1. 生成AIとアプリケーションのモダナイゼーションとを組み合わせれば、アジリティー向上と収益成長の好循環を促進できます
↓
ビジネス遂行の新たな方法
【このレポートでわかること】
【関連情報】
|
生成AIは過去のどのテクノロジーとも異なっています。瞬く間にビジネスと社会を揺るがす存在になりつつあり、リーダーはこれまでの想定や計画、戦略の見直しを迫られています。
こうした変化にCEOが対処するための一助として、IBM Institute for Business Valueは生成AIの調査に基づくガイドをシリーズ化し、テーマごとに公表しています。内容はデータ・セキュリティーからテクノロジー投資戦略、顧客体験にまで及びます。今回は第三弾として「アプリケーションのモダナイゼーション」をお届けします。
財務や調達、リスク管理のような、リスクを最も忌避する部門までもが、生成AIのゲームチェンジャー能力がもたらす中核業務の変革によるビジネス上のメリットに注目し始めています。
「今動いているものには、手を加えない」という扱いで運用されるアプリケーションは少なくないが、それらはいつまで運用ができるのか、そしてどれほどのコストがかかるのか、往々にして不透明だったりします。生成AIはその状況を変えられるかもしれません。ただし、それは決して簡単にいくわけではありません。
急速に進化する生成AIのユースケースは、従来のITプラットフォームでは対応できないレベルのスピードや柔軟性、接続性を必要とします。従来のやり方にとどまることは短期的には安全と見えるかもしれないが、やがてそれが障害となり、競争で後れを取る原因になるでしょう。
生成AIを活用して、迅速、簡単、安価なモダナイゼーションを実現したいと、多くの経営層が期待を抱いています。経営層10人のうち7人ほどが、生成AIを活用するためにはアプリをモダナイズする必要があると回答しています。また生成AIはアプリのモダナイゼーションを変革する力を秘めていると考えられており、これらはコインの表と裏の関係です。
IBVが考える、すべてのリーダーが知っておくべき3つのこと:
そして、すべてのリーダーが今すぐ実行すべき3つのこと:
生成AIとアプリケーションのモダナイゼーションとを組み合わせれば、アジリティー向上と収益成長の好循環を促進できます
アプリケーションのモダナイゼーション(従来のシステムやアプリケーションを更新し、最新のテクノロジーやアーキテクチャーを取り入れるプロセス)は、ビジネスのアジリティーを高めるための必須条件です。レガシー・システムに最新のアプリを付け足すだけではテクノロジー環境を複雑にするばかりですが、生成AIの活用によってアプリのモダナイゼーションを加速すれば、組織全体のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進できます。
生成AIを用いれば、企業は今まで実現不可能だった変革を進められるようになります。実際、これまで延期されてきたアプリケーションをモダナイズするプロジェクトも、生成AIの導入により承認され、開始されるだろうと経営層の98%が考えています。
理由の1つは、生成AIがアプリケーションのモダナイゼーション・プロセスを部分的に自動化、および合理化できることです。例えば、一般的な組織がレガシー・アプリケーションをモダナイズする場合、コストの31%はコードの翻訳と開発によるものです。しかし、今では生成AIにより、コード・スニペット(ソースコード中、切り貼りして再利用できる断片的部分)やアプリケーション・コンポーネントを生成できるため、そうしたコストを削減できるようになりました。
また、経営層の77%は、アプリケーションをモダナイズするプロジェクトで生成AIを使用すれば、ビジネスの機動性が高まると回答しています。さらに、アジャイルなビジネス慣行を取り入れている組織は、収益成長率で他社を上回る割合が49%高いです。

生成AIはこのように組織が進展する鍵を握っていますが、すでに主要なワークフローをモダナイズしたと回答した経営層は27%にとどまります。また経営層の87%が、どのアプリケーション・モダナイゼーション・プロジェクトが最大のビジネス価値をもたらすのかを把握していると回答しました。だが、経営層の、4人に3人は、自社はモダナイゼーションが進んでおらず、システムはばらばらであり、断片化したテクノロジーやツールを使用していると回答しています。
すでにモダナイズされたアプリケーションに生成AIを適用し、まずは簡単に達成できる成果を確保しましょう
誰でも早期の成功実績を求めるものです。生成AIによりアプリケーションをモダナイズし、生成AIの可能性を示します。生成AIが特定のビジネス成果を実現することを証明し、モダナイゼーションの取り組みを阻害する要因を克服します。
- 低リスクで、人目を引く機会に重点を置きましょう。生成AIを活用して、特定の業務システムやアプリケーションを強化してみてください。例えば、すでにモダナイズされた製造システムやサービス・デリバリー・オペレーションで使われているアプリケーションから着手するとよいでしょう。
- 生成AI導入に伴うビジネス上のメリットを把握し、評価しましょう。生産性がどれほど向上したのかを定量評価し、モダナイゼーションがもたらすコスト削減効果を測定します。そのデータを使用すれば、他の事業部門のリーダーに価値を証明し、支持を取り付けることができます。
- 組織内で専門性を育てましょう。経験を積んだ人材を新しいチームに派遣し、部門横断的なガイドや推進者として活躍してもらいましょう。生成AIを使用したモダナイゼーションの取り組みを、組織全体のさまざまな部門で展開し、価値を広範に拡大します。
生成AIは、企業が技術的負債を決定的に解決できる機会を提供します
生成AIから最大の成果を引き出すには、より高い目標にまで手を伸ばす必要があります。
アプリケーションのモダナイゼーションは複雑なプロセスであり、このフレーズには難しそうな響きがあります。それを自ら投資を主導したいと考えるリーダーは、そうは多くはないはずです。しかし、最上位のビジネス・リーダーたちは、そろそろ責任の押し付け合いはやめるべき時であると感じているようです。アプリケーションやデータのモダナイゼーションは自社のビジネス戦略の中心的課題であると回答した最高責任者クラスの経営層は、全体の83%に上ります。また90%が、アプリのモダナイゼーション・プロジェクトに生成AIを活用すれば、既存の製品・サービスを改善し、新しい機能を構築でき、それによって成長を促進できると回答しています。

アプリケーションのモダナイゼーションと生成AIの導入を並行して進めれば、かつては野心的過ぎると思われた機会の実現が視野に入るようになります。例えば、すでに一部の企業では、アプリケーションの開発やリファクタリング、レガシーなERPシステムからSaaS版へ移行するためのワークフロー作成、さらにはクラウド上で作動する新しいデジタル製品の機能要件の作成などに、生成AIを活用しています。また生成AIは、企業のスキルギャップ解消を支援し、日々の単調な作業を減らすことで、スタッフやチームの仕事を効率化することができます。こうした課題への対処は、生産性の向上につながります。そして、コード変換、コード生成、トランスフォーメーション・プランニング、ナレッジ管理などを利用して、低コストかつ迅速にスケールさせることができるのです。
ただし企業は、パブリッククラウド環境にある生成AIモデルに、機密情報やプライベート・データを接続することはできません。そうしたデータが他者に利用可能になってしまうからです。生成AIモデルを自社の独自データでファインチューニングし、AIによる提案の精度を高めるには、最新かつプライベートな環境で作業する必要があります。
ビジネス・リーダーたちは、アプリケーションのモダナイゼーションを妨げる従来の障壁を、生成AIが取り除いてくれることに期待しています。経営層の半数以上が、モダナイゼーション・プロジェクトで戦略的な成果を上げる上での障害として、コスト面または技術面の課題を挙げています。しかし現在、多くの経営層は、そのような技術面(57%)およびコスト面(46%)の障壁を生成AIが解消してくれることに期待しています。
さらに、生成AIの利用から得たインサイトを、アプリケーション・ライフサイクルの設計から展開に至る、あらゆる段階に活かせば、アプリケーションの価値を将来にわたり維持することができます。クラウド環境で効果的に作動し、進化を続けるイノベーションに対応できるアプリケーションの開発は、何をもたらすでしょうか。市場投入までの時間の短縮にとどまらず、関連する技術的負債の削減さえ可能となるでしょう。
だが依然として経営層の半数以上が、モダナイゼーション・プロジェクトで戦略的な成果を上げる上での障害として、コスト面または技術面の課題を挙げています。しかし状況は、変わりつつあるようです。多くの経営層は、生成AIが技術面(90%)およびコスト面(69%)の障壁を打破するための機会になると考え始めています。
ではどこから始めるべきでしょうか。生成AIがアプリケーションのモダナイゼーション・プロジェクトで最も大きな効果を上げるのは、マーケティング、顧客サービス、情報セキュリティーの領域ではないかと経営層は予想しています。
以前は「手に入らなかった」機会、すなわち基幹システムのアプリケーションやプロセスなどに着手しましょう
生成AIは、CEOにまったく新しい方法でビジネスを遂行する力を与えます。簡単に達成できる成果で満足せずに、これまでモダナイゼーションを試みるには難し過ぎた、あるいは自信が持てなかったような価値の高い機会にもあえて挑戦するのです。製造業における製品ライフサイクル管理システムや航空業界におけるフライト・スケジューリング・システムといった、生成AIが最大かつ最も戦略的な成果をもたらすと期待される基幹業務システムのモダナイゼーションを早急に進めます。
- これまで見送られていた機会を発見しましょう。高いビジネス価値が見込まれるにもかかわらずコストや難しさのために断念してきたモダナイゼーション計画がなかったか、CIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)に確認してください。それらの計画に目を向け、新しいモダナイゼーション目標のリストを作りましょう。
- 生成AIの新しい機能に対応するため、オペレーティング・モデルを更新しましょう。生成AIの機会を最大限に活用するため、ワークフローと意思決定プロセスを見直しましょう。アーキテクチャーに関連した最新のプラクティスである、コンポーザビリティーなどを取り入れ、スケーラビリティーを実現しましょう。
- エコシステムを活用しましょう。テクノロジー・サービス・パートナーのエコシステムを、生成AIの戦略的導入に関わるよう働きかけましょう。顧客や潜在的パートナーとのコミュニケーション・チャネルを開いてください。市場調査能力を強化し、生成AI分野の競争状況を率直に評価することにより、望ましくないアクシデントを回避しましょう。
リーダーが知るべきこと3ー 「トランスフォーメーション+生成AI」
生成AIによって、ITとビジネスの間の距離がようやく埋まりつつあります
もはやITとビジネスの間に境界線はありません。ついに、ITがビジネスそのものになったのです。生成AIの出現により、テクノロジーがイノベーションを進め、ビジネスがテクノロジーをけん引するようになりました。ゆえに、生成AIから最大の価値を引き出すためには、従来の部門間の垣根を取り払い、それぞれの機能を包括的に統合すべきです。
経営層の68%は、生成AIがIT部門とビジネス部門の役割のギャップを埋めると考えています。しかし、それはどのような形で実現されるのでしょうか。それは、ビジネス目標についての理解を共有すること、そしてコラボレーションを強化することから始まります。これにより、従業員はイノベーションと改善の機会を特定しやすくなり、共通の目標に向かってより効果的に動けるようになります。
IT部門との緊密な連携により、リーダーは、最もビジネス価値が大きいアプリケーションに最大のサポートが提供されていること、そしてパフォーマンスの低いアプリケーションがITリソースを独占していないことを確認できるようになります。生成AIを活用して、KPIと各アプリケーションのパフォーマンスおよびサポート要件を比較検証すれば、IT支出に関する意思決定を迅速かつスマートに行えるようになります。
そしてより良い意思決定は、戦略的整合性の向上につながります。こうしたことには、リーダーの姿勢が影響を与えています。生成AIへの投資が極めて重要だと考えるリーダーの60%は、自社のITアーキテクチャーをビジネス活動やビジネス・プロセスに合わせて最適化することで、すでに大きな成功を遂げています。この割合は、他のグループのリーダーと比べて40%高い結果となっています。

アプリケーションのモダナイゼーションでIT部門とビジネス部門が果たす役割について、組織の意見は分かれています。半数はIT部門が主導権を握るべきと考え、残りの半数はビジネス部門が主導権を持つべきと考えています。だが生成AIはその両者の架け橋になることができます。
リーダーが実行すべきこと3ー 「トランスフォーメーション+生成AI 」
ビジネス部門とIT部門の目標を別個に評価するのを止め、ビジネス価値に最も強くつながっているITプロジェクトを優先させましょう
IT部門とビジネス部門の間で便宜的な提携関係を結ぶのではなく、強固で揺るぎないパートナーシップを構築してください。生成AIのためのイノベーション・チームを立ち上げるにとどまらず、すべてのリーダーにその役割に関係なく、テクノロジーのモダナイゼーションとビジネス成果の両方について責任を持たせましょう。
- リーダーを選任し、そのことを内外に発表しましょう。最高責任者クラスより2ランクほど下の役職者に、生成AIアプリケーションを活用したモダナイゼーションのリーダーを任せましょう。
- 「切迫感をもってスピーディーに価値を実現する」をスローガンにしましょう。モダナイゼーション作業について、1周ごとにより良いビジネス成果に向けて前進できるような高速なサイクルを要求し、それが実現できたら報奨と称賛を提供してください。
- 相反するインセンティブや競合するインセンティブ、自らの部署だけの利益だけを目指すインセンティブは排除しましょう。成果に対する評価や報奨は、すべてのビジネス目標と従業員をカバーした、単一の一貫したプログラムの中で提供してください。








