AI時代の医療業界

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AIが医療にもたらす効果と、導入拡大の見通し
コスト削減だけを考えても、医療ほどAIから大きなメリットを得られる業界は他にほとんどありません。
例えば、米国ではAIの広範な導入により、効率や診断精度の向上、リソース配分の最適化などが進み、年間2,000億ドルから3,600億ドルもの医療費削減が可能になると推定されています。これほどの高い効果を得るチャンスがあるため、医療業界ではAIの導入が勢いを増しています。2024年には、米国の医療機関の43%がAIの活用範囲を広げました。しかし、医療分野におけるAI活用の大部分は依然として初期段階にあり、特に臨床現場でのAI活用はあまり進んでいません。AIの導入が遅れている背景には、複雑な規制や患者の安全に対する懸念、データ・セキュリティーおよび患者のプライバシーなど、医療業界特有の課題があります。それでも、医療分野においてAIが有する大きなポテンシャルが見えてきたため、業界のリーダーは取り組みを積極化し、人間の能力強化や、定型タスクの自動化、ケア提供の新たな方法を実現しようとしています。
AI時代における各業界のトレンドを分析するシリーズの一環として、IBM Institute for Business Value(IBM IBV)は、2025年5月~6月に、米国、英国、インド、シンガポールの医療業界の経営層102人を対象に調査を実施しました。調査対象者の回答からは、医療現場における臨床や事務の幅広い重要なユースケースにAIソリューションが活用されつつあり、その導入率は増加中であることが明らかになりました。さらに、医療分野におけるAIの成長率は、今後3年間で2倍以上に上昇すると見込まれることも分かりました。

臨床現場では、AIを患者のモニタリングに活用し、バイタル・サインのテレメトリーを通じて臨床スタッフに異常を通知するケースが増えています。医療業界の経営層の39%は、入院患者の健康状態に問題があった場合に、早期に警告できるモニタリング・システムを「完全に導入済み」または「導入中」と回答しています。今後、臨床ニーズや患者個人のニーズが変化しても、「AIには迅速に対応する能力がある」と経営層の69%は考えています。さらには、将来発生し得る公衆衛生危機への対応スピードに関しても、AIの能力を前向きに捉えています。

AIは労働力不足を補う大きなポテンシャルを秘めている
医療サービスへの需要が世界中で増加する中、医療業界は2030年までに1,800万人の労働力不足に直面すると予測されています。経営層が人手不足を補うために考えている方法の1つが、時間のかかる事務作業をAIで処理することです。それを実現できれば、臨床スタッフはより多くの時間を患者への直接的なケアに充てることが可能になります。例えば患者の記録や手術メモ、術後指示書の作成に生成AIを活用できます。そしてエージェント型AIによって指示書を共有し、患者によるアクセス状況をモニタリングできます。
さらに医療業界の経営層は、エージェント型AIを臨床ワークフローに組み込む機会を模索し始めており、活用は比較的早く広がると確信しています。また医療業界の経営層の34%は、複数の診療科や病院を横断した医療チームの連携にAIを活用することで、適切な人員配置や生産性向上の実現を期待しています。バックオフィス業務へのAI導入が医療のオペレーションに革新をもたらすポテンシャルは実証されています。医療業界のリーダーの67%は、保険者と医療機関の間の連携強化と、診療報酬請求の整合性確保において、AI活用の最大の機会を見込んでいます。

AI活用の広がりとは裏腹に、医療業界の経営層の過半数(54%)は、AIの導入と活用領域拡大に必要なスキルを自組織のスタッフが有していないことを懸念しています。AIソリューションを展開する医療機関が増える中、AI導入効果の最大化に必要なAIスキルをスタッフが身に着けるためのさらなる努力が必要です。
AIとデータドリブンのマインドセットで医療を変革
業務効率の改善やパーソナライズされた医療の提供、AIモデルの学習において、データは医療機関にとっての生命線です。AIアルゴリズムは、膨大なデータ・セットを分析してパターンを割り出し、リスクを予測し、治療計画をパーソナライズすることができます。
しかし、医療現場で取り扱われる膨大なデータは、データの管理や統合、セキュリティーに関わる重大な問題を引き起こします。医療業界の経営層の53%は、AIを導入する際の最大の課題として患者データの保護とサイバーセキュリティーを挙げています。データ・セキュリティーは、患者のプライバシーや安全、信頼に直接影響を及ぼします。堅牢なセキュリティー・アプローチを確立すれば、機密性が高い患者情報への不正アクセスや窃取・改ざんを防止することができます。このような対策は、医療機関に対して患者が個人情報を安心して共有できる環境を整える上でも重要です。
医療データのセキュリティーは、高度なAIツールを利用するためにも不可欠です。例えば、AIを活用した臨床記録作成やコンテキスト認識といった臨床における「アンビエントインテリジェンス」は、医師や看護師の事務負担を軽減して、患者と接する時間を増やしたり、データ・セットをリアルタイムで拡充したりすることができます。医療機関の65%が、今後3年間に試験的なプロジェクトの開始や、AIを活用した臨床文書作成ツールやアンビエント記録作成ツールの展開を計画しています。
AIを活用したデータドリブンなソリューションは、患者に対してインテリジェントかつ常に利用可能なケアを提供できます。例えば、「ポケットの中の医師」モデルは、継続的な健康モニタリングやデジタルツイン、望ましい行動の促進により、ウェルビーイングを実現し、慢性疾患のリスクを軽減します。このモデルにおいてAIツールは、患者の健康状態悪化を予測し、処置方法をカスタマイズし、セルフケアをガイドします。究極的には、「対症療法的な疾病ケア」から「予防的なウェルネス」へと臨床の軸をシフトさせることにつながります。これはユーザー中心型のデザインというビジョンを支えます。それは患者に力を与え、行動変容を促し、集団レベルで健康状態を向上させます。
本レポートはより詳細な洞察や、AI導入で直面するさまざまな課題を乗り越えるためのアクションガイドを提供しています。
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著者について
Munenori Senzaki, Partner and Healthcare and Life Sciences Lead, IBM ConsultingAlexis Edwards, Associate Partner and Clinical Safety Officer, IBM Healthcare Consulting, UKI and EMEA, IBM Consulting
Andrew S. Cohen, Senior Partner, Global Healthcare and Life Sciences Industry Leader, IBM Consulting
Heather Fraser, Global Lead for Healthcare and Life Sciences, IBM Institute for Business Value
Bill Van Antwerp, Partner, IBM Healthcare Consulting, IBM Consulting
Jon McNeary, Healthcare Industry Leader, IBM Consulting
Angela Spatharou, Healthcare Leader, UKI/EMEA, IBM Consulting
Swapan Agarwal, Industry Leader, Healthcare, Pharma and Life Sciences, IBM Consulting
Mark Davies, Chief Health Officer IBM, IBM Consulting
Mario Hime, Partner, Data/AI Service Line Leader, LATAM, IBM Consulting
Kai San Koh, Lead Client Partner and Healthcare Partner, IBM Consulting
Justine McCarthy, Partner, Healthcare and Life Sciences Leader, MEA, IBM Consulting
発行日 2025年10月24日








