AI時代の通信業界

成長に向けた、通信サービス・プロバイダーのバリュー・チェーン再考
成長に向けた、通信サービス・プロバイダーのバリュー・チェーン再考

【このレポートでわかること】
 

  • AIによるネットワーク最適化や顧客対応自動化で、コスト削減や効率向上が可能
  • AI活用やエコシステム・パートナーとの協業による、新たな収益源の確保が可能
  • AI CoEやAPIファーストアーキテクチャ導入の重要性
  • チャットボットやネットワーク監視へのAI活用で、顧客満足度・サービス品質の向上が可能
  • AIモデルの監視・ガバナンスを強化し、主要KPIを定量的に追跡することの重要性

 

  • 事例
     
    • Bharti Airtel社:AI活用によりスパムメールおよびメッセージを大幅削減し、顧客体験向上とコスト削減を実現。さらには、AIによるRANのエネルギー管理で年間約1,200万ドルのコスト削減、および炭素排出量削減の見込み
    • 中国移動(China Mobile)社:AI製品の展開により、顧客満足度が10%向上。さらには、RANの消費電力を動的に最適化し炭素排出量を削減

※事例の詳細はぜひレポートをダウンロードしてご確認ください。

 

【関連情報】
 

 

通信サービス・プロバイダー(CSP)は自律型オペレーションの実現を目指し、生成AIとエージェント型AIを活用してネットワークやオペレーション、顧客体験を再構築しています。CSPのリーダーはAIの価値を認識しているものの、現段階では生産性向上とコスト削減のための導入が中心です。AI導入はパイロット段階で頓挫することが多く、その原因は上級管理職の支援や高品質なデータの不足、そして技術面での縦割りなどです。

変革を成功させるには、「後付け」のAI導入ではなく「AIファースト」のアプローチが必要です。つまり、明確な意図と目的を持ってAIを活用し、顧客体験やネットワーク、オペレーション、製品、サービスといった領域全体でビジネスを再考するということです。生産性向上にとどまらず、売上拡大に資するAIの活用が不可欠です。AIが売上、利益、効率の向上、およびイノベーションを実現する可能性はとても大きく、CSPの経営層の54%は、今後3年間でAIが自社の売上に大きく貢献すると予測しています。また77%は、市場の混乱や変化する顧客の期待への対応能力がAIによって強化されると考えています。

AI、自動化、先進技術を活用して自社のビジネスを再考するCSPこそが、この変革の先頭に立つ存在となります。エージェント型AIの進化を背景に、こうしたCSPは人間とAIエージェントのシームレスな連携を実現し、人間によるコントロールとの適切に釣り合いが取れた自律型ワークフローを推進するでしょう。

 

通信業界をAIで再構築する

初期のAI導入は、オペレーションや業務支援システムにおける、低リスクでデータが豊富な機会に焦点を当てていました。しかし、CSPは現在、生成AIとエージェント型AIがもたらす革新的な機会を、自社のビジネス環境全体にわたって模索しています。CSPの経営層の80%以上は、次の3年間に、業界における自社の役割を生成AIが再定義するだろうと述べています。CSPの経営層はこうした高い意欲を予算面でも支援しています。AIに投じられるIT予算の割合は、現在の7%から2028年にはほぼ9%となる見通しで、これは約30%の拡大に相当します。

投資対象は、個別のユースケースから、ビジネスの成長を目指す戦略的なものへ移っています。現在はネットワーク・パフォーマンスの最適化や予知保全、カスタマー・サービスの自動化といった効率化のイニシアチブにAI支出の55%が投じられていますが、2027年には46%へ低下する見通しです。一方で、経営層はビジネスモデルのイノベーションに対するAI支出の割合が、現在の14%から2027年には19%に増加すると見込んでいます。この数字からは、CSPがビジネスモデルを再設計し、新たなAIサービスやエコシステム・パートナーシップを構築しようとしていることがうかがえます。

しかし、CSPの経営層がAIに大きなチャンスを見いだして投資を増やす一方、大きな課題が残ります。65%の経営層が、自社のAIイニシアチブは期待する価値を十分に実現できていないと認めています。AIの潜在的な価値を最大限に引き出すには、自社全体の意思決定やオペレーションにAIを組み込む必要があります。

CSPによる市場拡大および売上向上を後押しするAIの可能性は、一企業の枠を越え、より広範なエコシステムに及びます。例えば、通信事業者のCEOの79%は、自社ビジネスの市場の外でも生成AIが好機を生み出すと見込んでいます。一方で61%が、この新たな成長機会をつかむにはパートナー・エコシステムの再構築が必要であると答えています。そのためには、製品・サービスの市場展開における他社との協働や、共有のデータ・ファブリックが必要ですが、多くのCSPはまだその確立に至っていません。

新たな収益源の獲得には、都市のスマート・グリッド(次世代送電網)やAIを活用した遠隔医療、双方向で没入感のあるメディア・プラットフォームなど、業界の枠を越えた協働が必要です。CSPは人間、データ、デバイスをつなぐ架け橋として、業界横断の取り組みを指揮する格好の立場にあります。同様に、幅広い市場やビジネス領域でAIによるイノベーションを促進する”触媒”として機能することも可能です。こうした可能性を実現するには、個別の独立したパイロット導入から、ネットワークやオペレーション、顧客対応に組み込まれた、全社的なAI活用へと移行する必要があります。

 

企業全体にAIを展開する

AIの大規模展開には、データ・エンジニアやAI・機械学習の専門家、変革推進担当者で構成される「AI CoE」(Center of Excellence)も欠かせません。成功しているAI CoEは、しばしば最高AI責任者に率いられ、アイデア創出からモデルのトレーニング、展開、監視、継続的改善に至るまで、AIプロジェクトのライフサイクル全体を統括します。これにより、あらゆるユースケースに対して明確なビジネス目標と測定可能なKPIが設定され、大きなビジネス成果につながる可能性が確保されます。

AIの全社的な展開には、最新のデータ・インフラが必要となります。例えば、APIファーストのアーキテクチャーやマイクロサービスの導入により、モノリシックなバックエンドからAIパイプラインを切り離すと、モジュール単位の更新やシームレスな統合が可能となります。実際、AIの全社的な展開における二大課題として、「複雑なデータの統合・管理」と「旧式インフラのアップデート」をCSPの経営層は挙げています。

 

「事後の対応」から「予測して行動」への転換

CSPは現在、リーダー陣とAI CoEの支援を受け、レイテンシー(AIシステムが情報を処理してアウトプットを生成するのに要する時間)の低減に注力しています。AI推論をネットワークのエッジで処理することで、ミッション・クリティカルなタスクのレイテンシーを半減させることも可能です。

スピードは重要です。現在、CSPの31%が新たな基地局の展開計画にAIを活用しており、その導入比率は2027年までに63%へとほぼ倍増する見込みです。エッジでホストされたモデルはネットワーク異常をミリ秒単位で検出することができ、これは、5Gの無線アクセス・ネットワーク(RAN)の最適化や、動的なエネルギー制御、リアルタイムのセキュリティー対応において極めて重要です。一方、クラウドでホストされたモデルには、より長時間のワークロードを割り当てることができます。

このレイテンシーの低い基盤が、次なる飛躍の道を切り拓きます。自律的な認知・意思決定・行動が可能なエージェント型AIへの飛躍です。2025年時点で、CSPの44%は「顧客向けチャットボット」にエージェント型AIを全面的に導入したと報告しています。このほか自律型の「ネットワーク・リソース管理」「サイバーセキュリティー対応」それぞれに対して、42%がエージェント型AIを導入しています。

エージェント型AIシステムは、KPIの監視や課題の解消、さらにはリアルタイムのアップセルを通じて、「事後の対応」から「予測して行動」への転換を実現します。しかし、AIを顧客対応やネットワーク管理に組み込む際は、完全な自動化ではなく人間をプロセスの中に含めることが極めて重要です。適切なダッシュボードを導入することで、モデルのドリフト(モデルのパフォーマンス低下)を追跡するとともに、ガードレール(安全対策)を維持し、AIエージェントの挙動とビジネス指標の整合性を取ることができます。

 

AIがもたらす価値の測定

AIが重要なインフラと関わるようになると、そのインパクトや成果を測定・監視することが不可欠となります。これまでブラック・ボックスであったAIを、透明性が高く、ビジネス成果をもたらすエンジンへと変えるため、CSPはパフォーマンス測定用のダッシュボードを導入しています。

このようなダッシュボードはAIのモデル・ドリフトをチェックし、パフォーマンスが低下した際は自動で再トレーニングを開始します。もしKPIの実績値が閾値を下回れば分析チームにアラートを発します。また、監査で説明責任を果たすためのログを提供し、コンプライアンス担当者が規制当局の審査基準を満たすことができるよう支援します。継続的な監視と迅速なフィードバック・ループは、モデルの精度を維持し、AIイニシアチブのインパクト創出に貢献します。一方、ガバナンス面では、専用のダッシュボードが監視をします。

バランスの取れたKPIの追跡も重要です。コストばかりに目を奪われると、ビジネス成長や顧客体験などのメリットを見落とすリスクがあります。だからこそ、AIを導入する企業は少なくとも3つのカテゴリーのKPIを同時に追跡しています。当社の調査によると、通信業界におけるAIイニシアチブのインパクトを測定するのに最も利用されているKPIは、コスト削減、売上、顧客満足度、営業利益率の4つです。これらの指標は過去12カ月間、AIの導入によって大きく改善しています。

 

本レポートはより詳細な洞察や、AI導入で直面するさまざまな課題を乗り越えるためのアクションガイドを提供しています。ぜひ、レポートをダウンロードしてご確認ください。

 


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著者について

Rahul Kumar

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, Senior Partner and Vice President, IBM Consulting, Global Industry Leader for Telecommunications and Media, IBM Industry Academy Member


Chong Li

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, Partner, IBM Consulting


Gina Holmes

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, Vice President and Senior Partner, US Telecommunications Industry Leader, IBM Consulting


Andrés Farreny

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, Partner, BTS Growth Platform Leader, SPGI and Masorange Client Partner, IBM Consulting


Juhi McClelland

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, Managing Partner, APAC, IBM Consulting


Riaz Osman

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, Managing Partner, Gulf and Levant, Southern Africa and AGM, IBM Consulting


Rakhee Chachra

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, Global Telecommunications Leader, IBM Institute for Business Value


羽田忠行(日本版監修), 日本アイ・ビー・エム株式会社,パートナー,コンサルティング事業本部,通信メディアサービス事業部,事業部長

岡知子(日本版監修), 日本アイ・ビー・エム株式会社,パートナーコンサルティング事業本部,通信メディアサービス事業部

発行日 2025年10月17日