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「テレマティクス自動車保険から始まる未来の自動車保険・サービスへの挑戦」レポート
2020年10月09日
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9月3日、4日の2日間に渡り「ニューノーマルへの挑戦」をテーマに掲げた日本IBMのデジタル・イベント「Think Summit Japan」が開催されました。
デジタル変革をリードする実践者にさまざまな業界からご登壇いただいたセッションの中から、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 梅田氏による「テレマティクス自動車保険から始まる未来の自動車保険・サービスへの挑戦」の一部をご紹介します。
セッションはAI Applications 事業部長 村澤 賢一のオープニングトークの後、スピーカーの梅田氏による「テレマティクス」の説明と、特徴ある保険商品と先進性の高いサービスを提供し続けてきたテレマティクス自動車保険のパイオニア、あいおいニッセイ同和損害保険の歩みの紹介からスタートした。
テレマティクスという言葉の由来は、遠隔通信(Telecommunication)と情報工学(Informatics)を掛け合わせた造語であり、移動体において双方向の通信システムを利用して提供されるサービスを指している。
そして自動車業界においては、車内に持ち込まれるスマートフォンや、ドライブレコーダーや専用デバイスなどの通信機能付き車載器、そして近年では「コネクテッドカー」と呼ばれる車本体との通信を活かしたサービスが注目されている。
とくに注目度が高いのが、走行距離、走行時間帯、急発進、急ブレーキ、急ハンドルなど、走行データと運転挙動データを、ビッグデータ解析から数値化された客観的指標と照らし合わせ、安全運転度合いを割り出してお知らせするサービスや、それを保険料に反映させる割引などで、それが運転者への経済的メリットと、社会への安全向上を同時に提供できるからだ。
「運転中に速度超過が多くなっている、あるいは急ブレーキや急発進が多くなっているときに、『このままでは事故を起こす可能性が高い』と判断して、リアルタイムで運転者に安全運転を音声で促すサービスや、高齢者に対して高速道路の逆走に注意するよう促すサービスなども可能となっています」と梅田氏は言う。
なお、リアルタイムの注意喚起だけではなく、高齢者の運転スタイルに変化があったとき、家族との会話を促すようなサービスもすでに可能になっているそうだ。
「さらに、テレマティクスにより車への大きな衝撃を検知した際には、お客様から交通事故の連絡を貰う前に、オペレーターから能動的に動揺しているであろうお客様に連絡し、適切なサービスやアドバイスをお伝えしています」と、万一の自動車事故の際にもきめ細かいサービスが提供されていることも梅田氏は語った。
あいおいニッセイ同和損害保険のテレマティクスサービスへの取り組みは、2004年の日本初のテレマティクス保険「PAYD」の開始から着実に進化を遂げている。
イギリスで若者を安全運転へと導くサービスを提供していたITB社の買収により、安心・安全への取り組みのノウハウやデータ解析のノウハウを拡充し、そこからさらに保険サービスを充実させ「事故のない、安全安心な車社会に貢献する」という同社の目標に向け、力強く前へと進んでいる。
そしてその取り組みモデルは、2018年にはグッドデザイン賞の受賞にもつながっている。
「従来型の自動車保険と比較すると、事故頻度の低減効果はおよそ20%です。これは同じ車種での比較なので車の性能によるものではありません。そして提供している『運転診断レポート』を閲覧する人は、しない人と比較して約15%事故頻度が低いのです」と、梅田氏はテレマティクス保険商品の安全への寄与、そして事故の防止効果を説明する。
そしてこの診断の基盤となっている「安全運転スコア」の正確性が、保険事業者にはとても重要だと言う。
「数億レコードからなる大量の走行データをいかにサマリーできるか。そして分析基盤とアルゴリズムをいかに構築するか。これが大きな課題でした。そしてそこから作成されるスコアが、ドライバーにとって納得のいくものでなければなりません。この課題に一緒に取り組んでもらったのがIBMです。そしてもう1つ、「安全運転促進サービス」に必要な走行データと外部データの紐付け、そしてリアルタイムでの分析処理を支援していただいのもIBMでした。」
それではなぜ、パートナーとしてIBMを選んだのだろうか?
「IBMには、テレマティクスに大きな役割を果たす、リアルタイム分析と注意を促す仕組みのインフラとなる『CVI』というソリューションがあったから」と梅田氏は語る。
その他にも、あいおいニッセイ同和損害保険が取り組む最近のテレマティクス動向や、自動車保険の拡がりについても興味深い話があった。
例えば交通事故の際、従来は時間がかかっていた過失割合の割り出しなどが、画像診断AIを使った自動判定にを用いることでスピードアップし、保険金支払いまでの期間の迅速化につながっていること。
そして安全な地域づくりを目指し、どの場所で危険な運転が起きているかなどの詳細なデータを持つ「安全MAP」を地方自治体に提供し、地方の交通行政や安全対策にも貢献しているそうだ。
これらは「事故のあとの保険から事故を起こさない保険へ」という、あいおいニッセイ同和損害保険の目指す新しい保険の世界観を実現するための取り組みだと梅田氏は話した。
セッションの最後にはQAタイムが設けられ、オンライン参加の視聴者から質問が投げかけらた。その中から4つのQAを紹介しこのレポートを終える。
Q: 将来的に自動運転が普及すればと、テレマティクス自動車保険は不要となってしまうのではないでしょうか?
A(梅田氏): 「レベル5」 と呼ばれる完全自動運転となれば、そうなると思います。ただ、現在始まったばかりの「レベル3」、そして次の「レベル4」の段階では必要なものです。
そして自動運転になると、事故の原因解析が重要になってきます。例えば事故がハッキングなどによるものなのか、それとも道路状況などが原因か。それらの解析の基となるのが、現在のテレマティクス自動車保険のインフラやノウハウであり、現在の保険の発展形が、そのまま自動運転時代のサービスや商品へとつながっていくものだと考えて、我われは取り組んでいます。
Q: 5Gの発展など、通信、技術の進展により、テレマティクス自動車保険はどのように進化していくのでしょうか?
A(梅田氏): 5Gの進展には私たちも高い興味を持っています。例えば、同じ「急ブレーキ」に対しても、5Gを使った画像データを組み合わせることにより、その急ブレーキが子供の飛び出しへの対応による止むを得ないものだったのか、それとも運転者の不注意が原因だったのかが分かってくるようになると思います。
子供の飛び出しであれば減点はしないなど、よりきめ細かい分析、より納得性の高いサービスを提供できるようになっていくと考え、研究を進めています。
Q: IBM IoT CVIソリューションは、今回のテレマティクス保険の他にはどのような適用例があるのでしょうか?
A(村田): 物流のお客様においては、運輸・車両の動態管理に利用されています。
ドライバーが安全運転を行なっているか、担当エリア以外で車を利用していないかなど、監視や指導に用いられています。その結果として、ドライバーの安全運転意識向上や20%の燃費向上などにつながったとお客様から聞いています。
Q: 安全という観点からは、運転手の脇見やスマホ通話、ながら運転などの把握なども不可欠だと思うが、今後の導入予定はありますか?
A(梅田氏): 今後のオプションとして、インカメラの導入を検討しています。ドライバーの状態を把握し、危険な兆候があれば事故を未然に防ぐために警告を行うというサービスも可能になると思います。
また、自動運転サービスに向けて、インカメラを活用した、運転モードを自動から運転手に戻すタイミングをより適切にするための調査などにも、自動車会社と共に取り組んでいます。
今後も事故を起こさないためのサービスの開発をより一層進め、保険料にも反映していきたいと考えています。
問い合わせ情報
お問い合わせやご相談は、Cognitive Applications事業 cajp@jp.ibm.com にご連絡ください。
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