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佐々木 晶「障害のあるマネージャーとして。障がい当事者の後輩として」 | インサイド・PwDA+2前編

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「サンプルって言うと、物みたいに聞こえちゃって失礼な感じに受け取られてしまうかもしれません。でも、他にいい言葉が見つからないので、この言葉を使わせてもらいますね。

僕は、IBMにおいても社会全体においても、いろんなサンプルが溢れている状態が一番いいと思うんです。だから、インタビューを受けてみようって思いました。自分がサンプルの1つになることで『そういうのもあるのか』や『それもありだな』と思って貰えればいいなと思ったんです。」

−− こう語るのは、Q2C OperationsでIBM Consultingの契約や請求に関する業務を担当する佐々木 晶さんです。

 

佐々木さんは現在、IBM社内では「セカンドライン・マネージャー」と呼ばれる職位の上級管理職として、日本と中国の100名強のメンバーを率いています。所属は名古屋事業所で、コロナ禍においてここ2年間は、主に自宅で勤務されています。

オンラインミーティングで顔を見ながら会話する限り、佐々木さんの外見的な「特殊性」、あるいは「サンプル性」には誰も気づかないことでしょう。

佐々木さんは、36歳のときの事故により、首から下、特に右半身に強い麻痺のある車椅子ユーザーです。

 

佐々木 晶(ささき あきら)

身体(外部)障がい当事者。1989年入社後、36歳まで金融業界担当営業として勤務。事故による頚髄損傷で医師からは「社会復帰は無理。車椅子も諦めた方がよい」と言われていたが、リハビリにて克服し7カ月後に復職、現在のチームへと異動。

昨年「人生でやったことないことをやる」をテーマに、薄くなった頭をカモフラージュする坊主頭をやめて髪を伸ばし、「堂々とハゲる」をテーマにカラーリングにチャレンジした。


 

IBMには、障害のある社員と、当事者を理解・支援するアライ(Ally)社員が一緒に活動をする「PwDA+(ピーダブルディーエープラス=People with Diverse Abilities Plus Ally)コミュニティー」があります。

シリーズ「インサイド・PwDA+」は、オンライン記事を通じてコミュニティーの活動やメンバー紹介を行い、多様な人たちの多様な働き方を知っていただくことで、よりカラフルでより豊かな社会を作る仲間を増やすことを目的としています。

第2回は、前回『人は皆誰もがアライになれる | インサイド・PwDA+1(濱尾 裕梨 & 西野 真優)』でインタビューを受けていただいた西野 真優さんに、異なるタイプの障害がある佐々木さんにインタビューしていただきました。

まずは前編をお読みください。

 

西野 真優(にしの まゆ)

精神(内部)障がい当事者。2021年日本IBMグループ入社、KJTS(Kyndylグループ会社)所属。趣味はヨガと音楽鑑賞。学生時代はインターンとして、ベンチャー企業でメディアサイトの立ち上げや、事業家インタビュー記事の取材・記事執筆を行っていた。

最近のチャレンジは4月にアサインされたプロジェクトで務めるチームリーダー補佐で、スキルも経験も不足する2年目としてどう貢献できるかの試行錯誤。

 


 

前編もくじ

  1. 仕事で困ったこと…ないですね。
  2. キャリア | 障害前と障害後
  3. 障害のあるマネージャーとして。障がい当事者の後輩として
  4. 健常者に「これは分かってもらいたい」とかって……?
  5. やっぱり残る「どこまで開示するか問題」

 

1. 仕事で困ったこと…ないですね。

西野: 本日はお時間いただきありがとうございます。早速ですが、佐々木さんはご自身の障害が仕事の上での困難につながっていると感じられることはありますか?

 

佐々木: よろしくお願いします。困りごと…インタビューだから悩みやドラマチックな話があった方がいいんだろうなと思うものの、移動は多少大変というくらいで、日常の仕事においては、困り事も心配事もないんですよね。IBMが障がい者への配慮が整っている職場だということの表れなんでしょうね。

ただ昔の箱崎ビルは、25階建てのオフィスに車椅子ユーザー用のトイレが3つくらいしかなくて困ることがありました。

 

西野: 私はまだ入社2年目で、IBMのインターンをしていた時期も含めて箱崎本社には2回ほどしか行ったことがないんです。でも、あの規模のビルに車椅子用トイレが3つしかなかったら、それは困りますよね。

 

佐々木: 空くのを長々と待った…なんて経験もありましたね。現在は各フロアに優先トイレ1つ以上と増えていますし、オフィスも働き方も進化していますが、特別な事情がなく優先トイレを使われる方は「もしかしたら本当に困っている人がすぐに使いたいかもしれない」と想像してみてほしいですね。

 

2. キャリア | 障害前と障害後

西野: 佐々木さんは入社後に障がい者となり、その後管理職となられていますよね。障害前はキャリアについてはどう考えられていたんですか?

佐々木: すいません、これももっと良い話ができたらいいんでしょうけど、キャリアについてちゃんと考えたことはなかったですね。
僕は営業の仕事がすごく好きで楽しくて、やりがいも感じていて、ずーっと営業をやれればいいやと思っていました。それしか考えていませんでしたね。

西野: そうだったんですね。それでは、事故後はどうでしょうか。

佐々木: 障がい者となった後……最初は…。僕ね交通事故の後、医者に「社会復帰は無理」と言われていたんですよ。
それからリハビリして車椅子で動けるようになったとはいえ、右手に麻痺も残っていましたし、キャリアどころじゃなかったんです。「そもそも、自分にできる仕事なんて本当にあるのか?」って考えていました。
でも、IBMは「車椅子でいい。戻ってきて欲しい」と、「営業経験が活かせる仕事だし、佐々木さんにやって欲しい」と言ってくれた。そう言ってもらえるなら、と思ってやってみたらできたし、おもしろかったんです。
それから何年か経って、マネージャー職に関しても「やってみないか?」と言ってもらって。自分が希望していたわけじゃなかったけれど、「望まれていて、そういう役目が回ってきたのであれば、試してみよう」って。

西野: そうだったんですね。変な質問ですけど…管理職になってよかったって思われていますか?

佐々木: やってよかったです。やってみたことで世界が広がったところがあります。マネージャーにならないと分からないことや知り得ないこともありましたし。

 

3. 障害のあるマネージャーとして。障がい当事者の後輩として

西野: 佐々木さんの周囲に障害のある社員の方はいらっしゃるんですか?

 

佐々木: 奇しくも、名古屋で一緒に働いているメンバーの一人は車椅子だし、もう一人は生まれつき手・腕に障害のある方です。

もちろん、内部障害でオープンにしていない人もいらっしゃるでしょうから、実際にはもっと多いのかもしれませんけど、いずれにしても僕の周りでは障がいのある方はあまり珍しくありませんね。

 

西野: それって、当事者としては「嬉しい」ことなんじゃないでしょうか。私は、上司が当事者であるのはいい環境だなって思いました。

部下の方や社員の方から、自身の障害について話を聞いたり相談されたりってことはあるんでしょうか?

 

佐々木: いや…ないですね。「新幹線乗るときとか、どうしてる?」みたいな、そんな雑談や情報交換をするくらいで、障害について特段話しあったことはないなあ。

でも、実はさっき話した名古屋で一緒に働いてくれているメンバーは、僕が営業時代に一緒に仕事をしてお世話になった人たちなんです。

交通事故の後、僕も、すごく真剣に考えました。それまでできていたことができなくなり、愛していたことも手放さざるを得なかったですから、状況を受け入れるのにはやっぱり時間がかかりました。

でもいろいろと考える中で、「あれ?そういえばあの人車椅子だったな」とか「あの人は腕に障害があったな」とかって、自分の周りに以前から障害がありながら働いている人たちがいたことを思い出せたんです。

 

西野: なるほど。障がい者の先輩がいらっしゃったんですね。でも、「思い出せた」という言い方をされるということは、それまでは普段、周囲の方たちに障害があるということを意識されていなかったということですよね?

 

佐々木: そうです。意識はしていなかったです。

恵まれていたということですよね。以前からそういう方たちと一緒に働いて、自分が中途障がい者となっても同じようにいろんな方たちと働けて。「いろんな人がいるのが当たり前」っていうのが、IBMにはわりと昔から普通にあったってことかと思います。

そしてだから、僕の方こそ彼らの存在が心強かったです。たまたま上司とメンバーという関係になったりしましたが。

 

4. 健常者に「これは分かってもらいたい」とかって……?

西野: 私は「周囲に障がい者がいるよ」ってことを可視化していくのって、大事なことだと思っているんです。ただ、それに抵抗がある当事者も当然いらっしゃって…。

そもそも障がい当事者に関心のない健常者の方たちもいる中で、自分たちの存在が可視化されることに意味があるのだろうか? どれだけの影響があるんだろう…と思うこともあって−−。

それってどう思われますか……って、これじゃ質問になっていないですね。…そうですね…健常者に「これは分かってもらいたい」とかって……ありますか?

 

佐々木: んーあのー、難しいですね。えっと、要するに僕の障害は誰が見てもすぐ分かるわけです。障害の細かい部分が分かるわけではもちろんないけど、「佐々木が障がい者である」ということは一目瞭然なわけです。で、僕はそれ以上のことを理解してもらおうという気持ちは、実は、あまり、ないんです。

やっぱり、一番大変なのは見た目では分からない内部障害をお持ちの方だと思っていて……西野さんが言われたようにオープンにしたいしたくないって話もそこで出てくるわけですよね−−。

佐々木: 障害によってポイントが違うんだけど、……僕の場合は……うーん…正直、「理解しなくていいから、知っておいてください」というそれだけ。ただそれだけ。それ以上は、余計な気遣いを招いたりすることにもなったりするし、僕がどれだけしんどいかなんて知ってもらわなくていい。

「障がい者であること」を知っておいてもらえれば、それでいいんです。

そういう人がいるんだってことが普通になってくれればいいし、障害のある人がいるってことが当たり前だということを理解してくれれば、それでいいって感じですね。…うまく言えてないな。

 

5. やっぱり残る「どこまで開示するか問題」

西野: 私もちゃんと理解できているか分からないんですけど…その…健常者だけしかいない環境と、障がい者もいるって分かっている環境には、違いがある、意味があるってことですか?

 

佐々木: そう、そうです。だって健常者同士だって、障がい者同士だって、理解し合えないことはあるわけじゃないですか。だから「分かり合える/分かり合えない」ってそこまで深い話じゃなくて、「お互い違う」ってことを知って欲しいってだけなんです。

「違うことが当たり前」ってことを知った上で、仕事も生活もして欲しいってことが、僕が望んでいることです。

 

西野: それって、障害だけじゃなくて、他のマイノリティーについても言えることですよね。

 

佐々木: そうです。だから、何がどう違うじゃなくて「違う人がいる」ってことを理解しようっていう…。佐々木が車椅子だということを知ってもらえば、それでいいんです。これじゃ伝わらない…かな?

 

西野: いや、そんなことないです。ただ、正直言って、自分とは考え方が違うなと思って。だからこそ聞いていておもしろいなって思いました。

「どれだけ困っているか分かって!」とアピールしたいわけじゃないですし、自分が「見えない系の障害」だからということもあると思います。でも、障害があることだけ知ってもらっても、それで結局どんな配慮をすればいいのかが分からないと言われてしまいますし、私も何を求めていいのか分からないっていう……お互い、なんだかもじもじした形になってしまって…。

だから「障害あります」とだけ言っても……私は配慮してもらわなきゃいけないこともあるので……。「どこまで開示するか問題」っていうのが、やっぱりあります。

 

佐々木: そこは絶対ありますよね。僕も障がい者とはいえ、決して西野さんのことを理解できるとは思えないし。だから僕は、「西野さんがそういう悩みを抱えている」ということだけをきちんと頭に入れようと思う。そこから先は個別のコミュニケーションだと思うんですよね。

僕、個別のコミュニケーションが必要ないなんて思っているわけじゃないですよ。当然必要ですよね。

でも、すごく幅広く障がい者のことを理解しようとか、理解して欲しいってすると、ものすごくハードルが上がっちゃうと思う。まずは「IBMの中にも、健常者の中にも、障がい者の中にも、いろんな人がいる」って前提をみんなきちんと頭の中にセットしていただいて、あとは個別のコミュニケーションでいいと思うんです。そうじゃないと、とても面倒でストレスの多いものになってしまうと思う。

 

西野: おっしゃる通りだなって思いました。私も「何か困っていることがあるということ」を理解して欲しいんだなって、今思いました。

 


 

後編ではPwDA+事務局のメンバーも加わり、インタビュアーの西野さんと共に佐々木さんにいろいろとお話を伺っています。

佐々木 晶「身体が動かなくてもマネージャをやっているというサンプルに僕がなれたら」 | インサイド・PwDA+2後編

後編もくじ

    1. 外国人の友だち作りに行くのと同じ感覚で
    2. アライ宣言しても「何も与えることもできない…」?
    3. 思い込みに阻害されて欲しくない
    4. 価値観はぶつかりあってこそ進化する

 

 

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TEXT 八木橋パチ

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