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組み込み生成AIでプロダクトの魅力をアップ! 日米エコシステム・エンジニアリング対談

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競争優位性を高めるために、自社が開発・販売するソフトウェアやソリューションに生成AIなどのIBMテクノロジーを組み込む。
それが「新たな収益」「大幅な費用削減」「新規顧客獲得」を、どれくらいもたらすのか。そして開発にはどの程度の期間と労力が必要となるのか。
——こうしたことを確認するPoV(Proof of Value: 価値実証。テクノロジーやシステム導入前に、その価値を検証すること)を、約2カ月にわたりIBMの高度なスキルを備えたプロフェッショナルチームとともに行う。費用はゼロで。

 

これがIBMの「エコシステム・エンジニアリング(以下、Ecosystem Engineering)」と呼ばれる事業であり、このIBMとの新たな価値創造を通じて、すでに米国ではここ2年間で多くのIBMパートナーが目覚ましい結果へとつなげています。

今回、米国Ecosystem Engineeringで「Build Lab」チームの中心メンバーとして活動しているRemko de Knikkerが、これから本格スタートする日本のEcosystem EngineeringのBuild Labチームをリードする平山毅に、これまでの歩みとその取り組み背景を語ります。


(写真左) Remko de Knikker | IBM Worldwide, Ecosystem Engineering Build Lab, Lead Senior Technology Engineer
複数社を経て、2015年4月米国IBM入社。ソフトウェアデベロッパー、デベロッパーアドボケイトを経て、2021年5月より現職。エンジニアチームをリードしている。

(写真右) 平山 毅 | 日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 エコシステム共創本部 エコシステム・エンジニアリングマネジャー、ソートリーダー
複数社を経て、2016年2月日本IBM入社。クラウド事業、Red Hatアライアンス事業、Data AI事業、ガレージ事業、クライアントエンジニアリング事業の立ち上げを経て、2023年8月より現職。

平山: Remkoさん、日本へようこそ。日本でも2023年後半からEcosystem Engineering組織が立ち上がり、先日、IBMのパートナー向け大規模イベントにてアナウンスさせて頂きました。
それではまず、Ecosystem EngineeringとBuild Labについて説明していただけますか。

 

Remko: 分かりました。
Ecosystem Engineeringは、パートナー企業や個人のデベロッパーと、テクノロジー分野で共創する専門組織です。
Build Labは、その中でも特にISV(独立系ソフトウェア開発・販売会社)パートナー様とともにアーキテクチャーを考えコードを書き、ソリューション作成を通じてセールス拡大を支援するチームです。

 

その重要性をお伝えする上で、まず私自身の経歴を紹介します。
私は20年前からソフトウェア・エンジニアとして、そして10年前からはデベロッパー・エバンジェリストとして活動してきました。
そこでの体験を通じてEcosystem EngineeringとBuild Labの重要性がはっきりわかりました。

 

テクノロジーに関する意思決定の70%は、開発者がテクノロジーを使用/テストした後に行われます。
つまり、導入や契約の決定前に十分にテストを行っていただける状況——これには、技術的なテスト環境だけではなく、必要とされる技術要件の確認や適切な準備や振り返りも含みます——を適切に準備できなければ、すでにそのテクノロジーや製品は負けたも同然ということです。

 

ですから、私たちはデベロッパーと早い段階でつながる必要があります。そのために技術コミュニティーやパートナーとの信頼関係を築く必要があるのです。
デベロッパーたちと信頼関係を持てば、その会社の技術ポートフォリオやアーキテクチャについてより深い知識を得ることができます。そして技術的な意思決定をより早い段階で支援できます。

 

平山:まさにエコシステム共創を技術的に体現する組織と言えますね。

 

平山: 「購入前、あるいは契約前にまずは試しに作ってみる」という「ビルド駆動型」と呼ばれるスタンスは、諸外国ではどの程度浸透しているのでしょうか?

 

Remko: 「Build before you buy」ですね。アメリカでは相当浸透しています。
従来の永続ライセンスでソフトウェアを買い上げ、全面的にSIerに開発を委託するというモデルから、「クラウド」「サブスクリプション」「セルフサービス」というビルドモデルが主流となりました。

ですから、こうしたビルドを実践されるあらゆるお客様に、その取り組みステージに合わせて適切に情報をお届けできることが重要です。パートナー企業やデベロッパーの方がたとの信頼を土台とした関係性とコミュニケーションがいかに重要かをおわかりいただけるのではないでしょうか。

 

そしてIBM自身も「セールス駆動型組織」から「ビルド駆動型組織」へと転換しています。
私が思うに、これがとてもよい影響を社内に与えていますね。ビルド駆動型へと転換する中で、セールスチームとビルドチームの関係が大変近くなり大きな効果が生まれているのです。

ビルドチームのデベロッパーは、お客様の意思決定に関係するであろう技術的要因を、セールスチームにより早くそしてより深く広く伝えられるようになりました。
それとは逆に、ビルドチームも、セールスチームからのメッセージをいち早く受け取ることができ、お客様やパートナー様のデベロッパーやプログラム・マネージャーに、技術的な観点を交えてわかりやすく伝えられるようになりました。

 

結果として、Ecosystem EngineeringとBuild Labチームに対する認知は、IBM社内でもパートナー企業の間でも大変高くなり、ビジネス拡大支援にも大きく貢献しています。

 

平山: 米国IBMは日本に先駆けて、パートナー企業やデベロッパーと共創するEcosystem Engineering組織をスタートさせ成功していますが、その大きな理由の1つが生成AIにあるとも聞きました。その背景など、お聞かせいただけますか。

 

Remko: OpenAIのChatGPTが一気に社会的な関心を高めたのが2022年です。さまざまな業界のたくさんの企業が、「私たちも早く生成AIを試さなければ!」と色めきました。
しかしその後はどうでしょう。ビジネス的にも技術的にも、大規模な変化は起きていませんよね。「スケールできていない」のには理由があるのです。

 

私たちEcosystem Engineeringは、パートナー様と生成AIに関してたくさんの討議を通じてユースケースを生み出し、それに準じたPoVを山ほど行ってきました。
多くのパートナー様が、自社独自のソリューションや、カスタマイズしたアプリケーション・ソフトウェアをお持ちです。そしてそれを活用しているお客様をお持ちです。
ですからPoVは、そうしたパートナー様のニーズと要件を深く理解し、それに合わせて行われる必要があります。

 

なお、プロセスとして一般的なのは、技術的なブリーフィングからスタートし、数時間のワークショップで取り組み内容や範囲を明確にした後、1〜2カ月でPoVを完了するという流れです。
パートナー様には、この期間にビジネスに実用的な手法を多数経験していただけます。そして私たちBuild Labのデベロッパーとの共創を通じて、生成AIを含む先端テクノロジーの数々を「ハンズオン」で継承していただけます。
こうした機会はそうあるものではないですよね。

 

また、PoVが終了した後は、収益性や市場優位性などを踏まえた製品化検討にIBMのGTM(Go-To-Market: 市場参入)戦略のプロフェッショナルたちも加わり、討議を行います。

もちろん、初期のPoVなので完成品レベルとはなりません。とはいえ、本番適用できるレベルまでの実装は検討が必要ですよね。
たとえば生成AIの場合は、「IBM watsonxを組み込むことがどのような利点を自社製品にもたらすのか」や、「IBMとの共創活動によりどのような市場における活動が見込めるのか」などを、初期フェーズから体験を通じてご理解いただけます。

あ、1つ大事なことを言い忘れていました。これらはIBMとの新たな共創活動の継続を前提に、無償で行うことができます。

 

平山: 私たちは日本の大企業を顧客に持つ多くのISVや GSI(グローバル・システム・インテグレーター)パートナー様と共創活動をスタートしています。
しかし共創の中で、彼らが折に触れて口にするのは、「日本の大企業はDXが進んでいない。特に問題なのは、コンテナ化をはじめとしたモダナイゼーションが進んでいないことだ」ということです。
この点について、Remkoさんはどのようにお考えですか。

 

Remko: たしかに、日本のお客様は保守的で、あまり変化を望んでいないようにも見えます。しかし、それはお国柄というよりも、基幹産業との兼ね合いがあるのではないでしょうか。
私は、製造業分野での経験が長いのですが、米国でも製造業ではいまだにコンテナ技術を用いず、VM(仮想マシン)を使用している企業が多いのが実情です。特にWindows上ですね。

「一時的なつなぎ」であればそれで良いかもしれませんが、コンテナ技術がもたらすスケーラビリティとそれに付随するオポチュニティの大きさを考えれば、VMには限界があり過ぎます。
パートナー企業の皆さんや、技術コミュニティーにいるデベロッパーの方たちは、ほとんど皆さんこの事実を認識しているのではないでしょうか。ただ、景気的な判断などから、これまではなかなかモダナイゼーションへの一歩を強く提案できずにいたのかもしれませんね。

 

それから、クラウド技術の動向に慎重だったということもあるかもしれません。
クラウド登場後から数年前まで、「すべてがクラウドに移っていく」と語る論者が多かったですよね。でも実際はどうでしょう? そんなことはないですよね。あれは「ビジネスの要件を掴めていない言葉だった」と評せるんじゃないでしょうか。

ビジネスの性質や個別の要件を見ていけば、クラウドに移行せず、オンプレミスの方が良いアプリケーションもたくさんあります。そして契約しているクラウドサービスも、AWSやMicrosoft Azure、Google Cloudなど、多くのプラットフォームに分散しているでしょう。
IBMの標榜するハイブリッド・マルチクラウドとは、そうしたオンプレミスとマルチクラウドからなる、モダナイゼーションされたシステムでありアプリケーションです。

 

企業の80%がビジネスプロセスにAIを組み込み、70%のソフトウェアベンダーが自社のアプリケーションにAIを組み込むと予測されている今、自由度高く「Embeddable AI(サービスとして組み込めるAI)」を活用できる環境をいかに早く整えるか。
——とりわけ長い歴史を持つ企業にとっては、これが今後の生き残り、あるいはビジネス隆盛の大きな鍵を握っています。今こそ、モダナイゼーションのときです。

 

ちなみに、Embeddable AIにも2種類あり、パッケージにAIを完全に組み込む形のものもあれば、APIなどでクラウドを通じて部分的にAIを取り入れるものもあります。
つまり、AIとデータのプラットフォームであるIBM watsonxをパッケージに取り込んでビルドする方法もあれば、ビジネス要件やカスタマーエクスペリエンス上好ましければAWSやIBM Cloud上でwatsonxを利用する方法もあるということです。

 

平山:IBMは、IBMソフトウェアのオープン化、コンテナ化を進めてきました。その効果が「組み込みによる価値創造」ということですね。

 

平山: 先日、生成タスク用に設計されたIBMのAI基盤モデルwatsonx「Granite(グラナイト)」シリーズに、日本語性能を向上した「Granite日本語版モデル(granite-8b-japanese)」が追加されました。
これはビッグニュースで、生成AIの組み込みがここ日本でも加速しそうです。

参考 | (プレスリリース)信頼できるデータで構築した基盤モデルGraniteの日本語版を提供開始し、日本のお客様の生成AI活用を加速

 

Remko: その通りです。母国語の必要性がとりわけ高い日本で、優れた日本語をこれほど的確に扱うAI基盤モデルがwatsonx上にデビューしたことの意味は計り知れません。これは大きなチャンスです。

 

「ビジネスに求められる生成AI」がどのようなものか。ぜひ、3年後、5年後を見据えて検討していただきたいですね。コスト面から見ても十分に魅力的なはずです。
大切なのは、最も信頼できる技術パートナーとなること、あるいはその信頼を守り続けることです。そのためには、目先の課題を解決するだけではなく、数年先の課題や10年後の技術動向まで見越した提案やアドバイスができなければなりません。
これは私たちEcosystem Engineeringもそうですし、パートナー企業の皆さまも同様ですよね。

 

どうか皆さん、この大きなディスラプションのチャンスを見逃さないでください。
「見ているだけ」はあまりにも惜し過ぎます。ぜひ、時流を捉えてください。

 

平山: IBM社内限定情報ではありましたが、先日紹介していただいた米国での数々のお客様成功事例の先進性には驚かされました。

これからもしっかりとEcosystem EngineeringとBuild Labのチカラをパートナー企業の皆さんにお届けし、そこからさらに、日本の屋台骨を支える製造業をはじめとしたお客様に届けていきましょう。
今日はありがとうございました。

(こちらの対談は、2024年2月27日に英語で行ったものを日本語に翻訳したものです。)

 


TEXT 八木橋パチ

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