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THINK Business

アフターコロナ時代に求められる「新たな価値観」——DXを武器に新時代を切り拓く

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田中 啓朗

田中 啓朗
日本アイ・ビー・エム株式会社
事業戦略コンサルティング・グループ
アソシエイトパートナー
 

中期経営計画、事業ポートフォリオ変革、業務・組織改革、M&A、マーケティング戦略、新規事業創出・立上、アナリティクスの経営活用など、企業経営・事業戦略の幅広いコンサルティング領域をリード。IBMアメリカ本社赴任経験を持つ。

今回の新型コロナウイルス感染症(COVID19/以下、新型コロナウイルス)の感染拡大は、数十〜数百年後に振り返ってみたときに、まさしく歴史区分における「現代」から「次の時代」に変わる節目となる可能性がある。

デジタルトランスフォーメーションの大きな流れを踏まえると、アフターコロナにおける経営戦略の重要な論点は、市場・業界に対して、新たな価値観を提示することにあると考えられる。経営レベルでアジリティ(俊敏性)を身につけ、経営モデルの試行錯誤を繰り返す中で、新たな価値観を獲得し、企業のフルモデルチェンジを実現していきたい。

アフターコロナにおける経営戦略

これまで「ニューノーマル時代のDX経営モデル」として9回にわたり、新型コロナウイルスの影響下における経営戦略の考え方をご紹介してきた。この原稿を執筆している2021年2月末時点は、首都圏や一部都市圏においては緊急事態宣言下の状態ではあるが、第3波の収束の目処が見え、株価もバブル後初の3万円代を突破している。全国民へのワクチン接種に対する目処はまだついていないものの、医療従事者へのワクチン接種が開始され、全く先の見えない状況からは脱し、本連載を開始した直後とは明らかにステージが変わったと捉えることができる。企業経営においては、ワクチン普及後の、いわゆる「アフターコロナ」時代を見据えた次の一手を考えていくタイミングと言えるだろう。

「デジタル」と「リアル」の新しいバランスが前提となる時代

新型コロナウイルスが蔓延した直後と異なり、今やマスクの常時着用、体温測定や消毒の徹底、会議や施設内における社会的距離の確保、各種施設への入場制限やリモートワークなどが日常化し、「ニューノーマル」という言葉に違和感を感じる人はかなり減ったことと思う。

第1回「ウィズ/アフターコロナ時代に求められる経営戦略とは——鍵を握るDXの実現に向けて」にて述べた「リアルとデジタルのバランス」は、感染者数や重傷者数の増減に応じて緩和と引締めを繰り返すウィズコロナの期間の終わりをむかえ、アフターコロナに向けて、その最適配分を見つけ出す動きを加速させている。

ウィズ/アフターコロナ時代に求められる経営戦略とは——鍵を握るDXの実現に向けて

出典:IBM

 

ウィズコロナ期間では、第3回の「ニューノーマル時代の顧客——起きたこと、起こること、すべきこと」にて論じたように、リアル体験のデジタル化が強制的に行われ、一部のアーリーアダプター層が使っていた先進技術やサービスが、急激にマス層に広がった。

しかし、それらの技術・サービスにおける顧客体験が十分に洗練されていなかった結果、多くの「不」(不満・不安・不足・不便・不快・不信など)が生まれた。そして、その「不」を解決・解消すべく、世界規模にて急ピッチで既存サービスの洗練や新規サービス開発が行われてきたのだ。

同時に、人々のデジタルツール・サービスへの慣れと、感染予防をしながら、リアルにおける接点を持つことに対する理解が進み、リアルとデジタルの最適配分を模索する動きにも影響を及ぼしている。昨今、急激に流行した音声SNSである「Clubhouse」もそのような文脈から生まれてきたサービスであるし、今後もさまざまな「リアル」と「デジタル」の間を繋ぐサービスが生まれてくるだろう。

価値観の抜本的な転換が求められる

数年前になるが、東京大学の原島博先生の講演を拝見し、非常に感銘を受けた。その時の講演を振り返ってみるとこうだ。

歴史を大きく振り返ったときに、中世から近世もしくは近現代への転換点となった出来事にペストの大流行があった。歴史の節目を迎え時代が大きく変わるときには、飢饉・疫病・内乱などが起き、これまでの文明に対する限界や不安を感じる人々が多く生まれる。そして、「その時代」に常識とされていた価値観を否定し、その時代以前の価値観を振り返りながら、新たな価値観を獲得することで時代が大きく変わる。それは、当時においてルネッサンスと宗教改革であった。古代ギリシア文化にあった客観的事実・写実の価値を再評価し、当時の絶対的価値観である「神(宗教・信仰)」を相対化することで、今日に続く科学・工業技術や資本主義経済を発展させることができたのである。

まさに現在、新型コロナウイルスの大流行は、当時のペスト大流行とも相似形をなしており、原島先生のおっしゃる20世紀から続く環境破壊のトレンドを見ても、次の時代の新しい価値観が求められていると言えるのではないか。そしてそれは、現在の科学・工業技術や資本主義経済を絶対視する価値観から抜け出し、中世に忘れてきた文芸や工芸、つまり、モノではなくココロの豊かさにつながる「人間性・人間中心主義」への再評価を行なっていくことが重要ではないかと考えられる。そして、忘れ去られた中世の価値観と現代の価値観をアウフヘーベン(※)し、新たな次代の価値観を生み出すことが求められている。

学術俯瞰講義

出典:原島博「学術俯瞰講義」を参考にIBM作成
※相反する考え方や物事を合一し、より高い次元の答えを導き出すこと。

デジタルトランスフォメーションと新型コロナ危機を機会に

これまで「ニューノーマル時代のDX経営モデル」として9回にわたり連載してきた各専門家の提言内容も、一貫している内容は、デジタルを活用して「新たな考え方、やり方」にシフトすることが求められるということにある。そして、その鍵は、これまで常識と思い込んでいた考え方などを否定・相対化し、あらためて「人間中心」起点で全てを再設計することであろう。

アフターコロナに向けて、「顧客・市場」「エコシステム・パートナー」「企業・従業員」「データ」それぞれの論点に対する経営戦略の検討を深め、第5回「新たな変化を生む『能動的な組織』の作り方 ~エンタープライズ・アジリティ~」でも論じたように、経営レベルでアジリティ(俊敏性)を身につけ、経営モデルの試行錯誤を繰り返す中で新たな価値観を獲得し、企業のフルモデルチェンジを実現していきたい。そして、西洋的な考え方と東洋的な考え方をアウフヘーベンしてきた日本と日本企業には、新たな時代の新たな経営モデルを生み出すポテンシャルがあると筆者は強く信じている。

アフターコロナに向けて、「顧客・市場」「エコシステム・パートナー」「企業・従業員」「データ」それぞれの論点に対する経営戦略の検討を

出典: IBM

 

第1回:ウィズ/アフターコロナ時代に求められる経営戦略とは——鍵を握るDXの実現に向けて
第2回:ニューノーマル下で組織変革を推進するために、コミュニケーションが重要な理由
第3回:ニューノーマル時代の顧客——起きたこと、起こること、すべきこと
第4回:ニューノーマル時代のデータドリブン経営——実現に必要な2つの要因
第5回:新たな変化を生む「能動的な組織」の作り方 ~エンタープライズ・アジリティ~
第6回:人とテクノロジーの新しい関係——企業間の「デジタル・デバイドを」を勝ち抜く
第7回:「共創」の時代に向けて、持続的な経済圏を実現するプラットフォーム戦略
第8回:ニューノーマル時代の、人と機械の業務再設計——自動化ポテンシャルと有効性
第9回:ニューノーマル時代の経営戦略における量子コンピューティング技術がもたらす可能性とは