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電力送配電DXレポート 第4回 設備高経年化/労働人口減/レベニューキャップ制導入の難題に挑む

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電気事業全体を取り巻く環境が急速に変化する中、送配電事業も大きな転換点を迎えている。設備の高経年化が進展して保全ニーズが拡大する一方、労働人口の減少に伴う人手不足も顕在化。2023年度には新たな託送料金制度(レベニューキャップ制)の導入も控える中、設備投資の効率化も不可欠だ。これらの難題にデジタル技術はどんなソリューションを提供できるのか。日本アイ・ビー・エム(IBM)IBMコンサルティング事業本部の根津千幸 理事・公益サービス事業部長、川井秀之 公益サービス営業部長、清野聡 IoTビジネス・トランスフォーメーション・コンサルタントに話を聞いた。
※ 本記事は、電気新聞デジタルサイトに2021年10月から12月に掲載された記事の転載です。

進む送配電設備の高経年化
~TBMからCBM、RBMへの移行~

送配電設備の大きな特徴として挙げられるのが、全国津々浦々に広がる膨大な設備の数だ。日本では高度経済成長期の1960~70年代にかけて大きく設備形成が進んだ経緯もあり、半世紀以上が経過して補修や更新などの高経年化対策が必要となる設備が急速に増加してきた。

根津氏は「こうした状況は日本に限らない。例えば北米や欧州でも大量の設備の老朽化が進んできた。保全のための資金も人手も一度には投じられないため、優先順位を付けた対応に迫られている」と指摘する。

日本の電力業界でも、かつて採用されてきた時間基準保全(TBM)、つまり一定の周期で点検や補修、更新を進める方式はもはや困難となっている。代わって電力制御などに用いる計装システムを通じて設備データを収集し、その状態に応じて対応する状態監視保全(CBM)が志向されてきた。

そのさらなる発展形ともいえるのがリスク基準保全(RBM)という考え方だ。設備ごとの故障確率や安定供給・事業運営への影響度に基づいてリスクを定量化し、保全コストを引き下げつつ合理的な投資計画の策定につなげていく。

日本でも2023年度にレベニューキャップ制の導入を控え、高経年化対策に関わる設備保全計画も厳しい審査の対象となる。リスクを定量化し、安定供給を守るために必要な投資は着実に実施しつつ、その根拠を規制当局や利害関係者に説明することが要求される。この観点でもRBMは有効なツールとなる。

DXによる保全業務の高度化
~IBM Maximo APM for Energy and Utility~

初めにご紹介するのは、製鉄業のお客様が製鉄所の過酷な環境下で働く作業員を守るために実践されている健康/安全管理の事例です。保全業務のCBM/RBMへの移行を実現する手段としてIBMが提案するのが、アセット・パフォーマンス・マネジメント(APM)と呼ばれるデジタル技術を活用した設備資産管理の手法だ。同社が電力を始めとする公益事業分野の顧客に提供する「IBM Maximo APM for Energy and Utility」と呼ばれるソリューションで、既に世界各地で多くの導入実績がある。

チェコの国営電力CEZグループ傘下の配電会社(CEZ Distribuce)の事例もその一つ。同社の旧来のシステムは設備状況を記録したデータが社内の各部署に分散し、それらが複雑なエクセルベースで作成されていたこともあって、一元的な把握が困難だった。設備ごとの経過年数や劣化状況、重要度に応じてリスクを認識するためのモデリング機能もない。

そこで同社はIBMのソリューションを導入。SAPの基幹業務システム(ERP)やエクセルなど、さまざまな場所に散在しデータ形式の異なる「非構造化データ」も含め情報をデータベースに一元化した。この結果、データと予測モデルを連携させて設備の状況を分かりやすく可視化できるようになり、設備ごとの重要度や故障確率、経過年数などに基づいて進めるリスクベースの設備保全を実現している。

下の画像が「IBM Maximo APM for Energy and Utility」で設備のリスクを可視化した画面だ。設備単位で評価される故障確率と影響度をビジュアルで示している。これによってリスクが高い設備を特定し、優先順位をつけて補修や更新の計画を立てることが可能になる。

 

設備資産のリスクを企業全体、地域全体といった条件に応じて可視化し、時系列的な変化も見ることができる「IBM Maximo APM」

設備資産のリスクを企業全体、地域全体といった条件に応じて可視化し、
時系列的な変化も見ることができる「IBM Maximo APM」

 

清野氏は「電気事業は製造業など他産業と比較して設備の点数は膨大だが、その種類は限られている」と話す。リスク評価や故障予測のための数理統計モデルが比較的作成しやすいという。

IBMは設備種類別の標準的な分析モデルや、個別モデルを開発するプラットフォーム、機械学習による異常検知アルゴリズムなどを提供できる。ただ、清野氏は「日本は気候・地理的条件ともに極めてバラエティーに富んでおり、海外の分析モデルをそのまま使えるわけではない」とも指摘する。地域の特性に合った数理統計モデルを開発し、維持管理することも重要になる。

また、APMと電力制御、保全管理、地図情報、経理といった様々な関連システムとの情報連携も欠かせない要素。設備・システムのメーカーや支店・支社といったエリアをまたいだ連携になるが、川井氏は「本当の意味で設備保全を最大限効率化し、利益を上げていくには全てに横串を通して分析する必要がある」という。そこで総合IT企業として電気事業の知見を蓄積し、メーカーにとらわれることなくシステムを統合できるIBMの強みが生かされると力を込める。

数理統計モデルによる在庫最適化
~IBM MRO Inventory Optimization~

APMは既設の設備を管理するソリューションだが、清野氏は「交換機器や部品の配置も同様の考え方で最適化できる」と話す。特に広大なエリアに設備が散在する送配電事業では、保全業務で使用する交換機器や部品も膨大な点数にのぼる。そうした機器・部品は送配電会社本体が擁する拠点にとどまらず、グループ、協力会社を含めた”エコシステム”全体で多数の拠点に配置されてきた。

この在庫の配置に加えて正確な数量を把握することは容易ではない。災害時の早期復旧など電力の安定供給を守るための在庫は過剰となりがち。有効利用できないケースも多いと言われている。

裏を返せば在庫の管理や調達を保全や災害対応などの業務と結びつけて効率化することができれば、大きなコスト削減を達成でき、利益を最大化できるポテンシャルを秘めている。

そんなポテンシャルを生かせるのが、IBMが提供する在庫最適化ソリューション「IBM MRO Inventory Optimization (IO)」だ。出庫・棚卸などを管理する保全管理システム、調達・入庫を管理する資材管理システムを連携させ、組織内・組織間に散在する情報を一元管理できる。

数理統計モデルを活用して将来的な在庫の需要と供給を予測し、最適な在庫水準を自動計算できるほか、資材発注を自動で行うためのパラメーターも提供可能。同社のAPMソリューションで得られた設備単位のリスク評価情報を活用し、重要度に応じた配置を行うこともできる。

 

過去の在庫・出庫情報を基に数理統計モデルを用いて将来の需要量を自動計算。結果を資材管理システムなどへフィードバックし、自動発注などの業務を最適化する「IBM MRO-IO」

過去の在庫・出庫情報を基に数理統計モデルを用いて将来の需要量を自動計算。
結果を資材管理システムなどへフィードバックし、自動発注などの業務を最適化する「IBM MRO-IO」

 
一方、こうした在庫管理の最適化ソリューションは導入前に投資効果を確認しづらい点がネックとなりうる。IBMはまずエクセルを使った簡易効果算定を無償で実施。その上で実際のデータを用いたプロトタイプの作成と効果確認を行い、本格的なシステム導入へとつなげるプロセスで顧客の投資効果算定を支援している。

「MRO-IO」を採用したある顧客の事例では在庫欠品リスクを15~50%削減し、在庫切れによる無駄の排除などで保全コストを15~40%引き下げることに成功している。自動発注による調達コストの削減効果も20~25%という結果が得られたという。清野氏は「導入1年程度の短期間で大きな投資効果を得られるお客さまもいる」と話す。

クラウドサービスのため顧客側で新たなIT基盤投資が必要ない。「システム管理コストが抑えられることも利点だが、スピード感も重要」(清野氏)。システム連携によってデータの入力負荷もほぼ生じない。労働人口の減少による人手不足という、社会全体として深刻化する課題に先手を打つことにもなりそうだ。
 

根津 千幸

根津 千幸
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
理事・公益サービス事業部長

 

川井 秀之

川井 秀之
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
公益サービス営業部長

 

清野 聡

清野 聡
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
IoTビジネス・トランスフォーメーション・コンサルタント

 

エネルギー・公益事業テクノロジー・ソリューション


シリーズ:電力送配電DXレポート

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