AI時代の石油・ガス業界

ビジネス・チャンスを採掘する
ビジネス・チャンスを採掘する

【このレポートでわかること】
 

石油・ガス業界の企業が、AI活用により競争力と収益性を向上させる方法を解説
  

  • AIによる探査データの自動解釈や予知保全で、操業効率と収益性の向上が可能
  • CO₂回収最適化や環境監視サービスなど、AIを活用した新たなビジネス機会の創出が必要
  • 自律的に行動するAIが、掘削やパイプライン監視をリアルタイムで最適化することが可能
  • CO₂排出量の低減やエネルギー効率の向上など、AI導入による脱炭素化の推進が重要
  • AI人材育成と組織変革、およびAI投資の戦略的ガバナンスが必要

 

 

【関連情報】
 

 

石油・ガス企業が現在の業務を最適化し、低炭素な未来に向けた移行を進める中、バリュー・チェーン全体の変化を促す存在としてAIが台頭しています。未掘削の資源探索予知保全による設備の故障防止、生産業務の効率向上など、AIは多くの領域でこれまでにない成果を実現し、よりスマートで柔軟な設備操業および業務の実行を推進しています。上流・中流・下流(アップストリーム・ミッドストリーム・ダウンストリーム)それぞれの事業活動でAI導入が急速に進んでいます。現在、上流では、44%が探査業務にAIを利用し、45%が3年以内の導入を計画中です。下流では、41%が石油・ガス精製業務にAIを利用し、52%が3年以内の利用開始を見込んでいます。

 

図1 石油・ガスのバリュー・チェーン全体にわたるAI導入

 

産業オートメーションの“次なる開拓領域”:エージェント型AI

エージェント型AI*は産業オートメーションの“次なる開拓領域”であり、石油・ガス企業はこのテクノロジーを主要部門で試験運用しています。自律型エージェントは、フィードバックに基づいてリアルタイムに行動することができ、意思決定とその遂行方法の変革が可能です。上流では、29%の組織が掘削業務と生産業務の最適化(泥水比重の動的な調整によるブローアウト防止など)に、中流では23%が、パイプライン監視において、エージェント型AIを少なくとも試験的に運用しています。パイプライン監視では、障害発生前の能動的な異常検知にセンサー・データと衛星画像を活用しています。AIはすでに石油・ガスのバリュー・チェーン全体で具体的な成果を上げています(図2参照)。業界の経営層は、AIベースの設備予知保全などを通じて、生産稼働時間が27%改善したと答えています。また、設備配置を需要と上手くマッチングさせることで、設備の稼働率が26%向上したと報告しています。

*エージェント型AI:人間の監督なしに、定められた目的を自律的に達成できるAIシステム。

 

図2 石油・ガス業界でAIを利用するメリット:生産と産出量

 

こうした設備操業の改善は、財務上の有意義な効果として現れます。ダウンタイムの低減や、点検の自動化、サプライチェーンの効率化により、18%ものコストが削減され、その他のパフォーマンス指標も向上しています(図3参照)。経営層は現在の収益の約5%がAI主導の取り組みによるものであると考えており、今後3年間でこの数字は7%を超えると見込んでいます。

 

図3 石油・ガス業界でAIを利用するメリット:操業上のパフォーマンス

 

AIによる新たなビジネスモデル

AIは、脱炭素化されたエネルギー環境において石油・ガス会社が果たす役割を再構築しています。再生可能エネルギー生産の最適化、分散型エネルギー資源の管理、市場統合など、新しいエネルギー・ビジネスモデルで先行するために必要な俊敏性とインテリジェンスをAIが実現します。

AIモデルは例えば、輸送データや衛星画像、グローバルな市場指標を追跡し、短期の需給動向を予測したり、貨物ルートやリスクヘッジの戦略を最適化したりできます。さらに、水素・バイオ燃料と従来型設備それぞれの長期的なリスク調整済みリターンを比較・分析し、新エネルギーへのよりスマートな資本配分を可能にします。

さらに、AIは中核事業の脱炭素化も可能にします。経営層の13%は、二酸化炭素回収の最適化(二酸化炭素の分離・回収・活用・貯留[CCUS]でCO2圧入の効率を向上させる圧力・流量制御など)にエージェント型AIを導入しています。14%が環境と排出量の監視にAIを活用しており、衛星画像、IoTセンサー、画像解析を利用して、メタン漏出の検出とリアルタイムのフレア監視をしています。

経営層によると、主に異常検知や安全基準順守の監視により、操業中のトラブルが29%減少しました。さらに処理・圧縮施設の制御システムをAIで最適化するなどして、エネルギー効率を22%向上させました(図4参照)。

こうしたイノベーションは、新しいサービスの機会を生み出します。72%の組織は3年以内に、AIを活用した二酸化炭素回収最適化のサービスを、カーボン・プライシングが導入され始めた地域を中心に開始しようと計画しています。想定されるターゲットは、鉄鋼・セメント企業などの大規模排出者や独立系CCUS事業者で、こうした企業は二酸化炭素回収や二酸化炭素隔離のインフラを所有・運用する一方、AIの専門的知見を持ちません。また、78%の組織は環境監視サービスの提供を予定しており、新たな収益源の創出に加えて、ESGの実績を高めようとしています。環境に対して責任を有する製造業者や鉱業会社、インフラ企業がサービスの提供先として想定されます。

 

図4 石油・ガス業界でAIを利用するメリット:安全性とサステナビリティー

 

Wintershall Dea社:AI@Scaleで規模の異なる2つのAIプロジェクトを実行

欧州を代表する石油・ガス会社であるWintershall Dea社は、業務改善とイノベーション創出にAIを活用することで、業界リーダーとしての地位を確立しています。同社は100人以上の従業員を対象にAIやデータサイエンス(統計やAIを駆使したデータの分析・予測)の研修を実施したほか、AI@Scaleと呼ばれる取り組みを通じて、専門スキルを有する組織を設立しました。 同社は主に2種類のAIプロジェクトに取り組んでいます。1つは小規模プロジェクトの「fireflies」で、PDF文書からのデータ抽出自動化などの単純な問題に対処する、簡易的かつ社内展開可能なソリューションを手掛けています。もう1つは大規模プロジェクトで、坑井健全性の監視にAIを活用し、漏出の早期発見などを図っています。現在まで、Wintershall Dea社は80件以上のAIユースケースを特定し、20件以上に積極的に取り組んでいます。坑井健全性を監視するプロジェクトはすでに稼働しています。

「ビジネス上の課題は必ず存在します。担当領域の課題を理解した上で、高品質で関連性の高いデータへのアクセスを確保し、それを活用して何かできるようにデータ整備することが必要です」

Wintershall Dea社、データサイエンス、データ・ガバナンス、データ・ハブ担当副社長
Ulrich Lorang氏

 

本レポートはより詳細な洞察や、AI導入で直面するさまざまな課題を乗り越えるためのアクションガイドを提供しています。ぜひ、レポートをダウンロードしてご確認ください。


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著者について

Spencer Lin

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, Global Research Leader, Chemicals, Petroleum, and Industrial Products, IBM Institute for Business Value


Zahid Habib

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, Vice President, Global Industrial Sector Leader, Global Energy and Resources Industry Leader, IBM Consulting


Phil Spring

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, Senior Partner, EMEA Energy and Resources Industry Leader, IBM Consulting


Deborah Walker

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, Senior Partner, Australia Distribution and Industrial Sector Leader, Business Transformation Services, IBM Consulting


Yoshihiro Shimada

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, Senior Partner, Japan Industrial Products Industry Leader, IBM Consulting


Satoshi Nagata

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, Associate Partner, Global Industrial Center of Excellence, IBM Consulting


Syed Muhammad Ali Razi

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, Lead Account Partner, Energy & Resources, IBM Consulting, Saudi Arabia


Shannon Wilson

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, Canada Sector Leader, Communications, Industrial, and Distribution, IBM Consulting

発行日 2025年5月21日

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