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Society5.0時代の地方創生への挑戦 |いばらきコ・クリエーションフォーラム開催レポート

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「Society5.0、地方創生、コミュニティなどの現代的課題を知り、自分なりの答えを考えてみませんか?」というあたごちゃんの声に導かれるように、筆者は11月21日の日曜午後、茨城県水戸市で開催された「いばらきコ・クリエーションフォーラム」に参加してきました。

(なお、あたごちゃんは「もしも、水戸黄門が女の子だったら?」というコンセプトから誕生した、茨城県の生涯学習を盛り上げるために活動中のキャラクターです。)

 

今回は第1部基調講演「Society 5.0 時代の地方創生への挑戦」の模様を中心に、フォーラムの様子をレポートします。


 

Society 5.0 時代の地方創生への挑戦

「コ・クリエーションに必要なのはネットワーキングであり、新たなつながりを生み出すことが必要です。今日はぜひ、学びがつなぐ新しい出会いを楽しみ、味わう日としてください。」という水戸生涯学習センターの関所長の挨拶で、「いばらきコ・クリエーションフォーラム」はスタートしました。

このフォーラムは、茨城県県立図書館をメイン会場とし、茨城県内4箇所のサテライト会場をオンラインでつないで開催された、学びのための参加型イベントです。

基調講演では、日本アイ・ビー・エムの3名の社員と、東京電機大学の松井加奈絵准教授による「Society 5.0 時代の地方創生への挑戦」と題した講演が行われました。

ここでは、4名の登壇者の話を順に追っていきましょう。

左より順に 日本IBM コグニティブ・アプリケーション事業部 Master Shaper 磯部 博史, 同事業部 Ecosystem Sales Manager 橋本 茉奈実, 東京電機大学 システムデザイン工学部 情報システム工学科 准教授 松井 加奈絵 氏, 日本IBM 社会貢献 担当部長 大津 真一

 

● テクノロジーで挑戦する人たちの背中を押し続けてきたIBM

講演者 | 日本IBM株式会社 社会貢献担当 大津真一

「今年7月、茨城県さまと県経営者協会さま、そして私たち日本IBMで『いばらきP-TECH(ピーテック)』という連携協定を結ばせていただきました。

P-TECHは産学官で連携した5年間の一貫した連携教育プログラムの取り組みですが、この話はまた後ほどさせていただくこととして、今日はまず日本IBMという会社について少し紹介させてください。

日本IBMは、自分たちの最大の強みであり特徴である『テクノロジー』を中心に、ここ日本で80年以上にわたって挑戦する人たちの背中を押し続けてきた会社です。

テクノロジーの中身は、時代・社会と共に変化し続けます。そして、私たちが大事にし続けてきている3つの理念のうちの1つは、「社会と共に - Be a good corporate citizen.」というものです。

日本IBMの歩み

日本IBMの歩み

 

それでは、現在IBMがどんな未来の社会像を頭に描いて事業に取り組んでいるかを、まずは磯部よりご紹介させていただきます。」

大津はこう話すと、マイクを次の登壇者の磯部へと手渡しました。

 

● IBMが描くこれからの社会

講演者 | 日本IBM株式会社 コグニティブ・アプリケーション事業部 Master Shaper  磯部博史

「今回の講演のタイトルにもなっているソサエティー5.0ですが、その鍵は『フィジカル空間(現実空間)』と『サイバー空間(仮想空間)』の高度な融合にあります。今日のこのフォーラムも、物理的にこの会場にいらしている方たちと、インターネットでつながっている画面の向こう側から参加されている方がいらっしゃいますよね。これもソサエティー5.0という、技術を活用した人間中心社会の1つの形ではないでしょうか。」

 

磯部はそう言うと、統合化が進むこの時代で重要な概念が「新しいジャスティス」となるのではないかと話しを続けました。

「ジャスティスは『公正』や『正義』と訳されることの多い英単語ですが、その語源はジャスト、『ちょうどよい』という意味です。利益や機能を重視する『ゲゼルシャフト型の企業活動』と、人のつながりや共同体を重視する『ゲマインシャフト型の地域活動』が、偏りなくちょうどよい状態となること。それがジャスティスの基盤となるのではないでしょうか。

それを実現する技術と、現在取り組んでいる実用例を、これからいくつかご紹介します。」

ここでは、磯部が紹介したものの中から2つピックアップしてお伝えします。

 

・ データの民主化を実現する技術「Federated Learning(フェデレーテッド・ラーニング)」

フェデレーテッド・ラーニングは、「統合型機械学習」とも呼ばれるAIを育てる学習モデルで、分散した環境下で学習した結果を組み合わせてモデル開発し、それを広く共有するものです。

その利点は、元データを共有・開示せずに精度の高いモデルの恩恵を享受できること、つまり、プライバシー保護とAIによる顧客利便を両立できる技術です。

 

・  「AIスーツケース(次世代移動支援技術開発)」が広げるさまざまな分野での活用

視覚障害者が、初めての場所に外出した際も、人との距離を保ったまま独力で社会的行動(日常生活やレジャー)ができることを支援するプロジェクトです。AIが組み込まれたスーツケースが、まるで「盲導犬」のように視覚障害者の外出先での行動をサポートします。

この技術を、病院や高齢者介護施設の「院内ガイド」や「医療支援ロボット」、観光地などでの「施設・観光案内ロボット」、ビル、空港・駅、倉庫、工場などの「施設管理支援ロボット」などに応用することで、個人の支援だけではなく地域社会の活性化にも役立てることができるのではないでしょうか。

こちらのページにて、動画でその動きをご確認いただけます。

 

● 地域課題解決型データ流通プラットフォーム「アナスタシア」について

講演者 | 東京電機大学 知的情報空間研究室 准教授 松井加奈絵氏

国内外のさまざまなスマートシティ、スマートコミュニティプロジェクトにICT専門家・研究者として参画し続け、近年はとりわけ人材不足に悩む小規模自治体や、過疎化する中山間地域の課題解決に取り組んでいる松井准教授。最初に、これまでの取り組みを振り返りこう語られました。

 

「地域課題への『取り組み方法』や『解決方法』が流通していないこと、それが大きな問題となっています。

さまざまな人たちの成功・失敗を通じて得た学びが共有され洗練されていくという『改善』のループが回っていないために、分からないことが、そのまま分からないままで終わってしまうことが多いですし、せっかく苦労して掴んだ解決方法も、その地域でしか活用されていないのが実情です。

私たちが提供している地域課題解決型データ流通プラットフォーム「アナスタシア」にはさまざまな機能がありますが、アナスタシアで最も解決したい課題の1つは、解決方法や知識の流通の実現です。

そのためには、広く多くの自治体さまに、共有プラットフォームとしてご活用いただく必要があります。

 

アナスタシアの特徴ですが、今日、このセッションにご参加いただいている方の中には、経済産業省などが提供するRESAS(リーサス)という『地域経済分析システム』のことをご存知の方も多いかと思います。

RESASはとてもきめ細やかにデータを提供してくれていますが、しかしその詳細を見て活用している人がどれだけいるかと言うと…。『使いづらいので活用していない』という自治体の方がほとんどではないでしょうか。

アナスタシアは、そうしたデータを活用しやすい形に変換して提供しています。そしてこれは一例ですが、IBMのグループ会社が提供している高密度の気象データなどを併せて提供しています。

たとえば、中山間地では頻繁に起こることですが、すぐ隣り合った地区でもかたや雪がしっかり積もり、その隣町ではまったく降雪がなかったなどということがあります。こうした状況で、『自分たちの地区』に合わせたデータ分析を行うには、きめ細かなデータが提供されていることと、それをしっかり確認して活用できることが非常に重要となります。」

デジタル・マーケットプレイス

「アナスタシアで大事にしていることは、『人間を中心に置く』ということです。

それはつまり、作り手と使い手の両者の視点を併せ持ってシステムやソリューションを提供することであり、多くの方に使いこなせていただけないものはそもそも作らない、提供しないということです。

そうでなければ、サステナブルなものとならないからです。

 

人びとが目的地に向かうときに、電車、バス、タクシー、自転車、そして徒歩と、さまざまな移動インフラを自分のニーズに合わせて選ぶことができるように、アナスタシアも『多くの選択肢を生み出し提供する』ことができるようになれば良いと思っています。

それは、人びとに『自分の時間』を取り戻していただくことにもつながるのではないでしょうか。」

松井准教授はこう語ると、4人目の講演者である橋本氏へとマイクを渡しました。

 

● アナスタシアが地域にもたらすもの

講演者 | 日本IBM株式会社 コグニティブ・アプリケーション事業部 Ecosystem Sales Manager 橋本茉奈実

アナスタシアの地域課題解決例の1つに、「積算温度」という気象データを用いた稲作の収穫時期の最適化があります。先ほど松井先生も積雪の例を挙げていましたが、地域に関するデータは、テクノロジーという「手段」と併せて用いられることで大きな効果をもたらします。

「大事なのは、『何を解決したいのか?』という意思ではないでしょうか?」。橋本はそう言うと以下のように続けました。

 

「我われIBMの事業でも、まさに『解決したい課題があり、その手段としてテクノロジーを用いる』という事案が増えています。その代表例として、ここでは空中飛行型のドローンと、犬型ロボットを用いたケースをご紹介させていただきます。

まずはドローンです。空中撮影データをAI画像診断と共に用いることで問題発生箇所を自動判断し、それによって危険な作業からの人間の解放や、技術者不足という課題を解決しています。」

参考 | [事例] Sund&Bælt Holding社 | より良い洞察への架け橋を築く

参考 | [プレスリリース] センシンロボティクスと日本IBM、社会・企業インフラの安定稼働を目指し AIを活用したより高度な保全業務ソリューションの開発で連携開始

 

「こちらは、人間が立ち入れない場所にも入っていき、自律的に障害物などを乗り越えて点検作業を行い、足りない設備などを発見した際には発注作業まで自動的に行う、米国ボストン・ダイナミクス社の犬型ロボットとAI技術などを組み合わせたケースです。

ロボットと画像認識AIを活用して、働き手の減少への対応と、危険箇所での作業から人間を守ることを目的としています。」

参考 | Edge-based analytics drive smarter operations | IBM

 

「どちらも、先ほどのアナスタシアと同様、明確化された課題にどう技術を提供するかがポイントとなっています。

その観点から言えば、課題をしっかりと明確に理解できる地域に根ざした地域人材が必要であり、その人が試行錯誤を繰り返しながら課題に対して必要な技術を見極め適用していくことが、地域課題解決には欠かせないのではないでしょうか。

地域課題解決というからには、生活の中で役立てていただいてこそ初めてその意義を果たしたと言えると思っています。技術はあくまでも手段であり、鍵を握っているのは、地域に適用するIT人材の育成です。」

橋本はこう話すとマイクを大津へと戻しました。

 

● パートナーシップを通じた社会貢献と人材育成

「冒頭に少しお話ししたIBMが大事にするの3つの理念ですが、『社会と共に』の他の2つは『考えよ - THINK』と『教育に飽和点はない - There is no saturation point in education』というものです。

教育・そして学びも時代に合わせて変化させていくことが重要ですよね。

今回、いばらきP-TECHという5年間の連携教育プログラムを通じて、茨城県さまが掲げている『茨城県総合計画 新しい茨城への挑戦」というすばらしい取り組みを、パートナーとして共に推進できることに、私自身もとてもワクワクしています。

 

P-TECHは『Pathways in Technology Early College High Schools』を略したものでして、教育行政と学校と企業がパートナーシップを結び、協働してIT人材育成に取り組む人材育成プログラムです。2011年アメリカで取り組みが始まり、現在28カ国で240校以上が採用、600社以上の企業が参加をしています。

日本では現在、東京・神奈川・茨城の3都県で自治体と提携し、活動を開始しています。

茨城県では2カ月ほど前、最初の実施プログラムが水戸工業高校で行われました。今日はその模様を少しお伝えさせていただきますね。」

社会貢献プログラム「P-TECH」概要

 

以下は、大津が説明した、9月22日に開催された水戸工業高校1年生に向けて実施した「生徒たちの地元課題やDXへの興味関心を喚起する」ことを目的とした授業(講演とQ&A)の内容で、当日の模様はNHKや日経新聞、茨城新聞などで紹介されました。

 

講師陣とテーマ

  • キンドリルジャパン技術理事 「ITで未来を創ろう」
  • 茨城県CIO 「茨城県の地域課題へのDX推進の取り組み」
  • 常陽銀行 経営企画部IT戦略室 室長 「ITで創るこれからの銀行」
  • 鹿島アントラーズFC 経営戦略チームマネージャー 「鹿島アントラーズFCのDX推進」

参考 | 日本経済新聞 – 茨城でIT人材の一貫教育始動 水戸工高1年生40人受講

参加いただいた生徒さんからは、以下のような感想をいただいたそうです。

  • ITは「失敗が許されないもの」だと思っていたけれど、新しいことへの挑戦には失敗が付きもので、それを通じて学んでいけば良いんだということが分かりました
  • 価値づくりに自分も取り組んでいきたい

 

● 基調講演まとめ | 地元活躍IT人材の育成を

セッションの最後には、登壇者全員による対話と、参加者からの質問に応えるQ&Aタイムが設けられました。

ここでは、松井准教授からの会場からの質問への答えをご紹介して、終わりといたします。

 

「STEAM教育や情報教育の現場で起きがちなことが、「学ぶこと」そのものに集中してしまいがちだということです。ここで忘れてはいけないのは、より本質的な『なぜ学ぶのかというWhy』『何のために学ぶのかというFor What』への意識です。

新しい社会の実現には、新しい人材の活躍が不可欠です。私たちは『実現したい社会像』から逆算し、学校を卒業した後も学び続けられる環境づくりや、自分たちが暮らしている場所が抱えている課題に興味を持ち取り組める、そんな『地元活躍IT人材』の育成が重要だと思っています。

私たちは、アナスタシアやP-TECHなどを通じて、Z世代やそれに続く子どもたちを応援していきます。」


 

● コミュニティ×ビルディング 〜みんなで創ろう〇〇社会~

この後は「コミュニティ×ビルディング 〜みんなで創ろう〇〇社会~」を全体テーマとした分科会が行われました。

個別テーマは「起業マインドラボ 」、「みんなの力で目の前の課題にチャレンジしよう」、「地域で子育て ~私の場合~」の3つ。会場も3会場へと分かれました。

 

筆者が参加したのは「みんなの力で目の前の課題にチャレンジしよう」。会場では下記3名のパネラーによる、地域に対するユニークな取り組みが語られました。

  • 吉田克也氏 (元守谷市立守谷小学校 副校長) | 子どもたちの安全を守る地図会社とのコラボレーション
  • 大里明氏 (一般社団法人 大洗観光協会 会長) | 「ガールズ&パンツァー」(ガルパン)とのコラボをはじめ、数々の新しい取り組みで町おこしを実践
  • 根本香氏 (駅前☆ラウンジ 支配人) | 茨城県大子町出身、在住のクラフト女子による手作り市の取り組み

 

会場参加者も積極的に対話に参加できるようにと、セッションの中休みを利用して疑問や感想を付箋紙に書きホワイトボードに張り出し、その中からいくつかをファシリテーターの茨城大学 広報室専門職の山崎一希氏がピックアップし、参加者一同で対話していくという形が取られていました。

 

こうした進め方にも、「学びの場」作りを積極的に進める茨城県の姿勢が感じられました。これからもきっと、新しい取り組みが茨城県から多数登場するのではないでしょうか。

 

問い合わせ情報

当記事に関するお問い合わせやCognitive Applicationsに関するご相談は こちらのフォーム からご連絡ください。

 

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TEXT 八木橋パチ

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