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働くことの本質とコクリ対話 | ディーセントワーク・ラボ(PwDA+クロス2後編)

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社会福祉士を中心とした12名のメンバー(グループ会社メンバーも含む)が一丸となり、障がい者雇用をより良く推進していくために、行政、企業、福祉事業所などにさまざまな事業を展開している特定非営利活動法人ディーセントワーク・ラボ

前編では、日本IBMとKyndryl(キンドリル)の共創コミュニティー「PwDA+(ピーダブルディーエープラス=People with Diverse Abilities Plus Ally)コミュニティー」の田中詠美が、「ディーセント・ワーク」の意味するところや団体としての足取り、そして提供している研修サービスについて、ディーセントワーク・ラボ代表理事、中尾 文香さんにお聞きしました。

後編では、引き続き中尾さんにディーセントワーク・ラボが実践している働きかたについて、そしてラボのメンバーに中尾代表についてお聞きしました。

<もくじ>

    1. 「ディーセント・ワーク」の意味
    2. 代表 中尾さんの学びとディーセントワーク・ラボの足取り
    3. 「コクリ対話」研修について
    4. ディーセントワーク・ラボのディーセントな働きかた
    5. ラボ・メンバーから見た中尾代表
    6. インタビュアー 田中から

 

(写真右)中尾 文香(なかお あやか) | 博士(社会福祉学)。社会福祉士。厚生労働省「障害者の就労能力等の評価の在り方に関する ワーキンググループ(第1WG)」専門アドバイザー 。機器のアクセシビリティ調査、保育関連のコンサル、福祉事業所の就労コンサル等に携わった後、2013年にNPO法人ディーセントワーク・ラボを設立し、福祉施設がつくる小物ブランドequalto(イクォルト)事業を実施。2017年より企業を対象とした障がい者雇用に関するコンサル、社会課題、CSV、SDGsなどに関するコンサルをスタートした。その他、研修や講演など幅広く活動を行っている。

(写真左)田中 詠美(たなか えいみ) | IBMコンサルティング事業 オートモーティブ・サービス事業部所属のクライアント・セールス・コンサルタント。自動車・建機業界のお客様担当としてコンサルティング、アプリケーションサービスのビジネス発掘、推進に携わっている。学生時代より障害やメンタルヘルスに興味を持ち、2019年末よりPwDA+ Community事務局として活動、日本IBM内で障害について「知る」「考える」「つながる」機会を企画・実行。


 

田中: 「ディーセントワーク・ラボ」という組織自体は、どのように「ディーセント・ワーク」を実践しているのでしょうか。

 

中尾: 私たちは障がい者雇用に関して0から1を生み出すことや、1を2ではなく一気に3まで成長させるというチャレンジを行っている組織です。ですからやはり大変な仕事で、ディーセントワーク・ラボの社員一人ひとりも、みんながディーセント・ワークの実験中という感じですね。

成果を求められる仕事ですから、どうしても無理する部分があるのは仕方ないのかもしれませんが、それでも「鎧をまとって自分を偽り、そこで成果を出す」ことはせず、「本当の自分」として仕事をして、そこで成果を出していきたいんです。そして「出していけるんじゃないだろうか」と思っています。

社員がギアを入れて頑張るところとそうじゃないところを自分で選択して働けることや、「帰る場所」と思えるところを作っていくことも大事だと思っています。私たち自身が顧客のそうした取り組みに伴走する組織ですから、私たちも日々挑戦しています。

企業にとって「法定雇用率を満たす」ということは間違いなく重要なことですが、それだけで終わらせてしまいたくはありません。雇用の「質」を高めることも視野に入れています。

 

田中: とてもステキなことだと思います。でも…本当に難しそうです。ちなみに、ディーセントワーク・ラボさんが伴走されているのは、どんな組織が多いのですか?

 

中尾: おっしゃる通り日々難しさを感じながらやっています。でも、変えようと実践しているんですから、難しくてあたりまえですよね。

それでも私たち自身は、ミッションや「私たちがなぜ存在するのか」という本質を変えることなくやり続けてきたのですが、ここ数年で「3年後の、5年後の…未来のスタンダードを一緒に作りましょう」と言ってくださる企業や行政から、多くのご依頼をいただくようになりました。私たちは、つい数年前まで3人で活動していたのですが、そうした声に応えるうちにメンバーも12人まで増えました。社会や企業が変わってきていることを感じています。

それでも、事業の量や実際に行っている内容の幅の広さを考えたら、まだまだ人数は少ないし、実際にやってみたらディーセントワーク・ラボには合わなかったという人が出てくるのも当然だと思っています。

でも、それで辞めていったとしても、その後もなんらかの形で関わり続けていたりだとか、イベントやプロジェクトという形で一緒に何かを行ったりだとか…。それが仕事かどうかは分からないけれど、一生つながり合える関係を育む組織を目指しています。

まあでも、そういう私の想いはあるけれど、実際のところはスタッフに聞いてもらった方がいいかもしれませんね。ちょっと待っていてくださいね。みんなに聞いてみてください。

アットホームな雰囲気が漂うディーセントワーク・ラボのオフィス。たくさんの本に囲まれている。

エディターノート:

中尾さんがスタッフの方を呼びに行っている間、「今ここで話されている内容は、障がい者雇用だけに収まる話ではない」ということをインタビュアーの田中さんと会話していました。
仕事をしていく中で、自身の「主観フィルター」を組織の文化に擦り合わせ過ぎて、気がつけば無自覚に組織のロジックに「主観フィルター」を同化させてしまっていた —— こうしたことが、多くの組織で起こっているのではないでしょうか。
それは、「働きやすさを自ら作り上げる」という点においてはある程度必要なことかもしれませんが、行き過ぎてしまうと、「マジョリティーの特権を強め、組織や自身の中により深く埋め込んでしまう」ことになりかねやしないでしょうか。

 

小林未季(こばやしみき) | 大学時代に社会福祉学を専攻し、卒業後に新卒でディーセントワーク・ラボへ入社(現在はグループ会社に籍を置く)。現在は、社会福祉士として企業で働く障がいのある社員のサポートを担当。

大好きなカレーを食べることと映画をみることがおきまりのリフレッシュ方法。一押しの映画はスターウォーズ。

 

田中: 現在の仕事内容とディーセントワーク・ラボとの関わりやきっかけについて、お話いただけますか?

 

小林: 「ジョブコーチ的」な役割で、企業や組織で働く障がいのある社員さんのご支援をしています。コミュニケーションのサポートをすることもあれば、業務を遂行する上でのサポートすることもありますし、現場のさまざまな困りごとの相談にも乗ります。

私は新卒で入社して、約2年ディーセントワーク・ラボの手がけるブランド「equalto(イクォルト)」の仕事を、それから現在のジョブコーチの仕事に移りました。

入社のきっかけは…中学生のとき、障害者施設にボランティアに行って楽しかったんですよね。施設の方に「バイトに来ない?」って言われたりして、自分でも「向いているのかも」と思い始めました。

その後、高校や大学もその方向性で学校を決めて、海外でソーシャルワークを学ぶ機会にも恵まれました。そろそろ就職を考えなきゃ…というタイミングで大学の教授に自分の思いを熱く伝えたところ、「中尾さんってOGがいるから会ってみれば?」って。それでホームページを見たら「これはぜひ会ってみたい!」となり、そのままインターンを経て就職しました。

 

パチ: 中尾さんって、小林さんにとってどんな人ですか?

 

小林:  ディーセントワーク・ラボが掲げる、「働くすべての人のディーセントワーク」を実現するために、手段に縛られず「そこまでやるか!?」ってくらいやり切るカッコいい人です。

私たち現場を中心に働く者も、目の前の課題をクリアすることに集中し過ぎないように気をつけていますが、それでもつい近視眼的になってしまうことがあります。そんなときでも、中尾さんは目指すべき方向を常に指さし続けてくれる船長ですね。

船の上ではみんな違う役割や特技を発揮しているけど、「北斗七星は向こう!」「宝島は向こう!」って。

 

 

長濱 愛望(ながはま なるみ) | 美術大学でグラフィックデザインや情報デザインを学び、現在ディーセントワーク・ラボでデザイナー、プロジェクト推進担当として、イベントの企画や販促物のデザインなどを担当。

趣味は好きなデザインや、変わった形のパッケージを収集すること。家に集めた箱専用の棚を作ってストックしている。

 

田中: 長濱さんの仕事内容について教えてください。

 

長濱: 私は他のメンバーと少し違う立場で、デザイナーとしてディーセントワーク・ラボの携わるイベントや開発した商品のデザインを行っています。学生時代にディーセントワーク・ラボのお手伝いをしていて、その後3年ほど民間企業でデザイナーとして働いて戻ってきたという形ですね。

私にとっては障がいの有無というのはあまり関係なくて、個人の持つ個性や価値を発信していきたいという思いからスタートしています。それを特に強く持たれている方たちの支援をしているというか。デザインという「編集の力」を通じて、それをもっと世の中に伝えていけるんじゃないかと思っています。それを求めている人も組織もたくさんいますし。

視覚的なデザインって、言葉では伝えられない温度感や、概念的なものを表現する力に優れていると思います。「障がいのある方が真剣にものづくりをしている臨場感」をデザインを通じて伝えていきたいですね。

 

パチ: 長濱さんにとって中尾さんってどんな人でしょう?

 

長濱: うーん…くさい言葉になっちゃいますが、中尾さんは…太陽ですね。

その地で畑を耕すのか、ビルを建てるのか。それを決めていくのはメンバーそれぞれだけど、大元の道筋を照らし出し、方向を示してくれて、エネルギーを注いでくれるのが中尾さんです。立ち返れるところでもあります。

人は他者との関わりの中で初めて自分を俯瞰して見ることができる。反省をすることもあるかもしれないけれど、人に喜ばれることで自分に価値を見出し、自信を持つことにつながる。そして、そのような関わりの場を提供してくれるのが「仕事」。

そして役割や居場所が大事にされていること——社会の中やグループの中で、そこでの振る舞いがお互いに大事にされること——それが「ディーセント・ワーク」。

 

中尾さんのお話をお伺いしながら、社会問題を通じてさまざまな物の見方、あり方を知り、自分の中にそれを取り込むことことが自身を強くしてくれるという、とてもシンプルながら大切なことを感じていました。

太陽のように光り輝きながら先導をされている中尾さんに倣い、私も、そしてPwDA+コミュニティーも、それを周りに伝えていき、仲間を増やしながら活動を続けていきたいと感じました。

インタビューを行った部屋にもたくさんの本が並んでいた。

 

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