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川田篤「ありのままの自分で生きる」 | 「PRIDE & Strength」レポート

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「せっかくの機会。なにか1つでもいいから、観ていただいた人の頭に残ればいいと思っています。そして本当にどんなことでも構わないので、願わくは、感想や思ったことを言葉にして貰いたいですね。

『うちの会社でもLGBTQ+をテーマに社内セミナーをするんだね』でもいいし、『ゲイの人の話を直接聞いたの初めてだったな』でも、本当になんでも構わないんです。耳で聞いて知ることと自分の言葉として発信することの間には、とても大きな違いがあるから。それは、能動的に一前に進むことに他ならないと思うんです。」

 

世界各地でLGBTQ+の権利啓蒙イベントが開催される「プライド月間(Pride Month)」を祝し、6月22日木曜正午から1時間、SAPグループ社員向けのオンライン・ライブトーク「PRIDE & Strength(プライド&ストレングス)」が開催されました。

メイン・スピーカーを務めたのは、日本IBM 人事部門所属の川田 篤(かわだ あつし)。

冒頭の言葉は、「今日の意気込みは?」というイベント開始直前の質問にお答えいただいたものです。

今回、SAPジャパン様のご厚意により、東京大手町のSAPジャパン株式会社 Experience Centerから、アジア各国に向けて配信されたトークイベントの様子を取材させていただきました。60分盛り沢山のトークの中から、その一部をご紹介いたします。

写真左 | CSS Japan DE&Iチーム (HXM Customer Success Partner, SAP Japan) 中川 美穂(なかがわ みほ)氏
写真中央 | 日本アイ・ビー・エム 人事 川田 篤(かわだ あつし)
写真右 | CSS Japan DE&Iチーム (Chief Customer Officer, SAP Japan) 高橋 絵理花(たかはし えりか)氏

イベント・オープニングでは、今回のスペシャル企画運営チームのCSS Japan DE&Iチームの中川 美穂さんと高橋 絵理花さんのお二方よりプライド月間の説明と、特別ゲストの川田さんの紹介が行われました。

「実は私がSAPに転職してくる前、日本IBMに所属していた頃、一緒に働いていたのが川田さんでとても信頼していた方のお一人でした。今日は、そんな川田さんのお話をじっくり聞けるとても貴重な機会で、ずっと楽しみにしていたんです。それでは川田さん、早速お願いします。」

中川さんのその言葉を受け、川田さんのプレゼンテーションがスタートしました。

簡単な自己紹介に続き、LGBTQ+に関する基礎的な情報を説明した川田さん。ここではその中から、川田さんが紹介した数字をいくつかピックアップします。

 

・ 13人に1人

調査方法によりばらつきはあるものの、日本におけるLGBTQ+当事者と言われている方の呼ばれる人の割合です。日本の左利きの人口と同じくらいとも言われています。

「皆さんの周りにLGBTQ+の当事者の方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?」川田さんはこう問いかけました。「もしも『そんなにたくさんいるようには思えない』とお感じになるとしたら、それは、LGBTQ+が長らく差別の対象になっていて、多くの人たちがそれを隠してきたからだということではないでしょうか。」

 

・ 2割以下と5〜10パーセント

2割以下とは、職場でカミングアウトしている(誰か一人にでも伝えている)方の割合です。先日7年近くの時間をかけ、さまざまな議論を巻き起こしつつ成立した「LGBT理解増進法」や、ここ最近事件としての報道も増えている心ないトランスジェンダー(こころの性とからだの性が一致していない人)への差別や脅迫などを考えると、その不安感や恐怖心を想像すれば、圧倒的多数の当事者が職場でカミングアウトしていないという現状もむしろ当然と思える数字かもしれません。

「5〜10パーセントは、『クローゼット(自身の性的指向や性同一性を隠している状態を比喩的に示す言葉)』という状態が、当事者本人の力をどれくらい蝕んでいるかという数字です。

ある調査結果によれば、LGBTQ+当事者であることがバレないように辻褄を合わせたり、疑いを抱かせないように演じることに、その人の持つ能力の5〜10パーセントが常に使われている状態だということです。

本来は不要な労力なわけで…とてももったいないことですよね。そして隠すために、あるいは疑われないようにするために、そもそもの『コミュニケーションを取ろう』という意欲すらも失ってしまいがちになるという調査結果もあります。」

 

・ 5つの判決。違憲2、違憲状態2、合憲1

同性のカップルたちが、「同性どうしの結婚が認められないのは、婚姻の自由や法の下の平等を定めた憲法に違反する」と全国5カ所で集団訴訟を起こしたのが2019年。それからおよそ4年、先日の福岡地裁での判決により5つすべての1審判決が出そろいました。

裁判所の判決は「憲法違反」2件、「違憲状態」2件、「合憲」1件。川田さんはこう解説しています。

「司法機関による判断のほとんどが違憲、あるいは違憲に準ずる状態と認めたことの意義は大きいのではないでしょうか。個人的には、この裁判は最終的に最高裁までいくのではないかと思っていますが、結婚観が大きく変わりつつあることは間違いありません。そしてビジネスへの影響はすでにじわじわ出ています。

日本への赴任を断る同性夫婦やカップルの話、逆に自由と権利を求めて日本を脱出する当事者たちの話を耳にすることも増えていますね。」

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IBMのダイバーシティ&インクルージョンの取り組みは古く、有色人種、女性、障がい者など、非常に早い段階から支援を表明し実行してきており、すでに112年の歴史を持っています。

LGBTQ+支援も、企業の中ではいち早く活動をスタートしており、現在までおよそ20年間取り組みを続けていますが、その中心にある考え方は「社員が自分らしくいられる環境があってこそ、能力を最大限に発揮できる」というものです。

そしてまた、言葉として明確にメッセージを送るだけではなく、行動・実践を伴ってこそ企業文化であるということを強く意識していると川田さんは語りました。

以下、2023年前半の代表的な活動を並べたものです。

 

・ 東京レインボープライド2023

  •  ゴールドスポンサーとして、ブース出展とパレード参加

 

・ プライド月間期間中計6回のオンライン・セミナー

  •  学びウィーク「東京レインボープライド2023を振り返って」
  •  NIJIT主催セミナー「多様な性についてのイベント – カミングアウトと家族」
  •  LGBTQ+入門編「自分らしくあること、違いを受け入れること – 性的指向と性自認」
  •  キーノート1「婚姻の平等の実現に向けて」
  •  マネージャー研修 「今知っておくべきLGBTQ+インクルージョン」
  •  キーノート2「トランスジェンダー・バッシング」

 

・ LGBTQ+アライ・ラウンジ

  •  毎月第一金曜に開催している、誰もが自由に参加できるランチ・ミーティング

 

特に6月はプライド月間ということもあり、数多くの、そして切り口の異なるイベントを多数行っています。川田さんはこう説明しています。

「狙いは『入り口を増やす』ということです。テレビやネットニュースなど断片的になりがちな情報ではなく、全体を踏まえて情報に触れていただき、その上でご自身がどう感じるかを見つめていただける機会を数多く提供したいと考えています。

また、『LGBTQ+アライ・ラウンジ』は、毎月開催することで、誰でもウェルカムな場の存在を社内で広く知っていただき、必要性を感じたときにはいつでも来ていただけるようにと意識しています。

社内に、当事者をあたたかく見守り、ときに代弁者として活動してくれる仲間が存在することを忘れないで欲しい。そう思って7年ほど前から毎月の開催を続けています。」

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イベント後のアンケート結果を見ると、参加者に最も印象的だったのは、川田さんのパーソナル・ストーリーだったようです。

小学校3年生のとき、偶然目にした主婦向けテレビ番組の相談コーナーで「ゲイ」という存在を知り、「これは僕のことだ。決して誰にも口にしちゃいけないものだ」と直感的に感じ、それ以来、家族にも「クローゼット」を貫いたという川田さん。

その後の、ときに感動的な、ときに時代を感じさせるエピソードの中から、ここでは筆者の気持ちが1番揺さぶられた、職場と家族にまつわる2つのストーリーを紹介し、このレポートを終了します。

 


新卒でIBMに入社し、男性社員ばかりの営業部に配属された川田さん。一生男性しか愛せないであろうことを自覚しながらも、「それでも自分も30歳までには、女性と結婚するのだろう」と思っていたそうです。

「環境が人に与える影響はそれほどまでに強い」という事実に、今も驚かされると語っていました。そんな「クローゼット」を続けていた川田さんに、2015年、転機が訪れます。

 

その頃「なんでも相談して。仕事のことだけじゃなく、プライベートなことでも。いつでも相談にも乗るよ」と、川田さんはマネージャーとして、自身の部下や周囲の若手社員に対して言い続けていたそうです。

でも心の中では、「こんなことを言いながら、自分はなに一つプライベートなことを皆に明かしていない…。内心は、ものすごく申し訳ない気持ちに打ちひしがれていました」と、当時を振り返ります。

そんなある日、仕事で表彰を受け、アメリカでの受賞イベントに出席することになりました。その前に、自身の上司や部下たちに向けて、日本でスピーチをすることとなったのです。

「普段、自分を支えてくれている方への感謝を伝えたい。パートナーの存在を伝えるならこの機会ではないのか——。」内心の激しい葛藤が起こりました。

こうした場で身内の話を中心にすることも、それが同性愛者としてのカミングアウトになることも、前代未聞であることはわかっていました。

 

震え声でのスピーチは、大きな拍手で迎えいれられ、中には直後に握手を求める同僚たちもいたそうです。

「自分の場合は、とても幸せな、祝福されたカミングアウトとなりました。でも、そうはならないケースも社会には存在しています。数年前、勇気を出して親友にカミングアウトした大学生が、アウティング(性的マイノリティーであることを、本人の承諾なく周囲に暴露する行為)されて自殺に追い込まれてしまった事件を覚えていらっしゃる方もいるのではないでしょうか。

ただ、私の場合は、そうはなりませんでした。そして実は、カミングアウトしても、周囲は何も変わりませんでした。ちょっと拍子抜けするくらい、本当に何も変わらなかったんです。

 

変わったのは自分自身でした。少し自分でもびっくりするくらい、自己肯定感が上がりました。いわば、それまで道の真ん中を歩くことができなかったのが、その後は堂々と歩けるようになりました。あれは、自分にとっての第2の成人式だったんだと今では思っています。

自分がゲイであることを唯一古くから知っていた人事の担当者は、『川田は、カミングアウトしてはじけたね』と、私を評しています。そうかもしれないと私自身も思います。

そして自信を持てたからなのか、それとも5〜10パーセントのクローゼットの労力を取り戻したおかげなのかわかりませんが、その後は仕事も一層うまく回り出した気もします。

 

2つ目のストーリーは、プライベートな話題です。すべて川田さんの言葉そのままで紹介します。

 

「先ほどお話ししたように、私は家族の誰にもカミングアウトはしていませんでした。そして一昨年、母を亡くしました。

パートナーが、『自分も、お母さんを弔う場に出席したい』と言ってくれました。私は姉に『自分の大事な人を、その場に連れていきたいと思っているんだけど』とメッセージを送りました。もちろん姉にも、カミングアウトはしていません。

姉からの返事には、こう書かれていました。

『連れてくるのは、パートナーさんだよね。…お母さん、知っていたよ』」


 

日本語版川田さん監修の『IBVレポート: ありのままの自分で生きる』(全21ページ)

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TEXT 八木橋パチ

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