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Smarter Business

「共創」の時代に向けて、持続的な経済圏を実現するプラットフォーム戦略

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関根 亮太郎

関根 亮太郎
日本アイ・ビー・エム株式会社 
グローバル・ビジネス・サービス事業
事業戦略コンサルティング
アソシエートパートナー

2007年から10年超にわたり、BPOおよびコンサルティング事業のリーダーシップロールを歴任し、国内およびグローバルでの経理財務、人事、購買、カスタマーケア、業界固有業務のデジタル変革、BPOプロジェクトの経験を多数有する。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下、新型コロナウイルス)による影響は大きく、顧客・従業員の物理的接点における制約を起点に、市場経済そのものの動きを鈍化させている。この状況を打破するために、企業はデジタル技術を活用した上で、エコシステムを発展させ、ニューノーマルを見据えた新しいプラットフォームにおける経済圏を見出し、事業の持続性(Business Continuity)を維持していく必要がある。

新型コロナウイルスによる経済的な影響

新型コロナウイルスによる影響は人間の物理的活動、すなわち、消費者の購買行動と企業による生産活動を強制的に制限している点において、金融市場起因で発生した「リーマン・ショック」などとは明らかに性質を異にしている。その大きな影響は2つ挙げられる。

(1)顧客・従業員における物理的接点の喪失
2020年4月に発令された緊急事態宣言により、外食産業などの物理的な顧客接点を要する業態においては、顧客はいきなりはるか遠い存在になってしまった。顧客を店舗に再び呼び戻すにしても、消毒などの衛生管理を徹底するとともに、ソーシャル・ディスタンスを十分に確保するなど、顧客が安心して来店できる仕組みがなくてはならない。

(2)市場における需給ギャップの発生
前述の物理的接点の喪失にも起因して、新型コロナウイルスは、企業の需要予測や販売・生産計画においても大きな影響を及ぼした。特に、サプライチェーンは混乱した。ウイルスの飛散防止のためのマスク需要増、加工食品や生活必需品の買い溜め(トイレットペーパーなど)が発生した。これらは、従来の季節変動型の物流波動とは全く異なる動きをするわけであるから、メーカーにとっては生産計画の大幅な見直しを迫られる。さらに、ただでさえ少子高齢化でドライバー不足と言われている状況の中、物流業者などはおおいに負担を強いられることとなった。

上記のような物理的制約下においてもビジネスの継続性(Business Continuity)を担保するためには、物理的空間に縛られないデジタル・テクノロジーを活用し、新しい顧客・従業員接点をどう構築するか、といったところが重要になってくるだろう。

プラットフォームの展望

これらの影響を受け、プラットフォームや企業のエコシステムを取り巻く環境は、大きく「(1)機能の相互補完」「(2)資産の共有化」「(3)クロス・プラットフォーム」の3つの方向に向かうと考えられる。いずれの場合も、自社のみを主語に据えた市場攻略・競争戦略ではなく、他社と組んだ上で、全体の経済圏や経済効率を最適化させ、その中の一部に自社を位置付ける「共創戦略」の流れに動きにシフトしてきていることがポイントだ。


出典:IBM

 
(1)機能の相互補完
デジタル空間/物理的空間において、ユーザーとの最終接点である「ラストワンマイル」の機能を強化することが必要だ。サービス・プラットフォームをすでに有している企業は、ラストワンマイルの機能を自社/他社で補完する必要があり、有していない企業はプラットフォームを効果的に活用する。

デジタルの販売接点が弱いメーカーなどは、AmazonなどのECプラットフォームに販売チャネルを求めることは勿論のこと、外食産業などの場合は、出前館やUber Eatsのようなプラットフォームを活用した、個宅へのラストワンマイル・デリバリーを駆使することで、顧客との信頼を維持している。ヤマト運輸などは、ECプラットフォームと組み、“置き配”サービス「EASY」を提供することで、新型コロナウイルスによる感染リスクを減らし、顧客のラストワンマイルニーズに応えている。

(2)資産の共有化
把握が困難な需要と供給の流れを掴むために、まずは業界・企業を越えた情報連携を強化することが重要である。さらに、急激な需要の変化に対し、設備投資などを無駄に肥大化させないためにも、設備・リソース・ネットワークなどの保有資産を共有化させる流れが加速すると思われる。このような流れは、「持続可能な社会」を実現するためのSDGsの流れとも連動し、やがてデジタルを活用した「共通社会インフラ」を形成していくだろう。

必要な技術要素としては、データの所有を一社に限定せずに、非中央集権的に所有させ、かつ改ざんできないデータのやり取りを可能にするブロックチェーン技術などが重要になる。筆者が登壇した新型コロナウイルス関連のWebinarにおいても、食の安全証明、ドライバー不足を補うスマート・ロジスティクス、共通規格の非接触型決済、患者の感染経路の把握、などがニーズとして特に印象深い。一方で、このあたりのテーマを実装するとなると、企業と企業の単なるアライアンスという話だけでなく、「業務や技術、データの標準仕様」を定めなくてはいけないため、後述するガバナンスモデルやコンソーシアムの組成も必要になってくる。

(3)クロス・プラットフォーム
将来的には、上記(1)と(2)で挙げたようなネットワーク同士を交差させ、「組み合わせる」ことでさらなる相乗効果を狙うケースも十分考えられる。たとえば、Amazonのような中央集権型のプラットフォームで消費者と供給者の購買(商流)を結びつけ、バックエンドの物流においては、国際物流の分散型ブロックチェーンと組み合わせる、などといった形だ。さらには、国際送金の仕組みなどと組み合わせれば、商流・物流・金流の全てを最適化することも可能だ。このような図式をネットワーク・オブ・ネットワークスとも呼ぶが、筆者はこの(1)~(3)の流れを戦略的に作り出すための戦略が必要と考え、「クロス・プラットフォーム戦略」と呼んでいる。

クロス・プラットフォーム戦略の実現に向けて

クロス・プラットフォーム戦略を実現するには、まずは、自社が目指すプラットフォームの類型を判断することが必要だ。大別するのであれば、以下に分類できる。

①GAFAに代表される中央集権型
②ブロックチェーンを活用した分散型のネットワーク

中央集権型は、自社で需要と供給を紐付け、ネットワークは双方向となる。一方で、分散型は、複数企業間のB2Bにおける業界オペレーションを最適化するケースが多く、需要と供給はN:Nのネットワーク型になる。

上記を考慮に入れた上で、以下3つのモデルを論じていきながら、「自社で構築するプラットフォーム」「相乗りするプラットフォーム」「組み合わせるプラットフォーム」の検討を行う。

(1)インセンティブ・モデル (ビジネス・モデル)
利害関係と言い換えることもできる。プラットフォームの参加者が、Win-Winによる直接的メリットを享受できなければ、プラットフォームに参加することは難しい。中央集権型プラットフォームにおいては、Amazonに代表されるように、買いたい需要側と売りたい供給側の関係性は明確だ。

一方で、分散型プラットフォーム、IBM Food Trustのような食のトレーサビリティをEnd-to-Endで実現する形態においては、農家から食品加工、物流、小売までの全てのプレーヤーにとって、食の品質の可視化・証明は、可視化する価値のある「業界共通課題」であり、メリットが存在する。ただし、費用負担割合が同じになってしまうと、個人事業主などは参加しにくい。そのため、 Food Trustでは企業規模に応じた費用負担割合にするなど、公平にシステム利用料を負担する仕組みにしている。

(2)ガバナンス・モデル
2020年2月の寄稿「持続可能なプラットフォームエコノミーの実現に向けて」でも述べているが、企業間の信頼、顧客との信頼獲得において、ガバナンス・モデルは非常に重要だ。とりわけ、仮想通貨にも代表されるように、既存の仕組みを壊し、新しい社会インフラを作る動きは、企業単独の動きでは規制当局の反発を買う可能性がある。CEOによる中央集権的な意思決定モデルは、そのサービス提供スピードの迅速化につながっていることは疑いの余地がないが、その意思決定に関わるガバナンス(統制)を分散化するなどの工夫が必要だ。

今後は、よりパブリック・セクターの関与や企業に対する積極支援の必要性が増してくるであろうし、プラットフォーム企業もその事業を継続するに当たり、「社会責任」をより強く意識する必要がある。

(3)オペレーション・モデル
顧客体験をシームレスに提供する上で、必要な機能を他社に任せ、補完・協業することは必須だ。大きくは、バリューチェーンやカスタマー・ジャーニーマップといった横のプロセス間の連携と、縦のサービス提供レイヤー(業務とテクノロジー・アーキテクチャー)の2軸で、自社の強みを生かした提供範囲と協業領域のポジショニングを特定することが好ましい。実際、Airbnbにおいても、IaaS(インフラ部)にAWSを使っているなど、エンドユーザーが意識しない部分における協業は進んでいる。

「共創」を促進させるための「人材」

企業は従来の「競争」から「共創」の考え方にダイナミックにシフトし、プラットフォーム・エコノミーにおける全体最適の視点で、他社との戦略的な関係性を再考する必要がある。その作るべきプラットフォームは今後新しい社会の共通インフラとなるため、関連ステークホルダーを巻き込んだ検討は複雑になることが想像され、鍵となるのは「人材」だ。従って、企業においては戦略、事業推進/交渉、UI/UX、エンジニア、データ・サイエンティストなどの「個」の能力や特性を把握し、それらを適所で提供する組織能力がいっそう求められる。

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