが潜在的な欠陥や望ましくない顧客体験の前兆となっている可能性があるからです。将来の顧客が同じような不快な思いをしないように、それらの製品をリコールするか、問題を早期に解決することが必要となる場合があります。
コールセンターへの投資とトレーニング:組織はカスタマー・サービス担当者のスキルの向上に投資する必要があります。それらのスタッフは顧客と直接やり取りするからです。変化する顧客行動に対応し続けるために担当者が学習しなければならないトピックは多数あります。例えば、顧客とのコミュニケーションにソーシャル・メディア・チャンネルをどのように使用するか、生成AIのような他のテクノロジーをどのように利用するか、などです。気配り、偏見防止、共感のトレーニングからも多くのことを学習して、特定の問題を扱うための準備を整えることができます。また、特定のインシデントや製品に対する不満を訴える、手を焼く顧客への対処方法も学習する必要があります。
カスタマー・サービス担当者への権限の付与:組織が繰り返し発生する問題でのカスタマー・サービスの対応の統一を図ることは当然のことです。そうすることで、すべての顧客に一貫した体験を提供し、問題を解決する際に不必要な摩擦を回避できます。ただし、対応のひな型が特定の顧客の問題に合わない場合や、酌量すべき事情があるような場合は、そのやり方が裏目に出ることがあります。カスタマー・サービスに秀でた組織は、標準化と従業員の意思決定能力向上の両方をどのように組み合わせるかを理解しています。McKinsey社は、コストが200米ドル未満のすべての顧客問題を解決する権限をDBSのカスタマー・サービス担当者3 に付与した事例を取りあげています。
現代の組織は、ポジティブな顧客体験を確実なものとするために、さまざまなカスタマー・サービス・チャネルを通じて顧客に対応できなければなりません。これには次のものが含まれます。
対面:対面でのコミュニケーションは、実店舗にいる顧客がカスタマー・サービス担当者やマネージャーと話したいと言ったときに行われます。顧客によっては、常に対面で問題を解決したいと思う人もいますし、特に問題が店舗ですぐに解決できそうなものであればなおさらです。
電話:コールセンターは、カスタマー・サービス担当者と話をすることは希望するものの、直接会ってそうしたくはないという顧客にとって重要なサービスです。セルフサービスやその他の自動化されたチャネルの台頭により、電話の通話コストが高くなったため、一部の組織はこのサービスを最小限に抑えようとしています。しかし、顧客にとって好みのチャネルの利用が困難であると、悪い口コミや顧客離れなど、より永続的な悪影響が生じる可能性があります。
テキスト・メッセージ:スマートフォンやメッセージング・アプリケーション(WhatsAppなど)の台頭により、組織に直接テキスト・メッセージを送信できる個人が増えています。これは、即時性もあり、フォローアップの応答を待つ間に日常の活動を続けることもできるため、一部の顧客にとっては最適なチャネルです。
ソーシャル・メディア:これは、消費者が問題を公表することで組織が迅速に対応するようになると考えられているため、ますますよく利用されるサービス・チャネルとなっています。組織が迅速に対応する理由は、長く続く評判に関わる問題が引き起こされるのを警戒しているためです。実際、多くの組織は、メイン・アカウントが多数のリクエストや回答で身動きできなくなってしまわないように、カスタマー・サービスの問題を扱うための特定のソーシャル・メディア・プロファイルを作成しています。
セルフサービスのナレッジ・ベース:組織は、情報、チュートリアル、よくある質問(FAQ)を満載したナレッジ・ベースを提供します。これは、人と対話せずに疑問や問題に対処したいという、ますます増えている顧客のニーズに応えるためです。ナレッジ・ベースには、記事、グラフィック、事例研究、動画、音声を含めることができます。
チャットボット:生成AIの台頭により、チャットボットはより人間らしく感じられるようになり、解決できない問題に遭遇する可能性が低くなると考えられます。古いチャットボットは関連付けられているスクリプトの数が有限であり、顧客の問題を人間が解決するほどうまく解決できないことがよくありました。
フォーラム:顧客が疑問点について質問し、カスタマー・サービスの担当者や、場合によっては他の顧客が回答できる場です。これは、顧客が互いに助け合うことを奨励することで、パーソナライズされたサービスを提供する優れた方法です。
顧客体験とカスタマー・サービス機能のどちらもパフォーマンスがハイレベルであることを確認するために、組織が追跡すべきいくつかの相互関連メトリクスがあります。それらは次の2つのレベルに分けることができます。1つは、カスタマー・サービス・チームが特定のカスタマー・サービスの問題にどの程度効果的に対応できているかの追跡です。もう1つは、顧客満足度の成功メトリクスに関係したもので、カスタマー・サービス・チームの成果に関連しています。
FRTメトリクスは、カスタマー・サポート・エージェントが顧客の要求にどれだけ迅速に対応できるかを示します。これは、テクノロジー(組織が顧客の要求を発見するために必要とするツール)と人員(連絡を取ることができるエージェントの数)の両方を掛け合わせたものです。ただし、組織は、会話を開始できるチャットボットの実験を進めており、それらのボットが特定の問題を解決できなくなったときにカスタマー・エージェントに支援してもらうようにしています。
このメトリクスには、カスタマー・サービスとのやり取りから始まるトラブルシューティングの開始から問題が解決されるまでにかかる時間が関係してきます。
問題解決率は、カスタマー・サービスで扱った問題がどれほど成功裏に対処され解決されたかを示します。カスタマー・サービス・チームが顧客のすべての問題を解決できるとは期待できませんが、ほぼすべての問題を解決できていないとすれば、問題が生じる兆候となります。
これは、カスタマー・ジャーニーのタッチポイントで製品の使用体験について尋ねられたときに、「満足」または「非常に満足」と回答する顧客に関係しています。優れたCSATスコアを達成できるなら、組織が価値のある製品やサービスを提供していること、またはカスタマー・サービスの提供によって顧客のニーズが満たされていることを証明できます。
これは、顧客がコミュニティー内の他のメンバーに製品やサービスを勧める可能性を示すもので、例えば、ユーザーがアフィリエイト・リンクを使用したり、商品の利用体験についてソーシャル・メディアに投稿したりすることが考えられます。これはパーセンテージベースのスコアであり、製品を「推奨する可能性がとても高い」人(10段階で9または10)と、「推奨する可能性が低い」人(10段階で6以下)の数を比較した判定に基づいています。多くの人は、このスコアが長期的な顧客満足度を示す強力な指標4であり、NPSが高いほど肯定的な口コミが多いことを意味するため、価値の高い統計であると考えています。
カスタマー・サービスに生成AIを使用することで、効率化とエージェント強化を実現できます。
いつでもどこでも即座に正確なカスタム・ケアを提供する対話型AIを使用すれば、標準的なサポートを優れたカスタマー・ケアに変えることができます。
生成AIを活用した優れたAIカスタマー・サービス用チャットボットを構築すれば、顧客体験を向上させ、ブランド・ロイヤルティーと顧客維持率を高められます。
すべてのリンク先は、ibm.comの外部です。
1 What is customer service?, Salesforce, August 2023
2 Experience-led growth: A new way to create value, McKinsey, 23, March 2023
3 The State of Organizations 2023, McKinsey, 2023
4 CSAT versus NPS: similarities and differences, Survey Monkey