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コロナで変わる住まいのニーズ――中古住宅のリノベーションで「自分らしい」暮らしを

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自分のライフスタイルや働き方に合わせ、中古マンションを購入してリノベーションする消費者が増えている。住宅市場で築25~30年の中古物件が増える中、消費者も画一的な部屋ではなく、自分好みの間取りや内装を求めるようになっているのだ。
基礎・躯体はそのままで、内部をスケルトンにして工事をするリノベーションは、物件探しから設計・施工、住宅ローンなどに手間がかかるが、それらをワンストップで提供してくれる事業者が人気だ。リノべる株式会社(本社・東京都港区)である。
同社は「コロナで消費者の“住まいへのニーズ”が大きく変わってきた」と分析する。リモートワークが普及し、「生活の場」だった自宅が「働く場所」も兼ねるようになったため、仕事に集中できる環境を求めるようになったという社会変化が背景にある。
業界の競争が激しくなる中、決め手になるのはテクノロジーの活用だ。リノべる社はテクノロジーを使い、お客様が自身の好みを視覚化するウェブサービスの開発などを進めている。同社の三浦隆博・執行役員に、リノベーション事業の現状とさらなる活性化のポイントについて伺った。

三浦隆博
三浦隆博
(みうら・たかひろ)

リノべる株式会社 執行役員
住友不動産販売株式会社にて新築マンションの販売に携わった後、2000年に株式会社都市デザインシステム(UDS)へ。数々のコーポラティブハウスに携わる。2008年より株式会社リビタに移り、プロジェクトマネジメント部とPRコミュニケーションデザイン部の責任者を兼任。2016年より一棟事業本部長に。2018年 リノベる株式会社へ。個人向けワンストップ・リノベーション事業、遊休不動産のリノベーションを手掛ける都市創造事業など、リノベーション事業全般における統括責任者。住宅ローンのオンラインマッチングサービスを手掛けるモゲチェック・リノベーション株式会社の代表取締役も務める。直近ではリノベーション再販事業者向けに「選んでつくれるリノベ済みマンション『ARリノベ』」を開始。

「住宅すごろく」から、自分らしい暮らしを求める時代へ

――住宅を買うと言えば、以前はまずは新築のマンションや戸建てを考える人が多かったと思います。今なぜ中古物件のリノベーションが人気なのでしょうか。

三浦 かつて「住宅すごろく」という言葉がありました。初めは賃貸住宅に住み、次は新築マンションを買い、最後は戸建て住宅を建てたり買ったりするという筋書きです。その時代、中古マンションは新築マンションを買えない人たちが買うものでした。「古い」というイメージがあり、お客様は漠然とした不安を抱かれていました。例えば配管のような見えない部分は大丈夫か、耐震性に問題ないかなどは、外観からは分からないからです。

11年前、業界は一般社団法人リノベーション住宅推進協議会*を設立し、そうした不安を解消するためにリノベーション基準を作りました。「R1」基準はマンションのリノベーション用、「R3」は一棟用、「R5」は戸建て用で、それぞれ重要なインフラをきちんとリノベーションし、お客様にアフターサービス保証を行うことなどを定めています。私も協議会の設立運営にかかわってきました。
お客様もライフスタイルが多様化し、新築マンションのように「どの部屋を買っても同じ」では満足されなくなってきました。海外のインテリア雑誌やネットをはじめ、さまざまなメディアですてきな暮らしぶりを見る機会が増え、間取りや内装、インテリアだけでなく自分らしい生き方ができる住まいを求める傾向が強まっています。
さらに、「この街のこのエリアに住みたい」「低層のマンションで、できれば東南の角部屋を」など明確なイメージがあり、その条件に強いこだわりを持たれるお客様も多くいらっしゃいます。そういう方は、新築マンションを探すより、条件に合う中古を購入してフルリノベーションしたほうがご自分の理想に近いものが手に入るのです。街の雰囲気やお部屋の向きは自分で変えることはできませんが、内部はリノベーションでいかようにも変えられるからです。

*現・一般社団法人リノベーション協議会

――マンションの需給関係は、新築・中古、それぞれどのような状況なのでしょうか。

三浦 首都圏の新築マンションは土地代や建築費の高騰を反映して価格が高くなっています。立地も湾岸エリアや郊外の大規模物件が増えており、お客様によっては必ずしも自分が住みたい場所ではなくなっています。
新築マンションの建設が続く限り、マンションの総ストック量は増加し続けます。このため新築マンションの供給はこれから減り、逆に築25~30年というリノベーション適齢期の中古物件が増えていきます。国土交通省の試算では、今後20年で築30年の物件数は今の約3倍になる見通しです。このような状況も後押しをして、自分の住みたい街や公園に近い場所などで、豊富な候補の中から中古物件を探したほうがいい、という消費者のニーズが高まっているのです。

三浦隆博氏

リノベーションにワンストップで対応できるメリットは大きい

――御社は物件探しから、設計・施工、住宅ローンまで、リノベーションの一連の流れを「ワンストップでサポートするNo.1企業」として知られていますが、そのビジネスモデルについてご紹介ください。

三浦 当社はお客様をインターネットなどで募り、セミナーを開いてリノベーションとはどういうものかをご説明しています。ショールームは全国47カ所にあり、リノベーションした部屋を実際に体感していただけます。
お申し込みがあれば、まず物件探しをお手伝いします。お客様のニーズと設計・施工を考慮しながら、物件選びを進めます。
当社にはお客様に完成したイメージを持っていただくための「sugata(すがた)」というオススメの住まいを自動提案するウェブサービスがあります。過去の3000件を超す豊富な事例から、気に入った写真をピックアップしていただくことで、お好みのデザインテイストをご提案します。また、概算費用も提示させていただくので、予算感も把握していただけます。
それを元に設計士がお客様のより具体的なニーズを伺いながらプランや図面を作成することで、工事費まで含めたプランが出来上がりますので、自由設計でお客様らしい暮らしを実現します。
住宅ローンは新築であれば提携ローンがおおよそ付いていますが、中古ですと物件ごとに条件が異なり、そこに工事費等が加わるため、お客様がご自身で組もうとされると簡単ではございません。金融機関によっては「築年数が古い中古物件にはローンが付かない」「不動産部分はローンが付けられるが、工事部分は対象外」というように対応が異なるのです。
そこで当社は必要な費用を全部セットにして提供できるよう、モゲチェック・リノベーション株式会社(東京都千代田区、代表取締役は三浦氏)という会社を創立し、お客様がどの銀行のローンをお使いになるのが最適かをマッチングして解決しています。

――工事期間は、だいたいどのくらいかかるのですか。

三浦 当社は契約から引き渡しまで3.5~4カ月という、大変短い期間を実現しています。不動産選びからお手伝いをしているため、設計・施工までスムーズに進みます。多岐にわたる専門知識を求められるリノベーションをワンストップで対応するので、お客様にはとてもご好評をいただいています。

ショールーム

三浦隆博氏

三浦隆博氏

コロナでぐんと増えた「リモートワークのスペースが欲しい」

――新型コロナでリモートワークが増え、「生活の場」だった自宅が「働く場所」にもなっています。御社の担当者アンケートでは、「住まいへのニーズ」に大きな変化が起きているとのことですが、解説していただけますか。

三浦 コロナ禍が始まった当初、都心で家を探していた人が郊外に移りたいという動きがどっと出てきました。例えば目黒で探していた人が鎌倉へ、新宿で探していた人が中央線の高尾より先に、といった具合です。
しかし、緊急事態宣言が終わって6~7月になった頃から、「郊外へ」という動きは落ち着き、再び「勤務先に近い所」が戻ってきました。いったん広がったエリアが、やや縮んだ印象です。
ただ、今また第三波の感染拡大が深刻化する中、コロナ禍がいつ終息するのか誰にも分からないことから、今後のはっきりした動向を掴むのはなかなか難しい状況です。

――もともと緑が多い所とか海が見える環境で住んでみたいという志向の人は、ネットさえつながればどこでも仕事ができるし、安価に中古の一戸建てが買えるので、これを機に地方に向かったケースも多いようですね。地方の別荘地なども、冷え込んでいた中古一戸建ての需要が活発化してきたと聞きます。

三浦 一方で、通勤とリモートワークの割合が半々だったりする方は、「リモートワーク・スペースが欲しい」「あと10平方メートルほど広い部屋が欲しい」などというニーズが増えてきました。コロナ以前はリモートワーク・スペースをつくる人は4割ほどでしたが、コロナ後は7割に増えています。
ただ、都市部で広い部屋を確保するには価格が高くなります。お客様は急に予算額を増やせるわけではありませんので、部屋の間取りを工夫したり、物件エリアを少し郊外に広げたり、築年数の選択肢を広げたりして、ご要望に応えるようにしています。

――リモートワーク・スペースは具体的にどのような設計になるのですか。

三浦 周囲の音に邪魔されたくないという音環境を重視する方には、個室をご提案しています。
一方、ある程度集中できる環境が欲しいという方には、リビングと一体で続いたスペースを内窓で仕切って、家族の様子を見ながら仕事ができる空間にしたり、主寝室にワークコーナーを設けることもあります。その場合、照明の色を仕事中は白色系に、家族とくつろぐ時は暖色系に切り換える「スマート照明」などのインテリアも合わせてご提案しています。内装はビニール系の新建材ではなく、温か味のある無垢(むく)材などの自然素材で手触り感を出すなど、家にいる時間をより豊かにする工夫をしています。

リモートワーク・スペース

 
内窓で仕切ってリモートワーク・スペースを確保した例
内窓で仕切ってリモートワーク・スペースを確保した例
 
ベッドルームの奥にあるウォークスルークローゼットの一部に、集中できるリモートワークのスペースを確保した例
ベッドルームの奥にあるウォークスルークローゼットの一部に、集中できるリモートワークのスペースを確保した例
 
ベッドルーム
ベッドの頭上にあるボードは、普段は木材のボードに見えるが、タッチするとアイコンが浮かび上がり、照明や音楽などさまざまな指令を出せるスマートデバイスになっている
 
三浦 机、いす、本だな、ソファ、カーテン、グリーンなどインテリアにこだわる方も増えていますので、当社はこれも住宅ローンに組み込んでいます。インテリア費用が仮に50万円だとすると、35年返済では月額プラス1500円の負担で済みます。お客様からは、間取りや内装にぴったりの家具をお引越しした後すぐご利用いただけるのは、大きなメリットと捉えていただいております。

施工後の部屋のイメージを事前に確認できる「ARリノベ」

――リアルの不動産にテクノロジーを組み合わせた商品・サービス開発を目指しておられます。AR(拡張現実)などのテクノロジーを活かす計画についてご紹介ください。

三浦 最新テクノロジーを活用したシステムの1つが「ARリノベ」です。これは、買取再販という不動産販売形態をとる企業様に向けたサービスです。買取再販業を行う企業様は、通常完成したリノベーション物件をお客様に販売します。それをあえて、8割ほどの完成状況で内覧を行っていただき、内覧したお客様ご自身がその場でARを活用してキッチンや洗面、アクセント壁などをご自身でその場で見ながら選び、購入していただけるという仕組みです。例えば、1LDKにつくった部屋をお客様が訪問されて2LDKを希望されたら、タブレット上にARで壁を表示して2LDKにした部屋のイメージをご確認いただくといった使い方をします。

ARリノベ
 
「ARリノベ」を使って施工後のイメージを確認する例
写真①「ARリノベ」を使って施工後のイメージを確認する例
(上)部屋に壁を設けたイメージをつかむ
(下)キッチンを配置した画像に切り替えて雰囲気を比べることも可能

三浦 また、下の写真はキッチンを置いた様子を見たいというお客様の希望に合わせ、現実空間にキッチンを配置した風景をタブレット上に表示しています。お客様はこの画面を見て、キッチンをステンレスにするか、木目調にするか、色は何にするか、といった選択をすることができます。同時に工事費も確定できます。
こうしてARリノベの残り2割の部分はお客様に自由に設計していただきます。こうすればお引き渡しまでの期間を6週間程度に抑えながらも、お客様のこだわりの住まいをスムーズに実現することができます。テクノロジーの開発はこの点を特に意識しています。

使われていない不動産がよみがえって新たな価値を生む

――都市創造事業について、「街の魅力を高め、新しい価値をつくりたい」と述べておられます。具体的にどのような物件を手掛けていらっしゃるのでしょうか。

三浦 都市創造事業というのは、主に法人が所有している古い建物、例えば社宅、寮、賃貸マンション、工場、オフィスビルなどが対象です。建設後30~50年経ち、有効活用できていない建物を1棟丸ごとリノベーションして価値を高めようという事業です。
以下に、そうした不動産がよみがえった事例をご紹介します。

下の写真は、社宅のエントランスや外壁、各部屋をすべてリノベーションして、分譲マンションに変えたものです。最初の2枚は以前の玄関や内装の様子ですが、リノベーションによってオートロックが付き、内装も見違えるようにおしゃれになりました。

 
社宅を分譲マンションにリノベーションした事例
写真②リノベーションする前の社宅の玄関(上)
写真③その室内(右上)

 
社宅を分譲マンションにリノベーションした事例
写真④
 
社宅を分譲マンションにリノベーションした事例
写真⑤
 
社宅を分譲マンションにリノベーションした事例
写真⑥
 
社宅を分譲マンションにリノベーションした事例
写真⑦

 

――他にはどのような事例があるのでしょうか。

三浦 例えば渋谷の道玄坂にあった専門学校をホテルにリノベーションした事例では、隣にある公園も渋谷区と協力して同時にきれいにし、樹木で暗かった公園も明るくなりました。
そして最近ご依頼いただくことが増えたのが、葬儀場です。大切な施設であるにもかかわらず地域ではあまり歓迎されない面もあると思います。そのため、通夜や葬儀、告別式などだけでなく、日常の中で自治会の集会場やイベント会場としても使えるコミュニティー・スペースという機能を追加できるような施設提案をしています。
古い施設を壊して新しい建物を造る場合、都心のように経済的に成り立つエリアと、地方都市のように成り立ちにくいエリアがあります。成り立ちにくい物件を放置しておけばいわゆる「嫌悪施設」になりますが、リノベーションすることで、地域に貢献する施設に変わります。
2019年にはNTT都市開発株式会社と資本業務提携を結びました。NTT各社は全国に数多くの施設を所有されています。リノベーションによって新たな価値を付加することで、サテライトオフィスやカフェなどにして地域にひらかれた施設への転換を共同で進めています。

ノウハウをテクノロジーで標準化し、オープン・プラットフォームへ

――「リノベーション業界は成熟期を迎え、そろそろ潮目に来ている」と述べておられます。将来の住宅市場におけるリノベーションの活性化をどのように考えていらっしゃるのか、ご意見をお聞かせください。

三浦 マンションのリノベーション需要は今後も増えていきます。これだけ成長の可能性が高い業界も珍しいですが、参入障壁が低いので、この10年間でリノベーション事業を始める企業が増えました。大手デベロッパーだけでなく、1戸単位のリノベーションを手掛ける小規模な会社も参入しています。
しかし、リノベーション事業は1戸1戸が違うためにさまざまなノウハウが必要になり、実際はそう簡単ではありません。リノベーションという仕事には設計会社、工務店、設備メーカーなど多くの業界がかかわります。ノウハウをきちんと持って運営しないと、見た目をきれいにするだけの会社はいずれ淘汰(とうた)されていくでしょう。そういった意味で「潮目」と表現しました。
当社は幅広い知識やノウハウをテクノロジーによって標準化し、スムーズなユーザー体験を提供する中古流通とリノベーションのプラットフォームを構築してきました。それをオープン化して多くの業界の方々にも提供し、リノベーション業界を盛り上げていきたいと思っています。
それは当社が掲げるミッション「日本の暮らしを、世界で一番、かしこく素敵に。」の具現化と、3つの約束「顧客に対する約束」「社会に対する約束」「産業に対する約束」を果たすことでもあるからです。

TEXT:木代泰之  写真:倉橋 正  写真①〜⑦提供:リノべる株式会社

※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。

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