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計画保全と事後保全が予備在庫戦略へ与える影響

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とある化学工場での数年前の出来事です。急遽、ポンプの修理を行わなければならなくなったものの、必要な修理部品が入手できません。困ったメンテナンス技術者は、形状や見た目が似た別の部品を用いて、どうにか予定外のメンテナンス作業を完了させました。

しかし、その部品の材質は損傷部品の代替に見合う十分な強度を持っていませんでした。結果、ポンプケーシングが破裂し、1,300度という高温のオイルが噴出してしまいました。

 

幸いなことに、この命に関わりかねない重大事故が発生したとき周辺に人はおらず、誰も被害には遭いませんでした。また、環境への影響も非常に小さく抑えることができました。

しかしこの事故は大きな警鐘となり、以後この工場では、保全用品および予備品在庫の効果的な計画立案が非常に重要であることが深く理解されるようになりました。

 

「故障発生時には、大至急生産ラインを再稼働させなければならない。」

—— 多くのメンテナンス技術者がこのプレッシャーに苛まれています。それ故、この重圧が保全用品や予備品在庫の不足と重なると、技術者は莫大な損失へとつながるリスクを恐れて安全や環境に対するリスクを選んでしまうという、大変危険かつ誤った判断をしてしまうことがあるのです。

 

MRO在庫の最適化戦略

メンテナンスの効率性は、計画保全と事後保全の割合で表すことができます。

計画保全は、PM(Preventive Maintenance: 予防保全)、PdM(Predictive Maintenance:予知保全)CM(Corrective Maintenance: 改良保全)などの計画されたすべての活動を合わせたものであり、事後保全は緊急作業、反応作業、即時対応が必要な故障や修正作業などで構成されます。

この割合が80対20(計画保全80%、事後保全20%)目標とすべき割合の目安であると一般に言われています。

 

MROインベントリとは、日常の保守(メンテナンス)、修理(リペア)、運用(オペレーション)に必要な消耗品やスペアパーツ、その他の資材を意味します。

そしてMROインベントリの最適化を検討しているのなら、保守・運用チームの保守計画策定能力と併せて、以下も事前に確認・検討すべきです。

現在お使いの在庫最適化ツールは、以下に対応しているでしょうか?

  •  交換予備品の重要度を動的に割り当てていますか?
  •  交換予備品を設備本体と適切に関連付ける「使用場所」機能を備えていますか?
  •  交換予備品の重要度の割り当てと設備/機器の重要度の統制が取れていますか?
  •  規定のリード・タイムだけに頼るのではなく、移動平均ベースのトータルリードタイムを計算していますか?

 

予測アルゴリズムやコストモデルを適用する前に、各予備品の重要度を理解しておくことが重要です。

気をつけなくてはいけないのは、製造業、サービス業、小売業向けに設計されたツールは、設備や作業指示書データではなく、調達や販売データに焦点を当てた予測アルゴリズムを使用していることが多いということです。

これでは、MROインベントリ戦略に非常に重要な「ビジネスリスク」の重要度が十分考慮されません。分かりやすい例を一つ挙げておきます(私の好きな例えです)。

食料品店でパンが品切れになっても、ビジネスへの影響はさほどではなく、店はそのまま営業を続けることができる。
しかしほとんどの産業では、特定部品の不足が意味するのは、長い操業停止や完全な営業停止のリスクである。

 

計画保全と計画外保全、および在庫戦略への影響

メンテナンス活動の80%が効果的に計画されスケジュールされていれば、計画保全実行に必要な部品は指定されたリードタイム内に注文され、入手可能となるはずです。

つまり、適切な計画が立てられていれば、予備品の需要シグナルは明確になり、計画作業のための在庫は不要となります。

その結果、予備品の在庫、維持、管理は不要となり、在庫は20%の計画外作業をカバーするために十分な予備品だけでよくなります。

 

計画保全と計画外保全それぞれに対する予備部品の購入記録と分析が重要です。そして80%の計画作業比率を達成することに加えて、部品サプライヤーのリードタイムと定期作業スケジュールが的確に対応しているかにも注意を払う必要があります。

もし、部品が時間内に届かなければ、操業を継続するために安全在庫をメンテナンスに使用せざる得なくなる可能性があるからです。それが意味するのは、安全在庫が無い状態での緊急事態発生に対処しなければならないという大きなリスクです。

そして在庫切れが発生すると、それ以降、在庫量を増加させてしまいがちになります。それはメンテナンス予算の増加、利益率の低下、必要スペースの増加、余剰の発生といった波及効果につながってしまいます。今日の余剰分は、明日の潜在的廃棄物です。

 

計画策定者が、トータルリードタイム(発注までの時間、サプライヤーの加重平均時間、納期を含む)を計算する在庫最適化ツールを利用できることが重要です。トータルリードタイムを可視化することで、計画策定者は計画保全の完全な実行と、リードタイム範囲内での適切な部品入手を実現することができます。

そしてたとえ在庫最適化ツールを使用しても、そもそもの計画が効果的でなければ、あるいはツールが適切なものでなければ、在庫はより多くそしてより長期間保有されることとなってしまいます。予測アルゴリズムは、「20%の計画外作業」ではなく、「実際の消費量」に合わせて在庫戦略を調整してしまうでしょう。

その結果、より多くの無駄な在庫が生み出されてしまうのです。

 

成功を確実なものとするために重要なこと

  •  効果的なメンテナンス計画立案のために、必要な部品の総リードタイムを確実に把握しましょう。
  •  計画外の突発的な作業に対応できる在庫を確保し、在庫を最適化しましょう。
  •  自社のメンテナンス活動特有の要件を踏まえた適切な評価指標を見つけ、それに対応する在庫最適化ツールを導入しましょう。

 


当記事は、事例『Planned versus unplanned maintenance and the impact on spare parts stocking strategies』を日本のお客様向けにリライトしたものです。

 

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