コグニティブ・コンピューティングとAI:主な違い

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執筆者

Josh Schneider

Staff Writer

IBM Think

Ian Smalley

Staff Editor

IBM Think

コグニティブ・コンピューティングとAI:主な違い

コグニティブ・コンピューティング人工知能(AI)という用語は、同じ意味で使われることがありますが、関連はあるものの別個の技術で、同じものではありません。

最も基本的なレベルでは、AIシステムは自ら「考え」、独立して判断するように設計されています。一方で、コグニティブ・コンピューティングは、人間の意思決定を補助するために、より人間らしい思考プロセスをシミュレートする目的で使用され、置き換えるものではありません。

例えば、AIを特定の目的に役立つツールと考えることができます。これに対して、コグニティブ・コンピューターは、全体の意思決定プロセスを支援することで、より広範な目標の達成をサポートするデジタル・アシスタントのように機能します。

AIをA地点からB地点までの最短ルートを示すGPSとするなら、コグニティブ・コンピューターは旅行ガイドのような存在です。AIは既存の地図や交通データを参照して、最適と「考える」ルートを提示できます。

一方で、コグニティブ・システムはユーザーと連携して、好みを学習し、より文脈に依存した情報に基づいて対応します。途中の興味深い観光スポットを案内したり、天候が良く、単純な効率が最優先でない場合には、より景色の良いルートを選択することもあります。

一般的に、AIは特定の問題を解決するための専門的なツールと考えることができます。AIシステムは、大量のデータを迅速に分析してパターンを認識し、あらかじめ定められたルールに基づいて判断することに優れています。より人間らしく「考える」ように設計されたコグニティブ・システムは、AIの能力を基盤としつつ、複雑で非構造化のデータを理解することに優れています。これらはユーザーとのやり取りから学習し、説明や推奨を提供します。

包括的な用語であるAIは、ニューラル・ネットワーク大規模言語モデル(LLM)など、特定の種類の限定的なコンピューター・モデルを指す場合により一般的に使用されます。これに対して、コグニティブ・コンピューティングは、ハイブリッド型の手法と考える方が適切です。これは、コグニティブ・サイエンスとコンピューター・サイエンスを組み合わせ、人間の意思決定プロセスを補強・支援するシステムを構築する手法です。

コグニティブ・システムは、パターン認識や音声認識の能力を向上させるために、機械学習(ML)深層学習などのAI技術を活用することがよくあります。さらに、このようなシステムは、大量のデータをリアルタイムで処理、取り込み、応答するように設計されています。これらは、視覚的、動作的、聴覚的な合図など、幅広い潜在的なデータや入力ソースから情報を取得します。

個々のAIモデルの対象範囲は限定されることがあり、その範囲外では性能が低下することがありますが、コグニティブ・コンピューティング・システムは異なる設計になっており、あいまいさ、不確実性、または明確な答えが存在しない問題を扱うのに適しています。

言い換えれば、今日私たちが知っているAIは、単調または困難な作業におけるギャップを埋め、効率的な近道を提供することを目的としています。コグニティブ・コンピューティングは、人間の認知能力を補強し、より適切な意思決定を行えるようにする試みといえます。コグニティブ・コンピューティングは、AIに加えて、人間とコンピューターの相互作用、対話、ナラティブ生成などの補完的な分野を組み合わせ、人間のように学習・推論・理解できる機械を作り出します。このアプローチにより、ユーザーはより適切な意思決定を行うことができます。

一部のAIモデルは、人間の能力を超えるほど非常に優れた性能を発揮することがありますが、最先端のAIシステムであっても、設計されているのは限られた範囲のタスクに対してのみです。広く利用されているAIシステムは非常に高い能力を持つように見えるかもしれませんが、ルールに基づく指示によって制約されており、人間の認知が持つ柔軟性や微妙なニュアンスを理解することはできません。

文脈を伴うタスク、例えば自然言語の理解や特定の物体の認識においては、少なくとも現時点では、AIは人間の知能を完全に置き換えたり再現したりすることはできません。

コグニティブ・コンピューティングは、人間の意思決定を置き換えることを目的としていません。むしろ、ユーザーの意思決定を向上させるために、人間の思考プロセスを担うコグニティブ・システムの種類を模倣することを目指しています。

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AIとコグニティブ・コンピューティングの違い

個々のシステムには無数の固有の違いがありますが、一般的に言えば、以下の点がAIとコグニティブ・コンピューティングの主な相違点の一部を示しています。

自動化と拡張

AIシステムは、反復的または困難なタスクの自動化に適しています。

コグニティブ・コンピューティングは、人間の意思決定を強化し、支援するために利用されます。

専用と汎用

AIシステムは特定のデータセットで訓練され、明確な答えが存在する問題の処理に優れています。例えば、AIシステムはカスタマー・サービスのハンドブックで訓練され、既存の従業員研修に基づいた回答を提供することができます。

コグニティブ・コンピューターは、より文脈に応じて、さまざまな種類の入力を取り込み、それに応答します。このような理由から、AIシステムは明確な答えがある問題の解決に優れている一方で、コグニティブ・コンピューティングは、答えが定まっていない問題や課題に取り組む際により価値があります。

速度と精度

AIシステムは、その能力を最大限に発揮して問題を解決するように構築されています。AIシステムは素早く解決策を提示できますが、その出力は限定的であったり、不正確であったり、必ずしも完全に信頼できるとは限りません。

コグニティブ・コンピューターは、人間がより良い解決策をより迅速に見つけられるよう支援することを目的としています。コグニティブ・システムは、最終的な結果を提供したり、タスクを独立して完了したりするようには設計されていません。そのため、コグニティブ・システムは、AIシステムが即座に提示する単純な解決策よりも、ユーザーがより良い解決策を見つけられるよう支援します。

専門化と適応性

AIシステムは、訓練データの範囲によって制約を受けます。このため、AIシステムは高度に特化して構築することができますが、その特化は柔軟性を犠牲にすることになります。

コグニティブ・システムは、はるかに適応性に優れています。より幅広い多様な入力を取り込むように設計されているコグニティブ・コンピューターは、変化する状況により的確に対応できます。

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人工知能とは

人工知能(AI)は、コンピューターや機械に人間の知能に類似した特性を示させる技術です。これらの特性には、新しい情報の学習と保持、理解、問題解決、意思決定、創造性、自律性などが含まれます。

1950年代にまでさかのぼる研究分野として、AIは時間とともに進化してきた一連の入れ子状の概念と見なすことができます。過去70年間で、AIは理論モデルから機械学習へ、さらにディープラーニングへと発展し、現在では生成AIへと進化してきました。

近年の技術革新により、AIは世界的な注目を集めるようになりました。産業分野のサプライチェーン最適化から、一般消費者向けの生成AIアート生成ツールやチャットボットに至るまで、多くの革新的なAIアプリケーションが投資家や愛好家の関心を引きつけています。AIの潜在的な影響は計り知れないものの、現在の段階においては、依然として特定のタスクに苦戦することがあります。

AIシステムは、特定のテーマを学習するために膨大な量の訓練データを必要とします。これらの膨大なデータセットがAIに入力され、AIはパターン認識を用いて関連性を見いだし、インサイトを生成します。

問題を受け取ると、AIシステムは訓練データから学習した内容を参照し、確率に基づいて可能な限り最適な答えを提示します。このように、AIの能力や制約の度合いは、訓練データやアルゴリズムの品質によって大きく左右されます。

現代のAIはその能力が広範に見えることがありますが、最も適しているのは、特定の目的に合わせて調整された専門的なモデルによる、より限定されたタスクへの活用です。コグニティブ・システムも同様に特定の目的に合わせて調整されますが、この種のシステムは複数のAIを組み合わせることで、柔軟かつ迅速に対応することができます。

コグニティブ・コンピューティングで使用されるAIの種類

コグニティブ・コンピューティングで利用される、さまざまな種類のAIやAI関連モデルには、次のようなものがあります。

  • ナローAI:現在最も進んだAIであるナローAI(または弱いAI)は、明確で具体的な目標を持つ定義済みの問題を解決するのに非常に効果的です。AppleのSiriやAmazonのAlexa、さらにはChatGPTといったスマートアシスタントは、すべてナローAIに分類されます。
  • 機械学習(ML):機械学習はAIの一分野で、デジタル・システムが人間の学習を模倣する形でデータから学習できるようにするものです。MLアルゴリズムを用いることで、AIシステムは自律的にタスクを実行し、時間の経過とともに精度を向上させることができます。機械学習は、コンピューターが自らの誤りから学び、ユーザーからのフィードバックに基づいて出力を改善することを可能にします。
  • ニューラル・ネットワーク:ニューラル・ネットワークは、ノードの層と機械学習の手法を組み合わせ、人間の脳がニューロンを通じて情報を処理する仕組みをシミュレーションします。ニューラル・ネットワークは、AIの問題解決能力を高め、文脈に応じて解決策の良否を判断できるようにします。
  • ディープラーニング:ディープラーニングは、層の密度を高めることでニューラル・ネットワークをさらに発展させたものです。単純なニューラル・ネットワークは、1層または2層で構成されています。これに対して、ディープ・ニューラル・ネットワークは3層から数千層に及ぶことができ、人間の脳の機能に類似した複雑な意思決定プロセスをモデル化できます。

コグニティブ・コンピューティングとは

コグニティブ・コンピューティング・テクノロジーは、時にAIの一種と呼ばれることもありますが、より正確には、コグニティブ・システムはさまざまな種類のAIを組み込むことが多いと言えます。コグニティブ・コンピューティングは、機械学習AIシステムを、さまざまなユーザーインターフェース(音声やテキストなど)やロボティクスといったその他の一般的なコグニティブ・コンピューティング技術と組み合わせます。

コグニティブ・システムは、大規模なデータセットを取り込むことでAIの能力を強化します。これらのデータ・セットは構造化データや非構造化データで、さまざまな異なるソースから取得されます。

この種の自己学習システムは、データ・サイエンスを用いて入力をリアルタイムに処理し、文脈情報を考慮することで、ユーザーが最終的な意思決定に至るのを支援します。このようにして、人間は複雑なデータ・サイエンスを習得することなく、コグニティブ・システムに大規模なデータ・マイニングやデータ分析を任せ、データに基づいた意思決定を行うことができます。

コグニティブ・コンピューティングの実際のユースケースには、感情分析リスク評価、最適化といった一般的なタスクが含まれます。

コグニティブ・コンピューティング・システムの特徴

コグニティブ・コンピューティング・システムと見なされるための正確なパラメーターは厳密には定義されていませんが、一定の基準を満たす必要があります。コグニティブ・コンピューティング・システムは、次の要件を満たしている必要があります。

  • 適応性:コグニティブ・システムは、動的で新しい、変化するデータに柔軟に対応できなければなりません。情報が変化するにつれて、進化するミッションの目標や目的にも適応できる必要があります。
  • 対話性:AIシステムが自律的に機能できる一方で、コグニティブ・システムは応答性を持つように構築されています。そのため、ユーザーと信号インプットの両方と対話して、それに応答できなければなりません。
  • 反復性と状態保持:認知を模倣するために、この種のシステムは反復的でなければなりません。これらはパターン認識を用いて固有の問題や問題の種類を特定し、必要に応じて確認の質問を行います。
  • 文脈対応:AIシステムは単純で定義済みの問題を解決する際には優れた能力を発揮できますが、現実のシナリオは多くの場合、文脈に依存します。ある特定の文脈で正しい解決策が、他の文脈にも必ずしも当てはまるとは限りません。コグニティブ・コンピューティング・システムは、文脈依存の問題解決を必要とする課題に対応するために開発されています。この種のシステムは、提示された情報の文脈だけでなく、解決策が適用される文脈も理解できなければなりません。

コグニティブ・コンピューティングは、基盤となるニューラル・ネットワークまたはディープ・ネットワークに、複数のAIやAI関連のソリューションを組み合わせることで機能します。適応性、対話性、状態保持、文脈理解を実現するために、コグニティブ・システムは機械学習アルゴリズムと、次のようなさまざまな技術を組み合わせて構築されています。

  • エキスパート・システム:エキスパート・システムは、特定の分野やテーマについて徹底的に訓練されたナローAIです。エキスパート・システムの目的は、人間の専門家に代わり得る、可能な限り有能な人工的な分野専門家を作り出すことです。エキスパート・システムは、人間が複雑な問題を理解し、より賢明な意思決定を行えるよう、助言や指針を提供することができます。これらのシステムは、ビジネスにおいて市場動向を予測したり、過去の事象を理解したりするためによく利用されます。
  • 自然言語処理(NLP):自然言語処理は、計算言語学(言語に対するルールベースのモデリング手法)と統計的モデリングを組み合わせることで、コンピューターが自然な音声やテキストを理解し、応答できるようにします。NLPは、自然言語理解(NLU)と自然言語生成(NGU)といった下位分野も取り込み、包括的なユーザー体験を提供します。
  • 自動音声認識(ASR):音声認識は、コンピューター音声認識または音声からテキストへの変換とも呼ばれ、人間の音声をコンピューターが処理してテキスト化できるようにします。
  • 音声認識(Voice recognition):ASR(自動音声認識)と混同してはいけません。音声認識は、コンピューター・システムが個々の声を識別し、異なるユーザーを区別できるようにする技術で、バーチャル・アシスタントやその他のIoT(モノのインターネット)デバイスで一般的に利用される機能です。
  • 物体検出: コンピューター・ビジョンの主要な要素である物体検出は、ニューラル・ネットワークを用いて画像内の物体を特定し、意味的なカテゴリーに基づいて分類する方法です。物体検出や画像認識は、自動運転車、ビジュアル検索、医療診断に役立ちます。
  • ロボティクス:コグニティブ・コンピューティング・システムは、農作業における剪定、播種、散布といった単純で反復的なタスクを実行する手段として、ロボティクスを取り入れることがよくあります。このような基本的なタスクは単純なAIシステムでもロボットに実行させることができますが、ヘルスケア分野では、コグニティブ・システムとロボティクスを組み合わせることで、繊細な外科手術の支援さえ可能になります。
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